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大学・研究所にある論文を検索できる 「日本人高度蛋白尿患者に対する包括的遺伝子診断」の論文概要。リケラボ論文検索は、全国の大学リポジトリにある学位論文・教授論文を一括検索できる論文検索サービスです。

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日本人高度蛋白尿患者に対する包括的遺伝子診断

Nagano, China 神戸大学

2020.03.25

概要

【背景】
小児特発性ネフローゼ症候群は 10 万人あたり 2-6.5 人の発症と言われている。そのなかでステロイド治療による反応性により、効果があるもの (ステロイド感受性ネフローゼ症候群)と、効果がないもの (ステロイド抵抗性ネフローゼ症候群)に分けられる。ステロイド抵抗性ネフローゼ症候群はネフローゼ症候群の 10-20%を占める。ステロイド抵抗性を示すものの多くは病理学的に、小児における末期腎不全の原因として知られている巣状分節性糸球体硬化症という病理像を呈することが多い。近年の遺伝子診断体制の確立により、ステロイド抵抗性ネフローゼ症候群の原因となるさまざまな単一遺伝子が明らかとなり、これまで 50 以上のポドサイト関連遺伝子の異常がステロイド抵抗性ネフローゼ症候群発症の原因となることが知られている。

一方で、3 ヶ月未満にネフローゼ症候群を発症する先天性ネフローゼ症候群、1 才未満に発症する乳児ネフローゼ症候群もポドサイト関連遺伝子異常に関係することが知られている。このような先天性ネフローゼ症候群/乳児ネフローゼ症候群及びステロイド抵抗性ネフローゼ症候群を対象とした網羅的遺伝子解析において、欧米における変異同定率は約 30%と報告されている。今回私たちは、日本人患者における検討を行った。

【目的及び方法】
日本人におけるネフローゼ症候群患者の遺伝子診断と、変異を有する患者における臨床的特徴の解明を目的とした。先天性ネフローゼ症候群/乳児ネフローゼ症候群/ステロイド抵抗性ネフローゼ症候群および巣状分節性糸球体硬化症または無症候性蛋白尿を呈する患者に対して、ポドサイト関連 60 遺伝子を含む疾患パネル (Supplementary Table S3 )を作成し、次世代シークエンサー (NGS)による網羅的解析を行った。対象期間は 2016 年 1 月から 2018 年 12 月とした。

【結果】
日本全国の施設より検体収集し合計 230 例を解析した。発症時年齢は中央値で 3 歳、先天性ネフローゼ症候群が 10 例、乳児ネフローゼ症候群が 14 例、ステロイド抵抗性ネフローゼ症候群が 101例、巣状分節性糸球体硬化症または無症候性蛋白尿を呈する症例が 105 例であった。230 症例のうち、69 例 (30%)で変異を同定した。変異の内訳は WT1:17 例、NPHS1, INF2:8 例,TRPC6: 7 例、LAMB2:6 例、ADCK4:4 例、NUP107:3 例、COL4A5, PAX2 ,LMX1B, ACTN4:2 例、 COQ6, MYH9, FAT1,TTC21B, SMARCAL1, PLCE1, LAMA5:1 例であった (Table 3)。

年齢毎の変異同定率は先天性ネフローゼ症候群が 85%、乳児ネフローゼ症候群が 53%、1-3 歳が 26%、4-6 歳が 17%、7-12 歳が 31%、13-18 歳が 20%、19 歳以上は 20%であった (Supplementary Fig.2)。

1 歳未満での同定された遺伝子変異については、37%が WT1、26%が NPHS1, LAMB2、11%がその他の原因遺伝子であった。

次に、遺伝子変異を有する症例と有さない症例 (有り 69 例、無し 161 例)の 2 群間で臨床的特徴について比較検討を行った。その結果、変異を有する症例は有意に低年齢 (p=0.024)、家族歴を認め (p=0.0004)、浮腫を認めず (p=0.0018)、完全寛解の既往を認めなかった (p=0.004)(Table 6)。

【考察】
過去の報告において、変異同定率は 29.5% (183 家系 526 人)であり、その中でも変異同定率が高かったのは 0-3 ヶ月の乳児群で 69.4%であった。その他の欧米での大規模な過去の報告において変異同定率は 23.6%であり、頻度の高い変異は NPHS2, WT1 と NPHS1 であった。また先天性ネフローゼ症候群における変異同定率は 66%で、年齢を追う毎に変異同定率は 15-60%と低下していくことが示されていた。今回の我々の研究では、変異同定率は 30%であり過去の報告と同程度であった。しかし一方で、頻度の高い変異については WT1, NPHS1, INF2, TRPC6, LAMB2 の順であり過去の欧米の報告とは異なっていることが分かった。韓国からのステロイド抵抗性ネフローゼ症候群に対する遺伝子解析の報告では NPHS2 の変異報告はなく、中国の報告では遺伝子変異は ADCK4, NPHS1, WT1 ,NPHS2 の順で頻度が高くなっているため変異の種類については、人種や地域が関係するのではないかと考える。

ステロイド抵抗性ネフローゼ症候群に対する治療は種々の免疫抑制剤を使用しても困難なことが多い。しかし、遺伝子変異を有さないステロイド抵抗性ネフローゼ症候群はカルシニューリン阻害剤により 78%が完全寛解に至り、遺伝子変異を有する症例では 1 例が完全寛解に至ったが16%しか部分寛解に至らなかったという報告がある。我々の研究でも、遺伝子変異を有さないステロイド抵抗性ネフローゼ症候群においては 26%が寛解に至っている。ただ、この頻度に関しては我々の遺伝子解析結果後に免疫抑制剤による治療を行う症例も含まれており、その後の詳細な臨床経過を反映できていないため正確な頻度とはいえない。また、遺伝子変異を有する症例に関しては完全寛解を認めたのは 5% (2/37)と低値であった。カルシニューリン阻害剤は尿蛋白を減少させるという点では有効であるという報告が散見されるが、その後の腎機能について言及している報告は少ない。そのため遺伝子変異を有する症例に対する免疫抑制剤による治療の有効性については、今後の症例蓄積や大規模な研究が必要である。

遺伝子検査は患者の治療方針や予後予測のために重要である。しかし、すべての患者において遺伝子検査をするのは非現実的であり、症例の選択が必要である。過去のステロイド抵抗性ネフローゼ症候群の報告において、遺伝子変異を有する症例は年齢に反比例し、家族例や腎外症状を認める症例に多いとされていた。今回の我々の研究において、遺伝子変異を有する症例と有さない症例を比較したころ、遺伝子変異を有するリスク因子として若年、家族歴を有するもの、浮腫を認めないもの、寛解を認めないものという事が明らかになった。

本研究にはいくつかの limitation が存在する。1 つ目に後方視的研究で症例数が少ないこと。2つ目に個々の臨床的データや診断については担当医の判断によるものであること。3 つ目に、一部の症例については治療経過を把握できなかった事があげられる。

以上より、我々は日本人患者における先天性ネフローゼ症候群/乳児ネフローゼ症候群/ステロイド抵抗性ネフローゼ症候群および巣状分節性糸球体硬化症または無症候性蛋白尿の網羅的遺伝子診断を行い、原因遺伝子を同定した。治療方針決定や予後予測のために網羅的遺伝子診断を行う重要性が示された。

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