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大学・研究所にある論文を検索できる 「骨格筋体積で評価したサルコペニアは術前化学放射線療法後直腸癌切除症例における予後予測因子である」の論文概要。リケラボ論文検索は、全国の大学リポジトリにある学位論文・教授論文を一括検索できる論文検索サービスです。

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骨格筋体積で評価したサルコペニアは術前化学放射線療法後直腸癌切除症例における予後予測因子である

堀江, 和正 神戸大学

2022.03.25

概要

【背景】
欧⽶諸国では,術前化学放射線療法(NACRT)後の直腸間膜全切除(TME)が局所進⾏直腸癌患者に対する標準治療戦略であり,無作為化試験の結果からも⽀持されている.これらの研究では,術後化学放射線療法または TME 単独に⽐べ,NACRT により局所制御または全⽣存が改善されたことが報告されている.しかし,NACRT の恩恵を受けるのは治療患者の半数に過ぎないことが知られている.NACRT に関連する予後予測因⼦としては腫瘍退縮グレード(TRG)が報告されていが,TRG は切除された⼿術標本の病理組織学的検査によって決定されるため,術前に評価することはできない.NACRT の副作⽤を考慮すると,術前に病理学的効果を予測することが望ましい.しかし,信頼できるバイオマーカーはまだ確⽴されていない.

サルコペニアは,⾻格筋量および筋⼒の進⾏性かつ全⾝的な低下と定義される.主に加齢によって引き起こされるが,栄養状態の悪化,炎症性疾患,内分泌疾患,悪性疾患などによっても引き起こされることがある. 近年,癌とサルコペニアの関係が注⽬されており,胃癌,乳癌,⼤腸癌など様々な癌において,サルコペニアが術後の予後不良と関連することが報告されている.しかし,NACRT を受けた直腸癌患者において,サルコペニアと予後不良との関連を報告した研究はほとんどない.

本研究では,NACRT 後に⼿術を受けた直腸癌患者の臨床転帰とサルコペニアの関連性を検討した.サルコペニアは CT 画像を⽤いて腸腰筋の総体積と第3腰椎レベルの断⾯積を計測し,この2つの指標をもとに評価した.

【対象と⽅法】
1. 患者選択
2005 年 11 ⽉から 2018 年 5 ⽉までに神⼾⼤学医学部附属病院で NACRT 後に治癒切除を受けた局所進⾏直腸癌患者を後⽅視的に検討した.腺癌であることが組織学的に確認され,腫瘍下縁が腹膜翻転部以下,かつ遠隔転移のない cT3/4 または cN+の以下の症例 60 例を抽出した.14 名の患者は術後または術前の腸腰筋 CT データのいずれかを⽋くため,除外した.したがって,46 ⼈の患者が解析対象となった.

2. 治療⽅針
対象の直腸癌患者に NACRT を施⾏した.NACRT の総放射線量は 45Gy または 50.4Gy で,化学療法は経⼝ 5-フルオロウラシル(5-FU)ベースで⾏った.NACRT 後 4-6 週⽬にも再度画像診断を⾏った. NACRT 後に⼤動脈傍リンパ節や遠隔臓器への転移が認められた症例は,根治⼿術の適応から除外した.⼿術は NACRT 終了後 6-8 週⽬に実施した.⼿術は開腹⼿術または腹腔鏡⼿術で,全例に TME が⾏われた.病理結果にかかわらず,全例に術後補助化学療法を⾏った.補助化学療法に使⽤されたレジメンは,静注 5-FU+LV,経⼝ UFT+l-LV,カペシタビン+オキサリプラチンであった.組織学的奏効度は⽇本⼤腸癌学会ガイドラインによる Grade 1a,1b を反応良好,Grade 2,3 を反応不良に分類した.

3. 腸腰筋の画像解析
サルコペニアは,第3腰椎(L3) における腸腰筋断⾯積(PA: Psoas muscle Area)および両側腸腰筋体積(PV: Psoas muscle Volume)を測定することにより評価した.すべての画像は,Ziostation(Ziosoft社,東京)を使⽤して解析し,ワークステーションにインストールされた⾃動解析プログラムによって腸腰筋の⾯積と体積の測定を⾏った.PA は L3 の⽔平断 CT 画像で測定した.PV は筋起始部から⼩転⼦レベルまでの画像データから算出した.セグメンテーションのエラー時には⼿動で腸腰筋の輪郭を修正した.測定された⾯積と体積は,患者の⾝⻑の 2 乗を⽤いて正規化した.

4. サルコペニアの定義
サルコペニアは,PA または PV がそれぞれの性別における中央値より低いことと定義した.サルコペニアの男性患者(n=13)と⼥性患者(n =9)を合わせて,サルコペニア群(n=22)とした.残りの患者(n =24)は⾮サルコペニア群に分類された.具体的には,NACRT 後のデータの場合,PV が男性の中央値 140.93cm3/m2 より低い男性患者と,⼥性の中央値 105.8cm3/m2 より低い⼥性患者がサルコペニア群に割り当てられた.PA と PV は NACRT の前後に評価した.サルコペニア群と⾮サルコペニア群の腫瘍特性および⼿術成績の⽐較の際には,サルコペニアは NACRT 後の PV をもとに判定した.

【結果】
1. サルコペニア群と⾮サルコペニア群の患者および腫瘍の特徴
BMI はサルコペニア群で有意に低かった(P=0.011).腫瘍の深達度と進⾏度については,サルコペニア群でcT4 が多かった(12.5%,50.0%; P=0.012)が,cStage と ypStage の割合は両群間で同等であった(それぞれP=0.171,P=0.577).病理学的奏効の頻度も両群間で有意差はなかった(P=0.767).

2. サルコペニア群と⾮サルコペニア群の患者における⼿術関連項⽬の⽐較
⼿術⽅法,⼿術アプローチ,側⽅リンパ節郭清の実施有無,術中出⾎量に群間有意差はなかった.術後合併症(Claviene-Dindo 分類 grade 2)の割合は群間で同程度であった(P=0.393).また,各合併症の発⽣頻度にも有意差はなかった.術後在院⽇数にも群間で有意差はなかった(P=0.596).

3. サルコペニア群と⾮サルコペニア群の患者における無再発⽣存期間(RFS)と全⽣存期間(OS)の⽐較
RFS に関してカプランマイヤー曲線を作成した.曲線は NACRT の前後いずれにおいても,また PA, PV いずれでの評価によっても,⾮サルコペニア群よりサルコペニア群が下回っていたが,PA による 評価の場合は統計的な有意差ではなかった(NACRT 前のデータで P=0.35,NACRT 後のデータでは P=0.43).サルコペニアをPV で評価した場合は統計的に有意であった(NACRT 前のデータでP=0.031, NACRT 後のデータで P=0.0049).NACRT の前後で⽐較すると,NACRT 後のデータを⽤いた場合の⽅が両群の差が顕著であった.NACRT 前後の変化率の⼤きさで 2 群に分けた検討も⾏ったが,この⽅法では両群に差は認めなかった.全⽣存期間に対する解析も⾏った.PA によるサルコペニアの評価では両群に有意差を認めなかったが,PV による評価では統計的に有意にサルコペニア群で OS が悪化した.

4. RFS に対する予後予測因⼦の同定
まず単変量解析を⾏い予後予測因⼦の候補項⽬を同定した.P 値が 0.1 を下回った項⽬は病理学的奏功,pT,pN,NACRT 後の腸腰筋体積によるサルコペニア判定であった.その項⽬に対して多変量解析を⾏った結果,NACRT 後腸腰筋体積によるサルコペニア判定のみが有意な予後予測因⼦として同定された(HR 4.00 (1.27-12.66),P=0.018).

【考察】
サルコペニアは,⼤腸癌を含むいくつかの癌において予後不良因⼦であることが報告されている.⼤腸癌切除術を受けたサルコペニア患者では,⼊院期間が⻑く,感染リスクが⾼いという報告や,筋⾁量の減少がステージ III ⼤腸癌患者における合併症リスク増加と予後不良に関連するという報告などがある.しかし,NACRT を受けた直腸癌患者におけるサルコペニアと転帰の関連に注⽬した先⾏研究はわずかである.またこれらの研究は,サルコペニアの評価に体積ではなく⾻格筋の断⾯積を⽤いている.我々の知る限り,本研究は NACRT を受けた直腸癌患者における予後不良因⼦としての腸腰筋体積の妥当性を証明した最初の研究である.

L3 レベルの全⾻格筋または両側の腸腰筋の断⾯積は,⾻格筋量の減少を評価するためにしばしば⽤いられる.しかし,腸腰筋の体積を⽤いた研究はほとんどない.腸腰筋の体積を⽤いたサルコペニアの評価は,より広範囲の腸腰筋を測定し,統計的誤差を減少させるため,断⾯積よりも信頼性が⾼い可能性がある.さらに,腸腰筋の体積は解析プログラムにより迅速かつ⾃動的に算出できるため,測定が容易で客観的である.本研究では,腸腰筋の⾯積と体積の両⽅を⽤いてサルコペニアを評価し,両者を⽐較してどちらが予後の指標となるかを判断した.PA と PV の間には強い相関関係があったが,本研究により PV は PA よりも NACRT による直腸癌の再発の予測因⼦として優れており,信頼性が⾼いことが明らかになった.また,NACRT 前後の体積を⽤いてサルコペニアを評価し,NACRT 後の体積が RFS の最も信頼できる予測因⼦であることを実証した.したがって,NACRT 中に⾻格筋量や栄養状態を維持する治療介⼊を⾏うことで,臨床現場において術後の腫瘍学的転帰を改善する可能性がある.

CRT に対する組織学的効果が良好であることは,局所制御の改善や⽣存率の向上につながることがよく知られている.我々の研究では,単変量解析では組織学的奏効は RFS と関連していたが,多変量解析ではその差は統計的有意差に⾄らなかった.その代わり,NACRT 後の PV は単変量解析でも多変量解析でも RFSの独⽴した予後因⼦であることが判明した.注⽬すべきは,組織学的奏効と NACRT 後の PV との間に相関がなかったことである.したがって,NACRT 後の PV は組織学的効果よりも信頼できる予後因⼦である可能性がある.

【結論】
腸腰筋体積によるサルコペニアの評価は,NACRT を受けた直腸癌患者の RFS の予測因⼦として,より客観的で正確であると⾔える.術後の腸腰筋体積は術前の体積よりも正確に予後を表す可能性がある.腸腰筋体積を⽤いて再発リスクのある患者を術前に認識できることは臨床上有⽤であり,また術前に栄養介⼊と運動療法を⾏うことで,そのような患者の予後を改善できるかもしれない.

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