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大学・研究所にある論文を検索できる 「金ナノ粒子は頭頸部扁平上皮癌細胞に対するEGFR阻害薬と放射線の作用を増強する」の論文概要。リケラボ論文検索は、全国の大学リポジトリにある学位論文・教授論文を一括検索できる論文検索サービスです。

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金ナノ粒子は頭頸部扁平上皮癌細胞に対するEGFR阻害薬と放射線の作用を増強する

Kashin, Masahiko 神戸大学

2021.03.25

概要

[緒言]
 頭頸部癌の90%以上が扁平上皮癌であり、頭頸部扁平上皮癌(HNSCC)の90%以上が上皮成長因子受容体(EGFR)を過剰発現している。EGFRの過剰発現は、生存率の低下、放射線治療(RT)抵抗性および局所再発の増加と相関している。現在セツキシマブが唯一、EGFR受容体阻害薬(Εί)としてHNSCCの放射線治療と組み合わせて用いられているが、monotherapyでは期待される効果が得られていない。更に効果的なEGFR発現HNSCCに対する治療戦略が求められている。
 近年ナノ粒子(NP)のRT増感効果については広く研究されており、特に金ナノ粒子(AuNP)は、さまざまなサイズや形状に簡単に合成出来、生体における安全性が十分に確立されているため、放射線増感剤として期待されている。またAuNPは抗体やペプチドなど、癌を選択的に認識するためのプローブとして使用できる多くの生物学的リガンドと容易に結合させる事が可能である。
 したがって、抗EGFR抗体と結合したAuNPは、HNSCCなどのEGFR過剰発現腫瘍の治療に有用である可能性がある。なお、AuNPと結合した抗EGFRモノクローナル抗体(EGFRmAb)は、喉頭扁平上皮癌および乳癌細胞のアポトーシスを誘導する可能性があると過去に報告されているが、HNSCC細胞における放射線+EGFR阻害薬-AuNPの影響は不明である。この組み合わせの有用性をcell counting assay、measurement apoptosis、proliferation assayおよびwound healing assayを用いて評価した。

【対象と方法】
 ヒトHNSCC細胞株HSC3を培養し、初代培養から2〜10継代の細胞を使用した。AuNPは60nm径を使用し、EGFR阻害薬としてチロシンキナーゼ阻害薬のAG1478を使用した。
• AuNPとAG1478の吸着
 表面増強ラマン分光(SERS)を行い評価した。SERS測定において、分子が貴金属の表面に吸着する事で、バルク分子と比較しラマン散乱の強度が大幅に増幅される。この特性を利用しAuNPとAG1478の吸着を評価した。
 AG1478溶液、AG1478+AuNP溶液、AuNP溶液をラマン分光器RAM100SにセットしSERS測定を行った。
• TEM画像を用いた細胞内へのAuNPの取り込み評価
 AG1478と吸着したAuNPの細胞内への取り込みを、TEMで評価した。
 • AuNPを添加
 • AuNPとAG1478の混合物を添加
それぞれを培養し、固定後切片を作成しTEMを用い、デジタル画像を撮影した。
 • 実験群
 HSC3細胞を培養し
 •試薬の添加なし
 • AuNPを添加
 • AG1478を添加
 • AuNPとAG1478を添加
 •試薬の添加なし+4Gy照射
 • AuNPを添加+4Gy照射
 • AG1478を添加+4Gy照射
 • AuNPとAG1478を添加+4Gy照射
の計8群を作成した。放射線の照射は試薬の添加から37℃で、24時間のインキュベー卜後行った。更に細胞を37℃で48時間インキュベートした後、各実験を行った。

• Cell count assay
 35×10mmポリスチレン組織培養皿にマイクロガラスを留置した上で細胞を培養し、上記の実験群を作成した。24時間のインキュベート後に放射線照射を行い、更に48時間後に固定、ブロッキング等の処理後、4', 6-diamidino-2-phenylindole(DAPI)で染色し検体をFluorSaveに包埋した。検体をBZX700蛍光顕微鏡で観察し、ランダムに撮影した10枚の画像のDAPI陽性細胞の数をカウントし平均値を得た。
• Measurement of apoptosis
 Cell count assayと同様の実験群で細胞培養を行い、24時間のインキュベート後に放射線照射、更に48時間後に固定、ブロッキングを行った。
 1次抗体としてcaspase3を用い、対応する2次抗体としてのCy3とDAPIで染色を行った。検体をFluorSaveに包埋し、BZ-X700蛍光顕微鏡で観察し、10枚の画像をランダムに撮影した。全細胞数の内、アポトーシス細胞の割合を求め平均値を得た。
• Proliferation assay
 生細胞数は、CCK-8を用いて評価した。細胞を96ウェルプレートに懸濁し、AG1478、AuNPを各ウェルに添加し8つの実験群を作成した。24時間のインキュベーション後、細胞に放射線を照射した。照射の48時間後に細胞にCCK-8溶液を加え、マイクロプレートリーダーを使用して450nmで吸光度を測定した。
• Wound healing assay
 細胞を6ウェルプレートで培養し、70〜80%のconfluenceまで増殖させ、AG1478、AuNPを添加し、8つの実験群を作成した。放射線は24時間のインキュベート後に照射し、更に48時間後、細胞単層を滅菌済みの200μΕ使い捨てプラスチックピペットチップでこすり落とし、PBSで洗浄した。こすり落とした部分の創傷治癒を37℃で0、4、8、12、16、20、24時間後に顕微鏡で観察した。
 画像はΒΖ-Χ700蛍光顕微鏡で撮影し、創傷部分の面積は分析ソフトウェアΒΖ-Η4Μで算出した。

【結果】
• AuNPとAG1478の吸着
 AuNP+AG1478群ではAuNP単独群、AG1478単独群とは明らかに異なるスペクトラムが観察された。
• TEM画像による評価
 TEM画像において、細胞内に取り込まれたAuNPが観察された。細胞内に取り込まれたAuNPの数はAuNP単独を添加した群とAuNP+AG1478を添加した群で有意差は認めなかった。
• Cell counting assay
 controlおよびAuNP単独添加群と比較し,他の6群はすべて細胞数の有意な減少を示した。AuNP、AG1478の添加および放射線照射の組み合わせにより,細胞数が大幅に減少した。
• Proliferation assay
 AuNPを単独で添加した群と比較し、AuNP+AG1478を添加した群では、放射線の照射、非照射に関わらず有意に減少した。
• Measurement of apoptosis
 AuNPを添加し,放射線照射を行った群はその他の条件群と比較しアポトーシス細胞の数が増加することが示された。
 AuNP+AG1478を添加し,放射線照射を行った群では,AuNPを単独で添加し放射線照射を行った群と比較して更にアポトーシス細胞の数が増加する事が示された。
• Wound healing assay
 AG1478を単独で添加した群と比較し、AuNPを添加、または放射線を照射、もしくはどちらも追加することで細胞の運動性は低下した。

【考察】
 SERS測定により、AUNP+AG1478群ではその他の群と比較し明らかに異なるスペクトラムが観察され、AG1478とAuNPの吸着が示唆された。
 AuNP+AG1478+放射線照射の組み合わせが細胞数を最も減少させることが示された。AG1478が吸着したAuNPを添加する事による細胞数の減少は細胞増殖の抑制による事が示され、AuNP+放射線による細胞数の減少はアポトーシスの誘導による事が示された。
AuNP+AG1478を添加した群では、AG1478のみを添加した群と比較して細胞遊走活性が低下した。過去にも報告されているように、EGFR阻害薬を単独で添加した場合と比較し、表面へのEGFR阻害薬の吸着により抗癌効果を増強したAuNPを添加することで引き起こされたと考えられた。
 AuNPの細胞内への取り込みはTEMで分析したが、AG1478を使用した場合と使用しない場合のAuNPに有意差は認めなかった。共凝集法では60nm未満のAuNP測定が困難であるため、本研究では60nmのAuNPを使用した。ただし過去の報告ではAuNPに結合したHER2阻害薬が効率的に細胞に内在化され、細胞毒性メカニズムに影響を与える可能性があるとされており、同研究では40-50nmのAuNPが最も効果的であると報告されている。本研究では、細胞へのAuNPの内在化がTEMで確認されたが、AG1478の添加がAuNPの内在化に影響を与えなかった理由は今後の研究課題である。
 AuNP+放射線照射によりその他の群よりもアポトーシス細胞の割合が増加する事が認められた。また、AuNP+AG1478+放射線照射によりアポトーシス細胞の割合は更に増加した。なお、過去の報告ではAuNPに結合したEIがDNA損傷に多大な影響を与え、細胞損傷とアポトーシスの増加に起因する事が示唆されている。
 ただし、ROS産生を始めとするアポトーシス以外の細胞の生存率に影響を与えうる要因については更なる評価が必要である。
 本研究では、AuNPの添加によるinvitroでのAG1478の細胞毒性と放射線照射増感効果が示されたが、in vivoでの研究が必要である。また、AuNPは、代謝と排泄の方法が確立されていないため、半永久的に体内に残る可能性がある事も今後の研究課題ではあるものの、AuNPやEIを併用しての治療は、腫瘍への直接注射や超選択的動注療法等の範囲を絞った治療法を用いる事が出来るため、頭頸部扁平上皮癌、特に口腔癌の治療法として期待されると考えられる。

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