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大学・研究所にある論文を検索できる 「日本晴変異体米の炊飯米の性状と胚乳澱粉の理化学的性質に関する研究」の論文概要。リケラボ論文検索は、全国の大学リポジトリにある学位論文・教授論文を一括検索できる論文検索サービスです。

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日本晴変異体米の炊飯米の性状と胚乳澱粉の理化学的性質に関する研究

峰村 貴央 東京農業大学

2021.09.22

概要

「米」は私たちの主食であり,重要な栄養源である。また,日本で国内自給しやすく,高度な栽培技術により,日本各地で,「良質」「安定」「多収」などの特性を有した多くの品種が育成されている。私たちが主に食用として利用しているのは,胚と果皮,糊粉層などを除いた胚乳部である。精白された米胚乳部の主要成分は,水分が約15%,タンパク質が約6%とともに,澱粉が約75%以上を占めており,胚乳を構成する細胞内にアミロプラストがあり,さらにその中の澱粉粒は,鎖状分子のアミロースと多岐に分岐した3次元構造のアミロペクチンの2種から構成されている。細胞壁成分及び澱粉の分子構造は,米飯の食味や炊き上がりの性状に深く関与し,米の特徴を現す重要なファクターであると考えられている。また,アミロースとアミロペクチンの分子構造の特徴が澱粉粒の結晶状態の違いとなり,水と熱による分散系の糊液の特性をはじめ,澱粉の機能性の発現要因となっていることが明らかになってきた。

一方,イネを用いた澱粉合成メカニズムの研究も進められ,胚乳に蓄積された澱粉合成酵素とそのアイソザイムの役割が解明されつつある。私たちの共同研究者らは,レトロトランスポゾン Tos17 の挿入により様々な遺伝子発現がノックアウトされたミュータントパネルからイネの澱粉合成関連酵素のうち,スターチシンターゼ(SS)のアイソザイムSSIと SSIIIa,デブランチングエンザイム(DBE)のアイソザイムPULが欠損した変異体を単離した。このような変異体の研究は,種子の収穫量が少量であるため,酵素の発現レベルと微量サンプルで解析が可能な項目のみで,澱粉の糊化および糊液の粘弾性など,諸性質を広く検討した報告は少ない。

そこで本研究では,日本晴にレトロトランスポゾンTbs17の挿入によって作出された変異体米(SSI変異体米:SSI, SSIIIa変異体米:SSIIIa, Pullulanase変異体米:PUL)の米粒および炊飯米,胚乳部から分離した澱粉の理化学的特性を明らかにすることを目的とした。

種子形態は,SSIおよびPULは日本晴(野生型)と比べて違いは認められないが,SSIIIaは心白米と乳白米であり,炊飯米の形状も縦方向の伸長が顕著で,炊飯米の表層面も凹凸がなく滑らかであった。分離澱粉の糊化特性および糊液の粘弾性測定の結果,糊液の特徴は, PULは粘度が高く,SSIと日本晴は近似し,SSIIIaは著しく低粘度を示した。また,澱粉のアミロース含有量は,SSIIIa >SSI>PUL> Η本晴であり,アミロペクチンの単位鎖長分布,平均分子量および慣性半径の測定より,変異体の澱粉の微細構造の変化を明らかにした。

これらの結果より,3種の変異体の澱粉の糊液の粘弾性特性は,アミロペクチンの鎖長分布の違いから構成される房構造と平均分子量に相関性が示された。特にSSIIIaはアミロペクチンの長鎖を特異的に合成しながらも,平均分子量および慣性半径が小さい分子構造であることが糊液の顕著な低粘弾性を発現する要因であり,3種の変異体のうち,SSIIIa遺伝子制御によって,低粘度性を利用した食品や,新たな物性を有する米澱粉の作出の可能性を示した。以上の研究結果を報告する。

1.変異体米の性状及び炊飯特性
試料は,日本晴にレトロトランスポゾンTbs17の挿入によって作出された変異体米(SSI変異体米:SSI, SSIIIa変異体米:SSIIIa, Pullulanase変異体米:PUL)の米粒および胚乳部から分離精製した澱粉を試料とし,日本晴(野生型)を対象とした。この変異体米は(独)生物研で開発されたレトロトランスポゾンTos17 が挿入された日本晴のイネ集団から選抜されたもので,秋田県立大学の圃場内の水田およびポット栽培で完熟させた種子を用いた。

米粒の形状観察では,外観は日本晴とSSI, PULは透明感のある一般的な米粒であるの に対し,SSIIIaは心白米が約8%,乳白米が約88%であった。この白濁粒は高温障害によって起こるとされるが,変異体米は同一条下で栽培されていることから,形状の差異は SSIIIaの特性であると考えられた。米粒の大きさは,3種の変異体米は日本晴と比較してやや縦に長い形状であったが,米粒の割断面を走査型電子顕微鏡で観察したところ,すべての米粒において中心部から表層に向け,複数の澱粉粒を含むアミロプラストが放射状に規則正しく配置された同様な構造であった。

米粒重量の1.5倍量の水で炊飯し,炊飯米のデジタルマイクロスコープによる表面観察,表面のずり応力(付着性)および楔型プランジャーによる破断測定(レオナー(Rheoner Π RE33005S)を行った。炊飯米の形状は,日本晴とSSI, PULはジャポニカ米に特有の丸みを帯びた形状であったが,SSIIIaは生米粒に対して炊飯米は,長さ1.82倍,厚さ1.01倍,幅1.03倍に伸長しており,インディカ米のように縦に伸びた形状であった。炊飯米の表面構造をデジタルマイクロスコープで観察した結果,日本晴は表面に凹凸がありうねるような表面状態が観察されたが,SSIIIaは凹凸やうねるような表面状態ではなく,滑らかであり対照的であった。

炊飯米の表面状態を数値化するためにクリープメータ・2軸物性試験システムを用いて,炊飯米表面の水平方向の摩擦応力を測定した。日本晴およびSSIIIaともに水平移動に伴い,急激にずり応力が発生し,ピークを示した後にずり応力が減少する曲線であったが,SSIIIaはずり応力が小さく,摺動距離が短いことから,表面の付着性が低い炊飯米であることが示された。また,炊飯米の破断特性では日本晴,SS1およびPULでは明確な破断点を示さない延性破断を示し,SSIIIaは明確な破断点を示す脆い炊飯米であった。

2.胚乳分離澱粉の糊化特性および糊液の粘弾性特性
示差走査熱量計(DSC)による熱測定では,SSIIIaの糊化開始温度(To)が顕著に低く,吸熱エンタルピーが日本晴11.7mJ/mgに比べてPULは13.6mJ/mgと高い値であった。また,澱粉粒の膨潤力および溶解度ともに,4種の澱粉間で有意に差が認められ,4種ともに澱粉粒の結晶性と分子構造が異なることが示唆された。さらに,糊液を遠心分離により,上澄み区分(低分子画分)と沈殿区分(高分子画分)に分画して各糖量を測定し,さらに各区分の糖をイソアミラーゼで枝切りを行い,ゲルろ過による分子量分布を測定した。日本晴とSSI, PULは, 上澄み区分( 低分子画分) と沈殿区分( 高分子画分) の全糖量は近似しており, SSIIIaは有意に上澄み区分( 低分子画分) が多く, さらに, 上澄み区分( 低分子画分)中のFr.lの溶出割合が低く,Fr.IIIが高い値であった。これは,SSIIIaの糊液を構成する低分子量のアミロペクチンが多い分散系であることが考えられた。

ラピット.ビスコ.アナライザー (RVA)によるペースト特性は,PULの最高粘度(193.5cP)および最終粘度(286.0cP)が最も高く,日本晴とSSIが類似しておりSSIIIaは最高粘度 (19.5cP)および最終粘度(30.0cP)で,著しく低い曲線を示した。また,4%澱粉糊液の動的粘弾性の周波数依存性の測定では, 日本晴, SSIおよびPULでは貯蔵弾性率( G’)が損失弾性率( G”)より高くゲルを形成していたが, SSIIIaはG’ くG”であり, さらに周波数依存性が著しかったことから,SSIIIaの糊液はネットワーク構造を形成していない分散状態であることが示された。また,損失正接(Tan0)ではSSIは日本晴と近似していたが,PULはやや低値であり,弾性要素の存在割合が多い分散系であることが示された。

3.胚乳分離澱粉の構造解析
アミロペクチンの単位鎖長分布をHPAEC-PADを用いて測定し,日本晴の鎖長分布との差分を算出し,変異体の単位鎖長の変化を検討した。日本晴に比べて,SSIはグルコース重合度(DP) 8-13 が減少し,DP14-30 が増加した。SSIIIa は DP6 — 8, DP15-19, DP31
以上が減少し, DP 10 - 15 , DP 20 - 30 が増加した。また, PULはDP 17 - 20 , DP 26 以上が減少し,DP8-16, DP21-25が増加した。さらに,澱粉をDMSOで分散させた後, GPC-MALLSシステムを用いて,アミロペクチンの平均分子量と慣性半径を測定した。平 均分子量は,日本晴(3.7X107 g/mol), SSI (2.8X 107 g/mol),SSIIIa (2.6Χ 107 g/mol), PUL (3.4X107 g/mol)であり, 慣性半径は日本晴(lOO.Onm), SSI (97.7nm), SSIIIa (79.7nm), PUL (104.3nm)であった。単位鎖長分布および平均分子量の結果から,日 本晴に比べてSSIはアミロペクチンの房を構成するA鎖が減少したが,その房内を構成するB1鎖が増加していた。分子量は日本晴に比べて小さく算出されたが,溶液中の慣性半径は顕著に減少しなかったと推測された。SSIIIaでは,A鎖の短鎖が減少したが長鎖は増加した。しかし,房内の広がりを担うB1鎖が減少し,2つの結晶部を渡るB2鎖が増加したが,さらに長い鎖長は減少していたことから,アミロペクチンの房内も隣接するグルコース鎖が粗の状態と推測された。平均分子量および慣性半径ともに低値となったのではないかと推察された。PULは,A鎖のうちの長鎖とB1鎖のうちの短鎖が増加したことから房内のグルコース鎖は密であるが,長鎖であるDP26以上のB2鎖とB3鎖は減少している。この鎖長分布から分子量が小さい特性であるという結果として現れないことは,B2鎖とB3鎖の分岐箇所に要因があるのではないかとも考えられるが,詳細は引き続き検討する必要がある。

これらの結果より,SSIIIaの欠損により,澱粉の分子構造は顕著に変化することが示された。

まとめ
本研究では,イネの澱粉合成関連酵素のうち,スターチシンターゼ(SS)のアイソザイムSSIとSSIIIa,デブランチングエンザイム(DBE)のアイソザイムPULが欠損した変異体の米粒および胚乳部から分離した澱粉の糊化特性,糊液の粘弾性,澱粉の構造を解析した結果,いずれの澱粉合成関連酵素が欠損しても,米粒の炊飯後の特性および澱粉の諸性質は変化した。しかし,SSIIIaを欠損させることで,炊飯米の性状と澱粉の構造変化に起因する糊液の粘弾性特性を顕著に改変できることが示された。また,この米粒は表面ずり応力 (付着性)が低く,糊液の粘性が顕著に低いことから,高齢者を含む咀嚼・嚥下の機能が低下した人に対して,粥として炊いた場合も低付着性などが利用でき,口腔中内の付着による残存の減少などの利点があるのではないかと期待できる。

これらの成果は,イネの澱粉合成酵素を欠損させた変異体の米粒および分離澱粉粒を解析することで,澱粉の構造に起因する澱粉糊液の物性発現のメカニズムの解明の基礎データになるとともに,澱粉合成関連酵素の制御による変異体米の作出が,米粒および新素材澱粉として利用できる可能性を示した意義のある成果と考える。

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