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大学・研究所にある論文を検索できる 「CD47-SIRPα系を阻害する環状ペプチドを用いた新規がん免疫療法」の論文概要。リケラボ論文検索は、全国の大学リポジトリにある学位論文・教授論文を一括検索できる論文検索サービスです。

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CD47-SIRPα系を阻害する環状ペプチドを用いた新規がん免疫療法

Hazama, Daisuke 神戸大学

2020.09.25

概要

(目的)
膜型分子である SIRPα は、細胞外領域に 3 つの免疫グロブリン(Ig)様ドメイン を持ち、同じく膜型分子の CD47 と両者の細胞外領域の N 末端にある IgV 領域を介 して相互作用し、細胞間シグナル伝達システム CD47-SIRPα 系を構成する。これまで に我々は、がん細胞上の CD47 とマクロファージ上の SIRPα との相互作用が、リツ キシマブやトラスツズマブといった腫瘍特異抗体によりオプソニン化されたがん細 胞に対するマクロファージの貪食作用(抗体依存性細胞貪食(ADCP))を負に制御す ることを見出し、CD47 あるいは SIRPα に対する抗体を用いてこの相互作用を阻害す ることでマクロファージの ADCP を亢進させ、腫瘍特異抗体による抗腫瘍効果を増幅 できることを明らかにしてきた。一方、抗 CD47 抗体を用いた第Ⅰb 相試験では重度 の貧血を含む副作用が報告されており、また抗体医薬には高い製造コストなどの問題 がある。1~5kDa 程度の分子量を持つ中分子である環状ペプチドは、抗体医薬と同等 の高い特異性と強い結合活性を持ちながら、比較的容易に化学合成が可能なため製造 コストを抑制でき、低分子量であるため薬剤自体の免疫原性が低いなどの利点がある ため、既存の低分子医薬や高分子医薬を代替し得るモダリティとして注目されている。そこで本研究では、マウス SIRPα の IgV 領域に結合し、CD47-SIRPα 結合を阻害す る環状ペプチドの探索に Random nonstandard Peptides Integrated Discovery(RaPID)システムを用い、取得したペプチドがマクロファージによるがん細胞の貪食排除を増強し得るかについて解析し、がん免疫療法における新たな治療薬としての有効性について検討した。

(方法、結果及び考察)
本研究で用いた RaPID システムとは、人工合成された 1 兆種類以上ものペプチドライブラリーの中から、標的となる分子に高い親和性と特異性をもつペプチドを迅速かつ安価に同定できる実験系である。まず標的となる野生型C57BL/6マウスのSIRPαの IgV 領域 (IgV-B6 SIRPα) の Fc 融合タンパク質(IgV-B6 SIRPα-Fc)を作製し、IgV-B6 SIRPα-Fc に結合し、Fc には結合しない環状ペプチドを同定した。得られた 12 種類のペプチドの IgV-B6 SIRPα-Fc に対する親和性を表面プラズモン共鳴にて評価したところ、L4-4 と名付けた環状ペプチドが最も高い親和性を持ち (KD = 5.97nM)、その他にD4-1、D4-2、D4-4と名付けたペプチドも KD=10nM 程度の高い親和性を示した。

Sirpa 遺伝子は、IgV 領域をコードする領域においてマウス系統間で遺伝子多型がある。そのため、non-obese diabetic(NOD)マウスの SIRPα の IgV 領域(IgV-NOD SIRPα)に対する親和性も測定した。その結果、D4-2 が KD = 8.22 nM と最も高い親和性を持ち、一方 L4-4 や D4-1 は KD = 148 nM、42.8 nM と親和性が低かった。これらの結果から、以下の実験には D4-2 を用いることとした。

D4-2 が、生細胞に発現する SIRPα の IgV 領域に結合するかを評価するため、B6 SIRPα、NOD SIRPα、あるいは IgV 領域を欠失させた NOD SIRPα(ΔIgV-NOD SIRPα)をそれぞれ COS7 細胞に発現させ、免疫染色を行った。B6 あるいは NOD SIRPα を発現させた COS7 細胞では、マウス SIRPα 抗体(P84)と同様の局在で Alexa Fluor 488 色素で標識した D4-2(Alexa488-D4-2)による蛍光が確認されたが、ΔIgV-NOD SIRPα を発現させた細胞では、Alexa488-D4-2 による蛍光を認めなかった。この結果から、D4-2 は生細胞に発現するマウス SIRPα の IgV 領域に結合することが明らかとなった。また、表面プラズモン共鳴や免疫染色にて、D4-2 はヒト SIRPα やマウス SIRPβ といったマウス SIRPα と高い相同性を持つ他のタンパク質にはほとんど結合を示さず、マウス SIRPα の IgV 領域に対する高い特異性を持つことも示唆された。既存の CD47-SIRPα 結合を阻害する抗体の大半が SIRPα のファミリー分子である SIRPβ や SIRPγ に対する交叉反応性を持つことを考慮すると、D4-2 の特異性の高さは特筆すべきものであり、標的以外のタンパク質に結合することで起こる影響を最小限にすることができると考えられる。

次に、D4-2 が CD47 と SIRPα の結合に及ぼす影響を検討した。B6 あるいは NOD の SIRPα を発現させた HEK293A 細胞へのマウス CD47 の細胞外領域の Fc 融合タンパク質(mCD47-Fc)の結合の程度を評価したところ、D4-2 は濃度依存的に両者の結合を阻害することが明らかとなった。NOD SIRPα はヒト CD47 とも強く結合することが知られており、ヒト CD47 の細胞外領域の Fc 融合タンパク質を用いて同様の実験を行ったところ、やはり D4-2 はその結合を濃度依存的に阻害した。また、その阻害機構をより詳細に知るため、mCD47-Fc 濃度を変化させて同様の阻害実験を行ったところ、mCD47-Fc 濃度を高くしても阻害が解消されないことから、D4-2 による CD47-SIRPα 結合阻害作用は非拮抗阻害である可能性が示唆された。

この阻害作用における分子構造学的機序を明らかにするために、IgV-NOD SIRPα と D4-2 の複合体の X 線結晶構造解析を行い、1.36Åという高い分解能でその構造を明らかにした。その結果、IgV-NOD SIRPα は A、A’、B、B、C、C’、E、F、G、G の 10個の βストランドとそれらつなぐ 9 個のループ構造で構成されており、D4-2 は C’、E の βストランド及び C’E、EF ループに主に結合していることが明らかとなった。IgV-NOD SIRPα と高い相同性を持つ 129 マウスの SIRPα の IgV 領域の構造が既に明らかとなっており、今回得られた複合体の構造と比較したところ、マウス CD47 との結合に重要な F56 と A65 のアミノ酸が含まれる C’Eループに大きな差異を認めた。以上の結果から、D4-2 が結合することで起こる IgV-NOD SIRPα の C’Eループにおける構造変化が、CD47 との結合阻害に寄与していると考えられた。既に明らかになっているヒトSIRPαとヒトCD47の複合体のX線結晶構造から類推すると、D4-2 の結合部位は両者の相互作用部位とは異なっており、前述の生化学実験と合わせて考えると、D4-2 は CD47-SIRPα 結合のアロステリック阻害剤であると考えられた。

我々は先行研究にて、抗 SIRPα 抗体を用いて CD47-SIRPα 結合を阻害することでがん細胞に対するマクロファージの ADCP が増強されることを明らかにした。そこで、D4-2 においても同様の ADCP 増強作用が見られるかを検討した。骨髄細胞由来マクロファージと CFSE(carboxyfluorescein diacetate succinimidyl ester)蛍光ラベルを行ったがん細胞を腫瘍特異抗体及び D4-2 の存在/非存在下に共培養し、マクロファージによるがん細胞の貪食率を評価したところ、D4-2 のみではがん細胞に対するマクロファージの貪食作用は亢進しなかったが、腫瘍特異抗体と併用するとそのADCPを有意に増強した。この貪食増強効果はヒトB細胞リンパ腫由来株化細胞(Raji細胞)、ヒト乳癌由来株化細胞(BT474 細胞)、ヒト胃癌由来株化細胞(NCI-N87細胞)、マウスメラノーマ由来株化細胞(B16BL6 細胞)で確認された。

生体内での効果を確認するために、NOD/severe combined immunodeficient(SCID)マウスへの Raji 細胞の皮下移植モデル、及び野生型 C57BL/6 マウスへの B16BL6 細胞の尾静脈投与によるメラノーマ実験的肺転移モデルを作製し、腫瘍特異抗体による抗腫瘍効果をD4-2が増強するかについて検討した。Raji細胞を皮下移植(3 × 106 cells)後、腫瘍体積が約 280 mm3 に到達した時点より投薬を開始したところ、リツキシマブ腹腔内投与(150 μg/匹、2 回/週)と D4-2 経静脈投与(500 μg/匹、2 回/週)の併用はそれぞれの単独投与に比べて有意な腫瘍増殖の抑制を示した。さらに、B16BL6 細胞の尾静脈投与(5 × 104 cells)による実験的肺転移モデルにおいても、TA-99 腹腔内投与(2 μg/匹、隔日)と D4-2 経静脈投与(500 μg/匹、連日)の併用はそれぞれの単独投与に比べて肺に形成された腫瘍結節数の有意な減少を認め、強い抗腫瘍効果を有することが明らかとなった。また、野生型 C57BL/6 マウスに 6 日間の D4-2 連日経静脈投与を行ったが、血液学的及び血液生化学的検査において投与による重篤な副作用は認めなかった。

(結論)
本研究により、CD47-SIRPα 結合を阻害する環状ペプチドは、リツキシマブなどの ADCP 活性の誘導能を有する抗体医薬と併用することでその作用を増強し、強力な抗腫瘍効果を示す可能性が示唆され、がん免疫療法における新たな治療薬となることが期待される。

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