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大学・研究所にある論文を検索できる 「白金(II)錯体を触媒とした水素生成反応に関する速度論的研究」の論文概要。リケラボ論文検索は、全国の大学リポジトリにある学位論文・教授論文を一括検索できる論文検索サービスです。

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白金(II)錯体を触媒とした水素生成反応に関する速度論的研究

脇山, 史彬 WAKIYAMA, Fumiaki ワキヤマ, フミアキ 九州大学

2020.03.23

概要

近年、化石燃料の枯渇や地球温暖化などの問題が深刻化しており、それらを解決する手段として太陽光をエネルギー源とした水の可視光分解反応 (2H2O + 4hν → 2H2 + O2) に大きな期待が寄せられている。この反応を駆動する触媒として、不均一系固体触媒は高い触媒活性と耐久性を有する一方で、生体系が何億年もの歳月を費やして獲得した自然界の高機能触媒の多くが金属錯体である点や、反応点となる金属イオンの電子状態、立体環境、並びに反応性をより合理的に制御することが可能である点などから均一系錯体触媒も魅力的な研究対象である。可視光を駆動力とした水からの水素生成反応を促進させる光反応系として、EDTA/[Ru(bpy)3]2+/MV2+ (メチルビオローゲン)/水素生成触媒からなる光水素生成触媒系が知られており、本系で光化学的水素生成反応を促進する錯体触媒の開発が活発に行われてきた。中でも白金(II)錯体は、他の金属錯体と比べて優れた触媒特性を示すことが見出されており、その反応機構に高い関心がもたれてきた。しかしながら、その反応機構は依然解明に至っておらず、触媒活性の制御因子や反応経路は長年未解明なままとなっていた。更に高活性かつ高耐久性を有する錯体触媒を開発し、この触媒系をより実用性の高い系へと発展させるためには、反応機構を解明し触媒活性の制御因子を解き明かすことが必要不可欠である。そこで本博士論文では白金(II)単核錯体 (1, 2) 及び白金(II)二核錯体 (3) を触媒とした水素生成反応に関する速度論的研究を行い、その研究成果をまとめた。

まず、錯体 1 を触媒とした熱的水素生成系における水素生成反応の速度論的解析を行った。具体的には、定電位電解により調製した MV+• (メチルビオローゲンカチオンラジカル)と錯体 1 を 0.1 M 酢酸緩衝溶液 (pH 5.0, 0.1 M KNO3) 中で混合し、水素生成に伴う MV+•の減衰挙動を吸収スペクトル変化により追跡した。その触媒濃度依存性、並びに pH 依存性について詳細に解析したところ、その擬一次速度定数は、錯体 1 濃度に対して二次、水素イオン濃度に対して一次の相関を示すことが見出された。これらの結果から、錯体 1 を触媒とした水素生成反応の律速段階は、二分子の錯体 1 に対して、プロトンと電子が協奏的に移動するプロトン共役電子移動過程 (PCET 過程) であることが明らかとなった。また、錯体 1 の吸収スペクトルを測定したところ、高濃度領域において 1MMLCT (Metal-Metal-to-Ligand Charge Transfer) に由来する長波長の吸収帯が現れたことから、錯体 1 の二量体 (Pt(II)2) が触媒反応に寄与することが判明した。更に、電気化学的測定により MV+•による錯体 1の配位子上への還元が熱力学的に進行しないことがわかり、錯体 1 を触媒とした水からの水素生成反応の律速過程は、Pt(II)2 への PCET 過程を経た Pt(II)Pt(III)ヒドリド中間体の形成 (Pt(II)2 + H+ + e– → Pt(II)Pt(III)–H) であることが初めて明らかとなった。また、DFT 計算により反応中間体の構造に関して洞察を得たところ、Pt(II)Pt(III)–H は、これまで提唱されていたヒドリドが軸位に配位した構造ではなく、エカトリアル位に配位した構造であることが示唆された。これらの結果から、錯体触媒 1 は、Pt(II)2 への PCET 過程を経た equatorial-Pt(II)Pt(III)–H 中間体の形成を経由して水からの水素生成反応を駆動することが明らかとなった。更に、反応機構のより詳細な解明を目的とし、錯体触媒 1 による電気化学的水素生成の反応解析も行った。高濃度の錯体 1 を含む酢酸緩衝溶液に対し電気化学的測定を行ったところ、-0.7 V vs. SCE 付近に新たな還元波が現れた。その電流値が触媒濃度に対して二次の相関を示し、その電位が pH 依存性を示したことから、この還元波は Pt(II)2への PCET の進行に帰属された。また、この還元過程が錯体 1 単量体への PCET (Pt(II) + H+ + e– → Pt(III)–H) に由来する還元電位に比べ大きく正側の電位領域で観測されたことから、錯体 1 の二量体形成が水素生成反応の駆動因子であることが明らかとなった (図 1)。

さらに、電極に固定化した錯体 2 を触媒とした水素生成反応の機構的解析についても行った。カーボンナノチューブ上に固定化した錯体 2 (2@MWCNT) を作用電極に担持し、0.1 M 酢酸緩衝溶液 (pH 5.0, 0.1 M KNO3) 中で電気化学的測定を行うと、水素生成に伴う触媒電流が観測された。また、2@MWCNT の表面修飾錯体濃度依存性と pH 依存性を測定すると、その電流値が触媒の表面修飾濃度に対して二次の相関、水素イオン濃度に対して一次の相関を示した。これらの結果から、白金(II)単核錯体を固定化した系においても、錯体の二量体への PCET 反応を律速とし水素生成反応が進行することが明らかとなった。

最後に白金(II)二核錯体触媒 3 に関して、錯体 1 と同様に熱的水素生成反応の速度論的解析を行った。錯体 3 を触媒とした場合、錯体 1 に比べ MV+•減衰速度の大幅な増大が観測された。更に、錯体 1 と同様に触媒濃度依存性を測定すると、錯体 1 を触媒とした場合と異なり MV+•の減衰速度は錯体 3 の濃度に対して一次の相関を示した。この結果は、白金(II)二核錯体を触媒とした場合は、単分子で水素生成反応を駆動することを示しており、やはり白金錯体の二核化が水素生成反応の駆動に重要な因子となっていることが明確に示された。

以上、白金(II)錯体を触媒とした水素生成の反応機構解明に初めて成功し、錯体の二核化が水素生成反応の駆動に重要な因子となっていることを明らかにした。本研究は、新規白金(II)錯体触媒の開発に留まらず、種々の分子性触媒の設計指針を与える非常に重要な成果となった。

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