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大学・研究所にある論文を検索できる 「パンの硬化を低減する小麦粉の開発に向けたGBSS IとSS IIaの二重部分欠失コムギの品質特性に関する研究」の論文概要。リケラボ論文検索は、全国の大学リポジトリにある学位論文・教授論文を一括検索できる論文検索サービスです。

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パンの硬化を低減する小麦粉の開発に向けたGBSS IとSS IIaの二重部分欠失コムギの品質特性に関する研究

猪熊, 貴之 筑波大学

2021.12.02

概要

GBSSIとSSIIaは、コムギの胚乳澱粉の合成に関する酵素であり、それぞれは欠失することで胚乳澱粉が老化しにくくなることが知られている。本研究は、GBSSIとSSIIaの両酵素の欠失が組み合わされることで、胚乳澱粉に高い澱粉老化耐性が付与され、澱粉老化が主要因とされる、保存中に硬くなり食味が悪くなるパンの老化現象が抑制されるコムギを見出すことを目的とした。両酵素の欠失の組合せのうち、それぞれ同祖染色体に由来する3種の酵素すべてが欠失するよりも、種子特性およびパン品質が極端な特徴を示さないと予想される、それぞれが1種または2種欠失する部分欠失の組合せである、二重部分欠失型を対象に、澱粉の構造および特性の分析と有用性の検証を行った。さらに二重部分欠失型のうちの1種を対象にし、育種利用のために、この遺伝子型を有する系統の澱粉特性やパン品質、および小麦粉特性に対する遺伝的背景の影響を調査した。

 GBSSI、SSIIの二重部分欠失の組合せから、澱粉の老化耐性が向上する組合せを探索するため、農研機構東北農業研究センターで「盛系D-B004」を反復親に育成された、両酵素のBゲノム由来の酵素タンパク質それぞれ1種の欠失型(3-3型)と、BゲノムとDゲノム由来の酵素タンパク質それぞれ2種の欠失型(5-5型)、および野生型(1-1型)の3系統の準同質遺伝子系統(NIL)の澱粉の構造と特性を解析し比較した。3-3型と5-5型NILの澱粉には、1-1型NILに対して、GBSSIの欠失の影響と考えられるアミロース含量の低下、およびSSIIaの欠失の影響と考えられる側鎖長分布の短鎖化がみられた。また、3-3型と5-5型NILの澱粉特性には、主にアミロース含量の低下によると考えられる糊液の濁度増加が抑制される特徴と、側鎖長の短鎖化によると考えられる、示差走査熱量計により測定される老化度が低下する特徴が兼ね備えられていることが確認された。従って、二重部分欠失系統は、それぞれ一方の酵素のみの欠失よりも澱粉の老化耐性が向上している可能性が示唆された。また、3-3型と5-5型NILには、澱粉の糊化の開始温度およびピーク温度の低下、粘度特性におけるピーク粘度とブレークダウンの増加がみられた。3-3型と5-5型NILの澱粉構造と、粘度特性や糊化特性の変化を含むこれらの澱粉特性は、両酵素の欠失の特徴を併せ持った特性だったことから、二重部分欠失系統には新規な胚乳澱粉が蓄積されたことが確認された。加えて、1-1型NILに対する老化特性を含む澱粉の各種特性の変化程度は、5-5型NILが、3-3型NILよりも大きかった。そこで、より澱粉特性が特徴的であると考えられた5-5型NILの小麦粉で作製したパンの品質を1-1型と比較した。その結果、澱粉の老化耐性に起因すると考えられる特徴として、5-5型NILのパンは1-1型NILに比べ焼成後1日目のクラムの硬さが小さく、3日目にかけても硬化が軽度だった。このことから、5-5型のパンの食感を維持する効果が示唆され、その有用性が期待された。

 5-5型によりもたらされると考えられた澱粉特性およびパンの硬さが小さく硬化が低減する特徴が、育種利用において普遍的に現れるものであるか調べるため、これらの5-5型による特徴に対する遺伝的背景の影響を調査した。このために、西日本農業研究センターおよび九州沖縄農業研究センターで育成された、パン用硬質品種「ミナミノカオリ」と主にめん用で使用される軟質性品種「シロガネコムギ」のそれぞれを反復親に用いた、遺伝的背景の大きく異なる2つの5-5型NILの澱粉の構造と特性およびパン品質をそれぞれの反復親と比較した。2つの5-5型NILの澱粉の特徴は、一部項目にわずかな差異は認められたが、5-5型の澱粉構造である低アミロース、側鎖長分布の短鎖化は、それぞれの野生型の反復親に対して明確だった。また、老化の特性を含む澱粉特性についても、5-5型NILは、それぞれの野生型の反復親に対する変化が明確だった。2つの5-5型NILのパンの硬さの減少、硬化低減の特徴についても反復親に対して明確であった。従って、5-5型の澱粉の特徴およびパンの硬化低減の効果は、遺伝的背景が異なっても明確に現れると考えられた。このことから、本遺伝子型によりもたらされるこれらの特徴は、コムギの品種育成に利用した際に、安定的に付与される特徴であると示唆された。一方で、2つの5-5型NILのパンの硬さには違いがあり、「ミナミノカオリ」の5-5型NILのほうが、「シロガネコムギ」の5-5型NILより保存中のクラムが柔らかく硬化の程度が小さかったことから、5-5型のパンの硬化低減の程度は、遺伝的背景の影響を受けることが示唆された。また、この硬化低減の効果を十分に発揮させるには、パンに向く遺伝的背景に5-5型を導入した場合である可能性が考えられた。

 5-5型をコムギ育種に利用する際の知見を集積するため、一般的にパン品質などの食品加工性に大きく影響を与えると考えられている形質が、5-5型の小麦粉特性やパン品質に対しても同様の影響を与えるか調査した。またこれらの形質が5-5型により付与されるパンの柔らかさの特徴に与える影響を調査した。このために、次世代作物開発研究センターで育成された、小麦粉加工性に影響が大きいと考えられる高分子量および低分子量グルテニン・サブユニットと硬軟質性の遺伝子型の異なる5-5型系統群を使用し、これらの遺伝子型の違いによる5-5型のパンの特徴と生地性といった小麦粉特性への影響を調査した。5-5型のコムギにおいても、グルテニン・サブユニットの遺伝子型と硬軟質性の遺伝子型がミキソグラムピークタイム、SDS-セディメンテーション値やパン体積に与える影響は、従来型澱粉のコムギで得られている知見と概ね同様であった。従って、5-5型コムギの製パン品質を向上させるには、生地性やパン体積などの製パン性向上に効果があると知られている遺伝子型を導入することが有効であると考えられた。また、グルテニン・サブユニットのコード遺伝子座のうちGlu-D1の遺伝子型、および硬軟質性を決定するPinb-D1の遺伝子型の違いによって、5-5型コムギのパンの硬さに違いが確認された。しかし、この硬さの違いは、親品種に対する5-5型がもたらす劇的な硬さの低下程度に比べれば小さく、これらの遺伝子型の違いによって、5-5型のパンの柔らかさの特徴が著しく損なわれることはないと考えられた。

 本研究では、GBSSIとSSIIの双方の部分欠失である5-5型によって、胚乳澱粉の老化耐性が向上することが示唆され、当該遺伝子型の小麦粉は柔らかさを維持することからパンの老化抑制に効果があることが示唆された。そして、この5-5型の育種利用のための応用的知見も得られた。また、部分欠失を組合せることで、完全欠失で見られる極端な種子特性や食品にとって深刻な加工特性は現れず、実用的であることが示された。添加物の少ないあるいは添加物を使用せずとも食感が維持されるパンの製造への利用といった、5-5型を有するコムギの食品産業への利用が期待される。

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