Impact of psoas muscle index assessed by a simple measurement method on tolerability and duration of continued treatment with sorafenib in hepatocellular carcinoma patients
概要
1.序論
切除不能肝細胞癌に対する全身化学療法はソラフェニブがSHARP試験とASIA-PACIFIC試験の結果(LlovetJMetal.,2018),2009年6月に承認されて以来,2017年6月にレゴラフェニブが承認されるまで唯一の治療法であった.2018年3月にはレンバチニブ,2020年9月にはアテゾリズマブとベバシズマブの併用療法がIMbrave150試験の成績に基づき適応となり,ソラフェニブ単独の時点のOS:10.7か月からアテゾリズマブとベバシズマブ併用療法のOS:19.2か月と治療成績も大きく向上している.現在も複数の第3相試験が進行中であり,HCCに対する全身化学療法の進歩が目覚ましい(Llovetetal.,2021).全身化学療法の選択肢の増加に伴い,シークエンシャル治療によりOSの延長に結び付く報告も為されており,特にBCLCstageBに該当する中間期の進行度のHCCについてはTACEを繰り返す従来の方法から早期に全身化学療法を開始する方向へと変遷が進んでいる.レゴラフェニブは2017年6月にがん化学療法後に増悪した切除不能な肝細胞癌を適応としてソラフェニブ治療後の2次治療として適応となったが(BruixJetal.,2017),その適応にはレゴラフェニブ投与に対する投与量,有害事象への忍容性を担保する指標としてソラフェニブ忍容性を満たす必要があり,ソラフェニブからレゴラフェニブに全身化学療法が移行できた割合は3割程度と報告されており(UchikawaSetal.,2018),全身化学療法や2次治療以降の治療を選択する際の患者背景の評価及び予後指標の推定は重要な課題となっている.腫瘍学の分野においては様々な癌種で,サルコペニアと予後との関連が報告され,悪性腫瘍の治療における重要な分野の一つと考えられている(MartinLetal.,2013).肝細胞癌患者の多くは背景に慢性肝炎や肝硬変が存在し,二次性サルコペニアが背景に存在することが多い.サルコペニアの発現には慢性肝炎,肝硬変の様々な影響が指摘されているが,蛋白エネルギー低栄養(PEM),蛋白同化作用での重要な位置にある分岐鎖アミノ酸(BCAA)の不足,骨格筋形成を抑制するミオスタチンの増加,活性酸素や炎症性サイトカインによる蛋白分解促進が代表的なメカニズムとされている.サルコペニアの基準のひとつであるSMIは測定において専用のソフトウェアを必要としており,有用な指標であるにも関わらず測定できる施設が限られているという問題点がある.KaidoらはSMIを代用する簡便な指標として腰椎L3レベルで専用のソフトウェアを用いて腸腰筋の輪郭をなぞるmanualtrace法での腸腰筋面積(cm2)/身長の2乗(m2)(PMI)の有用性を報告している(NishikawaHetal.,2016).本研究においては肝細胞癌(HCC)の全身化学療法の最近の進歩により,シークエンシャル治療が可能となったが,ソラフェニブからレゴラフェニブへの移行においては,治療前にソラフェニブ忍容性を予測できるかが重要である.本研究では,ソラフェニブ治療の忍容性に関して簡便な測定方法での腸腰筋指数(PMI)の影響を調査した.
2.実験材料と方法
本研究は単施設の後方視的観察研究であり,横浜市立大学附属市民総合医療センターの倫理委員会の承認を取得し(IRBnumber:B201100015),書面での同意取得は行わず,患者の匿名化後に臨床データを取得し実施した.109人のChild-PughAのHCC症例に対するソラフェニブ治療を解析対象とした.サルコペニアの基準にあるSMIの代替指標となるPMIはL3レベルでの腸腰筋長径と直交する短径の積(MAPT)で測定し,身長の二乗により補正し,算出した.PMIの値により症例をHighPMI groupとLowPMI groupに層別化し,有害事象(AE),治療成功期間(TTF),全生存期間(OS)に関して統計的に解析した.
3.結果
患者年齢の中央値は73歳であった.患者は,ソラフェニブ忍容性を予測するPMIをROC曲線分析によって決定されたカットオフPMI値(男性:7.04cm2/m2;女性:4.40cm2/m2)により,HighPMI group(n=41)とLowPMI group(n=68)に層別化された.治療関連SAEの頻度は,HighPMI group(29.3%;P=0.045)よりもLowPMI group(50.0%)で高く,HighPMI group(51.2%)は,LowPMI group(25.0%;P=0.007)よりもソラフェニブに対する忍容性を有する患者の頻度が高かった.多変量解析では、PMIはソラフェニブの忍容性と関連しており(OR0.26;P=0.008),TTFに影響を与える予後因子であった(HR1.77;P=0.021).
4.考察
HCC患者におけるソラフェニブ治療に関してPMIはソラフェニブ忍容性とTTFを予測するマーカーとなる可能性がある.MAPTによって計算されたPMIが実臨床において有用な指標となるかの判断にはより多くの患者を対象とした前向き研究と検証分析が必要である.