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層状構造を活用した高感度化学センサの開発 (本文)

都倉, 勇貴 慶應義塾大学

2020.09.21

概要

1.1 背景
私たちの住む自然界には、材料や原子単位で構成されている二次元の層が積み重なる層状構造から成り立つ材料が多く存在する。例えば黒鉛は、炭素原子が六角形に結合したハニカム構造を有する二次元グラフェンシートが積層された構造を有しており、これをグラファイト構造という 1,2。また、様々な鉱物も層状構造を有しており、例えば粘土鉱物の一つであるタルクやモンモリロナイト 3 はケイ酸塩層とカチオンが積層された層状の結晶構造を有している。さらに、層状構造は環境に存在するだけではなく、生体内においても存在している。例えばほとんどの生物が有する細胞の生体膜は、親水部と疎水部から成るリン脂質の積層構造を有している 4。貝殻やカタツムリの殻は、炭酸カルシウムと有機物による階層構造から成り立っており、それ故硬さを有していることがわかっている 5。以上のように、自然界には無機・有機に関わらず、様々なスケールの層状材料が存在する。この層状構造は各層の材料において無限の組み合わせがあるため、材料の種類、サイズ、相互作用を設計することで、電気化学デバイス、光学デバイス、磁性、触媒、センシングなど様々な機能を発現させた機能材料の創製とその応用が期待されている。

交互吸着(layer-by-layer self-assembly, LbL)法 6 は層状構造を設計する手法の一つである。これは、材料を静電相互作用、水素結合、π-π相互作用などといった相互作用によって交互に吸着・積層させていく方法であり、ナノメートルスケールで緻密な膜厚の制御が可能である。積層させることができる材料は有機・無機に関わらず多岐にわたっており、表面の状態や構造形態についても、膜を構成する高分子などの溶液の pH7,8 や塩濃度 9 を調整する方法や、LbL 膜を酸・塩基の溶液に浸漬させることによって制御することが可能である。また近年、高分子 LbL 膜に金属イオンを配位させた高分子金属錯体膜が報告されている 10–12。金属イオンを錯体として配位させておくことで、金属イオンの反応性や触媒活性などの性質を活かして、様々な機能を付与させることができる。

一方で、地球上には層状の結晶構造を有する無機系の金属鉱物が存在する。その中でも層状酸化マンガン 13–15 はバーネス鉱という鉱物由来の物質であり、酸化マンガン層と層間に存在するカチオン層が交互に積層した層状の結晶構造で成り立っている。グラファイトはグラフェン同士がファンデルワールス力という比較的弱い相互作用によって積層されている一方で、層状酸化マンガンは、アニオン層である酸化マンガン層とカチオン層が静電相互作用によって積層されている。層状酸化マンガンは、層間に存在するカチオンと他のイオンと交換されるイオン交換性 16 や有機分子等の分子を層間空間へ導入させるインターカレーション性 17 を示し、層間距離や層間内の分子の修飾や材料の活性化を行い、様々な機能を付与することが可能である。

近年、少子高齢化社会の進展に伴い、人体の健康状態を簡易に取得できるシステムが望まれている。例えば、心拍数や呼吸などを圧力センサ 18–20 によってモニタリングすることによって、異常をその場で即時に発見することが可能である。また、呼気中に含まれる化学物質や飲料物や血液中の栄養素などを化学センサによって簡易的に測定することができれば、化学物質や栄養素と関係のある病気の早期発見を行うことが可能となる 21,22。センサは人間 の五感によって感じる感覚を電気信号等に変換して可視化したデバイスである。センサの 中でも、光・音波・圧力を検知する物理センサ(視覚・聴覚・触覚)と化学物質を検知する化 学センサ(嗅覚・味覚)に分別できる。物理センサに関しては、近年発展が目覚ましく、特に 光や音波に関しては、赤外光や高周波数帯など人間が感じる能力以上に検知することが可 能となっており、ロボットや人間に装着するウェアラブル化にまで応用されるまでに至っ ている。一方で、化学センサは、地球上に 10 万種以上の化学物質が存在すると言われてお り、化学反応について未解明な部分が多いため、低濃度での検知や選択的な検知が難しいた め、実用化には至っていない。これらの検知能を向上させていくために、材料の表面積を増 加させることや、官能基の導入や修飾、反応を活性化させるなどを通した設計がなされる。 層状構造を有する材料は、ターゲットとなる化学物質の層間空間へのアクセスが可能であ ることや、層間を利用した官能基の修飾や処理が可能であるなどの特徴があるため、化学物 質を高感度かつ選択的に検知する材料として期待されている。

1.2 本研究の目的
センシングデバイスの発展・普及に伴い、デバイスの核を担う材料の機能性が重要となっており、様々な材料における設計から応用まで多くの研究が活発に行われている。特に化学センサは化学反応などを基に成り立っているため、材料の特性が重要である。本研究では、層状物質特有の性質である(1) 層や層間の構成成分の設計の自由度、(2) ターゲット物質や修飾分子の層間へのアクセス性、(3) 二次元異方的形状によるマクロな形態制御を活用し、気相および液相における化学物質を高感度かつ選択的に検知できるデバイスの開発を目的とする。また、開発した化学センサについてその原理や特性を明らかにし、化学物質の検知に向けて層状構造の役割を解明する。本研究の概要図を Fig. 1-1.に示した。

第 1 章(本章)では、本研究の背景及び目的について述べた。第 2 章では、層状構造を有する材料について、特に本研究で用いた金属イオン複合 LbL 膜と層状無機材料を中心に、作製方法やその構造とそれらの特性とその応用について述べた。また、化学センサの種類を紹介しながら、層状物質を用いた化学センサデバイスへの応用について述べた。

第 3 章では、層状構造を有する材料の一つである、銀イオン複合高分子 LbL 膜をろ紙上に作製し、重要な栄養素の一つであるアスコルビン酸(ビタミン C)を高感度かつ選択的に検知する試験紙の開発について述べた。層状構造を形成している高分子 LbL 膜内のアミノ基に配位している銀イオンが、還元剤であるアスコルビン酸によって還元され、銀ナノ粒子が形成した。この銀ナノ粒子の表面プラズモン共鳴により、試験紙の色が変化するため、水溶液中のアスコルビン酸の濃度を 0.1 ppm-300 ppm の範囲内で比色定量化できることを示した。実際に、市販飲料中に含まれるアスコルビン酸の濃度を選択的に定量できることを確認した。層状構造内への銀イオンの複合化およびマクロな形態制御によって、アスコルビン酸の高感度検知が可能となったことを明らかにした。

第 4 章では、層状の結晶構造を有する層状酸化マンガンナノシートを、水晶振動子型ガスセンサの感応膜として活用し、メタンチオールを高感度かつ選択的に検知するセンサデバイスの開発について述べた。気相中のメタンチオールは、層状酸化マンガンの表面および層間へ吸着し、酸化マンガンによる触媒的な酸化により、硫黄化合物が生成した。この質量変化はナノグラム単位で測定可能な水晶振動子によって検出できるため、メタンチオールを数十 ppb オーダーで検知できることを示した。さらに、層間のイオン交換を行うことで、メタンチオールの検知下限を 10 ppb まで向上させることができた。また、呼気で想定される他種類のガスには応答せず、メタンチオールを選択的に検知できることを示した。層状構造の表面と層間へのメタンチオールのアクセス性および層間を利用した反応であるイオン交換による設計によって、メタンチオールの高感度検知が可能となった。

第 5 章では、本研究における層状物質を用いたセンシングデバイスについて総括した。また、化学物質の検知における層状構造の役割についてまとめ、化学センサの設計における今後の展望について述べた。

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参考文献

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