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大学・研究所にある論文を検索できる 「全自動血液凝固測定装置CS-2400を用いた、実臨床での抗血小板療法の効果判定」の論文概要。リケラボ論文検索は、全国の大学リポジトリにある学位論文・教授論文を一括検索できる論文検索サービスです。

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全自動血液凝固測定装置CS-2400を用いた、実臨床での抗血小板療法の効果判定

武田, 悦寛 東京大学 DOI:10.15083/0002002408

2021.10.13

概要

(序文)
 心筋梗塞における冠動脈内の血栓形成には、血管内皮機能の障害とそれに引き続く血小板の活性化が大きく関わっている。このため、虚血性心疾患の治療では、血栓症予防のために、アスピリンによる抗血小板治療が推奨されている。また、冠動脈が高度に狭窄した場合、冠血流を保つための治療の一つとして、経皮的冠動脈形成術(PCI)がある。薬剤溶出性ステントは、遠隔期のステント血栓症を予防するために、アスピリン単剤療法(SAPT=Single Anti-Platelet Therapy)に加えて、別の血小板抑制機序をもつP2Y12受容体阻害薬(チエノピリジン系)を併用するという、抗血小板薬二剤併用療法(DAPT=Dual Anti-Platelet Therapy)が推奨されている。しかしながら、アスピリンとクロピドグレル(第2世代チエノピリジン)のDAPT下でも、残存血小板機能が高い症例では、ステント血栓症の頻度が高いことが報告されている。プラスグレル(第3世代チエノピリジン)は、クロピドグレルの欠点を改善すべく我が国で開発されたものだが、逆に出血の副作用が多くなるという欠点がある。このように抗血小板療法は、病的血栓の形成を予防する一方で、生理的な止血機能を阻害する為に不可逆的に出血性合併症が惹起され、“副作用”が必発するという矛盾を内包している。
 この矛盾を解決すべく、抗血小板薬の薬効評価の必要性が提唱された。抗血小板薬の量を調節することで治療成績向上を⽬指す「個別化医療」がクローズアップされるようになり、臨床現場における⾎⼩板機能検査に基づき、介⼊を⾏った大規模臨床研究(GRAVITAS trial、TRIGGER-PCI、ARCTIC trialなど)が行われた。これらの研究は血小板凝集能の簡易モニタリングであるVerifyNow®(米国Accumetrics社)システムを用いたものである。そこでは、残存血小板機能が高い場合にP2Y12受容体阻害薬を強化する血小板機能モニター群と、通常治療群とで予後を比較した。その結果、群間で心血管疾患による死亡、心筋梗塞発症率、ステント血栓症や出血の合併症に有意差はなく、VerifyNow®を用いた血小板機能モニタリングによる抗血小板薬調整の有効性は示されなかった。しかしながら、VerifyNow®は、現在のゴールドスタンダード法である透過光法の血小板凝集能と高い相関性を有するものの、あくまでポイント・オブ・ケアの簡易モニタリング法である。GRAVITAS Studyなどの臨床研究は、本格的な血小板凝集能検査用の機器で検証されたものではない。
 現在、抗血小板療法のモニタリングの分野では、ソフトウェアとハードウェアの両面で開発が進んでおり、モニタリング法の標準化の流れに向かっているが、最近、凝固スクリーニング検査機器として多くの病院で汎用されているシスメックス株式会社が全自動血液凝固測定装置CS-2400を開発した。これにより従来の労働集約性であった透過光法の手技が、既存の測定機器と比較してもより簡便となった。CS-2400の同時再現性や、既存血小板凝集能測定器との良好な相関性は既に複数報告されている。またCS-2400と透過光法以外の測定原理による血小板凝集能についても良好な相関性は確認されている。この全自動血液凝固測定装置CS-2400を用いた血小板機能モニタリングによって、薬剤溶出性ステント留置後の抗血小板薬を調整することで、心血管イベントの抑制や出血の副作用を軽減できる可能性があると考えた。
 そこで今回私は、CS-2400の実臨床における血小板機能モニターの有効性を検討する第一段階として、健常人を対象とした血小板凝集能の検者間・検者内誤差の検討、および、虚血性心疾患患者を対象とした抗血小板薬投与による血小板凝集能低下を検出できるかの検討を行った。

(目的)
本研究の目的は、(1)健常ボランティアを対象としたCS-2400による血小板凝集能指標の検者間・検者内誤差の検討、(2)アスピリン内服中の労作性狭心症患者が、チエノピリジン系抗血小板薬を追加内服したことによる血小板凝集能の低下効果を、CS-2400による血小板凝集能指標によって検出できるかを検討することにある。

(方法-1:研究プロトコール)
(1) 健常ボランティアを対象としたCS-2400による血小板凝集能指標の検者間・検者内誤差の検討2018年3月から4月までに主に東京大学医学部附属病院検査部の掲示板にある募集を通してリクルートした健常人ボランティアを対象とした。本研究は東京大学倫理委員会によって事前に承認された(審査番号1584-(5))。各ボランティアから1回ずつ採血を行い、2名の検者がCS-2400を用いて血小板凝集能を測定し、検者間誤差を検定した。また、同一検体を用いて、各血小板惹起物質の各濃度における血小板凝集能を、それぞれ連続10回測定し、検者内誤差を検定した。
(2) アスピリン内服中の労作性狭心症患者が、チエノピリジン系抗血小板薬を追加内服したことによる血小板凝集能の低下効果を、CS-2400による血小板凝集能指標によって検出できるかの検討
2016年7月から2017年3月までに当院で診断目的に冠動脈造影検査(CAG)を施行された安定狭心症の患者を対象とした。本研究は東京大学倫理委員会によって事前に承認された(審査番号11122-(2))。CAGの結果により、①経皮的冠動脈形成術の適応となり、CAG翌日からチエノピリジン系抗血小板薬が追加処方(抗血小板二剤併用群:SAPT-DAPT群とする)された群、②薬物治療または外科的治療(冠動脈バイパス手術)の適応となり、アスピリンのみ継続処方された群(アスピリン単剤群:SAPT-SAPT群とする)、の2群に分けた。今回の研究では、この、SAPT-SAPT群とSAPT-DAPT群を解析対象とした。なお、①SAPT-DAPT群では、追加処方されたチエノピリジン系抗血小板薬は、クロピドグレル(第2世代チエノピリジン系抗血小板薬)またはプラスグレル(第3世代チエノピリジン系抗血小板薬)のどちらかである。
各症例で、①CAG前(Baseline)と②CAG後1カ月から1年の間(Follow-up)の2回のタイミングで採血を行い、CS-2400を用いて血小板凝集能を測定した。SAPT-DAPT群とSAPT-SAPT群との間で血小板凝集能を比較することで、バイアスピリン内服中の患者において、チエノピリジン系抗血小板薬投与による血小板凝集能の低下を、CS-2400により検出できるかを検討した。さらに、SAPT-DAPT群において、クロピドグレルとプラスグレルとの間で薬効の差を検出できるか検討した。

(方法-2:血小板凝集能測定法と評価項目)
CS-2400を用い、血小板惹起物質添加による血小板凝集率を測定した(透過光法)。本研究では、血小板惹起物質として、アデノシン5'-二リン酸(adenosine5’-diphosphate:ADP)、Collagenを用いた。試薬濃度は、ADPは10μM、3μM、2μM、1μM、Collageは5μg/mL、2μg/mL、1μg/mL、0.25μg/mLとした。血小板凝集能のパラメータのうち、「透過光血小板凝集検査法の標準化:国際血栓止血学会血小板機能標準化部会からの提言」(2013年)を参照し、最大凝集率を用いて定義した①解離率、②抑制率、を評価した。また、③PATI(=platelet aggregatory threshold index:凝集閾値)も評価した。
統計解析はすべて両側検定とし、P値0.05未満を有意差ありとみなした。統計解析ソフトはJMPPro14を用いた。

(結果)
(1) 健常ボランティアを対象としたCS-2400による血小板凝集能指標の検者間・検者内誤差の検討
①検者間誤差の検討:級内相関係数ICC(Case2検者間信頼性)は血小板惹起物質の種類と濃度により、0.358(Fair)~0.862(Almost perfect)とばらつきがみられた。②検者内誤差の検討:変動係数は10%以下であった。
(2) アスピリン内服中の労作性狭心症患者が、チエノピリジン系抗血小板薬を追加内服したことによる血小板凝集能の低下効果を、CS-2400による血小板凝集能指標によって検出できるかの検討
①SAPT-SAPT群とSAPT-DAPT群との比較:ADPPATI5分値、CollagenPATI5分値、ADP全濃度(10, 3, 2および1µM)、Collagen各濃度(5, 2および1µg/ml)の抑制率は、SAPT-SAPT群と比較してSAPT-DAPT群で有意に上昇した。
②クロピドグレル群とプラスグレル群との比較:CollagenPATI5分値は、クロピドグレル群ではBaseline時とFollow-up時に有意差は認めないが、プラスグレル群ではFollow-up時に有意に上昇した。ADP全濃度(10, 3, 2および1µM)、Collagen各濃度(2, 1および0.25µg/ml)の抑制率は、クロピドグレル群と比較して、プラスグレル群で有意に上昇した。

(考察)
本研究は、凝固スクリーニング検査機器として多くの病院で汎⽤されているシスメックス株式会社の全⾃動⾎液凝固測定装置CS-2400を⽤いて虚⾎性⼼疾患の実臨床における抗⾎⼩板療法の効果判定を⾏った研究であり、私が調べた中では、最も症例数が多い研究である。まずCS-2400の信頼性と妥当性に関して、検者間誤差の検証ではばらつきが⽣じたが、⾎⼩板そのものが⽰す特異的な⾎⼩板凝集反応パターンの経時的変化の影響が考えられた。検者内誤差は良好な相関性を確認した。本研究の結果、CS-2400により、バイアスピリンにチエノピリジン系抗⾎⼩板薬を上乗せ投与することによる⾎⼩板凝集能の低下を検出できた。また、クロピドグレルとプラスグレルの薬効の差を検出できた。

(今後の⾒通しについて)
今回の対象患者(Baseline時)は、アスピリン単剤内服中の安定狭心症である。低リスク患者コホートで、かつ、短期間フォローである。長期的なフォローアップでは、臨床アウトカムのみならず、患者側・デバイス側・術者側要素などのPCIに関連する因子も含めた多変量解析を行う。また、⾎漿および⾎清残検体は、1回⽬(Baseline)と2回⽬(Follow-up)の検体確保時に、患者の同意を得た上で別個凍結保存してある。将来、⾎⼩板機能に関わると思われる⽣化学的マーカーがあれば、改めて倫理申請の上、追加で測定する。

(結論)
今回の臨床研究の結論は、全自動血液凝固測定装置であるCS-2400が臨床現場において、血小板機能抑制のモニタリングに有用である、と評価できる。チエノピリジン系P2Y12受容体阻害薬に関しては、第2世代のクロピドグレルと第3世代のプラスグレルについて、薬効の差を検出できる可能性までも合わせて示した。血小板機能モニタリングの標準化に向けて一歩前進することが期待される。

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