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大学・研究所にある論文を検索できる 「3D顔面画像撮影解析装置を用いた乳児片側性唇顎裂の形態分析」の論文概要。リケラボ論文検索は、全国の大学リポジトリにある学位論文・教授論文を一括検索できる論文検索サービスです。

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3D顔面画像撮影解析装置を用いた乳児片側性唇顎裂の形態分析

荻本, 真美子 大阪大学

2021.03.24

概要

【研究目的】
初回口唇形成術は通常生後3か月、体重6㎏程度で実施することが長く我が国のスタンダードとされてきた。口唇裂の治療とは、口唇裂で生まれた患児の口唇を将来に亘ってより正常な口唇へと導くことにあり、本来の口唇裂の口唇がどのように成長し、どの時期に口唇の形態を変更すれば将来より健全な形態をとることができるのかが重要である。そのためには手術前の口唇の成長変化を明らかにすることが重要であるが、このような分析を行った研究は他にない。本研究は3D画像撮影解析装置VECTRA®H1を用いて、患児の安静状態の顔面・口唇の状態を生後間もなくの初診時より経時的に記録分析することにより、その間に起こる変化をとらえようとしたものである。初めに、覚醒時のデータ採取の合理性を確認するため覚醒時と全身麻酔時の顔面・口唇形態の違いを分析した。さらに生直後の初診時より口唇形成術までの口唇の成長を分析した。また、実際に行われている手術の際のデザインは麻酔挿管固定後であるため、手術室内での手術当日の位置距離変化についても検討を加えた。

【研究方法】
本研究は「成長評価による口唇裂・口蓋裂治療の検討」(承認番号H29-E11-1)として大阪大学歯学研究科倫理審査委員会の承認を受けている。

研究1.手術時の口唇形態の変化
1-1.術前覚醒時と全身麻酔時(挿管・固定後)の変化
対象は2020年2月から2020年9月に大阪大学歯学部附属病院で初回口唇形成術を行った生後2-4か月の片側性唇顎裂・唇裂の患児24名とした。口唇形成術の約1週間前に受診した患児の仰臥位の状態と、手術室にて口唇形成術直前の挿管・固定後の状態を分析した。

1-2.麻酔関係操作(筋弛緩薬投与前後、挿管後、固定後)による変化
対象は2020年6月から2020年10月に大阪大学歯学部附属病院で初回口唇形成術を行った生後2-4か月の片側性唇顎裂・唇裂および唇顎口蓋裂の患児13名とした。手術開始までの手術室内での口唇の形態変化について分析した。

研究2.初診から口唇形成術までの成長
2-1.口唇の健側と患側の差
対象は2019年11月から2020年8月に大阪大学歯学部附属病院口唇裂・口蓋裂口腔顔面成育治療センターを受診した生後0か月の片側性唇顎裂・唇裂の患児28名とした。生後0~3か月までの口唇の成長を分析するに際し、術前顎矯正による上顎の位置移動のない唇顎裂・唇裂症例を分析した。

2-2.顔面の垂直・水平方向距離の変化
対象は、研究2-1の対象の中から退院後1回目(術後3週間)と退院後2回目(術後2か月)の受診時にも撮影を実施した片側性唇顎裂・唇裂の患児20名とした。生後0か月から3か月までの距離増加率を術前増加率、術後1回目から2回目までの増加率を術後増加率とした。内眼角間距離の増加率を1として、垂直方向距離は内眼角~鼻翼基部の垂直距離および白唇垂直長、水平方向距離は内眼角間距離、鼻翼幅および口角幅の増加率を算出した。

2-3.術前における計測基準点の変位量
完全裂5名、不完全裂5名の生後0か月の各計測基準点の3次元座標値(X1,Y1,Z1)と生後3か月の同一計測点の3次元座標値(X2,Y2,Z2)の各成分の差を、X軸方向への変位量、Y軸方向への変位量、Z軸方向への変位量として算出した。

・計測方法:3D画像撮影解析装置VECTRA®H1を用いて顔貌を撮影後、以下の計測ポイントを3次元座標として計測し、主要点の距離を算出した。解析ソフトとして3D-Rugleを用いて分析した。

・計測ポイント:1.左右内眼角点2.左右口角点3.左右鼻翼基部外側点4.左右鼻翼最外側点5.左右鼻翼基部内側点6.左右鼻柱基部外側点7.鼻柱基部中点8.鼻尖部最前方突出点9.キューピッド弓中点相当点10.健側キューピッド弓頂点11.健側キューピッド弓披裂側頂点相当点12.患側キューピッド弓頂点相当点

【研究結果】
1-1.術前覚醒時と全身麻酔時(挿管・固定後)の変化
赤唇縁長、内眼角から鼻翼基部までの垂直距離、内眼角から口角までの垂直距離、鼻柱の高さ、両側鼻翼基部の垂直距離差に有意な差を認めた。覚醒状態と全身麻酔下(挿管・固定後)では、顔面形態が異なることが明らかとなった。

1-2.麻酔関係操作(筋弛緩薬投与前後、挿管後、固定後)による変化
筋弛緩薬投与の前後においてはすべての計測項目で完全裂、不完全裂ともに基準点間距離に有意差は認めなかった。一方、挿管固定操作により赤唇縁長、内眼角から口角までの垂直距離、内眼角から鼻翼基部までの垂直距離、鼻柱の高さは筋弛緩薬投与前後との間に有意差を認めた。

2-1.口唇の健側と患側の差
・白唇垂直方向距離:生後0か月から3か月まで、完全裂では常に健側が患側より有意に長いまま成長した。不完全裂においては鼻翼基部内側点からキューピッド弓頂点までの距離が生後2か月まで健側患側で有意差なく、生後3か月になって有意差が認められた。体重別でも5kgまで健側患側で有意差なく、6kgになって有意差が認められた。健側患側差は成長とともに大きくなった。

・赤唇縁長、内眼角から鼻翼基部までの垂直距離、内眼角から口角までの垂直距離、鼻翼幅、白唇の最前方突出度:完全裂、不完全裂ともに健側と患側の差はほぼ一定のまま成長した。

2-2.顔面の垂直・水平方向距離の変化
不完全裂の術前における患側白唇の増加率は、患側内眼角~鼻翼基部の増加率と比較して有意に小さい結果であった。口唇形成術後、患側白唇の増加率は術前と比較して有意に増加し、術後の患側内眼角~鼻翼基部の増加率と有意な差を認めなくなった。完全裂においても、術前の患側白唇の増加率は患側内眼角~鼻翼基部の増加率と比較して有意に小さい結果であった。しかし口唇形成術後は術前より増加し、術後の患側内眼角~鼻翼基部の増加率と有意な差を認めなくなった。水平方向距離の増加に関しては、術前後ともに鼻翼幅、口角幅は内眼角間距離の増加率と同程度であった。

2-3.術前における計測基準点の変位量
X軸(水平)方向とZ軸(前後)方向に関する移動はあまりなく、Y軸(垂直)方向の成長が大きいことが明らかとなった。内眼角を基準としたためと考えられるが、内眼角から離れるに従ってY軸方向の成長量は大きく、不完全裂におけるキューピッド弓の基準点は4mm以上の下降成長であった。しかし完全裂においては2-3mm台であった。この不完全裂と完全裂の成長量の違いは外鼻の基準点の下降成長の差にもあらわれており、不完全裂の方が完全裂よりも大きく成長した。

【考察ならびに結語】
これまで初回口唇形成術までの口唇の形態について分析されたことはなかったが、3D画像撮影解析装置VECTRA®H1と3D-Rugleを用いることにより資料採取と形態分析が可能であった。これにより生直後から初回口唇形成術までの口唇の成長過程を明らかにすることができた。そして口唇は内眼角間距離や鼻の成長と比較して垂直方向の成長が小さいことが明らかとなった。白唇の健側と患側の成長において完全裂は生後0か月から3か月まで左右差が維持された。一方で不完全裂は、差が開きつつあるところで手術を迎えていることが明らかとなった。将来にわたって口唇の左右対称性を追求するには、まずは手術時に左右対称性を獲得し、成長によってもその対称性が維持されることが理想である。本研究では、不完全裂において生後2か月以後、健側と患側の長さの差が拡大することが示された。手術という点では、左右差の小さい生後2か月までに手術を実施する方が確実な長さの対称性を得やすい可能性がある。口唇形成術の時期決定要素として本研究は重要な意味をもつものであり、今後の長期的な観察の結果で判断されるものと考える。この方法によって生後0か月からの口唇形態のデータの蓄積が可能となり、一貫治療における初期重要データが保存でき、今後の成長分析に活用できると考えられた。

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