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大学・研究所にある論文を検索できる 「肺腺がんにおける新規予後マーカーとしてのANXA10の発現について」の論文概要。リケラボ論文検索は、全国の大学リポジトリにある学位論文・教授論文を一括検索できる論文検索サービスです。

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肺腺がんにおける新規予後マーカーとしてのANXA10の発現について

湯村, 真沙子 神戸大学

2022.03.25

概要

はじめに
臨床病期I-II 期の非小細胞肺がん(non-small-cell lung cancer(NSCLC))の患者はリンパ節郭清を含む肺葉切除術か片肺全摘除術を行う。Lung Adjuvant Cisplatin Evaluation (LACE) 共同研究グループのデータでは術後のプラチナベースの化学療法の追加効果は 5 年生存率で 5.4%とされ、IA、IB 期の肺腺がん患者の 5 年生存率がそれぞれ 81-87%、72%と不十分であることから、 NSCLC 患者の予後の改善には、アジュバント化学療法が必要な患者を正しく選択することが重要である。

Annexin A は 12 あるアネキシンファミリーに含まれ、Annexin A10(ANXA10)はカルシウム依存性リン脂質結合タンパクで、細胞生理学に重要な役割をもつ。ANXA10 は胃や腎臓、膀胱、十二指腸に発現しているが、正常肺での発現は少ない。ANXA10 の高発現が小腸がんや甲状腺乳頭がん、漿液性卵巣上皮がん、大腸がんの予後不良因子であるとする報告がある一方、ANXA10 の低発現は胃がんや肝細胞がんの予後不良因子であるとする報告もある。しかし、肺腺がんにおける ANXA10 の発現の役割については明らかになっていない。今回、我々は 74 人の肺腺がん患者における肺組織の ANXA10 の発現を確認し、ANXA10 の役割について検討した。

方法
患者:神戸大学医学部附属病院で 2014 年 1 月から 12 月に根治切除を行った 78 人の肺腺がん患者のうち、断端陽性患者を除外した 74 人について解析を行った。データ解析は倫理委員会で承認され(承認番号 160117)、全患者から同意を得た。

スパイラルアレイと病理組織:すべての外科切除検体は 10%ホルマリンで固定され、パラフィン包埋した。パソロジー研究所(富山)においてパラフィンブロックからスパイラルアレイを作成 し、HE 染色を行った。すべての組織切片は病理医が確認し、ANXA10 の発現レベルも 2 人の病理医が評価した。病理診断については 2015 年の WHO 分類に、病理病期はUICC の TNM 分類に基づき決定した。

細胞培養:肺腺がん細胞である A549 を 10% FBS と 1%ペニシリン-ストレプトマイシン入りの RPMI-1640 培地で 5%CO2、37℃の環境で培養した。

ANXA10 のノックダウン:細胞は 6 ウェルのプレートで培養し(細胞数 2×105 個/ウェル)、siRNAをプロトコール通りにリポフェクタミンなどの試薬と混ぜて投与した。細胞は新鮮培地に交換後 48 時間で使用した。

リアルタイムPCR:核酸を A549 から抽出し、cDNA 合成を行った。リアルタイム PCR は Thermal CyclerDice® Real Time System II で行い、RNA レベルはGAPDH をコントロールとした ∆∆Ct 法で測定した。

創傷治癒アッセイ:ANXA10 の遊走能に対する効果ついて評価するため、A549 でコンフルエントになったウェルを 200µl のピペットチップでけずり、0、6、12 時間後にその幅を測定した。統計解析:すべての統計解析は EZR version 1.37 と R を用い、2 群間の患者背景の違いは Pearson のχ2 検定や Fishier の正確確率検定を用いて解析した。一変量解析のため、累積生存は Kaplan–Meier 法で推定され、2 群間の有意差はログランク検定で行い、多変量回帰分析は Cox 比例ハザードモデルにより行った。すべての p 値は両側検定を行い、p 値は 0.05 未満を有意とした。

結果
合計 74 人の肺腺がん患者で ANXA10 の発現を免疫染色で調べた。ANXA10 が、がん細胞の核で高発現していたものが 28 人(38%)であった。高発現群の年齢中央値は 71.5 歳(55-83 歳)、男性が 18 人、女性が 10 人で、21 人は喫煙歴があった。ANXA10 の発現と臨床病理学的因子の関係に関して、2 群間の患者背景に差は認めなかった。

全生存期間の解析の結果、ANXA10 高発現群では予後不良と相関していた(p=0.00705)。Human Protein Atlas でも 500 人の肺腺がん患者において、ANXA10 の高発現は予後不良と相関していた (p=0.00011)。

また、単変量解析の結果、pT stage <2 (p=0.00000113)、pN stage <1 (p=0.00000537)、胸膜浸潤 (p=0.000000855)、血管浸潤(p=0.00679)とリンパ管浸潤(p=0.0153)を認めるものは、全生存期間の短縮と相関していた。多変量Cox ハザード分析の結果、ANXA10 は肺腺がん患者の独立した予後不良因子であった。

ANXA10 の働きを in vitro で調べるため、ANXA10 のノックダウンを行った A549 細胞で創傷治癒アッセイを行った。まず、ANXA10 の siRNA のノックダウン効率をリアルタイム PCR で確認し、次に、遊走能を 0、6、12 時間で測定した。細胞遊走能は ANXA10 が抑制されたがん細胞で抑制された。この結果は、ANXA10 が細胞遊走に影響していることを示唆していると考えられた。

考察
本研究は、AMXA10 の高発現が肺腺がん患者の全生存期間の低下と関連していることを初めて報告し、さらに、多変量解析により、ANXA10 が肺腺がんの独立した予後不良因子であることも示した。

これまでの研究では、ANXA10 が食道がんの Atk とErk1/2 のリン酸化を介して細胞増殖を促進することが示されており、本研究では、ANXA10 が細胞遊走に関与していることを示した。別の研究では、ANXA10 は、PLA2G4A/プロスタグランジンE2(PGE2)/ signal transducer and activator of transcription 3(STAT3)経路を介して上皮間葉転換(EMT)プロセスを促進することで、肝門部周囲胆管がんの進行、転移を促進することが報告されている。また最近の研究では、ANXA10 のノックアウトが細胞遊走を抑制し、ANXA10 がE3 リガーゼTRIM41-directed protein kinase D1(PKD1)の分解を抑制することで黒色腫の転移活性を促進することも明らかとしている。しかし、重要なシグナル伝達物質であるPKD1 は、組織や細胞の種類によって生物学的特性が異なり、HeLa 細胞 や乳がん細胞ではPKD1 は phosphatase slingshot 1L や p21 活性化キナーゼ 4(PAK4)のリン酸化を介してアクチンリモデリングを抑制し、細胞遊走を阻害することが報告されている。これら PKD の作用の違いは、がんにおける ANXA10 の作用の違いを裏付ける可能性があると考えた。

本研究より、ANXA10 はがん細胞の遊走に役割を果たしており、ANXA10 の発現は肺腺がんの新しい予後不良因子となりうると考えられた。

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