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大学・研究所にある論文を検索できる 「ACTN3ヌル遺伝子型577XXはデュシェンヌ型筋ジストロフィー患者において左室拡大の低い無病生存率と関連する」の論文概要。リケラボ論文検索は、全国の大学リポジトリにある学位論文・教授論文を一括検索できる論文検索サービスです。

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ACTN3ヌル遺伝子型577XXはデュシェンヌ型筋ジストロフィー患者において左室拡大の低い無病生存率と関連する

Nagai, Masashi 神戸大学

2020.09.25

概要

【研究背景】
デュシェンヌ型筋ジストロフィー(DMD)は最も頻度の高い遺伝性筋萎縮症である。ジストロフィン(DMD)遺伝子変異により発症し、致死性の進行性筋力低下を主症状とする。 DMD は様々な筋外合併症を呈する。なかでも心筋症はDMD の進行に伴いほとんどの症例に認められ、死因の大部分を占める重篤な合併症である。DMD の心筋症において左室拡 大は主たる特徴であり、10 代前半から 20 代にかけて顕在化する。左室拡大の結果、拡張型心筋症(DCM)の病態を呈し、心不全、心臓死と至る。DCM への進行を防ぐため、ガイドラインでは患者全員に、診断時または学童期からの定期的な心機能評価を推奨している。心機能障害を認める場合にはアンジオテンシン変換酵素(ACE)阻害剤などによる早期介入が推奨されている。心合併症の管理が確立してきたにもかかわらず、DCM は依然として 主たる死因であり、DCM のさらなる知見が望まれている。

ACTN3 遺伝子はサルコメア構成蛋白の一つであるα-アクチニン 3 をコードする。ACTN3 遺伝子には高頻度多型(R577X)が存在し、ヌル遺伝子型(577XX)では α-アクチニン 3 が欠損する。

α-アクチニン 3 欠損は一般集団において筋力低下との関連が報告されているが、DMD 表現型との関連は明らかでない。これまで、ACTN3 遺伝子型と DMD 患者の筋力との関連が報告され、ACTN3 遺伝子が DMD の疾患修飾因子であることが示唆された。さらに、
ACTN3 遺伝子型と慢性心不全患者の生存との関連が報告され、ACTN3 遺伝子は心機能と関連することが示唆された。今回、我々は日本人DMD 患者において、ACTN3 遺伝子型と心合併症との関連について検討した。

【方法】
単一施設における後方視的研究である。1992 年 6 月から 2018 年 3 月に神戸大学医学部附属病院に通院歴のあるDMD 患者の診療録を後方視的に検討した。DMD の診断は DMD遺伝子変異の同定によって行われた。解析対象は、1)ゲノムDNA が保存されているも の、2)当院で定期的な心エコーを受けているもの、3)初回検査時に心機能障害または拡張型心筋症を示す所見がないものとした。ACTN3 遺伝子型は直接シークエンス法で決定した。左室拡大は左室拡張末期径(LVDd) >55 mm と定義し、心機能障害を LV 駆出率(EF)<53%と定義した。

Shapiro-Wilk 検定で正規性を検定し、正規分布では Student’s t 検定/ANOVA を用い、非正規分布では Mann-Whitney U 検定/Kruskal-Wallis 検定を用いて統計解析を実施した。名義尺度では Fisher の正確確率検定を用いた。Kaplan-Meier 法と log-rank 法で生存率を比較分析した。Mantel-Haenszel 検定でハザード比を算出した。p<0.05 を統計的有意差とした。

【結果】
当院に通院歴のある 452 人のDMD 患者のうち、163 人にゲノム DNA の保存があり、 ACTN3 遺伝子型を解析した。163 人のうち 74 人は当院で定期心エコーが実施されていないため除外された。さらに 12 人は初回心エコー時に心機能障害を認めたため除外された。最終的に 77 人の患者が解析対象となった。

解析対象の 77 人を含む、163 人の DMD 患者の ACTN3 遺伝子型を解析した。野生型である c.1729C(p.577R)をホモ接合性に有する場合の遺伝子型を RR とした。高頻度多型 c.1729C> T(p.R577X)を、ヘテロ接合性に有する場合を RX、ホモ接合性に有する場合を XXとした。遺伝子型RR、RX、XX は、それぞれ 31 人(19%)、84 人(52%)、48 人(29%)であった。R577X のアレル頻度は 0.552 で、Hardy-Weinberg 平衡(X2= 0.29、p = 0.87)に従ってい た。また、解析対象の 77 人では RR、RX、XX は、それぞれ 13 人(17%)、44 人(57%)、20人(26%)であった。アレル頻度は 0.545 で、Hardy-Weinberg 平衡(X2= 1.79、p = 0.41)に従っていた。

まず、解析対象の 77 人について 3 つの遺伝子型の臨床背景を比較した。初回心エコー年齢、最終心エコー年齢、経口プレドニゾロン使用、ACE 阻害剤使用、β 遮断薬使用、初回心エコー時の LVDd やLVEF で遺伝子型間に有意差は認めなかった。

次に α-アクチニン 3 欠損が心機能に及ぼす影響を明らかにするために、77 人のDMD 患者を、XX をヌル遺伝子型(N=20)、RR および RX を陽性遺伝子型(N=57)と定義して 2 群に分類した。この 2 群間で前述の臨床背景に有意差は認めなかった。

RR、RX、XX の 3 群の心機能障害の生存率について比較したところ、3 群間で有意差は認めなかった(p=0.103)。次にヌル遺伝子型と陽性遺伝子型について比較した。ヌル遺伝子型と陽性遺伝子型の生存期間中央値はそれぞれ 13.4 歳と 15.3 歳であり、ヌル遺伝子型の 生存率は有意に低かった(p=0.041)。15 歳の時点で、陽性遺伝子型の生存率が 0.45 に対し、ヌル遺伝子型の生存率はわずか 0.13 であった。ヌル遺伝子型はDMD において心機能障害の早期発症と関連しており、ハザード比 2.78(95%信頼区間、1.04-7.44)と心機能障害のリスクが高かった。

次に左室拡大について 3 つの遺伝子型で比較した。XX は左室拡大の早期発症と有意に関連していた(p=0.023)。左室拡大は 12 歳まですべての遺伝子型で認められなかったが、 XX は 13 歳から生存率の低下を示した。20 歳の生存率は XX ではわずか 0.29 であり、RXは 0.77 と高い生存率を示した。驚くべきことに RR は 21 歳まで左室拡大を示さなかった。

さらにヌル遺伝子型と陽性遺伝子型を比較すると、左室拡大の生存率はヌル遺伝子型が陽性遺伝子型よりも有意に低く(p=0.007)、ヌル遺伝子型は左室拡大について有意なリスクを有していた(ハザード比:9.04、95%信頼区間:1.77-46.20)。

最後に、RR とその他(RX および XX)の心機能障害および左室拡大の無病生存率を比較したが、ともに 2 群で有意差は認めなかった(p = 0.83 および p = 0.19)。

【考察】
本研究では、77 人のDMD 患者の ACTN3 遺伝子型を同定し、遺伝子型間の心機能障害と左室拡大の無病生存率を比較した。そして、ヌル遺伝子型で左室拡大が早期に進行することを明らかにした。

この研究のDMD 患者の R577X のアレル頻度は東アジアの人口で報告された頻度(0.458- 0.567)と同様であり、選択バイアスはないと考えらえた。

α-アクチニン 3 は、Z ディスクの構成タンパクであるため、これまでは骨格筋機能について研究がなされてきた。しかしながら近年の研究では α-アクチニン 3 は心筋や肺動脈平滑筋を含む心血管系の組織にも発現していることが報告されてきた。α-アクチニン 2 と α-アクチニン 3 はホモおよびヘテロ二量体として存在し、ZASP やミオチリン、タイチン、ビンクリンといった蛋白と結合する。
ZASP やタイチン、ビンクリンの欠損により DCM を引き起こすことが報告されており、α-アクチニン 3 がこれらのタンパクとともに心機能に関連することが考えられる。

DMD では過度な運動により心機能が悪化することが予想される。健常人でヌル遺伝子型が下肢筋力と関連すると報告があるため、DMD 患者においてもα-アクチニン 3 欠損骨格筋と心筋の間に相互作用がある可能性がある。そのため、本研究で遺伝子型と歩行喪失年齢を比較したが有意差は認めなかった。DMD において、ACTN3 遺伝子型と歩行喪失年齢や、筋力等との関連を検討した研究はあるが、一定の見解は得られていない。現時点では、ACTN3 遺伝子型の身体活動機能への影響について断定できず、また α-アクチニン 3 欠損骨格筋と心筋との関連について結論を出すことは出来ない。

心筋症はDMD における主要な死因であり、心筋症リスクを正確に予測することは心予後を改善するために不可欠である。ヌル遺伝子型と DCM の早期発症の関連が明らかになった今、ヌル遺伝子型患者の心合併症のマネジメントについて考える必要がある。
本研究では解析対象から除外された、非常に早期に DCM を発症したヌル遺伝子型患者例がいた。

この患者は 8 歳で心機能障害があり、11 歳で左室拡大を認めた。これらのことから、ヌル遺伝子型に対しては、現在の推奨より頻回に心機能評価を受けるべきであることを示唆している。我々は、DMD の診断時に ACTN3 遺伝子型を解析し、ヌル遺伝子型については 8 歳までは年 1 回、以降は年 2 回の心機能評価を行うという新しい心合併症マネジメントを提案する。この新しいマネジメントにより DMD の心予後を改善できると考える。

本研究のリミテーションとして単一の施設で行われた後方視的研究であること、コホートサイズが小さいことが挙げられる。

【結論】
DMD 患者において、ACTN3 遺伝子型とDCM との関連を明らかにした。ヌル遺伝子型が DCM の病態の進行と関連していた。DMD 患者の心予後を改善するために、診断時に ACTN3遺伝子型を決定すべきである。