Studies on Genetic and Virologic Characterization of Newcastle Disease Virus Isolated from the Outbreaks in Asian and African Countries
概要
ニューカッスル病ウイルス(NDV)は, 家禽に致死率の高い疾病を引き起こすため, ワクチンによる予防が重要とされている。しかし, 発展途上国では,ワクチン接種された鶏群におけるNDの発生が報告されている。NDVは単一血清型であるが, 遺伝子に変異が蓄積された結果, 多様性が生じている可能性が指摘されているが, 十分には理解されていない。本研究は,アジアおよびアフリカの国々のND発生例からNDVを分離し,得られたウイルスの遺伝学的およびウイルス学的特徴を明らかにすることを目的に行われた。
第1章では,NDV感染が疑われたキルギスおよびフィリピンの病鶏を対象にした研究が行われた。それらアジア2国に由来する病鶏の組織検体を乳剤化し,発育鶏卵へ接種することに よ り , 2 株 の NDV, chicken/Kyrgyzstan/2016/1-16 (Kyr/1-16) およびchicken/Philippines/2017/1-19 (PH/1-18) が分離され, 次世代シーケンス (NGS) 解析により全遺伝子配列が決定された。その結果, Fタンパク質の開裂部位の推定アミノ酸配列 (112R-R-Q-K-R-F117) から,2株ともに強毒型NDVであることが確認された。さらに, 系統学的解析の結果,キルギス由来のKyr/1-16株はsub-genotype VII.1.1 (従来のVIId),フィリピン由来のPH/1-18株は sub-genotype VII.2 (従来のVIIi) に属することが明らかにされた。これら2株のウイルスのHNタンパク質の中和エピトープおよび膜貫通領域には,様々なアミノ酸置換が確認され, それらには中和抗体の結合に影響を与えるとされるアミノ酸置換も含まれていた。本研究では,キルギスおよびフィリピンのND発生例から分離したNDVの遺伝子の特徴を明らかにし,ND対策にとって貴重な知見を提供した。
第2章では,上エジプト地域(ケナ,ルクソール,アスワン)におけるND発生例を対象とした研究が行われた。2011〜2013年に同地域の複数の農場で発生したND発生例で採取された38検体からウイルス分離が行われた。これら全ての農場では、NDVワクチンが接種されていたにも関わらず大規模なNDの発生が報告された。発育鶏卵を用いたウイルス分離試験を行った結果, 全ての検体からNDVが分離され, 分離ウイルスについてNGS解析が行われた。 Fタンパク質の開裂部位のアミノ酸配列から全38株はいずれも強毒型NDVであることが明らかにされ,うち10株については鶏胚を用いた平均致死時間の評価によっても強毒型であることが確認された。翻訳領域全長の遺伝子の系統解析を行った結果,全10株のNDV株は genotype VII,sub-genotype VIIjに属することが明らかとなった。これらのNDV株は,同国で使用されていたLa Sota や Clone 30といったワクチン株(genotype II)とは遺伝学的に大きく異なっていた。ウイルスのFおよびHNタンパク質の中和エピトープには, 既知の変異を含む様々な変異があることが明らかにされた。エジプトで多くのワクチン接種鶏群にNDが発生した原因を明らかにするためには, 使用ワクチン株と野外発生株との遺伝学的な違いを監視しつつ, 実際にワクチン効果の評価試験が行われる必要があると考えられた。
第3章では, ND診断法への応用を目的に, 第1章で分離されたキルギス由来NDV株に対するモノクローナル抗体が作製された。NDVに対して, 赤血球凝集抑制性および中和活性を示す4クローンのモノクローナル抗体 (IgG1アイソタイプ) を得ることができた。このうち, ウエスタンブロット解析では, 1クローンのモノクローナル抗体のみがHNタンパク質と強く反応することが確認された。赤血球凝集抑制試験を用いて,これら4種類のモノクローナル抗体のKyr/1-16株およびその他のNDV株に対する反応性を調べた。その結果,Kyr/1- 16株に対する4種類のモノクローナル抗体は2種類に分類された。すなわち, 2クローンは,試験に用いたNDV株の全てに高度に保存されている抗原エピトープを認識し,残り2クローンは,NDV株によって多様性のある抗原エピトープを認識することが明らかにされた。これらモノクローナル抗体の有用性の検討とともに, より多くのモノクローナル抗体を作製することによって, 新たなND診断法が開発されることが望まれた。
以上,本研究において,アジアおよびアフリカ諸国で分離された強毒型NDV株の遺伝学的およびウイルス学的特徴が明らかにされた。それらウイルスには, 中和抗体認識部位のアミノ酸に変異が確認されたことより, ワクチン効果の検証の必要性が強く提唱された。提供された情報は,世界各国の養鶏産業におけるND対策およびNDVワクチン戦略に生かされることが期待される。