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大学・研究所にある論文を検索できる 「がん患者における緩和ケア病棟に入院7日以内に呼吸困難が出現する因子の検討」の論文概要。リケラボ論文検索は、全国の大学リポジトリにある学位論文・教授論文を一括検索できる論文検索サービスです。

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がん患者における緩和ケア病棟に入院7日以内に呼吸困難が出現する因子の検討

松沼, 亮 神戸大学

2022.03.25

概要

[背景]
呼吸困難は呼吸不快を伴う主観的症状と定義されており、頻度の高い苦痛症状の1つである。呼吸困難は疼痛や不安、抑うつを悪化させ、また逆にこれらの症状が呼吸困難を悪化させることから悪循環を引き起こす。
さらに呼吸困難は患者の生活の質(QOL)を悪化させ、介護者の苦痛を引き起こす。呼吸困難は終末期患者の90%にみられ、死亡前の1〜3週間でその症状の強さが徐々に悪化することが報告されている。
先行研究では、原発性および転移性肺腫瘍、慢性呼吸器疾患、不安、併存疾患が多いこと、高齢、女性、高いBody Mass Index(BMI)、胸水の増加、肺炎、大量の腹水が、がん患者の呼吸困難の増悪因子として報告されている。
しかしながら、終末期がん患者において新たな呼吸困難の出現と関連する因子を明らかにした研究はこれまでにない。終末期がん患者において、呼吸困難の新たな出現を予測できることは次の2点において患者にとって有益である。
まず第一に、疼痛等によりオピオイド鎮痛薬の投与が必要になった時に、呼吸困難の発症に備えて、呼吸困難に対する有効性が実証されているモルヒネ製剤を予め選択することができる点である。第2に、呼吸困難を標的症状とした苦痛緩和のための鎮静についての患者の考えを十分に聞き、その適応について余裕を持って話し合うことができる事が挙げられる。
呼吸困難は俸々な薬物的、非薬物的介入を行っても症状緩和が難しく、苦痛緩和のための鎮静を要する事がある。鎮静に対する患者の好みを前もって話し合うことは、終末期ケアの質の改善に寄与する可能性がある。
本研究の目的は、緩和ケア病棟に入院したがん患者における、呼吸困難出現の予測因子を検討することである。

[方法]
この研究はEast-Asian Collaborative Cross-cultural Study to Elucidate the Dying process(EASED)研究という、日本、台湾、韓国の3か国で行われた、緩和ケア病棟に入院した患者における死亡直前期の症状や、実臨床で行われている治療やケアとその効果を明らかにする多施設前向き観察研究の二次解析である。
本研究では日本の緩和ケア病棟に入院した患者のみを対象とした。適格基準は、
1)18歳以上、
2)局所進行もしくは転移性のがんと診断された患者、
3) 初回評価時に呼吸困難がないこと、とした。
初回評価は緩和ケア病棟入院時に担当医によって行われ、患者背景、身体症状、バイタルサインズ、血液検査、胸水/腹水の有無、投与されている薬剤などを評価した。呼吸困難については「なし」、「労作時のみ」、「安静時も」の3段階で評価した。
呼吸困難については、初回評価時、入院7日後に評価を行った。7日以内に死亡した場合には、死亡3日以内の呼吸困難について、患者死亡時に後ろ向きで前述した3段階の評価を行った。「呼吸困難出現」の定義については、
1)入院7日後に労作時もしくは安静時に 呼吸困難を認めた、
2)入曉7日以内に呼吸困難に対してオピオイド鎮痛薬の投与を受けた、
3)入院7日以内に死亡し、死亡前3日以内に労作時または安静時呼吸困難を認めた、
のいずれかを満たす場合、と操作的に定義した。評価のタイミングを入院7日後とした理由は、入院早期に出現する呼吸困難の予測因子を特定することが目的であったためである。胸水、腹水についてはX線写真やCT検査は必須ではなく、「身体所見で明らかでない」、「身体所見上存在するが症状なし」、「症状あり」の3段階で評価した。
統計解析は、呼吸困難が出現した群と出現しなかった群に分け、患者背景、身体症状、薬剤などを比較した。カテゴリー変数についてはカイ2乗検定を使用し、連続変数についてはt検定もしくはノンパラメトリックMann-WhitneyU検定を使用した。
単変量解析を行い、有意差を認めた因子に加え、年齢(65歳以上)、Kalnofsky Performance Status(KPS)く40%、原発性および転移性肺腫瘍、慢性呼吸器疾患、胸水貯留を投入し、ロジスティック回帰分析を用いて多変量解析を行い、因子を特定した。P値く0.05を有意差ありと定義した。統計解析にはIBM SPSS version 25.0を使用した。

[結果]
2017年1月から12月までに入院した1896名の患者が対象となった。 初回評価時に呼吸困難を認めたのが725名、データ欠損があった患者が12名であり、それらを除外して最終的に1159名を解析対象とした。100名が呼吸困難 出現の定義に該当した。単変量解析では男性、原発性肺癌、腹水の存在、KPS40%以下、喫煙歴あり、ベンゾジアゼピン系睡眠薬を使用している、の6項目が呼吸困難出現と関連する因子として抽出された。
多変量解析では原発性肺癌(odds ratio [OR]: 2.80, 95% confidence interval[95% CI]:1.47-5.31;p=0.002)、KPS40%以下(OR:1.84,95% CI:1.02-3.31;p=0.044)、腹水の存在(OR:2.34, 95% CI:1.36-4.02; p=0.002)が呼吸困難出現の予測因子として同定された。

[考察]
本研究では原発性肺癌、KPS40%以下、腹水の存在、の3因子が呼吸困難出現の予測因子として抽出された。本研究結果では、入院時に呼吸困難がない進行がん患者に、7日以内に呼吸困難が出現する確率は9%であった。
緩和ケア病棟入院時にこれらの3因子のいずれかを有する患者においては、呼吸困難の出現に留意して注意深く経過をみる必要があると考えられる。
本研究の新規性は、腹水の存在と呼吸困難出現の関連性を明らかにしたことである。悪性腹水と呼吸困難の関連や、腹水穿刺後に6分間歩行距離が改善したという先行研究があるが、呼吸困難出現との関連を示した研究は現在までにない。腹水による呼吸困難の出現は、腹腔内圧の上昇により、横隔膜が挙上し、換気量が減少すること、また腹水により呼吸が十分に行えず、横隔膜の運動が制限され、肺活量が減少することと関連している可能性がある。
さらにこれらの呼吸システムの変化は、両側の肺底部において、換気量を減少させ、換気血流比を低下させる可能性がある。腹水量と呼吸困難の出現との関係を見ることで、これらの関連性をより明らかにできる可能性はあると考えられるが、本研究では、腹水量は調査されなかった。
本研究の限界として以下の4点が挙げられる。
1)呼吸困難の評価が医療者評価であったこと:呼吸困難は主観的評価であり、患者評価が望ましい。しかしながら本研究は実臨床での観察研究であり、死亡直前期には患者評価が困難なことが予想されたことから、医療者評価とした。
2)呼吸困難を信頼性や妥当性が検証されていない3段階の評価で行ったこと:今後はIPOSやNumerical Rating Scale (NRS)などの信頼性妥当性が検証された評価尺度を用いた研究を実施することが望ましい。
3)呼吸困難に対して7日間の観察期間にどのような介入が行われたかについて調査されていない。
4)呼吸困難に影響を与えると考 えられる因子の評価が十分ではない。例えば胸水や腹水の量やCTでの評価、使用されたオピオイド鎮痛薬の量、酸素投与量などが挙げられる。本研究で明らかとなった因子と呼吸困難出現との関連性を明確にするためには、大規模な前向き観察研究が必要である。

[結語]
原発性肺癌、PS不良、腹水の3因子が終末期がん患者における、呼吸困難出現の予測因子として同定された。医療者はこれらの3因子を有する終末期がん患者を診療する際には、7日以内に呼吸困難が出現する可能性があることを考慮して診療にあたることが推奨される。

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