リケラボ論文検索は、全国の大学リポジトリにある学位論文・教授論文を一括検索できる論文検索サービスです。

リケラボ 全国の大学リポジトリにある学位論文・教授論文を一括検索するならリケラボ論文検索大学・研究所にある論文を検索できる

リケラボ 全国の大学リポジトリにある学位論文・教授論文を一括検索するならリケラボ論文検索大学・研究所にある論文を検索できる

大学・研究所にある論文を検索できる 「ゲノムデータベースに基づく民族によるGitelman症候群の推定有病率の検討」の論文概要。リケラボ論文検索は、全国の大学リポジトリにある学位論文・教授論文を一括検索できる論文検索サービスです。

コピーが完了しました

URLをコピーしました

論文の公開元へ論文の公開元へ
書き出し

ゲノムデータベースに基づく民族によるGitelman症候群の推定有病率の検討

近藤, 淳 神戸大学

2022.03.25

概要

Gitelman症候群はSLC12A3遺伝子異常による常染色体劣性の遺伝性塩喪失性尿細管障害であり、低カリウム血症や低マグネシウム血症、代謝性アルカローシスなどをきたす。臨床症状として易疲労感や筋力低下、夜尿、塩分嗜好などを呈するが特異的な症状はなく、疑って血液検査を行わなければ診断は困難である。これまで保因者頻度は1%、有病率は約4万人に1人といわれていたが、実際には未診断の患者が多数いることが予想され、表現型に基づいた正確な有病率算出は不可能である。日本や中国などの東アジア人では保因者頻度が既報よりも高い可能性が報告されている。生命予後は良好とされているが、その非特異的な症状によりQOL低下をきたすことが報告されている。さらに、腎外合併症として低身長や甲状腺機能異常症、てんかんなどを呈するほか、稀ではあるが致死的不整脈も合併しうる。

以上から、 Gitelman症候群は予後良好な疾患とは言い切れず、適切に診断や治療を受けられず苦しんでいる患者が多く存在する可能性があると考えられた。そこで今回我々は、ゲノムデータベースの情報をもとに、より正確なGitelman症候群の保因者頻度と有病率を推算するため検討を行った。また、本研究結果の正確性を検討するため、神戸大学医学部附属病院の外来にて血清力リウム値を含む血液検査を施行された患者を対象として、低カリウム血症の有病率に関する電子診療録を用いた後方視的研究を行った。

【方法】
まず、 HGMDProfessionalに病原性として登録された SLC12A3遺伝子の全てのミスセンス変異とナンセンス変異 (247変異)を対象とした。次に、複数の遺伝子データベース (HGVD、jMorp、gno出AD) に基づいて日本人およびその他の民族(非フィン系ヨーロッパ人、フィン系ヨーロッパ人、アシュケナージ系ユダヤ人、南アジア人、日本人を含む東アジア人、アフリカ人、ラテン人、その他)の健常人における上記の各変異のアレル頻度を検索したところ、日本人では HGVDで 16変異、 jMorpで 20変異、その他の民族では 140変異が登録されていた。それらの変異アレル頻度の民族ごとの総和を各民族の総アレル頻度 (q) とし、正常アレル頻度を pとした (p+q=l)。Hardy-Weinbergの法則が成立すると仮定して、保因者頻度は各人が SLC12A3遺伝子を 2コピー保持していることから 2qと近似し、有病率は常染色体劣性遺伝性疾患であるためご両親が保因者で有る場合 4分の 1の確率で発症するというメンデルの法則より、 2qx2q/4 = q2としてそれぞれ推算した。

また、日本人においてアレル頻度が 0.001以上であった 9変異については、その変異が病原性でなかった場合に結果に及ぼす影響が特に強くなるため、その病原性の有無を明らかにするため以下のような検討を行った。複数の InSI1ico解析 (SIFT、PolyPhen-2、MutationTaster) および、我々が有するコホートのうち各変異を有する症例の情報を基にした分離解析、さらに、これらの情報を加えて ACMG/AMPガイドライン (2015) に沿って病原性の有無について検討を行った。

さらに、本研究結果の正確性を検討するために追加研究を行った。神戸大学医学部附属病院の外来にて、 2010年 1月 1日から 2020年 12月31日の 10年間に、血清カリウム値を含む血液検査を施行された 16~30歳の患者 (14,335人)を対象とした。電子診療録を用いて後方視的に症例情報の収集を行い、低カリウム血症(血清カリウム値~ 3.lmEq/L) を呈した患者の有病率を求めた。なお、低カリウム血症患者のうち、薬剤性や Gitelman症候群以外の原疾患を有するなど、病態が明らかな症例は除外した。

【結果】
推定保因者頻度は日本人で約 9.1%、日本人を含む東アジア人で約 5.8%、その他の民族で 0.7-2.8%であった。 1,000人当たりの推定有病率は日本人で約2.1人、日本人を含む東アジア人で約 0.8人、その他の民族で 0.012-0.19人であった。

また、日本人においてアレル頻度が 0.001以上であった 9変異について、ACMG/AMPガイドライン沿ってその病原性に関する検討を行ったところ、 3変異については“Uncertainsignificance'’、6変異については“Likelypathogenic"と判断された。前者の 3変異を除外した上で有病率を再度推算したところ、日本人における 1,000人当たりの推定有病率は約 1.7人であった。

さらに、当院外来患者を対象とした電子診療録を用いた後方視的データ解析研究の結果、低カリウム血症を認めた患者は 143人であった。そのうち、Gitelman症候群以外に明らかな原因のない患者は 13人であり、その有病率は1,000人当たり約 0.9人であった。

【考察】
本研究は、複数のデータベースを用いて、民族ごとに Gitelman症候群の保因者頻度および有病率を推算した初めての研究である。本研究の結果、Gitelman症候群の推定有病率は多くの民族で既報と比較して高く、特に日本人では 1000人あたりに約 1.7人と高率であった。

追加研究として我々が行った後方視的研究において、血清カリウム値3.lmEq/L以下の低カリウム血症患者の有病率は本研究で得られた推定有病率よりも低かった。これは、今回の後方視的研究では、解析対象や交絡因子が多くなりすぎることを防ぐため、年齢制限や低カリウム血症の閾値を一般的な3.5mEq/L以下に比して低く設定したことに起因すると考えられる。そのため、条件を広げれば低カリウム血症の有病率は高くなることが予想され、本研究の推算結果と矛盾はしないと判断した。

多くの民族で既報よりも Gitelman症候群の推定保因者頻度や推定有病率が高かった理由としては、 Gitelman症候群の症状は多くの場合で致死的ではなく、発生にも影響を与えないことから、保因者だけでなく患者も子孫を残すことが可能であり遺伝子変異が保存されやすいためと考えられる。さらに、特に日本人で推定保因者頻度が高かった理由としては、日本は島国であるという地理的要から、孤立した地域へ保因者が移動したことによる創始者効果が生じやすいためと考えられる。実際に、日本人の 1%以上が保有している変異のうちいくつかは他民族ではほとんど検出されず、これらの変異の高いアレル頻度は創始者効果による可能性がある。

本研究の Limitationとして、まず、使用した推算式は常染色体劣性遺伝として単純化したため denovo変異を考慮していない。しかし、既報においてSLC12A3遺伝子の denovo変異はほとんど認めないことが報告されており、統計学的に無視できると判断した。次に、対象をエクソン内のミスセンスとナンセンス変異に限定したため、他の Hotspot変異を考慮していない。臨床的にGitelman症候群が強く疑われる患者においても 15%~20%では 1つのヘテロ接合性変異のみしか検出されず、未知の Hotspot変異が存在する可能性が示唆されている。しかしl、この点を考慮しても、推定有病率は今回の結果より高くなる可能性が高いと考えている。

【結論】
Gitelman症候群の推定有病率は多くの民族で既報と比較して高く、特に日本人では 1000人あたりに約 1.7人と高率であった。Gitelman症候群は必ずしも軽症で予後良好な疾患ではなく、患者の QOL低下や、まれではあるが致死的腎外合併症を呈する場合があり、本研究の結果から、適切に診断や治療が行われず苦しんでいる患者が多く存在している可能性が示唆された。 Gitelman症候群の有病率を正確に認識することは早期検査と診断に有用であり、より正確な遺伝学的検査が施行され、データが蓄積されることが望まれる。

全国の大学の
卒論・修論・学位論文

一発検索!

この論文の関連論文を見る