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大学・研究所にある論文を検索できる 「盲導犬の適性気質に関わる行動遺伝学的研究」の論文概要。リケラボ論文検索は、全国の大学リポジトリにある学位論文・教授論文を一括検索できる論文検索サービスです。

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盲導犬の適性気質に関わる行動遺伝学的研究

小佐々, 大煕 東京大学 DOI:10.15083/0002004957

2022.06.22

概要

盲導⽝は、視覚障害者が制限なく望み通りの場所に⾏き、⾃由に⾏動できるよう補助する役割を果たしている。さらに盲導⽝は、障害者の精神的な⽀えとなると同時に、周囲からのサポートを受けるための⼀助ともなっていると考えられることから、⼯学的な機能代⾏⼿段では単純に置き換えられない重要な存在となるが、育成効率の低さから,その数は慢性的に不⾜している。盲導⽝候補個体は,訓練中に不適格と判断されることが多いが,その主な理由は⾝体的疾患ではなく,“気質”に由来することが国内外で報告されている。獣医動物⾏動学研究室において、盲導⽝の早期適性予測を⽬指して、国内最⼤規模を誇る⽇本盲導⽝協会との共同研究により、153個体を対象として、22項⽬から構成される訓練⼠による気質評価を⽤いて解析を⾏ったところ、“注意散漫”、“感受性”、“従順さ”の3気質因⼦が抽出され、全ての因⼦が盲導⽝適性と有意に関連することなどが判明した。しかしながら、気質因⼦の抽出の際に使⽤した個体数が少ないこと、本先⾏研究公表から9年が経過し、その間に出産および早期育成拠点が神奈川から静岡に移動したこと、気質を評価する訓練⼠が徐々に交替してしまっていること、他協会からの候補⽝受⼊れが増加したことなどの理由から、3気質因⼦モデルの再現性について、疑念が⽣じていた。そこで本研究では、2015年までに⽇本盲導⽝協会に⼊舎した多数の個体を供試して、先⾏研究の気質因⼦モデルの再現性について確認し、必要に応じて新しい気質因⼦モデルを構築し、各気質因⼦と適性の関係を明らかにするととともに、より早期に気質特性を判断する⼀助として気質関連遺伝⼦を探索することを⽬的とした。

本論⽂は5章から構成され、第1章において研究の⽬的と背景を論じた後、第2章から第4章では本研究にて実施した実験について記述し、第5章にて本研究で得られた成果をもとに総合的な考察を⾏った。

第2章では、先⾏研究にて抽出された気質因⼦モデルの再現性を確認した上で,適切な気質モデルを構築することを⽬的として、763個体を供試し、訓練⼠による気質評価情報をもとに複数の⽅法を適⽤しながら解析を⾏った。

第1節では、先⾏研究にて抽出された盲導⽝の適性に関わる3気質因⼦から構成されるモデルが、近年の集団に適合しているかを確認するために、確証的因⼦分析を実施した。適合度を評価する⽅法としては、モデルを当てはめた際に残差分散共分散の成分が全体としてどの程度になるのかということを評価するStanderdized Root Mean Square Residualなどを含む7指標を採択した。その結果、先⾏研究により抽出された気質モデルは、全ての指標において基準を満たさないことが明らかとなり、気質モデルの再抽出を⾏う必要性が⽰唆された。

第2節では、第1節の結果を踏まえて全集団をランダムに3分割し、そのうちの2集団を⽤いて探索的因⼦分析および探索的グラフィック解析を⽤いた気質の再抽出を⾏った。探索的因⼦分析においては“注意散漫”、“従順さ”の2気質で構成されるモデル、探索的グラフィック解析においては“注意散漫”、“感受性”、“順従さ”の3気質で構成されるモデルが抽出され、いずれの気質因⼦も先⾏研究と同⼀もしくは類似した項⽬より構成されていた。

3節では、第2節で抽出された気質の適合度を評価するため、分割した3集団のうち、抽出に使⽤していない集団を⽤いて確証的因⼦分析を⾏った。その結果、全ての⽅法にて抽出された気質モデルが先⾏研究よりは適合していると判断されたものの、いずれの指標でも基準を超えることはなかった。よって、モデルで仮定する因⼦数を減らすという⼿法を⽤いて、探索的グラフィック解析で得られた気質のうち“感受性”を除いた“注意散漫”と“順従さ”で構成される気質因⼦モデルで再解析したところ、7指標の基準のうち5つを満たしたことから、本解析の“注意散漫”と“順従さ”で構成されるモデルが最も適合していると判断された。

本章において先⾏研究における気質モデルが、現時点においては、⼗分には適合していないことが確認された。これは分析⽅法の変更に依るところもあると思われるが、⺟集団の構成が⼤きく変化したことなどの要因が影響したものと推察された。本章にて再抽出された“注意散漫”は、オーストラリアの先⾏研究にて抽出された“distraction”に構成項⽬が類似していること、多くの個体を供試したこと、多くの訓練⼠が気質を評価していることなどから、より普遍的な気質因⼦と考えられた。

第3章では、⺟集団に適合した気質因⼦と⽰唆された“注意散漫”と“従順さ”について、盲導⽝適性との関係を検討した。また、これらの気質因⼦が遺伝的要因により決定されている程度を知るために、遺伝率を推定した。

第1節では、盲導⽝の適否を⽬的変数、各気質スコア、被⽑⾊および出⽣年を説明変数として、多変量ロジスティック回帰分析を⾏った。その結果、いずれの説明変数も盲導⽝適性に有意に寄与していることが判明し、疑似決定係数は0.23であった。

第2節では、⽇本盲導⽝協会にて蓄積された最⼤17代前までの⾎縁情報と、解析対象個体の性別、⽑⾊、出産場所および出⽣年を⽤いて、制限付き最尤法にて遺伝率の推定を⾏ったところ、“注意散漫”の遺伝率は0.48、“従順さ”の遺伝率は0.40であった。

本章により、前章で抽出された気質因⼦が盲導⽝適性に寄与していることが確認されたものの、疑似決定係数が低かったことから、本章で解析した説明変数以外にも多くの要因が盲導⽝適性に関与していることが⽰唆された。遺伝率については、両気質ともにヒトの気質で報告されているものと同程度であること、ヒトでは気質に関連する遺伝的多型の⼀部が判明しつつあることから、盲導⽝についてもこれらの気質に関連する遺伝的多型を探索する研究の妥当性が⽰唆された。

第4章では、盲導⽝の適性気質である“注意散漫”因⼦に焦点を絞り、関連する遺伝的多型を探索した。

第1節では、ゲノムワイド関連解析(Genome Wide Association Study:GWAS)を実施した。GWASに先駆け、これまでに供試した763個体より“注意散漫”スコアをもとに216個体を選抜し、⾎液よりDNAを抽出した上で、外部委託によるジェノタイピング(Illumina社のCanine Whole-Genome Genotyping Bead Chipを採択)を実施した。得られたタイピングデータのクオリティコントロールを⾏った結果、最終的に107,664個の⼀塩基多型(Single Nucleotide Polymorphism:SNP)および215個体を使⽤して解析を継続した。解析⽅法としては、“注意散漫”スコアを2分割しアレル⽐較を⾏う⽅法と、“注意散漫”スコアを連続量として線形回帰分析をする⽅法を採択した。解析の結果、最もP値が低いSNP(TopSNP)は両解析⽅法で⼀致しており、P値がボンフェローニ補正後の有意⽔準である5×10-7を下回ることが明らかとなった。しかしながら、集団内に遺伝的構造化(層化)が存在することが⽰唆されたため、アレル⽐較では個体間の遺伝的距離をもとにした主成分分析から、集団より解離していると思われた22頭を除外し再解析を⾏ったところ、有意ではなくなったものの同⼀SNPがTopSNPとして検出された。また、線形回帰分析の結果を補正する⽅法として、線形混合モデルにて個体間の遺伝的近縁係数をランダム効果として⽤いることにより層化を補正したところ、同⼀SNPが有意であることが確認された。

第2節では、前節にて検出されたTopSNPについて他個体でも同じ関連性が認められるかを確認することとした。残念ながら、追解析群では有意な結果を得ることはできなかったものの、GWASの結果と同様にマイナーアレルを持つ個体群の“注意散漫”スコアの平均値が⾼くなることが判明した。

本章で気質との関連が疑われたTopSNPは36番染⾊体のplakophilin4遺伝⼦上に存在しており、本遺伝⼦上にはTopSNPと連鎖している複数のSNPが存在していたことから、本遺伝⼦領域を詳細に調べることが、原因多型の同定に繋がるかもしれない。

第5章では、総合考察を⾏なった。本研究により、2004〜2014年に⼊舎した盲導⽝候補個体全体に適合する、“注意散漫”と“従順さ”より構成される気質因⼦モデルが再抽出され、それぞれの気質因⼦が盲導⽝適性に関与し、遺伝率は0.4〜0.5であることが確認された。また、GWASにて“注意散漫”気質因⼦に関わる遺伝的多型の探索を⾏った結果、36番染⾊体上に関連が疑われるSNPが検出された。

本研究により、⽇本盲導⽝協会に⼊舎する盲導⽝候補個体の適性に関わる気質の⼀端が明らかとなり、遺伝⼦検査により幼少期に盲導⽝の気質特性を判断する道筋が拓かれた。従来⽇本盲導⽝協会では、攻撃性という明確な表現型を育種という⼿法によって遺伝的プールから排除することに成功してきた。⼀⽅で、本研究で対象としたような気質は、攻撃性に⽐べて遺伝率も低く表現型が複雑であることから、幼少期にその特性を判断することは難しい。しかしながら本研究が発展し、盲導⽝適性気質の遺伝的背景が明らかになれば、他の表現型へ悪影響を与えないよう慎重を期しながら、徐々に遺伝的プールから排除することも可能になると思われる。こうした研究の積み重ねによって、盲導⽝の育成効率が格段に向上することが期待される。

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