植物アレルゲンの構造
概要
令和4年度
京都大学化学研究所 スーパーコンピュータシステム 利用報告書
植物アレルゲンの構造
Structure of allergens derived from plant materials
京都大学大学院農学研究科品質設計開発学分野 丸山 伸之
背景と目的
「花粉食物アレルギー症候群」は、花粉と食物のアレルゲン間での交差反応によって起こるアレ
ルギーである。花粉が一次感作源とされており、生の野菜や果物を摂取した際に症状が出る頻度
が高い。口腔アレルギーを示すことが多いが、全身症状を示すこともある。
「花粉食物アレルギー
症候群」の原因となる代表的なアレルゲンは感染特異的タンパク質-10(pathogenesis-related
protein: PR-10)やプロフィリンである。PR-10 やプロフィリンは一次構造の保存性が高いことか
ら植物間で立体構造が類似し、交差反応しやすいとされている。最近、GRP が「花粉食物アレル
ギー症候群」の原因アレルゲンである可能性が指摘されている。GRP は snakin/GASA プロテイン
ファミリーに属する抗菌ペプチドで、植物において病原菌に対する防御などに寄与するとされる。
GRP は分子量 7-8kDa であり、12 個のシステイン残基から成る 6 個のジスルフィド結合をもつ。こ
れらのジスルフィド結合によって GRP は熱や消化酵素に対する耐性を持つ。モモ(Pru p 7)、ウメ
(Pru m 7)、オレンジ(Cit s 7)、ザクロ(Pun g 7)の GRP が果物類のアレルゲンと報告されている。
これらの GRP 間におけるアミノ酸配列同一性は非常に高く、Pru p 7 は Pru m 7 と同一のアミノ
酸配列をもつ。さらに、スギ花粉においても Cry j 7 が報告され、アミノ酸配列の類似性から、
ヒノキ科花粉と果物の GRP 間で交差反応し「花粉食物アレルギー症候群」を引き起こす可能性が
考えられている。
結果
本研究では、大規模に収集した果物類アレルギー患者血清を対象に GRP に感作されている陽性
検体を選抜した。また、スギ及びヒノキ花粉に含まれる GRP に対する抗ウサギ血清を作製し、そ
れらの花粉中での存在について検討し、比較した。さらに、スギ・ヒノキ花粉と果物類アレルギ
ーでの GRP の交差反応を検証するために、それぞれの組換えタンパク質を作製するとともに、選
抜する GRP 陽性検体を用いて、スギ及びヒノキ花粉と果物類の GRP の交差反応を解析する。交差
反応に関与する可能性があるアミノ酸残基への変異導入や、構造変化による血清との反応性への
影響について解析した。
*これらの構造の推定のためにアプリケーション Discovery Studio を使用した。 ...