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赤芽球由来のFGF23が造血前駆細胞の動員を促進する

Ishii, Shinichi 神戸大学

2021.03.25

概要

顆粒球コロニー刺激因子(granulocyte colony-stimulating factor; G-CSF)は、造血幹細胞の骨髄から末梢血への移動(動員)を誘導するサイトカインとして骨髄移植ドナーからの造血幹細胞採取に用いられている。G-CSFの投与により交感神経が活性化され、マクロファージ、骨芽細胞系列細胞や間葉系細胞が抑制されることで造血幹細胞を取り巻く骨髄環境が変化し、造血幹細胞が骨髄から末梢血へと放出されていくことがこれまで知られていた。一方で、造血幹細胞は、骨髄間質細胞に発現するケモカインCXCL12に、受容体CXCR4を介して引き寄せられ骨髄内に保持されており、動員時には、最終的に造血幹細胞がCXCL12/CXCR4軸のアンカーとしての働きから離脱することで、末梢血中へと動員されていくとされる。G-CSFの投与時の動員が起こるタイミングでは、骨髄細胞外液におけるCXCL12蛋白濃度や骨髄細胞全体のCXCL12 mRNAが著しく低下することがこの論拠とされてきたが、実際にはCXCL12を高いレベルで産生する骨髄間質細胞の数自体は上昇しその細胞あたりのCXCL12 mRNAレベルの低下はあるものの骨髄全体に比し劇的ではないため、造血幹細胞を骨髄に留めることに働くCXCL12の総量は大きな変化を起こさないことが最近報告された。これは、最近G-CSFに併用することでその動員効率を大きく上昇させることがわかり臨床応用されたCXCR4のアンタゴニスト(プレリキサホル)の効果からも裏付けられる。すなわち、効率的なG-CSFによる動員の成立には、骨髄内CXCL12の変化よりもむしろ、造血幹細胞側の受容体CXCR4への骨髄環境からの抑制性の働きかけが重要であることが想像できる。しかし、その分子経路の実態は不明であった。本研究は、このシグナルリレーの中心となる因子としてFibroblast growth factor-23(FGF23)を特定したものである。

 FGF23は、教科書的には骨組織に埋没した骨細胞が産生し、腎臓においてα-Klothoと共役してリン代謝を制御するホルモンとされている。申請者所属研究室の過去の研究において、造血幹細胞の動員を制御する主要な細胞種の一つとして骨細胞を同定していた。この際に、G-CSFやその下流シグナルである交感神経刺激によって、骨細胞におけるFGF23 mRNAが上昇することがわかっていた。この研究の継続として今回、野生型マウスにG-CSFを投与後非常に短時間(1時間)で骨細胞を多数内包する骨組織だけでなく、その骨組織に囲まれた内腔である骨髄の細胞においても、骨組織と同程度の強いFGF23 mRNA発現上昇が起こることを発見した。交感神経刺激によっても同様の反応が起こるかどうか検討するため、汎βアドレナリン受容体アゴニストであるisoproterenolを野生型マウスに投与したところ、やはり1時間で骨髄細胞のFGF23 mRNAが上昇することが確認された。

 骨髄内のどの細胞がFGF23を産生するのかを確かめるために、野生型マウスにG-CSFないしはisoproterenolを投与し、骨髄細胞から汎白血球マーカーであるCD45が陽性と陰性の分画をそれぞれソーティングしたところ、CD45陰性細胞でのみFGF23 mRNAの強い上昇が認められた。このCD45陰性分画の内訳は、殆どがCD45-Terll9+CD71+赤芽球であり、一部CD45—Terll9_CD71一のstroma細胞であった。すなわち、G-CSFとそれに引き続く交感神経シグナルに反応して骨髄内でFGF23 mRNAを急速に強く発現してくる主たる細胞分画は赤芽球であると考えられた。

 さらに、赤芽球からのFGF23の産生を蛋白レベルで確認するために、野生型マウスにG-CSFおよびisoproterenol投与後に骨髄から赤芽球をソーティングし、細胞を溶解して蛋白を抽出しELISA法でFGF23を測定した。この結果、G-CSF刺激と交感神経刺激により、mRNAだけでなく蛋白レベルでもFGF23が赤芽球内で産生されることが確認された。次に、赤芽球からのFGF23産生誘導シグナルを探るため、ヒト赤芽球細胞株HUDEP-2の培養にG-CSFやisoproterenolを様々な濃度で添加したが、培養上清中のFGF23蛋白の上昇は見られなかった。そこでこの培養を赤芽球の分化シグナルの一つである低酸素(5%O2)条件下で行うと、培養上清中にFGF23蛋白を測定できるようになり、その産生が確認された。実際、in vivoにおいて、G-CSFないしはisoproterenolを1回投与した後の短時間で、骨髄組織内の低酸素の誘導がピモニダゾールの取り込み実験により明らかとなった。これらの結果から、G-CSF投与後の骨髄低酸素刺激により、骨髄内の主に赤芽球からFGF23が産生されると結論づけた。

 G-CSF投与による造血幹前駆細胞動員の過程で、12時間おきの連続投与回数に依存して段階的にFGF23蛋白が骨髄細胞外液で上昇し、動員が起こり始める6回目にFGF23濃度がピークに達していた。この際、末梢血中のFGF23の蛋白濃度は変化しないにも関わらず、骨髄内細胞間隙では末梢血の約20,000倍の濃度に達していた。末梢血中のリン濃度はFGF23の濃度と同様に動員の最中変化しなかった。なお、FGF23は、intact FGF23(iFGF23)として産生された後に、一部は切断されC-terminal FGF23フラグメントとなる。iFGF23を特異的に測定するELISAキットと、iFGF23だけでなく切断後のC-terminal FGF23フラグメントも含めて測定できるELISAキットの2種類で同一のサンプルを測定することで、FGF23産生後の切断の度合いを調べたところ、赤芽球から放出されたiFGF23は、骨髄内ではほぼiFGF23のままで存在し、切断を受けたC-terminal FGF23フラグメントのみが骨髄から末梢血へ流出していくこともわかった。

 以上の結果より、骨髄内で赤芽球から産生されたFGF23には、ホルモンとしての腎臓でのリン代謝調節以外の、骨髄内において高濃度で初めて発揮される別の作用があることが考えられた。このin vivoでの作用をFGF23に関する遺伝子改変マウスを用いて検討した。FGF23欠損マウスをゲノム編集で作成し、G-CSF投与による末梢血への造血幹前駆細胞の動員実験を行ったところ、野生型マウスと比べて、動員効率が著しく低下していた。次に、造血細胞でのFGF23欠損が動員不全の原因であるのかどうかを、野生型マウスに放射線照射を行い、FGF23欠損マウスの骨髄を移植することで、骨髄を含めた造血細胞のみFGF23を産生できないキメラマウスを作製することで検討した。このキメラマウスにG-CSFを投与し動員実験を行ったところ、野生型骨髄を移植したキメラマウスと比較して著しく動員効率が低下していた。G-CSF投与による骨髄細胞外液中のFGF23濃度の上昇は、FGF23欠損骨髄キメラマウスでは有意に抑制されていた。FGF23欠損マウスは早期老化様形質を示し9週齢までに死亡してしまうため、これを骨髄移植のレシピエントとして造血環境側でのみFGF23を欠損するキメラマウスを安定的に作製することはできなかった。そこで、ゲノム編集でFGF23flox/floxマウスを作製し、DMP-1-creマウスとの交配により、骨細胞特異的FGF23欠損マウスを作製し、G-CSFでの動員実験を行なったところ、コントロールマウスと比較して骨髄細胞外液FGF23濃度の低下は見られず、動員の低下も起こらなかった。以上より、骨髄造血細胞(実質的に赤芽球)からのFGF23産生が、G-CSFによる動員に必須であるということが明らかとなった。

 続いて、高濃度FGF23の造血幹前駆細胞に対する直接作用をin vitroで検証した。Transwell(直径5μmの穴のあいた膜で上下層に仕切られた培養システム)の上層に野生型マウス骨髄単核球を入れ、これに含まれる造血前駆細胞(コロニー形成細胞CFU-Cs)のケモカインCXCL12を入れた卡層への遊走(chemotaxis)を定量した。造血前駆細胞であるCFU-CsはCXCL12の受容体CXCR4を発現し、非常に効率よくCXCL12に引き寄せられ下層に移動する。しかし、G-CSF投与時に見られる骨髄中の非常に高い濃度と同等のFGF23を上層に入れておくと、この遊走が有意に抑制され、更にa-Klothoを同時に加えるとこの抑制効果が顕著となった。また、このFGF23/a-KlothoによるCFU-CsのCXCL12誘導性遊走の抑制効果は、FGF受容体アンタゴニストを追加することで消失した。また、FGF23が造血幹前駆細胞上のCXCR4の発現やそこへのCXCL12蛋白の結合効率を抑制しないことをフローサイトメトリーで確認し、FGF23が細胞表面上でのCXCL12/CXCR4の反応に影響を与えているのではなく、CXCR4からの細胞内シグナルにFGF受容体を通して拮抗している可能性が考えられた。

 以上の実験結果から次の結論を得た。①FGF23は、骨細胞をはじめとした間葉系細胞だけでなく、骨髄中の赤芽球からも低酸素刺激で産生される。②赤芽球由来のFGF23がG-CSFによる造血幹前駆細胞の動員に必須である。③骨髄中のFGF23は、FGF受容体を介してCXCR4の細胞内シグナルを阻害し、造血幹前駆細胞を骨髄から動員させる。

 G-CSF投与時に骨髄間質細胞でのCXCL12に大きな変化を生じないにも関わらず動員が起こるのは、G-CSF投与により骨髄内で造血幹前駆細胞のCXCR4機能に何らかの抑制性変化が生じることが原因であろうと推測されたが、その分子実態が赤芽球由来FGF23であることが本研究で明らかとなった。血液内科臨床で動員不全が問題になりやすい、化学療法を繰り返し行なってきた例や多発性骨髄腫の患者では、骨髄赤芽球数が少ないことがFGF23の産生源低下としてその一因となっている可能性が考えられる。本研究成果をもとに、今後、臨床的には赤芽球やFGF23を標的とした造血幹細胞操作法の開発が、また基礎研究としては神経内分泌系と骨髄環境の間での分子レベルでの相互作用について理解の進展が期待される。

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