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大学・研究所にある論文を検索できる 「脂肪細胞におけるPDK1-FoxO1経路は5-lipoxygenase-leukotrieneB4軸を介して全身のインスリン感受性を制御する」の論文概要。リケラボ論文検索は、全国の大学リポジトリにある学位論文・教授論文を一括検索できる論文検索サービスです。

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脂肪細胞におけるPDK1-FoxO1経路は5-lipoxygenase-leukotrieneB4軸を介して全身のインスリン感受性を制御する

Hosokawa, Yusei 神戸大学

2020.09.25

概要

【背景・目的】
白色脂肪細胞においてインスリンはグルコース取り込み作用、脂肪合成・分解の制御に加え、前駆脂肪細胞から脂肪細胞への分化促進、脂肪細胞の成熟維持、アディポカインの産生・分泌など様々な機能を制御することで全身のエネルギー代謝を調節している。脂肪細胞におけるインスリンシグナルの障害は、全身のインスリン抵抗性や代謝異常の病態形成に重要な役割を担うと考えられているが、分子機序の詳細は不明である。

PDK1 (3’-Phosphoinositide-dependent kinase 1) は PI-3 キナーゼの下流で活性化しインスリンによる代謝作用の発現に中心的な役割を担う分子である。本研究では、脂肪細胞特異的 PDK1 欠損 (A-PDK1KO) マウスを作製し、脂肪細胞のインスリンシグナル障害が全身の代謝に与える影響と機序の解明を目指した。

【方法・結果】
PDK1-floxed マウスを、脂肪細胞特異的 Cre 発現マウスである Adipoq-Creマウスと交配することにより、A-PDK1KO マウスを作成した。本マウスは、対照マウス (PDK1-floxed マウス) と比して、体重および摂餌量が増加した。一方、脂肪量は対照マウスと比べて低下し、脂肪細胞径は有意に小さかった。また、A-PDK1KOマウスの脂肪組織においてインスリンによる脂肪合成の誘導障害、脂肪分解の抑制障害、糖取り込みの低下が認められた。さらに A-PDK1KO マウスは、血漿アディポネクチンおよびレプチン濃度の低下を示した。

通常食環境において、A-PDK1KO マウスは、対照マウスと比べ血漿中のインスリン・グルコース・中性脂肪・総コレステロール濃度の有意な増加を示した。 A-PDK1KO マウスの骨格筋および肝臓において、インスリン依存的な Akt のリン酸化が減弱しており、両組織においてインスリン抵抗性が生じていることが明らかとなった。また、A-PDK1KO マウスは脂肪肝を自然発症し、加齢に伴って、肝細胞の風船様変性、炎症細胞浸潤、線維化といった非アルコール性脂肪性肝炎 (NASH) に特徴的な組織変化が出現した。すなわち、脂肪細胞におけるインスリン作用不全は、全身のインスリン抵抗性、耐糖能異常、脂質異常症に加え NASH を惹起することが示された。

FoxO1 (Forkhead box protein O1) は、PDK1 下流に位置する転写因子であ りインスリンシグナルの活性化によりリン酸化され活性が抑制される。A-PDK1KO マウスの脂肪組織において、インスリン依存的な FoxO1 のリン酸化が消失していた ことから、A-PDK1KO マウスの脂肪組織における FoxO1 の恒常的活性化が示された。そこで我々は、脂肪細胞において PDK1 に加え FoxO1 を追加欠損する脂肪細胞特異 的 PDK1/FoxO1 ダブル欠損 (A-PDK1/FoxO1DKO) マウスを作製し、A-PDK1KO マウスの代謝異常の病態における FoxO1 活性の意義を検討した。

A-PDK1KO マウスにおいて生じたインスリン抵抗性と高血糖、NASH は A-PDK1/FoxO1DKO マウスにおいて顕著な改善を示した。一方、A-PDK1KO マウスにおける脂肪量減少や低アディポネクチン・低レプチン血症は改善しなかった。脂肪組織の慢性炎症が全身のインスリン抵抗性の基盤病態となることが報告されているが、A-PDK1KO マウスにおいて、脂肪組織へのマクロファージ浸潤や炎症性サイトカインの増加は認められなかった。

脂肪細胞の PDK1-FoxO1 経路による全身のインスリン感受性調節機構には脂肪量やアディポカイン、慢性炎症とは独立した因子が関与すると考えられた。我々は、質量分析センター篠原正和准教授との共同研究により、対照マウスと A-PDK1KOマウス、A-PDK1/FoxO1DKO マウスの血漿および白色脂肪組織を用いて、液体クロマトグラフィータンデム質量分析を用いたリピドーム解析を行った。その結果、 A-PDK1KO マウスの血漿および脂肪組織において増加し、A-PDK1/FoxO1DKO マウスにおいて正常化する唯一の脂質メディエーターとして LTB4 (leukotriene B4) を同定した。また、LTB4 濃度の変化と一致して、LTB4 産生酵素である 5-LO (5-lipoxygenase) の発現変化が認められた。

LTB4 はアラキドン酸から産生される脂質メディエーターであり、LTB4 受容体 (BLT1) に結合することで気管支喘息や動脈硬化症などの疾患の原因となることが示されているが、近年ではインスリン抵抗性に関与することが報告されている。 A-PDK1KO マウスの血漿中 LTB4 濃度は全身の BLT1 を活性化し得る濃度であり、 LTB4 が循環血漿を介して、肝臓・骨格筋などの遠隔臓器に作用することが想定された。

我々は、LTB4 産生の制御機構について、単離脂肪細胞および脂肪組織間質細胞を用いて解析した。A-PDK1KO マウスの単離脂肪細胞は対照細胞と比較して 5-LOの発現が増加するが、FoxO1 阻害薬を加えることでその発現は減少した。正常マウスの単離脂肪細胞あるいは脂肪組織間質細胞において、インスリン投与により LTB4 濃度は低下した。脂肪組織間質細胞において、血清除去に伴う FoxO1 活性の亢進によって 5-LO の遺伝子発現が増加し、FoxO1 阻害薬投与によって 5-LO の遺伝子発現は低下した。以上の結果から、脂肪細胞において、インスリンは PDK1-Foxo1 経路を介して 5-LO-LTB4 軸を制御していることが示された。クロマチン免疫沈降法において、FoxO1 は 5-LO プロモーター領域に集積したことから、FoxO1 は 5-LO を直接制御することが示された。

我々はLTB4 がA-PDK1KO マウスのインスリン抵抗性に関わるか検討するために 5-LO-LTB4 軸の遺伝学的あるいは薬理学的阻害実験を行った。全身性 BLT1 遺伝子欠損や、5-LO インヒビターあるいは BLT1 アンタゴニスト投与により A-PDK1KO マウスのインスリン抵抗性は有意な改善を示した。すなわち LTB4 が A-PDK1KO マウスの全身のインスリン抵抗性に関与することが明らかとなった。マウス初代培養肝細胞においてLTB4 はインスリン依存的な Akt のリン酸化を抑制したことから、LTB4 による全身のインスリン抵抗性の機序として、インスリンシグナルに対する直接的な阻害作用が示唆された。

最後に我々は、ヒトにおける LTB4 とインスリン抵抗性の関連について解析した。健診受診者において、血漿 LTB4 濃度は血清インスリン濃度あるいはインスリン抵抗性の指標である HOMA-IR と有意な正相関を示した。すなわち、ヒトにおいてもインスリン抵抗性の病態に LTB4 が関与することが明らかとなった。

【考察】
我々は、脂肪細胞のインスリン作用不全によって全身のインスリン抵抗性、耐糖能障害、NASH が生じることを示した。さらに、これらの代謝異常は脂肪細胞の FoxO1 活性の亢進により、脂肪量の制御と独立した機序によってもたらされることを明らかとした。
5-LO は免疫細胞で発現が多く、LTB4 は主に免疫細胞において産生される。一方、非免疫細胞は「transcellular biosynthesis」とよばれる機構によってのみ LTB4 を産生すると考えられてきた。すなわち、非免疫細胞は免疫細胞が産生した LTA4 (leukotriene A4) を細胞膜を介して受け取り、この LTA4 を変換することで LTB4 を産生する。今回、我々は脂肪細胞においてインスリンが細胞自律的に LTB4 産生を抑制することを見出したが、このような機序が他の非免疫細胞においても保存されているかどうかについて更なる検討が必要と考えられる。

A-PDK1KO マウスのインスリン抵抗性は、5-LO-LTB4 軸の阻害によって改善した。ヒトのインスリン抵抗性と血中 LTB4 濃度の正相関も明らかにしており、本経路の阻害が糖尿病の新たな治療標的となることが期待される。現時点で、LTB4 が全身のインスリン抵抗性を惹起する詳細な機序は不明であり、組織特異的 BLT1 欠損マウスなど新たな評価ツールを用いた解析が必要といえる。

A-PDK1KO マウスおよび A-PDK1/FoxO1KO マウスは白色脂肪細胞に加えて褐色脂肪細胞においても遺伝子改変が生じる。本研究では主に白色脂肪細胞について評価を行ったが、両マウスの表現型に褐色脂肪細胞の変化が寄与した可能性は否定できず、今後褐色脂肪細胞における PDK1-FoxO1 経路の意義についても研究する必要がある。

LTB4 が脂肪肝の病態に関与していることが報告されており、LTB4 が A-PDK1KO マウスのNASH の病態にも関与する可能性が考えられ今後の検討が必要である。いずれにせよ、PDK1 の脂肪細胞特異的欠損によって生じたNASH が、FoxO1追加欠損により改善したという結果は、脂肪細胞の PDK1-FoxO1 経路により制御される因子が NASH の病態に関与することを示す重要な知見である。

本研究において、PDK1-FoxO1 経路を介したインスリンシグナルが脂肪細胞における LTB4 産生を抑制的に制御し全身のインスリン感受性を調節することが示された。本研究で明らかとなった機序は、インスリン抵抗性および関連疾患の新たな治療法の開発に資する可能性がある。

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