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書き出し

ケニアにおける改良イネ品種の導入と栽培技術の高度化による稲作生産性向上に関する研究

冨田, 怜那 名古屋大学

2023.05.26

概要

報告番号



















ケニアにおける改良イネ品種の導入と栽培技術の高度化によ

論文題目

る稲作生産性向上に関する研究



冨田



怜那

論 文 内 容 の 要 旨
東 ア フ リ カ の ケ ニ ア で は ,食 の 嗜 好 の 変 化 や 都 市 部 の 人 口 増 加 に よ り コ メ の 需 要
は高まっている.中でもバスマティ品種は,食味や香りの良さから好まれ,市場での
価格が高い.ケニアにおける単位面積あたりのコメ収量は,環境ストレスによるイネ
の生育不良や不適切な栽培管理が原因で低迷している.コメの増産に向けて,バスマ
テ ィ 品 種 の ス ト レ ス 耐 性 を 強 化 す る と と も に ,適 切 な 栽 培 技 術 を 確 立 す る 必 要 が あ る .
しかしながら,稲作研究の歴史が浅いケニアでは,現地で問題となっている環境スト
レ ス の 実 態 は 十 分 に 調 査 さ れ て お ら ず ,環 境 ス ト レ ス の 評 価 手 法 が 確 立 さ れ て い な い .
そこで本研究では,ケニアにおける稲作生産性の向上に貢献するため,主要な稲作
地域における環境ストレスの実態を明らかにするとともに,環境ストレスを適切に評
価する手法を導入,または独自に開発し,バスマティ品種の改良または栽培管理技術
の高度化による対策方針を提案することを目的とした.
第 2 章ではケニア最大の稲作地域であるムエアで問題となっている冷害を対象とし
て研究を実施した.熱帯高地に位置するムエアでは,日平均気温は 1 年を通して稲作
に 適 し た 23℃ 〜 25℃ で 推 移 す る が , 低 温 期 の 夜 温 は 12℃ 〜 19℃ に 低 下 す る . ム エ ア
の 主 力 水 稲 品 種 で あ る Basmati 370 (BS) の 耐 冷 性 は 極 弱 で あ り , 低 温 期 に 障 害 型 冷
害 が 発 生 す る た め 二 期 作 は ほ と ん ど 行 わ れ て い な い . BS の 耐 冷 性 を 強 化 す れ ば 二 期
作が広まると考えられるが,同品種に不稔が発生する限界温度や二期作の実現に必要
な 耐 冷 性 程 度 は 不 明 で あ る . 一 方 , 先 行 研 究 に よ り , ム エ ア に お い て BS の 収 量 最 大
化を目指して窒素を増肥させても,乾物生産量は増加するものの登熟歩合が低下する
ため,収量は増加しないことが明らかになっている.高窒素下ではイネの耐冷性は弱
まるため,冷害が発生したものと予想されるが,これまでの研究では高窒素下におけ
るイネの登熟歩合低下と低温ストレスとの直接的な関係は明らかになっていない.そ
こ で , BS , BS に 穂 ば ら み 期 の 耐 冷 性 に 関 連 す る QTL で あ る Ctb1 を 導 入 し た

IR124713-1 (IR),耐 冷 性 の 強 い NERICA 1 (N1) お よ び 戦 捷 を 2 週 間 毎 に ム エ ア の 水
田圃場に移植し,穂ばらみ期に晒される気温を変化させ,品種毎の限界温度を調査し
た .そ の 結 果 ,昼 夜 の 気 温 日 較 差 が 大 き い 熱 帯 高 地 で の 穂 ば ら み 期 の 低 温 ス ト レ ス は ,
温 帯 で 使 わ れ て い る 日 平 均 気 温 か ら 算 出 す る cold degree day (CDD) を 用 い た 評 価 手
法 で は 適 切 に 評 価 で き ず ,1 時 間 毎 の 気 温 で 算 出 す る cold degree hour (CDH) を 用 い
る こ と で 高 い 精 度 で 評 価 で き る こ と が 明 ら か に な っ た .限 界 温 度 は ,BS と IR で は 19
℃ 〜 22℃ , 低 温 期 の 稔 実 歩 合 が 約 50% に 維 持 さ れ た N1 と 戦 捷 で は 14℃ 〜 17℃ だ っ
た .さ ら に ,BS,IR お よ び N1 を 3 水 準 の 窒 素 施 肥 条 件 下 で 栽 培 し ,幼 穂 形 成 期 ,穂
ば ら み 期 お よ び 登 熟 初 期 に お け る CDH と 収 量 構 成 要 素 と の 関 係 を 分 析 し た . そ の 結
果,収量の変動は主に籾数によって規定され,籾数は幼穂形成期における低温ストレ
ス の 影 響 で 変 動 し て い た .幼 穂 形 成 期 の 低 温 ス ト レ ス 下 に お い て ,BS の 籾 数 は 高 窒 素
施 肥 に よ り 増 加 し な か っ た が ,N1 お よ び IR で は 増 加 し た .ま た ,IR の 収 量 が BS よ
りも高かったのは,高窒素により籾数が増加したにもかかわらず登熟歩合が同程度に
維持されたためであった.
第 3 章では,ムエアやビクトリア湖沿岸で罹病化したバスマティ品種のいもち病抵
抗性の強化に向けた研究に取り組んだ.バスマティ品種は,インド型および日本型品
種 と 雑 種 不 稔 を 起 こ す た め , 抵 抗 性 育 種 は 十 分 に 進 展 し て い な い . 野 生 イ ネ O.

longistaminata の 染 色 体 断 片 を Kernel Basmati に 導 入 し た 50 系 統 か ら 構 成 さ れ る
染 色 体 断 片 置 換 系 統 群 で あ る longistaminata chromosome segment introgression
lines (LCSILs) は , ケ ニ ア で 有 用 な い も ち 病 抵 抗 性 遺 伝 子 (R 遺 伝 子 ) を 保 持 し て い
る可能性がある.抵抗性品種を開発するためには,現地に蔓延しているいもち病菌レ
ー ス に 即 し た R 遺 伝 子 を 導 入 す る 必 要 が あ る が ,ケ ニ ア で は 圃 場 の い も ち 病 菌 レ ー ス
を 調 査 す る 評 価 体 系 が 確 立 さ れ て い な い . そ こ で 本 章 で は , 感 受 性 品 種 に 23 個 の R
遺 伝 子 を 一 つ ず つ 導 入 し た 国 際 い も ち 病 菌 判 別 品 種 群 (DVs) を 用 い た , 実 験 研 究 施
設が十分に整備されていない開発途上国でも維持管理可能な圃場レベルでのいもち病
菌レース評価システムの確立を試みた.4 年間に亘る栽培試験により,いもち病菌レ
ー ス の 分 布 は ,DVs を 小 雨 季 の 10 月 〜 12 月 に 畑 地 で 前 年 罹 病 し た 稲 藁 を 株 元 に 敷 き ,
スプリンクラーで毎日灌水することにより高湿度条件を維持し,罹病性の高い品種と
一緒に無農薬で栽培することで安定的にいもち病を発生させることにより評価できる
こ と が 示 さ れ た .こ の 評 価 シ ス テ ム に よ り ,ム エ ア に は バ ス マ テ ィ 品 種 が 保 有 す る Pik
複 対 立 遺 伝 子 お よ び Pita 複 対 立 遺 伝 子 を 感 染 さ せ る 菌 系 が 存 在 す る 一 方 で , Pish ,

Pit , Pi9 (t), Piz , Piz-5 , Piz-t を 感 染 さ せ る 菌 系 は 分 布 し て い な い こ と が 明 ら か に な
っ た . そ こ で , LCSILs の ケ ニ ア に お け る い も ち 病 抵 抗 性 育 種 へ の 利 用 の 可 能 性 を 検
討するため,国際標準判別いもち病菌レースの接種試験によるフェノタイピングと次
世 代 シ ー ケ ン サ ー で の ジ ェ ノ タ イ ピ ン グ で R 遺 伝 子 特 定 を 進 め ,圃 場 で の 生 産 性 を 評
価 し た .そ の 結 果 ,ム エ ア の 有 望 系 統 と し て Pish を 保 有 す る LCSIL 6,12,27,Pish ,

Piz-t を 保 有 す る LCSIL 28, 未 同 定 の 遺 伝 子 を 保 有 す る LCSIL 39 が 見 出 さ れ た .
第 4 章ではケニア東部の乾燥・半乾燥地域に位置するブラおよびホラで問題となっ

て い る 塩 害 を 研 究 対 象 と し た .現 地 で は ,4 日 〜 5 日 周 期 で 畑 地 が ほ ぼ 水 没 す る ま で 畝
間に灌漑するフラッシュ灌漑によってイネが栽培されており,土壌中の塩分は水分移
動に伴って作土層に集積すると考えられる.しかし,異なる土壌水分条件下での塩ス
トレスの定量化は困難であるため,実際の塩分動態は明らかになっていない.塩害の
実態を解明し,被害を軽減するための灌漑方法について検討するためには,灌漑条件
が異なる土壌中における塩分動態とイネ生育との関係を明らかにする必要がある.そ
こ で ,水 分 条 件 が 異 な る 土 壌 中 の 塩 分 動 態 を 簡 易 的 に 定 量 化 す る 手 法 の 開 発 を 試 み た .
そ の 結 果 , WET2 あ る い は WET150 (Delta-T) を 用 い て 測 定 し た 土 壌 EC お よ び 誘 電
率 か ら 土 壌 溶 液 の EC を 高 精 度 で 推 定 す る こ と が 可 能 で あ り , 異 な る 水 分 条 件 下 に お
ける塩ストレスを定量化できることが示された.フラッシュ灌漑下では土壌表面から
深 さ 0 cm〜 10 cm の 上 層 に 塩 分 が 集 積 す る が ,湛 水 下 で は 塩 分 移 動 が 抑 制 さ れ ,水 分
量 も 維 持 さ れ た .こ れ に よ り ,イ ネ 葉 身 へ の Na + 蓄 積 は 抑 制 さ れ ,生 育 は 維 持 さ れ た .
砂質土壌では,粘土質土壌より多くの塩分が移動するためフラッシュ灌漑下での生育
抑制が著しい一方で,湛水では土壌溶液量が多いため,塩害軽減効果が大きかった.
以上の結果に基づき,第 5 章では環境ストレスの実態に即した今後の対応方針を地
域 別 に 検 討 し た . ム エ ア の 冷 害 は , Ctb1 を 導 入 し た IR を 利 用 す る こ と で 軽 減 可 能 で
あることが示されたが,耐冷性遺伝子をピラミッディングすることによりさらに強化
する必要がある.また,二期作の経済効率性を高めるためには,冷害強度に即して作
期別に窒素施肥水準を設定することが有効であると考えられた.さらに,観測した
CDH に 合 わ せ て 追 肥 量 , 追 肥 時 期 を 調 整 す る こ と で 冷 害 を 軽 減 で き る 可 能 性 が あ る .
い も ち 病 防 除 対 策 と し て は , BS に 導 入 す べ き , ム エ ア 向 け R 遺 伝 子 が 明 ら か に な っ
た た め ,品 種 改 良 を 具 体 的 に 進 め る こ と が 可 能 で あ る .た だ し ,い も ち 病 菌 レ ー ス は ,
圃場で栽培されるイネ品種の抵抗性に応じて変化するため,本研究で構築したいもち
病 菌 レ ー ス 評 価 シ ス テ ム を 利 用 し て モ ニ タ リ ン グ を 継 続 す る こ と が 重 要 で あ る .一 方 ,
バスマティ品種の栽培が中断されているビクトリア湖沿岸におけるいもち病菌レース
は未調査であるため,いもち病菌レース評価システムを導入し,いもち病菌レースの
分 布 を 評 価 し ,必 要 な R 遺 伝 子 を 明 ら か に す る 必 要 が あ る .ブ ラ お よ び ホ ラ に お け る
塩害は,本研究により,フラッシュ灌漑から湛水栽培に切り替えることにより軽減で
き る こ と が 示 唆 さ れ た .今 後 ,本 研 究 で 開 発 し た 塩 ス ト レ ス の 定 量 化 技 術 を 活 用 し て ,
現地の圃場で湛水による塩害軽減効果を実証する必要がある.また,湛水による塩害
回 避 は 10 cm よ り 浅 い 土 層 で 効 果 的 で あ る と 考 え ら れ た . し た が っ て , 耐 塩 性 品 種 の
開発に当たっては,塩排除能に加えて,浅い土壌に根を発達させる能力が重要である
ことが示唆された.今後,塩排除能や根系形質が異なる品種の塩害回避灌漑に対する
生育収量反応を現地の圃場条件下で調査する必要がある.
以上の通り,冷害,いもち病および塩害を適切に評価する手法を新たに確立または
導入することによって,これまで不明であったケニアにおけるこれらの環境ストレス
の実態が明らかになった.また,これらの環境ストレスによる被害を軽減するために
必要なイネ遺伝資源および栽培技術が示された.

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