リケラボ論文検索は、全国の大学リポジトリにある学位論文・教授論文を一括検索できる論文検索サービスです。

リケラボ 全国の大学リポジトリにある学位論文・教授論文を一括検索するならリケラボ論文検索大学・研究所にある論文を検索できる

リケラボ 全国の大学リポジトリにある学位論文・教授論文を一括検索するならリケラボ論文検索大学・研究所にある論文を検索できる

大学・研究所にある論文を検索できる 「東日本大震災に被災した仮設住宅住民における気分・不安障害および物質関連障害の有病率、罹患率、心理的ストレスおよび関連要因」の論文概要。リケラボ論文検索は、全国の大学リポジトリにある学位論文・教授論文を一括検索できる論文検索サービスです。

コピーが完了しました

URLをコピーしました

論文の公開元へ論文の公開元へ
書き出し

東日本大震災に被災した仮設住宅住民における気分・不安障害および物質関連障害の有病率、罹患率、心理的ストレスおよび関連要因

下田, 陽樹 東京大学 DOI:10.15083/0002001762

2021.10.04

概要

わが国は自然災害の発生が多く、その被害についても大規模化しやすい特性を有している。自然災害はそれに伴う環境の激変、心的外傷となる出来事への曝露などを通して人々に急性のストレスを引き起こす。また災害から派生した二次的な状況、継続する生活上の困難を介して被災者の精神的健康に影響し、広い範囲の心理的ストレス反応を増加させる。
 本研究は、東日本大震災に被災した岩手県沿岸部の仮設住宅に居住する住民における気分・不安障害、物質関連障害の有病率、累積罹患率、心理的ストレスの分布を明らかにして非被災地域住民と比較し、被災地域における精神疾患の分布およびその関連要因を明らかにする目的で実施した。また、診断評価された気分・不安障害と、そのスクリーニングに用いられることの多い心理的ストレス反応について、それぞれの関連要因に相違があるか比較検討した。

方法
 東日本大震災により甚大な被害を受けた岩手県沿岸部に位置する陸前高田市において、2ヵ所の大規模な仮設住宅に居住する20歳以上の住民437人に協力を依頼し、2014年6月から8月にかけて調査を実施した(以下、仮設住宅住民調査)。
 またストレスと健康・全国調査2014として、関東地方を除く東日本に居住する20歳以上75歳未満の男女から、住民基本台帳により37地点から50人ずつ無作為抽出した1850人を調査対象として協力を依頼し、2014年8月から12月にかけて調査を実施した。本研究では岩手県仮設住宅住民の分析における比較対照群として、政令指定都市及び特別区の住民(7地点350人)を除外した1500人を対象者とした(以下、東日本地域住民調査)。
 仮設住宅住民調査および東日本地域住民調査はともに、面接調査と自己記入式調査票による留置調査とで構成された。面接調査では、訓練を受けた調査員が対象者の自宅を訪問し、WHO統合国際診断面接(CIDI)による調査を行った。留置調査では心理的ストレス反応の尺度であるK6を含む自己記入式調査票による調査を行った。CIDIの面接結果から、DSM-IV診断基準に基づいて9つの精神疾患(大うつ病性障害、気分変調性障害、双極I型障害、双極II型障害、心的外傷後ストレス障害(PTSD)、全般性不安障害、パニック障害、アルコール乱用、アルコール依存)を診断評価して、生涯有病率、12ヵ月有病率、震災後の累積罹患率を求めた。また心理的ストレスの指標として、K6の尺度得点(0-24点)を求めた。分析では先行研究に従い、カットオフとして4/5(心理的ストレス反応相当)、9/10(気分・不安障害相当)、12/13(重症精神障害相当)を用いた。
 統計解析においては、初めに仮設住宅住民群と東日本地域住民群における、基本要因(性別、年齢、婚姻状況、教育歴)および震災関連要因(震災時の自身の怪我、家族・親戚や知り合い・友人との震災時の死別経験)の分布について比較した。また仮設住宅住民群では、既往歴(震災前の身体疾患および精神疾患)の分布を求めた。続いて両群における生涯および過去12ヵ月間の精神疾患の有病率、震災後の累積罹患率の比較を行い、ロジスティック回帰分析により性別・年齢・教育歴・婚姻状況を調整したオッズ比および95%信頼区間を求めた。また、これら2群におけるK6得点の平均値を分散分析により、基本要因の調整平均値を共分散分析により求め、得点別(0-4点、5-9点、10-12点、13点以上)にその割合を比較した。また仮設住宅住民群において、過去12ヵ月間の精神疾患の有病率、震災後の累積罹患率、調査時のK6得点について、ロジスティック回帰分析により基本要因、震災関連要因、既往歴との関連を解析した。
 本研究は、東京大学大学院医学系研究科・医学部の研究倫理審査会の承認を得て実施した(審査番号10131)。

結果
 仮設住宅住民調査では、437人に調査への協力を依頼して242人(55.4%)から回答を得た。東日本地域住民調査では、1500人に調査への協力を依頼して719人(47.9%)から回答を得た。
 CIDIの診断評価による精神疾患の生涯有病率については、仮設住宅住民群では東日本地域住民群と比較して、男性では全般性不安障害で有病率が有意に高く、女性ではいずれかの気分・不安障害を有している者が有意に多く、疾患別には大うつ病性障害、全般性不安障害で有病率が有意に高かった。12ヵ月有病率では、男性では仮設住宅住民群でいずれかの気分・不安障害を有している者が多かったが、有意差は認められなかった。心的外傷後ストレス障害、全般性不安障害は仮設住宅住民群でのみ、大うつ病性障害、アルコール乱用は東日本地域住民群でのみ、過去12ヵ月の有病者が認められた。女性では仮設住宅住民群でいずれかの気分・不安障害を有している者が有意に多く、疾患別には全般性不安障害で有意に有病率が高かった。アルコール乱用については、女性においても東日本地域住民群でのみ有病者が認められた。東日本大震災後に精神疾患を新規発症したと診断された者の割合については、男性では仮設住宅住民群でいずれかの気分・不安障害を発症した者が多かったが、有意差は認められなかった。新たな全般性不安障害の発症は仮設住宅住民群でのみ、アルコール乱用の発症は東日本地域住民群でのみ認められた。女性では、仮設住宅住民群でいずれかの気分・不安障害を発症した者が有意に多く、疾患別には大うつ病性障害で有意に有病率が高かった。新たな心的外傷後ストレス障害、全般性不安障害の発症は仮設住宅住民群でのみ、アルコール乱用の発症は東日本地域住民群でのみ認められた。
 K6得点は、単純平均値、基本要因を調整した平均値ともに、女性において仮設住宅住民群で有意に高値となった。得点別の割合にも有意差がみられ、5-9点、10-12点、13点以上を示した割合はいずれも仮設住宅住民群で高かった。男性においては、単純平均値、調整平均値ともに仮設住宅住民群においてやや低値であり、得点別の割合にも有意差は認められなかった。
 仮設住宅住民群において、いずれかの気分・不安障害の12ヵ月有病率および震災後に発症したいずれかの気分・不安障害の累積罹患率と、基本要因、震災関連要因、既往歴との関連をロジスティック回帰分析により検討した結果、震災時の自身の怪我が、12ヵ月有病率および累積罹患率とそれぞれ有意に関連していた。また調査時点におけるK6得点について同様の分析を行った結果、女性であることが、K6得点が5点以上であることと有意な関連を示した。

考察
 本研究では東日本大震災に被災した岩手県の仮設住宅住民と、関東地方を除く東日本の一般地域住民における精神疾患の生涯有病率、12ヵ月有病率、震災後の累積罹患率、調査時の心理的ストレスおよびその関連要因について比較検討した。
 いずれかの気分・不安障害の有病率については、女性において生涯有病率、12ヵ月有病率ともに仮設住宅住民群で東日本地域住民群よりも有意に高値となった。このことは震災後の大うつ病性障害、PTSD、全般性不安障害の増加を反映しているものと考えられる。
 東日本大震災後の新たな精神疾患の発症については、東日本地域住民群と比較して、仮設住宅住民群の女性において震災後にいずれかの気分・不安障害を発症した者が有意に多く、疾患別には大うつ病性障害が有意に多かった。また仮設住宅住民群でのみ、男性では全般性不安障害の、女性ではPTSDおよび全般性不安障害の新たな発症が認められた。先行研究においても、大うつ病性障害、PTSD、全般性不安障害については災害後の高い発症者割合が報告されており、本研究の結果と一致する。累積罹患率では、生涯有病率および12ヵ月有病率よりも顕著な差が2群間で示された。災害後の精神的問題を把握するための指標として、累積罹患率は調査の時期による影響の少ない鋭敏な指標であると考えられる。
 K6得点は、女性において仮設住宅住民群で東日本地域住民群よりも有意に高値となった。女性において、急性期の心理的ストレス反応が遷延化している可能性、また災害後の継続した生活上の困難が、男性よりも強く影響している可能性が考えられる。
 気分・不安障害の有病率および累積罹患率との間で有意な関連が示された震災時の自身の怪我は、K6得点とは有意な関連が認められなかった。自然災害などの状況下における優先的なケアの提供や、被災者援助対策の策定にあたっては、大規模な質問紙調査の活用が重要である。しかし、そのためのベストカットオフによる判別は、臨床的な診断と必ずしも重なるものではない。精神医学的病態の評価のためには、医師による問診や構造化面接法による診断が必要であり、研究調査の目的に応じた適切な調査手法、統計指標の選択が重要である。

結論
 東日本大震災に被災した仮設住宅住民では、非被災地域の東日本地域住民と比較して、震災から3年以上が経過した調査時点におけるいずれかの気分・不安障害の生涯有病率、12ヵ月有病率、震災後の累積罹患率がいずれも高く、その差は特に女性で大きかった。疾患別にはPTSD、全般性不安障害、また女性では大うつ病性障害が多く、心理的ストレスも仮設住宅住民群の女性において多く見られた。いずれかの気分・不安障害の12ヵ月有病率、震災後の累積罹患率との関連要因の分析では、震災時の自身の怪我が有意に関連していた。調査時の心理的ストレスとは、女性であることが有意に関連していた。わが国において、構造化面接法による診断に基づいて、被災地域の仮設住宅住民における精神疾患の有病率、累積罹患率を明らかにした研究は少なく、本研究の結果は災害後の精神的問題について重要な知見を示すものであるが、精神疾患および心理的ストレスの関連要因については、今後より大規模な調査による検討が必要である。

全国の大学の
卒論・修論・学位論文

一発検索!

この論文の関連論文を見る