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大学・研究所にある論文を検索できる 「COL4A5遺伝子のエクソン最終塩基の一塩基置換はスプライシング異常を起こす」の論文概要。リケラボ論文検索は、全国の大学リポジトリにある学位論文・教授論文を一括検索できる論文検索サービスです。

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COL4A5遺伝子のエクソン最終塩基の一塩基置換はスプライシング異常を起こす

青砥, 悠哉 神戸大学

2022.03.25

概要

【背景と目的】
COL4A5 (NM:000495.4) 遺伝子は X 連鎖型アルポート症候群(XLAS)の原因遺伝子であり、IV 型コラーゲンα5 鎖をコードしている。XLAS は末期腎不全に至る遺伝性進行性腎炎で、感音性難聴や眼症状を合併する疾患である。通常、男性 XLAS 患者は小児期早期から血尿や蛋白尿が出現し、25-35 歳で末期腎不全に至る。そして、男性 XLAS には genotype-phenotype correlation が存在し、ナンセンス変異では早期に末期腎不全に至る重症の表現型を呈し、スプライシング変異では中間型を、ミスセンス変異では軽症の表現型を呈する。私達のコホートでは男性 XLAS 患者のうち、ナンセンス変異を有する症例は中央値 18 歳、スプライシング変異を有する症例は中央値 28 歳、ミスセンス変異を有する症例は中央値 40 歳で末期腎不全に至った。一方、女性 XLAS では genotype-phenotype correlation がなく、中央値 65 歳で末期腎不全に至った。治療はレニン-アンギオテンシン系 (RAS)阻害薬の投与であり、腎予後を改善させるが、男性 XLAS 患者においては特にミスセンス変異を有する場合に最も効果的である。以上より、男性 XLAS に対しては、どのタイプの遺伝子異常を有するかを明らかにすることで、患者の腎予後予測および治療効果の判定に有用となる。

腎糸球体基底膜で、IV 型コラーゲンα5 鎖はα3 鎖/α4 鎖との 3 本鎖で三量体構造を形成している。これらのα鎖は N-terminal ドメイン、コラーゲンドメイン、C- terminal non-collagenous ドメインの 3 つのドメインから成る。このうちコラーゲンドメインのアミノ酸配列は、グリシン(Gly)が 3 残基毎に規則正しく繰り返し位置しており(Gly-X-Y)n、この Gly が三量体構造の安定性に重要な役割を果たしている。そのため、コラーゲンドメイン内の Gly が他のアミノ酸に置換される Gly ミスセンス変異は三量体構造のフォールディングや分泌に影響を与えるため、病原性を呈する。これにより、コラーゲンドメインに存在する大部分の Gly ミスセンス変異は病的変異となる。

エクソンの最後に位置する塩基における一塩基置換はスプライシング異常に関与しやすいことが知られている。しかしながら、COL4A5 遺伝子のエクソン最後に位置する塩基の一塩基置換は Gly をコードすることが多く、Gly ミスセンス変異として扱われてきた。このことは、これらの変異を有する男性 XLAS 患者がミスセンス変異のため腎予後は軽症と予測されてきたが、実際はスプライシング変異で腎予後は不良であったにもかかわらず、遺伝学的検査結果から誤って腎予後を予測されてきた可能性を示している。

本研究の目的は COL4A5 遺伝子の各エクソン最後に位置する塩基の一塩基置換が、ミスセンス変異ではなくスプライシング変異であった可能性を検討し、これらの変異を有する男性 XLAS 患者の腎予後と既報の腎予後とを比較することである。

【対象と方法】
まず、疾患データベースである Human Gene Mutation Database (HGMD®)で病的変異と報告されているエクソン最後に位置する塩基によるミスセンス変異の 14 変異を抽出した。そして、私達のコホートで認めた 6 変異を加えた計 20 変異を対象変異とした。これらの 20 変異に対して、in vitro のスプライシング解析系である minigene 解析を行なった。minigene 解析結果が、Wild type の遺伝子配列を挿入したベクターの産生する mRNA に比較し、変異の遺伝子配列を挿入したベクターが産生する mRNA でスプライシングパターンの違いを認めた場合をスプライシング異常あり(スプライシング変異)と評価した。また、患者検体が使用可能な 3 例で、血液検体から抽出した mRNAを用いた in vivo のスプライシング解析を行なった。In silico 解析としては、スプライスサイトスコアを確認するために、Alamut Visual®を使用した。また、スプライシングの予測は Human Splicing Finder Professional (HSF)とSD-SCORE、EX-SKIP を用いた。そして、minigene 解析結果から、スプライシング異常を認めた変異を有する男性 XLAS 患者の腎予後を既報と比較して、genotype-phenotype correlation を検討した。統計解析は JMP software version 14 (SAS Institute Inc., Raleigh, NC, USA)を用いた。

【結果】
minigene 解析では、20 変異中 17 変異(85%)にスプライシング異常を認めた。また、 in vivo 解析では施行した全 3 変異で minigene 解析と同様のスプライシング異常を認めた。一方、スプライシング異常を認めなかった残りの 3 変異のうち 2 変異はコラーゲンドメイン内の Gly ミスセンス変異であった。残り 1 変異は Gly 以外のアミノ酸から他のアミノ酸に置換される non-Gly ミスセンス変異であり、発症機序は不明であった。

スプライシング異常を起こす変異を有した男性 XLAS 患者の腎予後は中央値 27 歳であり、既報のミスセンス変異より明らかに重症(27 歳 vs 40 歳, P < 0.01)であり、ミスセンス変異と評価すると腎予後予測を大幅に誤ってしまう可能性が高いと考えられた。一方で、既報のスプライシング変異(27 歳 vs 28 歳, P = 0.72)やナンセンス変異(27 歳 vs 18 歳, P = 0.09)と有意差は認めなかった。

In silico 解析では 5’スプライスサイトスコアは全ての変異で低下していたが、スプライシング異常を伴う変異が伴わない変異よりも有意に低下した(4.34±0.81 vs. 8.46±0.43, P=0.03)。スプライシング異常を予測する in silico ツールの感度/特異度はHSF 100%/0%, SD-SCORE 94.1/%33.3%, EX-SKIP 11.1%/50% であった。

【考察】COL4A5 遺伝子のコラーゲンドメインでは、ほとんどの Gly ミスセンス変異が病的であり、一塩基置換でアミノ酸が変化する場合はミスセンス変異と考えられてきた。しかし、エクソン内の一塩基置換の 15-50%はスプライシング異常と関連し、5’スプライスサイトの canonical 配列(エクソン最後の 3 塩基とイントロン最初の 6 塩基)では特に起きやすいと報告されている。今回の研究で、COL4A5 遺伝子のエクソン最後に位置する塩基の一塩基置換の 85%はスプライシング異常を引き起こすことを明らかにした。加えて、in vivo 解析を行なった 3 変異では in vitro と同様のスプライシングパターンを認めた。これらの結果は、COL4A5 遺伝子のエクソン最後に位置する塩基の一塩基置換は高頻度でスプライシング変異であることを明らかにした。In silico のスプライシング予測ツールは、感度が高いが、特異度が低く、in silico 解析単独でスプライシング異常の有無を予測することは困難であった。男性 XLAS 患者は genotype-phenotype correlation があるため、病的変異がスプライシング変異かミスセンス変異かは腎予後予測に重要である。実際、今回の検討でスプライシング異常を認めた変異を有する男性 XLAS 患者の腎予後は既報のミスセンス変異よりも重症で、スプライシング変異やナンセンス変異と同等であり、スプライシング異常の確認は腎予後予測に必須である。

脊椎動物の pre-mRNA スプライシングは U2-dependent spliceosome により生じる。 Spliceosome はuridine-rich small nuclear ribonucleoproteins(snRNP)の複合体より構成され、この spliceosome 形成の最初の段階で、U1 snRNP が 5’スプライスサイトの canonical 配列に結合する必要がある。エクソン最後に位置する塩基の一塩基置換は 5’スプライシスサイトの認識を減弱させることで、U1 snRNP の認識と結合を阻害する。そして、エクソン上流に位置するイントロンの取り除きを抑制し、スプライシング異常を引き起こす。しかし、このメカニズムは依然として不明な部分がある。実際、本研究でも全ての変異で 5’スプライスサイトスコアが低下しているにも関わらず、20 変異中 3 変異でスプライシング異常を認めなかった。

本研究の限界は、対象変異数が少なく、大部分が in vitro 解析であり、in vivo 結果を正確に反映できていない可能性がある。また、末期腎不全に至った年齢が不明な男性患者は除外して、genotype-phenotype correlation 解析を行なっている。そして、サイレント変異は検討に含んでいない。最後に、エクソン最後から 2 番目の塩基の一塩基置換でもスプライシング異常が生じる可能性は高いが、検討していないことが挙げられる。

【結論】COL4A5 遺伝子のエクソン最後に位置する塩基の一塩基置換の大部分はスプライシング異常を起こすため、男性 XLAS 患者の腎予後はミスセンス変異よりも不良となる。そのため、男性 XLAS 患者でこれらの変異を同定した場合は、正確な腎予後予測のために、スプライシング解析を行う必要がある。