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大学・研究所にある論文を検索できる 「斑点米カメムシ抵抗性品種育成のための育種母本の選定とその抵抗性機構の解析」の論文概要。リケラボ論文検索は、全国の大学リポジトリにある学位論文・教授論文を一括検索できる論文検索サービスです。

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斑点米カメムシ抵抗性品種育成のための育種母本の選定とその抵抗性機構の解析

杉浦, 和彦 名古屋大学

2022.05.20

概要

イネを加害するカメムシは、 茎葉や籾を吸汁し被害を与える.カメムシに籾が吸汁されると玄米に褐変が生じ、この玄米を斑点米、加害するカメムシを斑点米カメムシと呼んでいる.斑点米の混入により取引価格は低下するため、 生産者の収入に直接影響を与える.さらにカメムシによる被害が甚大になると不稔粒の発生により減収することから、 世界的にも斑点米カメムシによるイネの被害は大きな問題である.

日本では、 特に2000年代初頭以降にその被害面積が拡大し深刻化している.日本における斑点米の原因となる主要なカメムシは10数種同定されており、加害タイプは、 種により異なり大きく3つに分類することができる.クモヘリカメムシ(Leptocorisa chinensis)に代表される鉤合部加害型は、籾の中でも鉤合部を選択して加害する.ミナミアオカメムシ(Nezara viridula)に代表される無差別加害型は、 籾のどの部分からも加害し、アカスジカスミカメ(Stenotus rubrovittatus)に代表される頂部加害型は、ふ先や籾の隙間から選択的に籾の頂部を加害する.

カメムシによる斑点米の発生を軽減する対策技術としては、イネ科雑草の管理、殺虫剤散布、斑点米を識別し物理的に除去する装置の導入、などが挙げられる.しかし、いずれの技術も多大なコスト、労力がかかるため、有効な対策として斑点米カメムシ抵抗性品種の育成が望まれている.

斑点米カメムシ抵抗性品種としては、イネ品種・系統「IR64」、「PSBRc20」がタイワンクモヘリカメムシ(Leptocorisa oratorius)に対して緩やかな抵抗性を示すことが報告されている.しかし、その他にカメムシ斑点米抵抗性品種に関する報告はなく、 世界的にもこの抵抗性品種に関する育種的な研究は進んでいない.このため、 近年発生が増加している斑点米カメムシの被害を軽減するための有効な対策として、斑点米カメムシ抵抗性品種の育成を目指して、 育種母本の選定、抵抗性検定法の確立、抵抗性機構の解析を目的に、本研究に取り組んだ.

第1 章では、愛知農総試で保有しているイネ490品種・系統から、ほ場検定法、 集団検定法、品種別検定法の3 種類の方法により、斑点米カメムシ抵抗性品種・系統を選定した.ほ場検定では、 野外ほ場で自然発生したカメムシにより品種の抵抗性を判定した. 集団検定法では、テトロンゴース製の布を蚊帳のように吊るした中でカメムシを増殖させた後、 複数のイネ品種を蚊帳内に移し、カメムシに吸汁させて抵抗性を判定した.品種別検定法では、 1株ごとにテトロンゴース製の布をかぶせ、その中にカメムシを放飼して、品種ごとの抵抗性を判定した.これらの検定には、 鉤合部加害型カメムシであるクモヘリカメムシを用いた.初期選抜では、ほ場検定法及び集団検定法を用い、検定精度よりも多くの品種・系統から選定することを優先した.抵抗性品種を絞り込んだのち、検定精度の高い品種別検定法を用いることで、効率的、効果的に選定を行った.その結果、「GP242」、「TI-11-8」、「密陽 44号」、「CRR-99-95Wがクモヘリカメムシに対し抵抗性を示すことを明らかにした.さらにこの4 系統を用いて、無差別加害型であるミナミアオカメムシに対する抵抗性を検定した結果、 「密陽 44号」、 「CRR-99-95W」が抵抗性を示した.以上の結果から、 上記 2 種に対する抵抗性品種の育成母本として「密陽 44号」、「CRR-99-95W」を見出した.

第二章では、抵抗性品種を選抜するための、効率的な斑点米カメムシ抵抗性検定法を開発した.カメムシによる1日当たりの加害籾数はイネの登熟段階により異なることが知られている.このため、出穂後の日数経過に伴い斑点米発生率が変化することが予想されることから、抵抗性検定に適するカメムシ放飼開始時期と放飼期間を検討した.カメムシ放飼開始時期については、クモヘリカメムシを用いて試験を行った結果、出穂後15日及び20日の放飼で品種間差異が明確となった.また、カメムシ放飼期間については、出穂後20日にクモヘリカメムシ成虫 5 頭を一定期間放飼した結果、放飼期間が長くなるほど斑点米発生率は増加し、 4日間以上の放飼期間でその品種間差異が明確となった.これらの結果をもとに、検定を簡易に行うための切除茎を用いた検定法を検討した.出穂後20日に検定個体の茎を止葉下第 2 葉節より50 mm下の部分(第Ⅲ節間)で水切りし、切除した茎を水に挿してガラス室内でクモヘリカメムシを7日間放飼して、斑点米カメムシ抵抗性検定を実施した.その結果、斑点米発生率は品種により明確に異なり、斑点米カメムシ抵抗性の品種間差異を検出することができた.また、切除茎において登熟した玄米千粒重は、切除処理していない穂のそれに比べ87~ 97%であり、斑点米の判別が十分可能な玄米であった.以上の結果から、切除茎を用いた斑点米カメムシ抵抗性検定法は、検定にかかる労力を減らすことができ、 育種選抜において有効な方法であることを明らかにした.

第三章では、 頂部加害型であるアカスジカスミカメに対する「CRR-99-95W」の斑点米カメムシ抵抗性を明らかにしようとした. 「 CRR-99-95W」は比較品種である「あいちのかおりSBL」と同様に、 登熟の進展に伴いアカスジカスミカメによる斑点米発生率が低下した. 特に加害時期が出穂後7、 14日では、 「CRR-99-95W」は「あいちのかおりSBL」に比べて有意に斑点米発生率が少なく,出穂後7日では稔粒発生率も有意に少なかった.以上の結果から、 「CRR-99-95W」は登熟初中期では斑点米発生率を抑制させ、さらに登熟初期では不稔粒の発生を抑制させることを明らかにした.アカスジカスミカメに対する斑点米カメムシ抵抗性の検定には、斑点米発生率に有意な差があり、かつ不稔粒の発生が少ない出穂後14日に放飼するのが適していることが見出された.また、アカスジカスミカメの被害に大きな影響を与える割れ籾の発生数を調査した結果、 「CRR-99-95W」は出穂前の低温・寡照条件によって割れ籾が増加したが、その発生数は比較品種の「あいちのかおりSBL」と変わらなかったことから、 「CRR-99-95W」のアカスジカスミカメに対する抵抗性は、割れ籾の有無が要因ではないことを明らかにした.

第四章では、 「CRR-99-95W」の斑点米カメムシ抵抗性の要因として、抗寄生性、抗生作用、 耐性を検討した. 「CRR-99-95W」の抵抗性要因として抗寄生性、抗生作用が関与している可能性を検証するため、 2つの実験を行った.その結果、クモヘリカメムシの寄生数と斑点米 発 生 率との間に相 関は見られなかった.さらに、「CRR-99-95W」の成熟籾におけるミナミアオカメムシの吸汁頻度は、比較品種と有意な差が認められなかった.これらの結果から、 「CRR-99-95W」はカメムシに対して抗寄生性、抗生作用を示さないことが示唆された.次に、 耐性の要因を調べるために、 籾殻の硬度と斑点米発生率を調査したところ、 両者は負の相関を示したことから硬さの要因となる籾殻のケイ素分析及び厚壁繊維の構造解析を行った.その結果、「CRR-99-95-W」は比較品種に比べ、ケイ素含量は変わらないが、厚壁繊維の細胞壁の割合が高い傾向があった.また、内頴鉤合部の鉤状の開口部の幅は、比較品種のそれよりも狭かった. 鉤合部加害型であるクモヘリカメムシは、 鉤合部の隙間に口針を曲げながら差し込み吸汁するため、この鉤合部の形状が吸汁のしにくさとなっていることが示唆された.こうした「CRR-99-95W」の籾殻の形態的特徴が、カメムシ被害に対する抵抗性に重要な役割を果たすことを明らかにした.

以上の結果より本研究では、 「密陽 44号」、 「CRR-99-95W」が鉤合部加害型、無差別加害型に対し抵抗性を示すこと、さらに「CRR-99-95W」は頂部加害型にも抵抗性を示すことを明らかにした.斑点米カメムシ抵抗性検定として、ほ場検定法、 集団検定法、品種別検定法のメリット、デメリットを明らかにするとともに、 集団検定法、品種別検定法では、品種間差異が明確となるカメムシの放飼時期、放飼期間を加害型別に決定した.また、 育種現場で有効である切除茎を用いた簡易検定法を確立したことで、今後、抵抗性品種育成の加速化が期待される. 「 CRR-99-95W」の斑点米カメムシ抵抗性機構については、 籾殻における厚壁繊維の細胞壁の割合が高いことで硬度が高まることが抵抗性要因の一つであることを明らかとした.さらに、内頴鉤合部の鉤状の開口部の幅が狭い形状の特徴が、 鉤合部加害型カメムシの吸汁のしにくさの要因となっており、こうした耐性としての機構が「CRR-99-95W」の斑点米カメムシ抵抗性機構であることを明らかにした.

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