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大学・研究所にある論文を検索できる 「ロングリードシークエンサーを用いた神経核内封入体病の分子病態解明」の論文概要。リケラボ論文検索は、全国の大学リポジトリにある学位論文・教授論文を一括検索できる論文検索サービスです。

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ロングリードシークエンサーを用いた神経核内封入体病の分子病態解明

柴田, 頌太 東京大学 DOI:10.15083/0002005006

2022.06.22

概要

【背景:神経核内封入体病の原因遺伝子変異探索研究の状況】
神経核内封入体病(neuronal intranuclear inclusion disease, NIID)は,進行性の変性神経疾患である.全身臓器にエオジン好性の核内封入体が見られることを特徴とし,認知症や錐体外路症状,小脳失調,末梢神経障害,網膜障害,自律神経障害,一過性意識障害など,多彩な臨床像を呈することが知られている.原因遺伝子変異は明らかでないが,常染色体優性遺伝形式を疑わせる家系の報告も見られる一方,孤発例が3分の2を占めるとする報告もあり,その臨床的・遺伝学的背景は多様で複雑であるものと考えられてきた.

我々のグループでは,NIIDとFragile X-associated tremor/ataxia syndrome(FXTAS)の臨床像,頭部MRI所見が高度な類似点を共有する点に着目し,NIIDがFXTASと同様にCGGリピートの異常伸長によるリピート伸長性疾患である可能性を疑った.ショートリードシークエンサーによる全ゲノム解析の結果,NIID症例のみにおいてCGGリピートで埋め尽くされたリードが見られ,この考えを裏付ける可能性が示唆された.Pac Bio Sequelを用いたNIID症例1例の全ゲノムシークエンシングによって,NOTCH2NLC(NBPF19)のCGGリピートの伸長が認められたが,本リピート伸長が真にNIIDの原因遺伝子変異であるか否かを確認するためには,他のNIID症例やコントロール多数例におけるリピート伸長状況の確認による検証が必要な状況であった.

【背景:リピート伸長性疾患研究における技術的課題】
伸長リピート配列の遺伝子解析研究における無視できない問題として,配列決定と増幅における技術的課題がある.ショートリードシークエンサーの登場により大規模並列解析による全ゲノムシークエンスが可能となった一方,ショートリードのリード長を超える長さのリピート配列は全貌の把握することは困難である.これに対し,ロングリードシークエンサーはリード長が数kbから数十kbに及ぶことから,伸長リピート領域を直接読み通すことが可能である.このため,伸長リピートを含む難読配列の解析研究におけるロングリードシークエンサーの有用性が期待されている.反面,その配列決定コストは依然高く,多数例の解析には向かない問題がある.標的ゲノム領域を選択的に濃縮することでこのコストの低減が可能だが,殆どの標的濃縮法はPCRやサブクローニングによる増幅に依存しており,従来法による増幅が困難であるGC-richな伸長リピート配列には適用できない.ロングリードシークエンサーと効果的に組み合わせることのできる伸長リピート配列の効率的な濃縮法,増幅法を欠く現状があった.

【研究の目的】
これらの背景を踏まえ,本研究では2つの目的を設定した.第一の目的はNIIDの原因遺伝子変異の探索である.これまでの検討によって原因遺伝子として疑われるNOTCH2NLCについて,NIID症例およびコントロールにおける同遺伝子のCGGリピートの伸長状況を確認する.この過程で,標的とする伸長リピート領域を選択的に濃縮し配列決定する手法の開発を目指した.第二に,NIIDの同リピート長と臨床情報との関連解析により,遺伝子型表現型相関を解明することを目的とした.これに先立ち,当科におけるNIID症例を後方視的に検討することで,NIIDの多彩な臨床症状と経過の全貌の整理を目指した.

【本研究の概要】
1.NIID症例およびコントロールにおけるリピート長と配列内容の決定
1)Repeat-Primed PCR(RP-PCR)による検討
NIID26例およびコントロール1000例を対象として,Repeat-Primed PCRによりNOTCH2NLCのCGGリピートの異常伸長の有無について検討した.この結果,NIID症例全例でCGGリピート伸長を認めた一方,コントロールでは伸長を認めなかった.

2) Southern blot hybridizationによる検討
Southern blot hybridization analysisによってNIID35例におけるNOTCH2NLCの伸長リピート長の評価を行った.伸長リピート長は270~550bp(リピート数として90~180回程度)に分布していた.このうち2例は伸長アレルがスメア状のシグナルを呈し,somatic instabilityの関与が疑われた.2組の親子例の解析では,いずれも未発症の子において親よりも長いリピート伸長を認め,世代間でのリピート伸長の可能性が示唆された.

3) Multiplexed amplicon sequencingによる検討
Pac Bio Sequelを用いたmultiplexed amplicon sequencingによって,コントロール182例における同リピート長およびconfigurationを評価した.リピート数は7~35回の範囲に分布していた.Wild-typeアレルにおける同リピートのconfigurationの多様性が明らかとなり,configurationとリピート回数との間に関連がある可能性が疑われた.

4)NIID症例における伸長リピートの配列内容の決定
NIID症例における伸長リピートの配列内容を決定するため,サイズ分取による標的ゲノム領域の濃縮を行った.これに加え,E.coliの複製機構をinvitroで再現したOri Ciro technologyを用いて伸長リピート領域を増幅した.これらの濃縮検体,増幅産物をそれぞれロングリードシークエンサーで配列決定することで,NIID27例の伸長リピート領域の内部配列を評価した.Ori Ciroによる増幅産物においては,増幅過程のリピート短縮および伸長の可能性が否定できず,リピート長を正確に決定できない可能性が疑われたが,configurationの評価が可能であることを示した.NOTCH2NLCの伸長アレルのconfigurationはwild-typeアレルと比較して複雑かつ多様であることが明らかとなった.同一症例由来の検体から2種類のconfigurationのリードが得られ,NIID症例の伸長アレルにおけるsomatic instabilityの可能性が示唆された.

2.NIIDの臨床像の後方視的検討
2008年10月から2019年12月までの期間に当院当科を受診,または協力施設より遺伝子検査依頼のあったNIID35例を対象として臨床情報を後方視的に解析した.男性19例,女性16例で,孤発例15例,家族例20例であった.発症時年齢は49~76歳(中央値63歳)でいずれも高齢発症例であった.60歳代に認知機能障害で発症することが多く,9割近い症例で経過中に認知機能障害が出現していた.末梢神経障害は自覚されにくいものの,神経診察では9割以上で腱反射の減弱または消失を指摘され,約8割で電気生理学的異常を認めた.錐体外路徴候,自律神経障害を約8割,小脳性運動失調を約5割で認め,臨床像の多様性を裏付ける結果であった.家系内においても症状は多彩であるが,初発症状は家系ごとに傾向が見られる可能性が疑われた.

3.遺伝子型表現型相関の検討
NIIDの遺伝子型表現型相関を明らかにするため,1.の検討で得られたNIID症例の伸長リピート長及び内部配列と,2.で整理した臨床情報との関連について検討した.リピート長と発症年齢の関連解析においては,全体の傾向として統計学的に有意な相関関係は認めなかった.初発症状に着目した解析では,無気力や気分障害,認知機能障害で初発する症例はリピートが長い傾向が疑われた.NIIDの遺伝子型表現型相関を明らかとするためには,より多数例を偏りなく集積し,多数の剖検脳における検討を行うことが必要と考えられた.

【本研究が明らかとしたこと】
本研究では,NIIDの原因遺伝子変異がNOTCH2NLCに存在するCGGリピートの異常伸長であることを明らかとした.NIID症例における同リピート数は90~180回程度で,コントロールの7~35回と比較して有意な伸長を認めた.サイズ分取とロングリードシークエンサーを組み合わせることで,標的配列を濃縮し高精度の配列決定を行う手法を確立した.比較的簡便ながら最大20倍の濃縮率を達成し,伸長リピートの配列決定における有用性を実証した.多量のDNA検体を必要とするものの,断片長さえ明らかであれば配列内容不明の標的にも適用できる高い応用可能性は本手法の利点と考えられた.また,本研究ではOri Ciro technologyにより従来法では増幅が困難な伸長CGGリピートの増幅を行い,ロングリードシークエンサーとの組み合わせが内部配列の評価に有用であることを示した.これらによりNIID症例の伸長リピートにおけるconfigurationの多様性,somatic instabilityの存在,世代間の不安定性が示唆された.また,遺伝学的診断の担保されたNIID症例の臨床像を後方視的に検討した.NIIDの病態機序,遺伝子型表現型相関を明らかにするためには,より多数例の症例集積に加え,多数の剖検脳における統合的解析の必要性が示唆された.

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