Multicentre, retrospective study of the efficacy and safety of nivolumab for recurrent and metastatic salivary gland carcinoma
概要
序論
唾液腺癌は頭頸部癌の中でも頻度が低い希少癌である.世界保健機関(World Health Organization: WHO)による唾液腺悪性腫瘍病理組織型分類では20の組織型が示されており,他臓器に比べ病理組織型が非常に多彩であること,かつ組織型により予後,生物学的特徴が大きく異なっていることが特徴である.治療の基本方針は組織型にかかわらず切除術とされ,再発高リスク症例に対する術後放射線治療も有効と考えられている.しかし,希少癌であることもあってランダム化比較試験を経て推奨されている薬物治療レジメンはない(Lewis and Maghami, 2016).
免疫チェックポイント阻害薬(immune-check point inhibitors: ICI)は様々な悪性腫瘍に対して有効性が報告されているが(Ferrisetal.,2016),唾液腺癌治療における免疫チェックポイント阻害薬の意義は確立していない.多施設共同後ろ向き研究である本研究の目的は再発転移唾液腺癌患者におけるニボルマブ単剤療法の有効性と安全性を検討することである.
対象と方法
本研究は多施設共同後ろ向き研究である.2017年5月から2019年9月の間に参加機関の癌登録で特定された症例でニボルマブ単剤療法によって治療された切除不能な再発転移唾液腺癌患者を対象とした.治療の方法は2週間間隔でニボルマブ(240mg)を投与し,治療結果と臨床病理学的要因との相関関係を分析した.全奏効率(objective response rate: ORR完全奏効(complete response: CR)または部分奏効(partial response: PR)を達成した患者の割合),臨床的有効割合(clinical benefit rate: CBRCR,PR,または安定stable disease: SDを少なくとも24週間達成した患者の割合),病勢制御割合(disease control rate: DCR,期間に関係なくCR,PR,またはSDを達成した患者の割合),無増悪生存期間(progression-free survival: PFS)の中央値,および全生存期間(overall survival: OS)の中央値,および安全性を評価した.また,免疫チェックポイント阻害薬に関するバイオマーカーを探索した.予後と年齢,性別,Eastern Cooperative Oncology Group(ECOG)パフォーマンスステータス(performance status: PS),ニボルマブ療法前の全身療法の有無,免疫関連有害事象の有無(immune-related Adverse Events: irAE),ニボルマブ療法後の全身療法の有無,組織型,Programmed cell Death 1-Lig and 1: PD-L1,ヒト上皮増殖因子受容体2型(human epidermal growth factor receptor type 2: HER2),アンドロゲン受容体(androgen receptor: AR),マイクロサテライト不安定性(Microsatellite Instability: MSI),修正グラスゴー予後スコア(modified Glasgow Prognostic Score: mGPS),末梢血好中球-リンパ球比(Neutrocyte-to-lymphocyte ratio: NLR),末梢血血小板-リンパ球比(Platelet-to-lymphocyte ratio: PLR),末梢血リンパ球-単球比(Lymphocyteto-monocyte ratio: LMR),血清C反応性タンパク質(CRP),乳酸デヒドロゲナーゼ(LDH),および末梢血好酸球数を調べた.
結果
24症例を対象とし,追跡期間の中央値は6.5ヶ月(範囲:0.6–28.2ヶ月)であった.組織型は唾液腺導管癌20例が最も多かった.PD-L1陽性症例は11例で,高頻度マイクロサテライト不安定性(MSI-High)の症例はなかった.CRを得た症例は認めず,PR1例,SD2例,PD21例,奏効率は4.2%であった.SDの2例はいずれも24週以上SDを維持し,CBRは3例12.5%であった.無増悪生存期間と全生存期間の中央値はそれぞれ1.6か月と10.7か月であった.腫瘍の進展なく28ヶ月間ニボルマブを継続できた症例が1例あった.有害事象としてはクレアチンホスホキナーゼ(CPK)の増加(Grade4)と筋炎(Grade3)が見られた.筋炎(Grade3)1例と肺臓炎(Grade2)例が有害事象のため治療中止となった.バイオマーカー解析ではパフォーマンスステータス(PS)=0,修正グラスゴー予後スコア(mGPS)=0,低末梢血好中球-リンパ球比(NLR),低乳酸デヒドロゲナーゼ(LDH)値,および低血清C反応性タンパク値(CRP),低末梢血リンパ球-単球比(LMR)が全生存期間(OS)の短縮と有意に関連していた.
考察
今回の検討において唾液腺癌に対するニボルマブの有効性は限られていたが,ニボルマブ単剤療法に対する安全性は他癌腫と同様に良好であり,長期的な疾患制御を達成し得た症例もあった.
唾液腺癌では唾液腺導管癌が癌微小環境におけるバイオマーカーの観点から免疫チェックポイント阻害薬の治療効果がより高いことが期待されていた.しかし,本研究では唾液腺導管癌の治療効果は20例中,奏功した症例が1例,PFSの中央値1.5ヶ月,OSの中央値が11.3ヶ月,ニボルマブ単剤投与では唾液腺癌においても良好な効果が得られないことが判明した.唾液腺癌においてマイクロサテライト不安定性はほとんどみられなかったと報告されているが,本研究でも高頻度マイクロサテライト不安定性(MSI-High)と診断された症例は認めなかったため,唾液腺導管癌に対する免疫チェックポイント阻害薬単剤療法の効果も限定的と考えてよい可能性が高い.
唾液腺導管癌を含み,様々な担癌患者において慢性的な炎症反応が癌の病勢進行に関与していることが明らかになりつつある(Matsuki et al., 2020).NLRは悪性黒色腫,非小細胞肺癌等さまざまな癌腫において予後との関連が報告されている.本研究においてもNLR等の全身性炎症マーカーが増加した患者ではニボルマブ療法では奏効率が低く生存期間が短いことが示唆された.
唾液腺癌での免疫チェック阻害薬の使用に関して治療効果を予測する因子の解明,ならびに免疫チェックポイント阻害薬と免疫チェックポイント阻害薬,分子標的薬,化学療法,またはホルモン治療など,併用治療も含めさらなる研究結果が待たれる.