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書き出し

リンゴ果実における昆虫の食害に対する化学的防御応答の解明

大畑, 勇統 京都大学 DOI:10.14989/doctor.k24666

2023.03.23

概要

リンゴ果実における昆虫の食害に対する化学的防御応答の解明
大畑勇統
緒言
農林水産省から発表された「みどりの食料システム戦略」
(2021 年)では,食料・農林水産業の生産力
向上と持続可能の両立が求められ,特に化学農薬の低減を目的とする研究開発が 2025 年までの達成目標
となっている.しかし,リンゴは無農薬で栽培するとその収量は 3%以下に低下するほど化学農薬に大き
く依存する作物である.中でも,モモシンクイガは幼虫が果実を食
100

害し,害虫防除経費の 50%を占めるリンゴ栽培のキーペストであ
る.さらに,日本のリンゴ輸出最大の相手である台湾への輸出にお

Tree Factor

ける検疫害虫としても重要視されている.これを解決する糸口とし
てリンゴの一部品種(
‘ふじ’,
‘ジョナゴールド’
)においてモモシ

93.7%

50

%

ンクイガ幼虫の果実内死亡率が著しく高い現象に注目した.この現

14.9%
0

1

象は果実が樹に実った状態(着果)でのみ確認され,樹から摘み取
った果実(摘果)では幼虫は正常に生育する (Fig. 1).本研究では,

2

(n = 61 – 67, Ishiguri and Toyoshima, 2006)

Fig.1

この新奇な現象を以下の 2 点の観点から解明し,本来の抵抗性を利

Tree Factor

用した省農薬化リンゴ栽培への応用を目指す.
① リンゴ果実の化学的防御機構
上記のモモシンクイガに対する抵抗性は果実の化学的防御であると推測した.しかし,これまで貯蔵
器官とみなされてきた果実の防御応答はほとんど知られていない.
② 着果と摘果の違い
着果のみで抵抗性が発現することから着果に特異的な生理制御因子 (Tree Factor) がはたらくと考え
られる.本研究では師管液成分に着目し,師管液が抵抗性発現にかかわるかを調べる.


リンゴ果実の化学的防御機構の解明

①-1 モモシンクイガの食害により果実に誘導される代謝物の分析
植物の葉は一般的に昆虫の食害に応答し,様々な二次代謝物を誘導,蓄積
する.リンゴ果実においてもモモシンクイガの食害に応答して誘導される二
次代謝物があると推測し,LCMS 分析と主成分分析をカップリングさせた網

CGA (catechol

)

CoQA (phenol

)

羅的代謝物分析を行った.その結果,幼虫の食害で誘導される二次代謝物と
してフェニルプロパノイド類縁体であるクロロゲン酸類 2 種 (chlorogenic
acid, CGA; p-coumaroylquinic acid, CoQA) とトリテルペン類 3 種 (eriobotoric
acid, pomaceic acid, euscaphic acid) の計 5 種の化合物を同定した (Fig. 2, 3).
クロロゲン酸やトリテルペン類は植物の防御物質として知られ,リンゴ果実
もモモシンクイガに対する防御物質としてこれら化合物を誘導すると推測した.

Fig. 2

①-2 トリテルペン類の生理活性
Fig. 3 のトリテルペン類 3 種の生理活性を調べるため,モモシンクイガを含む鱗翅目幼虫 5 種にこれら
を摂食させた.その結果,リンゴ果実をホストとする種(モモシンクイガ,ナシヒメシンクイ)に対して
生理活性は認められなかったが,リンゴ果実をホストとしない広食性種(ハスモンヨトウ,オオタバコ
ガ,リンゴコカクモンハマキ)に対して摂食阻害活性を示した (Fig. 4).リンゴ果実は昆虫の食害を防ぐ
ためにトリテルペン類を誘導するが,モモシンクイガなど果実を専門に食べる種はこの防御応答に適応
してきた可能性がある.

Eriobotoric acid

[w/w control.]

100

75

50

25

0

Pomaceic acid

Euscaphic acid
n = 5–8, Mean

Fig. 3

SD

Fig. 4

①-3 クロロゲン酸類の生理活性
クロロゲン酸類と POD の生育抑制活性
食害部で誘導された CGA と CoQA は単体でモモシ

Control
control

ンクイガに摂食させても生育に影響はなかった.従来
15

の研究で,CGA (catechol 型) は peroxidase (POD) と反

CGA (catechol
CGA

)

CoQA (phenol
p-CoQA

)

a
a
a

CGA+POD
CGA+POD
CoQA+POD
p-CoQA+POD

応して昆虫の生育を抑制する報告があり,リンゴ果実
catechol 構造を持たない CoQA (phenol 型) の昆虫へ

[mg]

内でも同様の機構で作用すると推測された.しかし,
10

b

の生理活性は調べられてこなかった.そこでこれらと

b

POD の酵素反応物をモモシンクイガ幼虫に摂食させ,
生育を調べた.摂食試験の結果,CGA と CoQA の POD

5

反応物はいずれも幼虫の生育を抑制した (Fig. 5).よ
って CoQA は新規の機構でモモシンクイガ幼虫の生
育を抑制すると推測した.

0
0

24

48

72

[hrs]

Fig. 5

POD

96

120

144

CGA (catechol 型) は POD と反応して o-quinone を生成し,これが幼虫の腸
管内タンパク質を非特異的に攻撃し,生育を抑制するメカニズムが知られて

[µg/mg tissue]

40

作用機作の解明

いる.
まず o-quinone の生成を確認するため,
酵素反応物を o-phenylenediamine

A

a
30

a

b

20

10

と反応させ,quinoxaline 誘導体化を行った.その結果,誘導体化物を LC/MS
0

と NMR で確認した.次に,CGA と POD の反応物を摂食させた幼虫の腸管

ていた (Fig. 6).以上の結果から,CGA は POD との反応で o-quinone を生成
し,これが幼虫の腸管内タンパク質を攻撃し,消化不良を起こして生育を抑

[A660]

結果,対照区に比べタンパク質量は有意に低下し,proteinase 活性も低下し

CGA
CGA

+POD
CGA
+POD

0.3

a

B
a

Proteinase

内タンパク質量と主要な消化酵素である proteinase の活性を測定した.その

cont
Control
0.4

0.2

b

0.1

制すると結論した (Fig. 8 上段).

0
cont.

Control

一方,CoQA (phenol 型)と POD の酵素反応物を摂食させた場合,モモシン
クイガ幼虫の腸管内タンパク質量に影響はなかった.そこで,昆虫特有の血

Fig. 6 CGA

CGA

CGA+POD
CGA

CGA

+POD

POD

糖であるトレハロースに着目した.体液中のトレハロース量を酵素処理によ
ハロース濃度が減少した (Fig. 7).よって CoQA と POD の反応で生じる化

40

[mM]

り定量した結果,CoQA と POD の酵素反応物を摂食した場合に顕著にトレ

A

B

30

a

a

合物がトレハロース代謝系に作用し,エネルギー貯蔵体である体液トレハロ
ース濃度を低下させることで生育を抑制すると推測した(Fig. 8 下段).また,
CoQA と POD の酵素反応物を分析した結果,主成分として CoQA 2 分子が
ラジカル反応により結合した化合物が生成していた.

20

b

10

0
cont

Control

Fig. 7

Catechol

o-Quinone

CGA
Peroxidase
Phenol
CoQA

Fig. 8

peroxidase

CoQA

CoQA

CoQA

CoQA+POD
CoQA

+POD

POD

②-1. クロロゲン酸類と POD の着果・摘果における食害誘導

モシンクイガ幼虫を食入させ,食害部の POD 活性を測定した結果,POD
もクロロゲン酸類と同様に着果でのみ食害部局所的に誘導された (Fig.

[µg/mg F.W]

果でのみ発現し,摘果では発現しない.また,摘果・着果にそれぞれモ

b

CGA

クロロゲン酸類はリンゴ果実で食害により誘導される.この誘導は着

A

300

a

200

a

a

100

9).これより,クロロゲン酸類と POD の同所的な食害誘導には樹から
0

果実に流入するシグナル因子が介在すると推測された.

Intact

着果食害時におけるクロロゲン酸類と POD の誘導には師管液が関与
すると推測した.これを検証するため,果台を環状剝皮(師管除去)し
た果実へのモモシンクイガ幼虫の食入実験により,一連の誘導に対する

CoQA

②-2. 食害応答発現に対する師管液の関与

[µg/mg F.W]

150

要約


a

a

a

Intact

[µM/min]

b

リンゴ果実はモモシンクイガ幼虫の食害に対してクロロゲン酸類 2

4
2

c
a

a

Intact

Fig. 9
(A), CoQA

ことで幼虫の生育を抑制する防御機構を発現する (Fig. 10).

(B), POD

CGA
(C)

CGA (catechol 型)は POD と反応し,o-quinone に変換され,これが
幼虫の腸管内タンパク質を攻撃する.



CoQA (phenol 型)と POD の酵素反応物は幼虫のトレハロース代謝系に作用すると推測された.



クロロゲン酸類と POD の誘導には師管液が関与する.

2. Tree Factor=

1.

CGA

POD

CoQA

Fig. 10

1.
2.

Tree factor

POD

C

6

0

種(CGA,CoQA)と POD を誘導し,摂食によりこれらが反応する


50

8

POD

には師管液が関与すると示唆された (Fig. ...

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