リケラボ論文検索は、全国の大学リポジトリにある学位論文・教授論文を一括検索できる論文検索サービスです。

リケラボ 全国の大学リポジトリにある学位論文・教授論文を一括検索するならリケラボ論文検索大学・研究所にある論文を検索できる

リケラボ 全国の大学リポジトリにある学位論文・教授論文を一括検索するならリケラボ論文検索大学・研究所にある論文を検索できる

大学・研究所にある論文を検索できる 「アトピー性皮膚炎に係る黄色ブドウ球菌に対する表皮ブドウ球菌併用ファージセラピー」の論文概要。リケラボ論文検索は、全国の大学リポジトリにある学位論文・教授論文を一括検索できる論文検索サービスです。

コピーが完了しました

URLをコピーしました

論文の公開元へ論文の公開元へ
書き出し

アトピー性皮膚炎に係る黄色ブドウ球菌に対する表皮ブドウ球菌併用ファージセラピー

島守, 祐月 シマモリ, ユヅキ 群馬大学

2021.09.30

概要

アトピー性皮膚炎患部の皮膚細菌叢の特徴のひとつとして、健常な皮膚細菌叢では稀にしか単離されない黄色ブドウ球菌が過剰増殖して優勢となる現象がみられる。その原因の詳細は解明されていないが、アトピー性皮膚炎の重症度と黄色ブドウ球菌の定着の程度について相関があることや、黄色ブドウ球菌の産生する毒素がアトピー性皮膚炎の炎症を悪化していることが報告されている。

本研究では、ヒトの皮膚細菌叢において有益な共生細菌である表皮ブドウ球菌を併用したバクテリオファージを利用した治療(ファージセラピー)を提案した。これまで、ファージセラピーには様々な解決すべき課題があり実用化には至っていなかった。本研究では、ファージセラピーの抱える課題の解決に努めることと、表皮ブドウ球菌併用ファージセラピーのアトピー性皮膚炎に対する治療効果を評価することを目的とし、アトピー性皮膚炎における黄色ブドウ球菌感染治療法の確立を目指した。第1章では、ファージセラピーの背景などを解説した。

第2章では、ファージの単離及び特徴付けについて報告した。まず初めに、岐阜県の下水からアトピー性皮膚炎由来臨床分離株黄色ブドウ球菌に感染するファージ SaGU1 を単離した。SaGU1 は Myoviridae の溶菌ファージであり、ゲノム解析により 140,909 bp の 2本鎖 DNA のゲノムを持つことがわかった。次に、単離した SaGU1 が表皮ブドウ球菌併用ファージセラピーに適性のあるファージであること確かめるための試験を行った。ファージセラピーに課せられた課題のうち、次の 3 つの課題に沿いながら SaGU1 の特徴付けを行った。1 つめの課題は、SaGU1 が治療薬としての安全性を持つことである。ゲノム解析における遺伝子のアノテーションにおいては、SaGU1 にコードされた遺伝子はいずれも毒性遺伝子や薬剤耐性遺伝子は該当しなかった。この結果より、SaGU1 はコードする遺伝子配列的に安全であるファージであることが確認された。2 つめの課題は、SaGU1 が適正な宿主域を持つことである。SaGU1 は宿主域試験において、アトピー性皮膚炎由来臨床分離株黄色ブドウ球菌 19 株のうち 17 株に感染し、表皮ブドウ球菌を含む他の細菌種には感染しなかった。本研究においては黄色ブドウ球菌特異的に感染し、表皮ブドウ球菌には感染しない宿主域のファージが求められるが、SaGU1 はこの条件を満たすファージであることが確認された。3 つめの課題は、SaGU1 が投与された患部において殺菌効果を維持できる安定性を持つことである。SaGU1 は 4°C から 40°C および pH 4 から pH 10 の条件下で安定した宿主溶菌活性を示した。よって、SaGU1 はアトピー性皮膚炎の患部である表皮上で溶菌活性を保つことが出来る安定性を持つことが確認された。以上の結果より、SaGU1がアトピー性皮膚炎に対する表皮ブドウ球菌併用ファージセラピーに適性のあるファージであると確認した。

第 3 章では、SaGU1 を用いて、in vitro 及び in vivo でのファージセラピー試験を行った。本章においてはファージセラピーの重要な課題の一つであるファージ耐性菌の発生に着目し、表皮ブドウ球菌 10F-1 との併用による治療効果だけでなく SaGU1 耐性黄色ブドウ球菌 24L-1 に対する抑制効果について評価した。In vitro 感染実験では、SaGU1 の投与量に関わらずアトピー性皮膚炎臨床分離株黄色ブドウ球菌 24L-1 株を検出限界以下まで殺菌したが、培養開始 14 時間後には SaGU1 を添加した全ての試験区において SaGU1 耐性黄色ブドウ球菌が発生した。SaGU1 は健常者由来表皮ブドウ球菌 10F-1 株の生育には影響しなかった。また黄色ブドウ球菌 24L-1 株に対して 100 倍の表皮ブドウ球菌 10F-1 株を混合培養した場合には、培養開始から 24 時間後の黄色ブドウ球菌 24L-1 株の菌数は表皮ブドウ球菌を混合培養しなかった試験区と比較して 100 分の 1 程度少なかった。この結果より、表皮ブドウ球菌が黄色ブドウ球菌の増殖を阻害したと示唆された。

黄色ブドウ球菌 24L-1 株と表皮ブドウ球菌 10F-1 株を混合培養した状態に SaGU1 を加えた場合(SaGU1・表皮ブドウ球菌 10F-1 株併用試験)では、黄色ブドウ球菌 24L-1 株に対して MOI 1000 の SaGU1 と 100 倍の表皮ブドウ球菌 10F-1 を併用すると、培養開始 24 時間後まで SaGU1 耐性黄色ブドウ球菌 24L-1 株が検出されなかった。In vivo 感染実験では、DNCB 誘発アトピーモデルマウスを使った動物実験を行った。背面皮膚にアトピー性皮膚炎由来黄色ブドウ球菌臨床分離株を感染させたマウスに対して、SaGU1 と表皮ブドウ球菌 10F-1 株は、単用及び併用投与においてそれぞれ有意に黄色ブドウ球菌の菌数を抑制した。また、アトピー性皮膚炎の指標の一つである血中総 IgE 値の測定試験では、 SaGU1 と表皮ブドウ球菌 10F-1 株は有意に総 IgE 値を下げ、この結果は背面表皮の肥厚観察結果と相関がみられた。in vivo 感染実験では SaGU1 と表皮ブドウ球菌 10F-1 株の単用投与と併用投与の結果に有意差は見られず、また併用投与による症状の悪化を初めとする悪影響も無かった。このように in vitro 試験において SaGU1 と表皮ブドウ球菌 10F-1株の併用治療は、ファージ耐性黄色ブドウ球菌 24L-1 株の増殖を有意に抑制し、ファージセラピーの重要な課題の一つであるファージ耐性菌の増殖に対して有効な抑制効果を示すことが出来た。

本研究の結果より、表皮ブドウ球菌併用ファージセラピーは、ファージセラピーのアトピー性皮膚炎の治療法としての可能性を見出しただけでなく、ファージ耐性菌に対する有効な増殖抑制法の一つとなる可能性も示すことができた。

全国の大学の
卒論・修論・学位論文

一発検索!

この論文の関連論文を見る