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大学・研究所にある論文を検索できる 「白金サブナノクラスターによる水素発生触媒反応の理論的研究」の論文概要。リケラボ論文検索は、全国の大学リポジトリにある学位論文・教授論文を一括検索できる論文検索サービスです。

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白金サブナノクラスターによる水素発生触媒反応の理論的研究

久家, 恵大 KUGE, Keita クゲ, ケイタ 九州大学

2021.03.24

概要

白金単体は、水素発生(2H++2e-H2)、水素酸化(H22H++2e-)、及び酸素還元(O2+4H++4e-2H2O) に対して最良の触媒であり、その化学は電気化学分野で大きく発展したものの、依然多くの謎を残す。例えば、水素原子が吸脱着する際の表面構造の変形等に関する知見は依然不足しており、それに関する活発な議論を学術論文上で見出すことは難しい。本博士論文では、白金サブナノクラスター(Ptn; n=1~5)の電子状態、構造、反応性に関する総合化学の体系化を目指し、研究を展開した。それにより、電極表面上の局所領域で起こる金属―金属間距離の柔軟応答挙動と混合原子価状態の発現に関する知見が得られると同時に、電子移動やプロトン移動を個別に取り扱い、かつ、反応のギブス自由エネルギー変化を記述することが可能となる。従来の金属表面に対する計算化学と異なり、構造規制を完全に取り去った分子性構造体として反応機構を解き明かすことが可能となる。それゆえ本博士論文は、電極反応の化学に関する体系を大きく変革・転換させる潜在能力のある挑戦的な研究であると期待して研究を展開した。

 金属 M を電極とする水素発生の素過程には Volmer (M+H++e-M-H*)、Heyrovsky (M-H*+H++e-M+H2)、Tafel (2M-H*2M+H2)があり 、白金では主として Tafel 律速の Tafel-Volmer機構で進行する。その際、可逆水素電極(RHE)より正電位側(0.05-0.50 V vs. RHE)に水素吸着を伴う電流応答を示し、HUPD (underpotential deposited H)の吸着が起こる。その際、Pt3 を架橋する3-HUPDが 550,1200 cm-1 に、Pt2 を架橋する2-HUPD が 900,1400,1600 cm-1 に IR 吸収を示すと報告されるが、依然不明瞭な点を残す。水素発生時(-0.05~0.05 V)には、2090 cm-1 に IR ピークを示す HUPD とは異なる HOPD (overpotential deposited H)を生じるとされる。その際、電極表面は結晶構造を大きく変化させると推論されてきた歴史的背景がある。本博士論文では、水素発生触媒能を有する白金(II)錯体がプロトン共役電子移動(PCET)によりヒドリド中間体 Pt(III)(H)を与え、上記白金単体触媒で観測される(Pt-HOPD)=2090 cm-1 と同様の Pt-H 伸縮振動ピークを与えることにヒントを得て研究を展開した。

 本博士論文では、密度汎関数法に基づく電子状態計算を用いて、単核から五核の白金サブナノクラスターを例にとり、それが触媒となって電極上で進行し得るプロトン移動、電子移動、PCET を逐次的に検証し、起こり得る全ての反応経路を網羅的に計算し、突き止め可能な反応経路の決定並びに高速触媒反応経路の予測を試みた。

 Pt(0)は[Xe](4f)14(5d)10(6s)0(6p)0 の状態を有し、6s,6p に電子を収容し、何れかの d 軌道電子対にプロトンが付加する。Ptn-H* は Pt(0)n-1Pt(I)(H-)または Pt(I)Pt(0)n-1(H)と表現できる。もし Pt(I)が n 個のPt 上に非極局在化するならばPt(1/n+)n(H)と書ける。図 1 は博士論文の研究成果からの抜粋である。白金単体は、水素発生(2H++2e-H2)、水素酸化(H22H++2e-)、及び酸素還元(O2+4H++4e-2H2O) に対して最良の触媒であり、その化学は電気化学分野で大きく発展したものの、依然多くの謎を残す。例えば、水素原子が吸脱着する際の表面構造の変形等に関する知見は依然不足しており、それに関する活発な議論を学術論文上で見出すことは難しい。本博士論文では、白金サブナノクラスター(Ptn; n=1~5)の電子状態、構造、反応性に関する総合化学の体系化を目指し、研究を展開した。それにより、電極表面上の局所領域で起こる金属―金属間距離の柔軟応答挙動と混合原子価状態の発現に関する知見が得られると同時に、電子移動やプロトン移動を個別に取り扱い、かつ、反応のギブス自由エネルギー変化を記述することが可能となる。従来の金属表面に対する計算化学と異なり、構造規制を完全に取り去った分子性構造体として反応機構を解き明かすことが可能となる。それゆえ本博士論文は、電極反応の化学に関する体系を大きく変革・転換させる潜在能力のある挑戦的な研究であると期待して研究を展開した。金属 M を電極とする水素発生の素過程には Volmer (M+H++e-M-H*)、Heyrovsky (M-H*+H++e-M+H2)、Tafel (2M-H*2M+H2)があり 、白金では主として Tafel 律速の Tafel-Volmer機構で進行する。その際、可逆水素電極(RHE)より正電位側(0.05-0.50 V vs. RHE)に水素吸着を伴う電流応答を示し、HUPD (underpotential deposited H)の吸着が起こる。その際、Pt3 を架橋する3-HUPDが 550,1200 cm-1 に、Pt2 を架橋する2-HUPD が 900,1400,1600 cm-1 に IR 吸収を示すと報告されるが、依然不明瞭な点を残す。水素発生時(-0.05~0.05 V)には、2090 cm-1 に IR ピークを示す HUPD とは異なる HOPD (overpotential deposited H)を生じるとされる。その際、電極表面は結晶構造を大きく変化させると推論されてきた歴史的背景がある。本博士論文では、水素発生触媒能を有する白金(II)錯体がプロトン共役電子移動(PCET)によりヒドリド中間体 Pt(III)(H)を与え、上記白金単体触媒で観測される(Pt-HOPD)=2090 cm-1 と同様の Pt-H 伸縮振動ピークを与えることにヒントを得て研究を展開した。
本博士論文では、密度汎関数法に基づく電子状態計算を用いて、単核から五核の白金サブナノクラスターを例にとり、それが触媒となって電極上で進行し得るプロトン移動、電子移動、PCET を逐次的に検証し、起こり得る全ての反応経路を網羅的に計算し、突き止め可能な反応経路の決定並びに高速触媒反応経路の予測を試みた。Pt(0)は[Xe](4f)14(5d)10(6s)0(6p)0 の状態を有し、6s,6p に電子を収容し、何れかの d 軌道電子対にプロトンが付加する。Ptn-H* は Pt(0)n-1Pt(I)(H-)または Pt(I)Pt(0)n-1(H)と表現できる。もし Pt(I)が n 個のPt 上に非極局在化するならばPt(1/n+)n(H)と書ける。図 1 は博士論文の研究成果からの抜粋である。水溶液中の単核 Pt(0)は二配位直線構造(sp 混成)を有すると判明した。つまり Pt(0)が結合を2個程度しか受容できないことが 確認された。また、白金核数の増 大に伴い Pt-Pt 結合長は伸びてお り、結合数の増大により Pt-Pt 結 合は弱められることを明らかにした。一段階の PT-ET(PT=Proton Transfer; ET=Electron Transfer)に より、Pt-Pt 結合はさらに弱められ、各 Pt の電子受容性はさらに損な われる。二段階目の PT-ET 生成 物では、この Pt-Pt 距離は更に伸長している。また、図1中の Pt-H=1.52Å となる Pt 原子は全て Pt(I)(HOPD) の 状 態 を 有 し 、(Pt-H)=2100-2400 cm-1 に強い IR振動吸収を示すことが分かった。一方、Pt-H=1.7Å となる化学種では Pt(0.5+)2(-HUPD) からなるobin-Day Class III 混合原子価状態に帰属され、(Pt-H)=1580 (2Pt2H), 1267 (1Pt3H2), 1221 (2Pt4H), 1288 (2Pt5H) cm-1 が見積もられた。2Pt3H も同様に Pt(1/3+)3(3-HUPD)であり、(Pt-H)=411, 1246 cm-1 が見積もられた。いずれも実験で観測される値と良く一致し、HUPD と HOPD に対するより明確な議論を可能としている。これらの化学種では、PT 後に ET で入る電子が非局在化することで、負電荷は複数の Pt 上に分布し、プロトンは複数の Pt に弱く架橋している。また、一個の Pt に負電荷が局在化(集中)すればプロトンは HOPD として強く結合することが確認された。さらに重要な結果として、水素発生反応の素過程に対する自由エネルギー変化の見積もりが可能となっている。図2は Pt5 の例であり、上り坂の少ない、優位な水素生成経路を提供することが確認できる。また、プロトン付加が先行することは Pt5 などが高い塩基性を有することを示している。このように本博士論文では、白金サブナノクラスター(Ptn; n=1~5)について関連する研究を多角的に展開することにより、従来の比較的剛直な電極表面モデルで検討されてきた理論化学的な研究では得ることのできなかった各種の有用な見解を提供することに成功した。

 以上より、本研究は従来の研究では到達し得ない結果とし、より大きなクラスター領域に自由度を与えることにより、多段階で進行する白金上への水素原子吸着時に起こるクラスターの構造変化と電子状態変化について明らかにした。さらに、水素生成平衡電位より正側で起こる水素原子吸着の結合エネルギーが平衡電位より負側で起こる水素原子吸着のエネルギーに比べ大きく異なる要因について定量的な知見を与える初めての研究結果を提供することにも成功した。それに加え、本博士論文のように白金上で生成する多様な構造変化と電子状態変化を錯体化学の見地から解き明かす研究は前例がなく波及効果の高い成果を提供するものと言える。

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