Detection of ctDNA with Personalized Molecular Barcode NGS and Its Clinical Significance in Patients with Early Breast Cancer
概要
〔目的(Purpose)〕
癌患者血中の循環腫瘍DNA(circulating tumor DNA: ctDNA)は微量のため、検出には高い感度が必要である。さらに、乳癌は多様な遺伝子変異を有するため、ctDNA検出には任意の変異に対応する技術が求められる。そこで我々は、設計自由度の高い標的次世代シーケンス解析法(next generation sequencing; NGS)を分子バーコード(molecular barcode; MB)で高感度化したΜB-NGS法を開発し、本法による症例特異的な変異ctDNAの検出を行い、乳癌患者の診断や予後予測等におけるctDNAの臨床有用性を検討した。
〔方法ならびに成績(Methods/Results)〕
2007年から2012年に大阪大学医学部附属病院で手術を施行された、術前治療歴を有しないStage1/2の原発性乳癌100症例を対象とした。まず、乳癌原発巣の手術標本から抽出したDNA 120 ngを用いて、乳癌で高頻度に変異が報告されている13遺伝子を対象に全エクソンシークエンスを行った。各症例の白血球DNAをreferenceとして症例固有の塩基多型を除外した。その結果、100例中62例に、57種類、95個の変異が確認され、それらは35種類のsingle nucleotide variantと22種類のinsertion/deletionから構成されていた。これらすべての変異を網羅するように41種類のMB付きプライマーセットを設計した。MBにはランダム15塩基を用い、PCR法で増幅したライブラリーをMiSeqもしくはHiSeq (Illumina)で解析した。健常者血漿DNA(3 ng)を用いて背景エラーを検証し、すべての解析対象部位において0.076 %以下であることが確認されたため、MB-NGSによるctDNA検出限界を0.1%とした。次に、原発巣に変異を同定した62症例の手術前血漿DNAに対して、原発巣変異を標的としたMB-NGSによるctDNA検索を行った。投入DNASは中央値4. 9 ng (range - 2. 1-13. 2 ng)であった。その結果、62例中10例(16.1%) でctDNAが検出され、血漿中の変異アレル頻度は0.10〜2.51%であった。ctDNA陽性10例の白血球DNAも同様にMB-NGSで解析され、clonal hematopoiesisが存在しないことが確認された。ctDNA陽性は、大きな腫瘍径(P=0. 004)、リンパ節転移腸性(P=0.009)、高いStage (P <0.001)、高い組織学的グレード(P<0.001)、エストロゲンレセプター陰性(P=0. 018).ブロゲステロンレセプター陰性(P=0. 017). HER2陽性(P=0. 046)と有意な関連を認めた。また、ctDNAは乳癌血清腫瘍マーカー(CEA/CA15-3)より陽性率が高く (16% vs 9%, P=0. 267) 、特にStage2ではその差が顕著であった(39 % vs 4 %, P = 0.013)。さらに,ctDNA陽性症例は陰性症例に比べ、高率に遠隔再発を認め(40.0 % (4/10) vs1.2% (3/52), P=0. 004)、遠隔無再発生存期間が短く (log-rank P< 0.001)、術前血漿中のctDNAは有意な予後不良因子であると考えられた。
〔総括(Conclusion)〕
症例特異的MB-NGSにより、乳癌原発巣に生じる多彩な変異を対象として高感度なctDNA検出が可能であった。また、本法で検出されたctDNAは、乳癌の診断や予後予測に有用な情報となる可能性が示唆された。原発巣の解析対象遺伝子を拡大して変異の同定率を上げることで、より多くの症例で変異ctDNAを固有の診断マーカーとして活用することが可能と考えられる。