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大学・研究所にある論文を検索できる 「東日本大震災後の小児の喘息及びアトピー性皮膚炎の有症率 : 地域子ども長期健康調査」の論文概要。リケラボ論文検索は、全国の大学リポジトリにある学位論文・教授論文を一括検索できる論文検索サービスです。

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東日本大震災後の小児の喘息及びアトピー性皮膚炎の有症率 : 地域子ども長期健康調査

宮下 真子 東北大学

2020.03.04

概要

2011 年 3 月 11 日のマグニチュード 9.0 の大地震とそれに伴う津波により、震源地に最も近い宮城県は、沿岸部を中心に甚大な被害を受けた。地震や津波による家屋の全壊や半壊、医療機関の被災による外来の受け入れ制限以外にも、震災から 1 ヶ月以上にわたり水道やガスなどライフラインの遮断が続き、この間、被災した人々は入浴などの日常生活の多くが制限された。特に小・中学生においては、被害の大きかった地域で損壊を免れた小・中学校の校庭や体育館が避難所となったために通常の授業再開までに数ヶ月以上がかかったり、再開後も休み時間に校庭に出られなかったりした。さらに津波により校舎が全壊や一部損壊した小・中学校においては他の小・中学校の空き教室や他の場所に建設された仮設校舎にて数年間にわたり授業が行われるところもあった。このように家庭においても学校においてもこれまでとは異なる環境で生活を送ることが余儀なくされた小・中学生の喘息やアトピー性皮膚炎への影響が懸念された。東日本大震災に関して保育所を対象に行われた調査では、宮城県の保育園児において喘息及びアトピー性皮膚炎の有症率が被災地以外における有症率よりも高いことが報告されている。しかし小・中学生における喘息及びアトピー性皮膚炎に関して震災後の中長期的な症状の把握及び震災との関連について検討されていない。このため本研究では東日本大震災の被災地域に住む子どもを対象に喘息及びアトピー性皮膚炎の症状の有症率を把握するとともに震災との関連を検討する。また、喘息の既往をもつ子ども及びアトピー性皮膚炎の既往をもつ子どもを対象に、東日本大震災直後 1 か月以上の治療の中断の有無と震災後 1 年以内の症状の再発/悪化の有無と震災から数年後の喘息症状とアトピー性皮膚炎の症状との関連を明らかにする。

東北大学 東北メディカル・メガバンク機構 地域子ども長期健康調査において、2013 年から 2015 年の調査で得られた宮城県内の公立小・中学校に在籍する子ども 13,799 人分の保護者から有効回答を得られた調査票調査のデータを対象に統計解析を行った。はじめに 2012 年から 2014 年に調査を行い先行してデータが揃った宮城県南部の子ども 7,155 人分のデータを対象として解析を行い、震災数年後にあたる調査時点における喘息及びアトピー性皮膚炎の有症率を集計するとともに津波の経験や居住地域など震災関連の項目と有症率との関連を検討した。次に、震災後 1 ヵ月以上にわたる治療の中断の有無、及び震災後 1 年以内の症状の再発悪化の有無と震災数年後における喘息及びアトピー性皮膚炎の有症率との関連を調べるために、震災前に喘息と診断されたことがある 2,399 人、アトピー性皮膚炎と診断されたことがある 2,107 人のデータを対象として解析を行った。震災後 1 ヵ月以上にわたる治療の中断の有無、及び震災後 1 年以内の症状の再発悪化の有無に関しては、東日本大震災発生前までに喘息及びアトピー性皮膚炎の診断を受けていた子どもを対象に、保護者に震災時の状況を思い出してもらう方法で震災後 1 ヵ月以上にわたる治療の中断があったか、震災後 1年以内の症状の再発悪化があったかを 2 択式の回答法にて質問をした。震災から数年後となる調査時点における喘息及びアトピー性皮膚炎の症状の確認には International Study of Asthma and Allergies Childhood(ISAAC)を使用した。津波経験の有無や沿岸部居住の有無など震災関連の項目及び震災後 1 ヵ月以上にわたる治療の中断の有無、及び震災後 1 年以内の症状の再発悪化の有無と、調査時点における喘息及びアトピー性皮膚炎の有症率との関連を調べるために、単回帰分析にて統計的に有意差を認めた項目それぞれによる補正のもとロジスティック回帰分析を行い、震災関連の項目について調査時点における喘息及びアトピー性皮膚炎の症状を有するオッズ比を求めた。

小・中学生の調査時点における湿疹の有症率は居住地域が沿岸では 17.1%、内陸では 15.6%であり湿疹を有することと沿岸地域への居住とは正に関連していた(Odds Ratio, OR : 1.18、95% Confidence Interval, 95%CI : 1.02 – 1.36)。また重症のアトピー性皮膚炎の有症率は津波の経験ありでは 2.2%、津波の経験なしでは 1.5%であり重症のアトピー性皮膚炎を有することと津波の経験とは正に関連していた(OR : 1.74、 95%CI : 1.01 – 2.99)。また、小・中学生の調査時点における喘鳴及び重症の喘息の有症率は、2012 年では11.3%、3.5%、2013 年では 9.3%、3.0%、2014 年では 8.9%、2.4%であり、喘鳴、重症の喘息ともに 2012年と比較して 2014 年の有症率は有意に下がっていた(喘鳴OR : 0.64、95%CI : 0.49 – 0.84、重症の喘息 OR : 0.57、95%CI : 0.35 – 0.92)。

喘息の既往のある 2,399 人のうち、震災から 2~4 年後において喘鳴症状があったのは 750 人(31.3%)で、 2011 年の震災直後に治療を中断かつ震災 1 年以内に症状が再発または悪化した 111 人のうち、震災から 2~4年後において喘鳴やかゆみを伴う湿疹症状があるのは 88 人(79.3%)であった ( P < 0.0001)。震災から 2~4 年後において重症の喘息症状があったのは 253 人(10.5%)で、2011 年の震災直後に治療を中断かつ震災 1 年以内に症状が再発または悪化した子ども 111 人のうち、震災から 2~4 年後において重症の喘息症状があったのは 46 人(41.4%)であった ( P < 0.0001)。震災から 2~4 年後における喘鳴は、震災直後の治療中断と症状の再発/悪化の各組み合わせと正の関連があり、震災直後の治療の中断及び震災後 1 年以内の症状の再発/悪化がともになかった子どもと比較すると、震災直後の治療の中断及び震災後 1 年以内の症状の再発/悪化がともにあった子どもにおける喘鳴を有するオッズ比は 11.8(95%信頼区間 7.3-19.0)、震災から 2~4 年後の重症の喘息症状を有するオッズ比は 9.7(95%信頼区間 6.4 - 14.9)であった。また、アトピー性皮膚炎の既往のある 2,107 人のうち震災から 2~4 年後においてかゆみを伴う湿疹症状があるのは 947 人(45.0%)で、2011 年の震災直後に治療を中断かつ震災 1 年以内に症状が再発または悪化した子ども 271 人のうち、震災から 2~4 年後においてかゆみを伴う湿疹症状があるのは 227 人(83.8%)であった ( P < 0.0001)。震災から 2~4 年後において重症のアトピー性皮膚炎の症状があったのは 253 人(10.5%)で、2011 年の震災直後に治療を中断かつ震災 1 年以内に症状が再発または悪化した子ども 271 人のうち、震災から 2~4 年後において喘鳴やかゆみを伴う湿疹症状があるのは 49 人(18.1%)であった ( P < 0.0001)。震災から 2~4 年後における湿疹は、震災直後の治療の中断及び震災後 1 年以内の症状の再発/悪化がともになかった小・中学生と比較すると、震災直後の治療の中断及び震災後 1 年以内の症状の再発/悪化がともにあった子どもにおける湿疹を有するオッズ比は 11.4(95%信頼区間 8.1-16.1)、震災から 2~4 年後の重症のアトピー性皮膚炎症状を有するオッズ比は 9.1(95%信頼区間 5.6 - 14.9)であった。

東日本大震災時に 1 か月以上の治療中断があった小・中学生や、震災後 1 年以内に症状の再発/悪化があった小・中学生の半数以上は、震災数年後でも喘息およびアトピー性皮膚炎の症状を有している。震災数年後の湿疹の有症率には、震災直後 1 か月以上の治療中断や震災後 1 年以内に症状の再発/悪化以外にも、沿岸地域への居住、震災時の津波の経験など東日本大震災の影響が関連している可能性がある。喘息・アトピー性皮膚炎を有する子どもたちが震災直後も治療や日常的なケアを継続できるような支援と、症状の再発/悪化の予防や早期発見が重要である。さらに震災直後に症状が再発/悪化した場合は、震災後も長期的に経過をみていく必要がある。

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