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大学・研究所にある論文を検索できる 「反復性肩関節前方脱臼における烏口突起移行術後の肩関節内旋筋の筋活動の評価:Positron Emission Tomography(PET)を用いた解析」の論文概要。リケラボ論文検索は、全国の大学リポジトリにある学位論文・教授論文を一括検索できる論文検索サービスです。

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反復性肩関節前方脱臼における烏口突起移行術後の肩関節内旋筋の筋活動の評価:Positron Emission Tomography(PET)を用いた解析

藍澤, 一穂 東北大学

2023.03.24

概要

博士論文

反復性肩関節前方脱臼における烏口突起移行術後の
肩関節内旋筋の筋活動の評価:
Positron Emission Tomography(PET)を用いた解析

東北大学大学院医学系研究科医科学専攻
外科病態学講座整形外科学分野
藍澤

一穂

<1

要約>

背景
肩関節内旋運動は上腕骨を骨軸に対して内側に回す動作であり、日常生活やスポーツなど
様々な場面で使われる重要な動作である。肩関節内旋運動には肩甲下筋の働きが大きく関与
している。肩関節は人体の関節の中で最も可動域が大きく、そのため最も脱臼を起こしやす
い関節であり、前方脱臼が大部分を占める。前方脱臼は通常肩関節の外転・外旋が強制され
たときに生じる。前方脱臼の際には肩関節の前方制動を担う関節唇−上腕靭帯複合体が、と
きに骨片を伴って肩甲骨関節窩から剥離する。肩関節前方脱臼は若年者は、整復後も脱臼を
繰り返す反復性脱臼に移行しやすく、日常生活動作に支障をきたす場合もある。そのような
状態では手術療法の適応となる。一般的に関節唇−上腕靭帯複合体を修復する鏡視下
Bankart 修復術が行われるが、関節窩の骨欠損が大きい症例や衝突型スポーツ競技者は、上
腕二頭筋短頭と烏口筋腱の共同腱が付着する烏口突起を関節窩前面に移行して肩関節前方
を制動する烏口突起移行術が行われていることが多い。この手術では、主に肩関節の内旋運
動に寄与する肩甲下筋を線維方向に分けて進入し、烏口突起を肩甲骨関節窩にスクリューで
固定する方法が広く用いられている。しかし、線維方向に分けた肩甲下筋が正常の肩甲下筋
と同じように働いているのかは不明である。
これまで、肩周囲筋の筋活動評価には筋電図や筋力計が用いられてきた。しかし、筋電図
検査は、①侵襲を伴うこと、②再現性が低いこと、③深部の筋活動評価が難しいこと、④刺
入部の限局した筋活動しか評価できないこと、などが欠点として挙げられている。また、筋

力 計 は 単 一 の 筋 肉 活 動 を 評 価 で き な い 。 近 年 、 陽 電 子 断 層 撮 影 ( positron emission
tomography:PET)を用いて、筋活動を評価する方法が報告されている。PET では、筋電図
に比べて包括的な筋活動を評価することができる。これまでに正常肩の挙上運動や内外旋運
動の PET による筋活動評価が行われてきたが、反復性肩関節前方脱臼患者の術後の筋活動
に着目した研究はない。

目的
本研究の目的は、肩甲下筋を線維方向に分けて行う烏口突起移行術を受けた患者の肩甲
下筋の筋活動を、PET検査で定量的に評価することである。

方法
反復性肩関節前方脱臼に対して烏口突起移行術を行い、術後1年以上経過した患者のうち、
本研究に書面での同意が得られた 9 名を対象とした。
18

F-fluoro-deoxyglucose(18F-FDG)投与前は 12 時間の絶食を指示し、18F-FDG 投与 30 分

前から 100 回、投与後に 200 回の内旋運動を負荷した後に PET 撮影した。運動は仰臥位で
手関節部にゴムバンドを装着し、内旋時に抵抗が加わるように行った。肩関節外旋 30 度か
ら内旋 30 度までの範囲の反復運動を毎秒 60 度の速さで 20 回行い、その後 20 秒間休憩する
セットを繰り返した。このセットを 18F-FDG 投与 30 分前から 5 分間、投与後に 10 分間行
った。18F-FDG 投与後 50 分の時点で PET 撮影を行った。運動は 1 週間以上の間隔をあけて

肩 0 度外転位(下垂位)、90 度外転位(外転位)の 2 つの肢位で施行し、それぞれ PET を撮
影した。
得られた PET 画像はコンピュータ断層撮影(computed tomography:CT)画像と合成し、
各腱板筋(肩甲下筋、棘上筋、棘下筋、小円筋)の領域を決定した後に筋区画それぞれの
Standardized Uptake Value (SUV)を算出した。肩甲骨周囲筋(大円筋、大胸筋、小胸筋、広
背筋、共同腱)の SUV も計測し、各々下垂位、外転位の 2 群間で比較検討した。
徒手筋力計を用いて下垂位内旋、外転位内旋、外転挙上、下垂位外旋筋力をそれぞれ測定
し、患側と健側、術前後を比較した。

結果
患側の下垂内旋筋力、外転筋力は、健側の 82%であった。外転内旋筋力は患側と健側で有
意差が見られなかった。下垂位、外転位ともに内旋運動後は肩甲下筋の SUV は高値を示し
た。下垂位内旋運動後では、患側の肩甲下筋の中部、下部線維で健側に比べて有意に SUV が
低下していた。一方で、外転位では患側の肩甲下筋の SUV は健側と有意差が見られなかっ
た。また、下垂位では外転位よりも肩甲下筋の SUV が有意に低い値だった。共同腱の SUV
は、外転位に比べて下垂位で有意に高く、外転位では健側よりも患側の方が有意に高い値を
示した。棘上筋、棘下筋、小円筋、大円筋、大胸筋、小胸筋、広背筋の SUV は下垂位、外転
位で有意差が見られなかった。

考察
近年、烏口突起移行術では肩甲下筋を線維方向に分けて展開する手術法が広く行われてい
る。本研究の結果から、術後に肩甲下筋の中部・下部線維で筋活動が低下していることが明
らかになった。移行した烏口突起から起始する共同腱が、肩甲下筋下部の前方を直行して走
行し、肩甲下筋下部を押さえつけるために、同部位の筋活動が低下したと考えられる。また、
下垂位内旋筋力も健側の 82%に低下しており、SUV の低下を反映していた。一方で、外転
位では肩甲下筋の筋活動は低下していなかった。その理由として、肩甲下筋が外転位で強く
働いていたため、共同腱の押さえつけ効果が相対的に減少したことが考えられた。他に、下
垂位では共同腱と肩甲下筋が直行するのに対し、外転位では両者は並行に近い位置関係とな
り、外転位では共同腱が肩甲下筋の筋収縮に影響しなかったと考えられた。

結論
反復性肩関節前方脱臼に対して肩甲下筋を筋線維方向に分けて烏口突起移行術を行った
患者において、肩甲下筋の筋活動は下垂位での肩関節内旋運動後に低下していたが、外転位
内旋運動後や下垂位での上部線維の筋活動は温存されていた。本研究により、肩甲下筋を線
維方向に分けるアプローチが肩甲下筋の機能温存に有用であることが証明できた。

<2

研究背景>

背景
○肩関節の解剖
肩関節は上肢と体幹を連結している関節である。肩関節は上腕骨、肩甲骨、鎖骨の 3 つの
骨に加え、僧帽筋、胸鎖乳突筋、肩甲挙筋、大菱形筋、小菱形筋、前鋸筋、広背筋、大胸筋、
小胸筋、三角筋、上腕二頭筋、上腕三頭筋、烏口腕筋、大円筋、棘上筋、棘下筋、小円筋、
肩甲下筋の 18 の筋からなり、肩甲上腕関節、肩甲胸郭関節、肩鎖関節、胸鎖関節の 4 つの
関節から構成されている。肩甲下筋、棘上筋、棘下筋、小円筋は肩甲骨から起始し,板状の
共同腱になって上腕骨近位に停止することから腱板筋と呼ばれており、肩関節運動時に上腕
骨頭の安定性を維持する重要な役割を担っている。
狭義の肩関節は肩甲骨と上腕骨からなる肩甲上腕関節を指す。肩関節では、上腕骨頭の大
きさに対し肩甲骨関節窩の大きさは 1/4 程度と骨性の支持が少ない 1)。関節窩が小さいこと
で、上腕骨が挙上、外転、外旋、内旋など様々な方向へ広く動くことができ、肩関節は人体
の関節の中で最も大きい可動域を有する。一方で、関節窩が小さいことは、骨性の接触面が
小さいため他の関節よりも不安定であることを意味し、人体の中で最も脱臼しやすい関節で
もある。実際、人体に生じる脱臼の約半分ほどが肩関節脱臼と報告されている 2)。この不安
定な関節を安定化させているのは、腱板筋の作用ならびに、関節唇、関節包や関節包靭帯(上
関節上腕靭帯、中関節上腕靭帯、下関節上腕靭帯)などの軟部組織である。この肩甲骨関節

窩と上腕骨頭を安定化させる機構は、可動域の最終と中間で異なる。最終可動域では、骨頭
と関節窩を結ぶ関節上腕靱帯が緊張し肩関節を安定させる。中間可動域では、関節上腕靱帯
は弛緩しており、以下の3つの安定化機構が考えられている。①関節窩の陥凹に対して、肩
関節周囲筋によって上腕骨頭が圧迫されることで生じる陥凹圧迫効果、②関節内が陰圧に保
たれることによる陰圧効果、③腱板筋の前方構成筋である肩甲下筋と後方構成筋である棘下
筋と小円筋による前後の力のバランス効果(force couple)である

3-9)

。肩甲骨と上腕骨を直

接結ぶ腱板筋の作用は肩関節を安定化させるために重要である。

○肩関節脱臼について
肩関節脱臼の脱臼方向は前方、後方、下方に分けられるが、前方脱臼が 9 割以上を占める
10)

。受傷機転はスポーツや転倒など様々であり、20 歳代と 60−70 歳代の二峰性分布を示す

11-13)

。また、10−20 歳代の若年者の肩関節前方脱臼の約8割は脱臼を繰り返す反復性脱臼に

移行すると報告されている 14)。
肩関節脱臼でみられる病変は、関節唇−下関節上腕靭帯(inferior glenohumeral ligament:
IGHL)複合体が関節窩から剥離する Bankart 損傷が代表的である。他には IGHL が上腕骨
側で剥離する Humeral Avulsion of the Glenohumeral Ligament(HAGL)損傷、IGHL の実
質部損傷、Bankart 損傷と HAGL 損傷の合併などがある。また、肩関節脱臼に伴い、関節窩
の骨欠損や上腕骨頭後外側の陥没骨折である Hill-Sachs 損傷が高率に合併し、関節窩骨欠損
は 86%、Hill-Sachs 損傷は 94%の症例に見られると報告されている 15)。

○肩関節脱臼の治療法
初回脱臼と反復性脱臼では治療が異なる。初回脱臼の治療は保存療法が原則である。従来
は三角巾による内旋位固定を一定期間行っていたが、約8割が反復性脱臼に移行するという
問題点があった。近年、外旋位で固定することで反復性脱臼に移行する割合が約4割まで低
下したと報告されている 13)。一方で、反復性脱臼に対しては、保存治療は無効であり、外科
的な治療が必要である。手術治療は、剥離した IGHL を関節窩に縫着する鏡視下もしくは直
視下 Bankart 修復術 16, 17)や Bristow 法や Latarjet 法などの烏口突起移行術などが行われてい
る 18, 19)。世界的に標準的な治療となっているのは鏡視下 Bankart 修復術であるが、ヨーロッ
パでは Latarjet 法が多く行われている。鏡視下 Bankart 修復術を主に採用している施設でも、
関節窩骨欠損の大きい症例や衝突型スポーツ競技者など再脱臼の危険性が高い症例には、烏
口突起移行術が行われることが多い 20-23)。

○烏口突起移行術
反復性肩関節前方脱臼に対して烏口突起を用いた術式を最初に報告したのは Oudard

24)

と Noesske 25)である。Oudard は 1924 年、烏口突起の基部を分離し、そこに脛骨から採取し
た移植骨を挿入し烏口突起を下方に延長する術式を報告した。同年、Noesske も烏口突起の
基部を骨切りし、それを前方の筋に縫着する術式を報告した。1954 年、フランスの外科医
Latarjet

は、スクリューを用いて烏口突起を関節窩に固定する方法を 2 編の論文に報告

18, 26)

した(図 1)。Latarjet の論文はともにフランス語で書かれていたためアメリカなどの英語圏
の整形外科医にその術式は広まらなかった。一方、1958 年、Latarjet 法と似た術式が Helfet
19)

の英語論文によって紹介された。彼は自分の師である Bristow の方法として烏口突起を立

てるように置き、その基部を骨膜および関節包などの軟部組織に縫着する術式を Bristow の
死後に紹介し、その術式は Bristow 法と名付けられた。Helfet の報告から 10 年以上経って
May 27)は関節窩に烏口突起をスクリューで固定する方法を報告した。これが現在行われてい
るいわゆる Bristow 法である(図 2)。本邦では、鏡視下 Bankart 法が広まる前はこの Bristow
法が広く行われていた。
Latarjet 法の肩関節安定化機構として、Patte ら 28)は 3 つの機序を挙げている。すなわち、
①移行した烏口突起によって関節窩の前後径を増加させる「骨効果」、②烏口突起から起始す
る共同腱が脱臼肢位である外転外旋位で下方関節包および肩甲下筋下部をおさえつける「筋
肉効果」、③関節包と IGHL を烏口肩峰靭帯に縫着して制動が得られる「靭帯効果」である。
この制動効果は Yamamoto らの死体肩を用いた生体力学的研究によって実証された 29)。
Bristow 法にせよ Latarjet 法にせよ、実際の手術手技においては、関節窩の展開のために
は肩甲下筋を展開する必要がある。肩甲下筋は主に肩関節の内旋運動に寄与している

30-36)



内旋運動は、上腕骨を骨軸に対して内側に回す動作であり、窓を閉める、トイレでの清潔動
作、結帯動作、背中を洗うといった日常動作の他、野球やバレーボールなどのスポーツで腕
を前方に振り下ろす際に使われる重要な動作である。烏口突起移行術では、従来は肩甲下筋
を縦切し、烏口突起移行後に修復するアプローチが行われていた(図 3)。しかし、このアプ

ローチでは肩甲下筋の損傷が大きく、術後に内旋筋力が著明に低下する

37)

。そこで、Walch

ら 38)が肩甲下筋の損傷を最小限にするために肩甲下筋筋腹の遠位 1/3 で筋線維を線維方向に
分けて烏口突起を移行するアプローチ(図 4)を提唱した。それ以来、この Walch のアプロ
ーチが広く用いられている。
烏口突起移行術後の肩甲下筋の筋力は、主に徒手筋力検査や筋力測定器を用いて評価され
てきた。筋力測定器を用いたものは肩関節下垂位からの内旋筋力もしくは背部に手を回した
状態で筋力測定を行なった報告が多く、術後の内旋筋力の健側比の報告は、70−98%と報告
に差がある 37, 39-41)。また、肩甲下筋を縦切した群と線維方向に分けて烏口突起を移行した群
を比較した報告では、肩甲下筋を線維方向に分けた方が内旋筋力、および持久力で優れてい
たという報告がみられる 42-44)。しかし、徒手筋力検査や筋力測定器による内旋筋力測定は肩
甲下筋以外の筋群の活動も含まれており、肩甲下筋のはたらきを正確に反映しているとは言
えない。
人体の骨格筋の筋活動評価には筋電図や新鮮遺体を用いた生体力学的研究が行われてき
た。体表に近い筋の活動は表面電極を用いた筋電図で検出が可能だが、深部の筋活動は針筋
電図によって測定する必要がある。しかし、針筋電図の問題点として、再現性が比較的低い
こと 45)、深部の筋へ針を正確に刺入することが難しいこと、刺入の痛みによる運動制限、気
胸などの合併症が生じうること、運動中の電極の移動などが挙げられている 46)。新鮮遺体を
用いた生体力学的研究は、関節運動を単純化して解析できるという利点はあるが、本来生体
で起きる多数の筋や関節の協調運動を必ずしも正確に反映しているとはいえない 47)。このよ

うに、従来の筋電図や新鮮遺体を用いた研究では、生体における肩関節運動の筋活動を、必
ずしも正確に評価できない。

〇18F-FDG PET による筋活動解析
18

F-fluoro-deoxyglucose(18F-FDG)を用いた PET 検査により糖代謝の観点から骨格筋活動

を解析する方法が、筋電図や新鮮遺体による筋活動評価の欠点を補う評価法として、
Fujimoto ら 48)や Tashiro ら 49)によって報告された。
陽電子は電子と同じ質量で正の電荷を持つ電子の反粒子であり、体内に存在するマイナス
の電荷をもつ電子と結合して消滅する際に 511 keV のエネルギーを持つ 2 本の γ 線を 180
度対向方向に放出する。この性質を利用し、体外へ放出される γ 線を検出器により計測する
ことで断層面内の陽電子放出核種の分布像を構築することができる

50)

。これが PET の原理

である。筋活動評価においては、放射性同位元素である 18F-FDG を使用する。18F-FDG は、
グルコースの OH 基を陽電子核種である 18F に置換した構造を持ち、筋のエネルギー消費量
に比例して筋への取り込み量が増加する

51, 52)

。18F-FDG は、グルコースと同様に細胞膜の

glucose transporter から細胞内に取り込まれ、リン酸化され FDG-6 リン酸となった後、ほぼ
代謝を受けずに筋細胞内に数時間留まる。18F-FDG が多く取り込まれた部位からより多くの
γ 線が放射されるため、γ 線の線量がエネルギー代謝量に相関する(図 5)。このような性
質を利用して 18F-FDG を体内へ投与し,運動中に筋細胞内へ取り込まれた 18F-FDG から放
射されるγ線の量を PET で検出することによって筋のエネルギー消費量を画像化し、筋活

動を三次元的に評価することができる。
18

F-FDG の各組織への取り込み量は、被験者の体重と投与した

18

F-FDG の投与量により

異なるため、標準化する必要があり、定量評価の指標として Standardized Uptake Value
(SUV)が用いられる。SUV は局所集積の度合いを表しており、投与された 18F-FDG が体
内へ均一に分布し,かつ排泄されないとした場合の放射能濃度を SUV = 1 と定義する。
18

F-FDG PET を用いた筋活動評価については、Fujimoto ら 48)が筋活動の強さと 18F-FDG

の集積量との間に相関があることを報告した。18F-FDG PET は、筋電図と同様に筋活動を評
価できること、筋全体の活動を評価できること、低侵襲であること、深部に位置する筋であ
っても動作や姿勢による制限がなく検査や解析が行うことができる点が利点として挙げら
れる 49, 53-55)。また、CT や MRI 画像と合成することで、肩甲下筋を他筋群と明確に区別して
評価できるだけでなく、筋を区画ごとに分割して筋活動を解析することができる。これまで


F-FDG PET を用いた肩関節周囲の筋活動の解析が行われてきた

18

55-60)

。その中で

Matsuzawa ら 60)は肩内旋運動について肩甲下筋が最も強く関与し、肩関節外転位では下垂位
よりも肩甲下筋の筋活動が強かったことを報告している。しかし、近年広く用いられている
烏口突起移行術時に、肩甲下筋を線維方向に分けてその機能を温存する方法で、本当に肩甲
下筋の機能が温存されているのかは不明である。また、線維方向に分けた上下の線維の筋が
どのように機能しているかも明らかではない。
本研究における仮説は、肩甲下筋を分けて行う烏口突起移行術では、肩甲下筋の筋活動の
低下は見られない、である。

<3

研究目的>

本研究の目的は、肩甲下筋を線維方向に分けて行う烏口突起移行術を行った患者で、肩甲
下筋の筋活動の定量的評価を行うことである。

<4

研究方法>

本研究は、東北大学病院臨床研究倫理委員会による承認(#23345)を受け、それぞれの被
検者から書面による同意を得た上で行った。

1. 対象
2017 年から 2020 年に、東北大学病院および関連施設で、反復性肩関節前方脱臼に対して
烏口突起移行術を行った患者 9 名を対象とした。症例は同意が得られた 20 歳以上とし、年
齢の上限、性別の制限は設けなかった。除外症例は、①両側性脱臼、もしくは反対側に肩関
節疾患を有する患者、②糖尿病もしくは糖尿病関連疾患のある患者、③妊娠中もしくは授乳
中の患者、④術後再脱臼した患者とした。健側の肩を対照群とした。

2. 烏口突起移行術について
本研究で行った烏口突起移行術の手術適応、手術手技について以下に述べる。反復性肩関
節前方脱臼患者のうち、①関節窩骨欠損もしくは上腕骨頭後外側の陥没骨折である HillSachs 損傷が大きい症例、②ラグビーや柔道など衝突型スポーツを行っている症例、③初回
手術で剥離した IGHL を関節窩に縫着する Bankart 修復術を行ったが術後脱臼した症例、を
本手術の適応とした。

手術手技(図 6):

手術は全例、全身麻酔下に、半座位で行った。三角筋大胸筋間アプローチで進入し、烏口
突起を基部で骨切りし、20mm の移植骨を確保した(図 6-a)。その後、肩甲下筋を遠位 1/3
のレベルで線維方向に分けて関節包に到達した(図 6-b)。関節包を 2cm 切離し肩甲骨関節
窩前縁を露出した。径 4.0 mm の中空の海面骨用スクリューである cannulated cancellous
screw で烏口突起を関節窩前縁に垂直方向に、もしくは平行に固定した(図 6-c)。烏口突起
を垂直方向に固定する場合はスクリューは 1 本(図 6-d)、平行に固定する場合は 2 本挿入し
た(図 6-e)。前者の固定方法は Bristow 法と呼ばれ、後者の固定方法は Latarjet 法と呼ばれ
ている。切離した関節包は suture anchor 2 本を用いて関節窩に修復した。本研究では Latarjet
法は 6 肩、Bristow 法は 3 肩に行われた。Latarjet 法でより大きく採骨が可能なため、肩甲骨
関節窩の骨欠損が比較的大きな症例で Latarjet 法を選択した。

3. 研究手順
A.患者背景、身体所見、ならびに CT の画像調査
患者背景として、年齢、性別、利き手、合併症を調べ、身体所見として両肩の可動域(屈
曲、外転、外旋、内旋)をカルテから調査した。臨床評価としては医師立脚型臨床スコアで
ある Rowe スコアを、患者立脚型臨床スコアとしてウェスタン・オンタリオ型不安定症指標
(Western Ontario shoulder instability index: WOSI スコア)を調べた。Rowe スコアおよび
WOSI スコアは用語説明頁に示す。CT 画像では移行した烏口突起の骨癒合の有無を調べた。

B. 筋力計測
筋力測定は徒手筋力計(EG-220®、酒井医療株式会社、東京、日本)を用いて、下垂位内
旋、外転位内旋、外転、下垂位外旋それぞれの筋力を測定した。下垂位内旋筋力は立位で肩
関節下垂位かつ肘関節屈曲 90 度での最大内旋筋力を、外転位内旋筋力は座位で肩関節外転
90 度かつ肘関節屈曲 90 度での最大内旋筋力を、外転筋力は肩甲骨面で肩関節を挙上させた
ときの最大筋力を、下垂位外旋筋力は立位で肩関節下垂位かつ肘関節屈曲 90 度での最大外
旋筋力を測定した。各筋力を 5 回測定し、平均値を算出した。

C. PET 検査
(1) 運動プロトコール
運動プロトコールは Matsuzawa らの研究方法

60)

に基づいて行った。検査前1週間は激し

い運動を制限した。内旋運動は、手関節部にゴム製のセラバンド(TheraBandTM)を装着し、
内旋時に抵抗が加わるようにした。 ...

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