Reduction of gender-associated M2-like tumor-associated macrophages in the tumor microenvironment of patients with pancreatic cancer after neoadjuvant chemoradiotherapy
概要
【本論文の概要と背景】
膵癌は難治性癌の代表疾患であり、現代においてもなお予後不良な疾患である(Zhang et al., 2018)。根治が期待できる唯一の治療法は手術のみであるが、化学療法の発達により集学的治療が予後改善に寄与することが分かってきた。術前化学放射線療法(NACRT)は局所制御によるR0手術の達成や微小な転移巣の制御に有効と考えられているが、最近になって癌免疫賦活能を有していることが報告されるようになった(Miyake et al., 2017)。しかし、その詳細なメカニズムは未だ不明な点が多い。
性別が予後に与える影響は様々な癌種で報告されているが、膵癌においても男性が予後不良因子であることが報告されている(Zhang et al., 2018, Tao et al., 2017)。予後に性差が生じるメカニズムは、生活習慣や嗜好歴の他、性ホルモンの関与などが考察されているが、一方で治療に対する免疫応答に性差があることが最近の研究で分かってきている(Conforti et al., 2019)。以上から、NACRTが有する癌免疫賦活化能に性差があると仮説した。本研究は、膵癌の予後因子およびNACRTに対する癌免疫応答について、性別に着目し検討した。
【対象と方法】
2006年から2014年までの間に切除可能境界膵癌(BR膵癌)と診断された症例は91例認めた。そのうち、NACRTを希望しなかった12症例、NACRT施行中に遠隔転移を認めた21症例を除く58例に外科的切除が行われ、研究対象(BR群)とした。また、NACRTを施行せずupfrontに外科切除を行った切除可能膵癌(R膵癌)31例も比較群として、研究対象(R群)とした。それぞれの群で性別ごとに臨床病理学的因子を用いて、予後因子の検討を行った。また、対象症例のホルマリン固定パラフィン包埋組織から癌部のブロックを選択し、薄切切片を作成した。癌免疫応答に重要とされる、Tumor infiltrating lymphocytes(TILs)、Tumor-associated macrophages(TAMs)に特異的な抗体で免疫組織染色を行った。各種抗体で染色された免疫細胞の量的評価を行い、癌微小環境に及ぼす影響を性別毎に評価した。また、免疫細胞の浸潤程度と予後、悪性度との相関について検討した。
【結果】
1) 予後因子の検討
R群においては、Disease-free-survival(DFS)およびOverall-survival(OS)に性差を認めなかった(男性[n=18] vs 女性[n=13]: 5-year DFS rate, 15.4% vs 27.8%, p=0.705; 5-year OS rate, 51.3% vs 45.3%, p=0.995)。膵癌の予後規定因子として一般的に報告されている、CA19-9高値、T stage進行症例, リンパ節転移陽性、腫瘍サイズ>4cmでは本検討では単変量解析、多変量解析共にOS/DFSで有意な結果は得られなかった。腫瘍局在として膵頭部症例では膵尾部症例と比較し、単変量解析で有意にOSが良く(p=0.026)、多変量解析でも独立した予後規定因子として選択された(p=0.046)。DFSでは腫瘍の局在で予後に差は認めなかった。
一方、BR群では多変量解析でDFS、OS共に女性で有意に良好であった(男性[n=33] vs 女性[n=25]: 5-yearDFSrate, 20.2% vs 42.5%, p=0.040; 5-yearOSrate, 30.3% vs 51.2%, p=0.040)。また、多変量解析でも性別は独立した予後規定因子として選択された(DFS: p=0.044, OS: p=0.044)。その他の因子では単変量解析、多変量解析共にOS/DFSで有意な結果は得られなかった。
2) 性別と免疫応答の関連性の検討
予後に性差を認めなかったR群においては、CD204+TAMsの浸潤量および癌局所でのInterferon reguratory factor 5(IRF-5)発現細胞に差は認めなかった(p=0.514, p=567)。一方、予後に性差が生じたBR群においては、男性と比較し女性で有意にCD204+TAMsの浸潤量が少なかった(p=0.009)。また、女性で有意に癌局所のIRF-5発現細胞が多かった(p<0.001)。さらに、CD204+TAMsの浸潤量と癌局所でのIRF-5発現細胞数は負の相関を示した(r=-0.385, p=0.003)。
【結語】膵癌において、NACRT施行症例では予後に性差が生じた。NACRT後のIRF-5発現に関連したCD204+TAMsの浸潤量減少が予後改善に寄与していると考えられた。