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大学・研究所にある論文を検索できる 「成体マウス唾液腺におけるTAZの発現は腺房細胞への分化を抑制し、未熟な腺管細胞の細胞増殖を促進する」の論文概要。リケラボ論文検索は、全国の大学リポジトリにある学位論文・教授論文を一括検索できる論文検索サービスです。

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成体マウス唾液腺におけるTAZの発現は腺房細胞への分化を抑制し、未熟な腺管細胞の細胞増殖を促進する

Miyachi, Yosuke 神戸大学

2021.09.25

概要

【背景・目的】
唾液は口腔内の環境を健康に保つだけではなく、嚥下や消化を助けるなど様々な役割を持つ。唾液腺は枝状に分岐した構造をとり、唾液を合成する腺房細胞、唾液の分泌を補助する筋上皮細胞、唾液の通路となる腺管細胞から構成される。唾液の分泌量低下は頭頸部腫瘍の治療による放射線照射やシェーグレン症候群などの自己免疫疾患により引き起こされる。唾液の分泌量低下は口腔内の環境の悪化に繋がり、虫歯になりやすくなるだけではなく感染症にかかりやすくなる。現在、唾液の分泌量の低下に対する治療法としては対症療法しかなく、新しい治療法が求められている。

これまでの研究で、成体マウス唾液腺の腺房細胞は自己複製や介在部導管に位置する前駆細胞から分化することで恒常性を維持していることが報告されている。この前駆細胞は腺管細胞や腺房細胞に分化することができるが、どのようなシグナルにより運命が決定するかは明らかになっていない。このメカニズムを明らかにすることで唾液腺を再生させるような新たな治療法の開発につながると考えられる。

Hippo 経路は器官サイズの制御や細胞増殖・幹細胞の自己複製などにおいて重要なシグナル経路である。この経路は LATS キナーゼとそのアダプタータンパク質である SAV1 や MST キナーゼと MOB1A/1B で 構成される。これらの Hippo 経路のコアコンポーネントは細胞外環境により制御を受ける。Hippo 経路下流の転写共役因子 TAZ やそのパラログである YAP1 は核内で転写因子 TEAD と結合し、標的遺伝子の転写を促進する。活性化された Hippo 経路は TAZ/YAP1 をリン酸化し核外移行 やタンパク質分解を促進する。

これまでの Hippo 経路と唾液腺の関係について、胎生期マウスの唾液腺を用いた実験から、唾液腺の正常な分岐に Hippo 経路が重要であることが報告されている。また、唾液腺細胞株を用いた実験から TAZ/YAP1の欠損がリゾホスファチジン酸によるアポトーシスを減少させることが報告されている。しかしながら、現在までに成体マウス唾液腺におけるHippo-TAZ/YAP1 経路の機能についての報告はない。

本研究では成体マウス唾液腺での Hippo-TAZ/YAP1 経路の役割について解明するために様々なノックアウトマウスを作製しその役割の解明を目指した。

【方法】
本研究で使用したマウスは、Rosa26-CreERT2-Tg マウスに Mob1aflox/flox; Mob1b-/-マウスを交配することにより作製した (Rosa26- CreERT2; Mob1aflox/flox; Mob1b-/- adMOB1DKO と表記)。コントロールとして Mob1aflox/flox; Mob1b-/-マウス使用した。また、3 重変異マウスである TAZ TKO(Rosa26-CreERT2;Mob1aflox/flox;Mob1b-/-; Tazflox/flox)および YAP1 TKO(Rosa26-CreERT2;Mob1aflox/flox; Mob1b-/-; Yap1flox/flox)を作製した。これらのマウスにタモキシフェン (TAM) を P35-P39 の 5 日間 1mg/day で腹腔内に投与し、遺伝子欠損を誘導した上でマウス唾液腺の一つである顎下線 (submandibular gland, SMG) を評価した。

【結果・考察】
成体マウス唾液腺における TAZ/YAP1 の役割を調べるために、出生後 35-42 日の adMOB1DKO マウスとコントロールマウスに 5 日間、TAMを腹腔内に投与した。adMOB1DKO マウスは、TAM 後 3-5 週間で死亡した。これは食物摂取量の減少や皮膚の損傷による体液喪失が原因であると考えられる。そこで、TAM 開始 3 週間までの様々な時点で SMG を回収し評価を行った。

TAM 開始 14 日目以降、変異体 SMG はコントロールと比較して、小さくなり、TAM 開始 21 日の時点で、総重量及び総細胞数は 32%、腺房細胞の細胞数については 63%も減少した。一方、腺管細胞の細胞数はコントロールと変化がなかったが、CK14 と CK7 が陽性の未熟な腺管細胞の数が 2.7 倍に増加し、CK14 陰性 CK7 陽性の成熟した腺管細胞は 23%減少した。組織学的には、変異体 SMG の腺管細胞は局所的に増殖し、内腔構造を持たない塊や異形成を示し、核が拡大していた。

次に唾液の分泌量を測定したところ、adMOB1DKO マウスから分泌された唾液の量はコントロールに比べて 44%も減少した。さらに、これらの変異体 SMG を組織学的に調べたところ、中程度の炎症細胞浸潤と線維化が認められた。これらの表現型はいずれも、ヒトのシェーグレン症候群の特徴を彷彿とさせるものである。

腺房細胞が減少した理由を明らかにするために、コントロールと adMOB1DKO マウスの腺房細胞のうち、細胞増殖・細胞死の割合を検討した。その結果、有意な差がなく、変異体 SMG の腺房細胞の減少 は、細胞増殖や細胞死によるものではないことがわかった。一方、CK7陽性腺管細胞の細胞増殖と細胞死はそれぞれ 18 倍と 9 倍に増加しており、急速なターンオーバーを示している。adMOB1DKO マウスの腺房細胞には明らかな細胞死が見られないことから、腺房細胞の減少は、炎症細胞浸潤が原因ではないと考えられる。

腺房細胞の分化に関して調べるために adMOB1DKO マウスの唾液腺上皮細胞を TAM なしで不死化させた細胞株を樹立した。この細胞株をマトリゲル上で培養し、qPCR により腺房細胞や腺管細胞のマーカーの発現を確認したところ、マトリゲルなしで培養した場合に比べ、腺房細胞マーカー (Aqp5, Amy1a) の発現が増加し、腺管細胞マーカー (Krt19, Krt7) の発現量は低下した。一方、マトリゲル上で TAM を加えて 10 日間培養したところ、TAM を加えていない場合に比べ、腺房細胞マーカーの発現は低下し、腺管細胞マーカーの発現は増加した。マウス SMG を用いた免疫染色実験では、変異体 SMG ではコントロールよりも腺管細胞のうち AQP5 と CK14(未熟な腺管細胞マーカー)の両方に陽性の細胞が増加していることが確認された。これらのデータは、成体 SMG に存在する前駆細胞が、MOB1 の機能に影響されていることを示唆している。

次に、MOB1A/1B 欠損による TAZ/YAP1 に及ぼす生化学的な影響を調べた。予想通り、変異体 SMG では、TAZ と YAP1 タンパク質の両方が増加していた。免疫染色を用いて、TAZ と YAP1 を確認したところ、コントロールでは腺房細胞と管状細胞の細胞質にかすかに検出された。一方で、adMOB1DKO では、核における TAZ と YAP1 の両方の発現レベルが、腺管細胞と腺房細胞で大幅に増加していた。次に、変異体 SMG の表現型が、TAZ と YAP1 のどちらに依存するかを明らかにするため、TAZ TKO と、YAP1 TKO の 2 種の 3 重変異マウスを作製した。これらのマウスから変異体 SMG で観察された腺房細胞の減少と未熟な腺管細胞の増加は、TAZ の欠損で劇的に抑制されたが、YAP1 の欠損では有意な影響を受けなかった。

腺房細胞の形成は、SOX2 と SOX10 によって制御される。免疫染色を用いた実験から、変異体 SMG では核内での SOX2 と SOX10 の両方の発現が有意に低下していた。また、WNT 経路が恒常的に活性化している変異マウスの SMG では、未熟な腺管細胞が増加し、腺房細胞が減少することが報告されている。そこで、TAZ/YAP1 の下流分子であるβ-カテニンの活性化を、免疫染色を用いて調べた。その結果、変異体 SMG では、β-カテニン腺管細胞で活性化していることがわかった。このように、変異体 SMG の表現型は、TAZ-SOX シグナルと TAZ-β-カテニンシグナルが重要であると考えられる。

【結論】
本研究では成体マウス唾液腺における Hippo-TAZ シグナルは SOX や β-カテニンを介して、腺房細胞の分化への分化を抑制し、未熟な腺管細胞を増加させることを明らかにした。さらに、adMOB1DKO マウス SMG はヒトのシェーグレン症候群の特徴に類似する炎症細胞の浸潤や繊維化が中程度に増加することを明らかにした。今回発見した Hippo- TAZ シグナルを制御することが、放射線などによる唾液腺の損傷を事前に予防することや、損傷した唾液腺を回復させるような新たな治療法の開発戦略になり得る。

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