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大学・研究所にある論文を検索できる 「コロイド半導体ナノ結晶の発光波長の制御に関する研究」の論文概要。リケラボ論文検索は、全国の大学リポジトリにある学位論文・教授論文を一括検索できる論文検索サービスです。

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コロイド半導体ナノ結晶の発光波長の制御に関する研究

冷, 俊夫 JUNFU, LENG レイ, シュンフ 九州大学

2021.03.24

概要

ナノテクノロジーの目覚ましい発展は、単に微細加工による集積度の向上のみならず、サイズ効果により材料の新たな物性を見出したことに起因している。半導体ナノ結晶は、量子ドット、人工原子ともよばれ、サイズによって光及び電気的特性を厳密に制御することができるという、光学材料としての優れた性質を持つ。半導体ナノ結晶としては、古典的なⅡ-Ⅵ化合物半導体をはじめ、 Ⅲ-Ⅴ族半導体や比較的新しいⅠ-Ⅲ-Ⅵ2 半導体がよく研究されている。半導体ナノ結晶の発光特性は一般に合成の段階で結晶成長により制御されるが、毎回同じ発光特性を完全に再現することは難しく、工業的には複数のナノ結晶を合成して混合することで、ある程度均一な品質を保つという処理が施されている。しかしそのために、半導体ナノ結晶の特徴である蛍光色の純度の高さ(発光スペクトルの狭い半値幅)を完全に生かしきれてるとは言えないのが実状である。近年では、ペロブスカイトという新たなナノ結晶が開発され、その優れた光電気特性が注目されているが、ペロブスカイト材料の場合、構造由来の材料の不安定性が実用化に向けた大きな課題となっている。
 本博士研究では、これら半導体ナノ結晶に関わる2つの研究を遂行した。一つは従来型Ⅱ-Ⅵ半導体ナノ結晶であるCdSe/ZnS 系コアシェル型量子ドットについて、大面積の単層膜を作製した後、熱処理により発光波長を制御しようという試み、もう一つはペロブスカイトナノ結晶の発光波長を、イオン組成に代わり、結晶の次元的会合構造により制御しようという試みである。ともに次世代の広色域ディスプレイの基準(Rec. 2020)を満たす赤、緑及び青の発光波長の実現を目標とした。

 本博士論文は、次の章で構成される。
 第一章では、半導体ナノ結晶研究の背景、本博士研究の目標を述べた。
 第二章では、半導体ナノ結晶に関する基本原理を説明した。半導体材料の電子構造由来の性質、バンドギャップの形成とそれに由来する光特性、特にサイズ効果がどのように半導体ナノ結晶の光学性質に影響を及ぼすかを解説した。ナノ結晶表面の物理的及び化学的性質についても説明を加えた。
 第三章では、CdSe/ZnS 系コアシェル型量子ドットについて、大面積な単層膜を作成した後、熱処理により発光波長を制御した研究の成果について述べた。均質な単層膜は、表面を疎水性有機分子で修飾した量子ドットを気水界面に展開し、自己組織化させることで作製した。気水界面で均一な単層膜を形成するには、粒子の両親媒性であることに加えて、展開溶液中で十分な分散性があること、気水界面で有機分子が脱離しないように半導体結晶表面への有機分子の結合力が十分であることが求められる。半導体結晶と表面修飾分子の組み合わせが異なる 9 種類の量子ドットについて調べたところ、表面が trioctylphosphine oxide また oleic acid で被覆された CdSe/ZnS 系量子ドットが上記条件を満たすことがわかった。これらの CdSe/ZnS 系コアシェル型量子ドットで単層膜を作製し、電気炉において熱処理実験を行なった結果、熱処理の温度(200-300℃)と熱処理時間(0-3 時間)によって、蛍光色を赤から緑の範囲で制御できることを確認した。さらに走査透過電子顕微鏡
(STEM)での1粒子レベルでのエネルギー分散型 X 線分析(EDX)により、発光波長のブルーシフトの原因が、コアシェル間の原子拡散に由来する発光コアサイズの縮小化に由来することを明らかにした。さらに加熱時の表面酸化によって量子ドットの発光強度が低減する問題について、SiO2保護層を付与することによって解決した。以上のように、本研究では、量子ドットの薄膜デバイスの発光波長を成膜後に調整できる手法を提案した。
 第四章では、単一ハロゲン成分を有する鉛ハロゲンペロブスカイトナノ結晶の発光波長制御を結晶の次元的会合構造により制御した研究の成果について述べた。ペロブスカイトナノ結晶の合成では、反応前駆体を混合後、秒単位でナノ結晶の核生成と成長が始まるために、生成物のサイズや粒径分布を精密に制御することは困難である。しかし、CsPbI3 ペロブスカイトナノ結晶について、合成反応の温度、時間、溶媒、表面修飾分子などの条件を厳密に制御し、生成物に及ぼす影響を調べたところ、低温沈降を精製法として利用することで、発光効率が 100%に近い、サイズが揃った赤色発光のナノ結晶を得ることに成功した。CsPbI3 合成の試行錯誤で見出した低温-高温 2 段合成法を CsPbBr3 ペロブスカイトナノ結晶に応用したところ、同じく発光効率が 100%に近く、高度なサイズ均一性を持つ青色発光 2 次元的 CsPbBr3 ナノ結晶の合成に成功した。さらにこのナノ結晶の場合、低温で多量の表面修飾分子を含む系での反応の結果、1次元のナノロッド構造からから2次元のナノストリップ型へ、反応温度に依存した明らかな構造変化を示すことがわかった。すなわち、本来速度論的非平衡反応であるため制御が困難であったペロブスカイトナノ結晶の核生成と成長を、熱力学的平衡で制御することに成功した。この手法を使えば、ペロブスカイトナノ結晶であっても、反応温度によってその構造と発光波長を自在に制御することができる。また、FA 系ペロブスカイトである FAPbBr3 ナノ結晶については、有機無機ハイブリッド組成のため、熱安定性が無機系ペロブスカイトよりさらに低く、反応温度による生成物の制御が困難であると考えていたが、2 種類の反応前駆体の比率を調整することで、このナノ結晶についても温度により形状とサイズ、すなわち発光波長を精密に制御することに成功した。これにより高品質の緑発光を簡便に安価な方法で実現することができた。
 第五章では、これらの研究成果を総括し、半導体ナノ結晶の将来の研究について展望した。
 本研究を通じて、既に完成が近いと思われている半導体ナノ結晶における構造および物性制御において、今後も改良および発展の余地があること、さらにその延長上には新たな構造および物性を有するナノ結晶の発見の可能性があることを知ることができた。

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