Feasibility of virtual surgical simulation in the head and neck region for soft tissue reconstruction using free flap: a comparison of preoperative and postoperative volume measurement
概要
【背景と目的】
局所進行頭頸部癌における拡大切除は、一塊切除にて根治が期待できる反面、拡大切除による術後の患者の生活の質の低下が課題である。遊離組織移植術は拡大切除後の欠損を他の部位の組織にて充填することで機能障害を防ぐことができ、審美的にも優れている。頭頸部領域における遊離組織移植術は、頭頸部癌治療において拡大切除後の組織の欠損に対して重要な手術方法であり、現在では標準治療として広まっている。
その一方で、頭頸部癌切除後の組織再建は、骨や大血管、神経などの重要臓器に囲まれた複雑な解剖の中で行わなければならず、また術後の嚥下機能や発声機能などに大きくて影響するために、適切な再建組織のボリュームを含めた術前のプランニングが難しいのが現状である。再建する遊離組織は過剰でも不足でも、術後の機能面・審美面に大きく影響するため、術前から組織の欠損を推定し適切な遊離組織移植術が不可欠である。術前での患者からの画像データを用いて最適な再建を行うことは、特に乳癌術後の乳房再建でよく行われており、有用であることが報告されている。しかし、頭頸部領域では複雑な解剖のために術前から手術での切除範囲を正確に推定することは困難であり、欠損部を覆うのに必要となる遊離皮弁のボリュームは外科医の知識と経験に委ねているのが現状である。
我々は余剰な皮弁採取を防ぐために、術前から行っている患者データを用いた 3D手術バーチャルシミュレーションが、手術での切除範囲の決定のみならず欠損体積測定にも応用できるのではないかと考えた。本研究では、前中頭蓋底切除を受けた頭頸部癌患者において、術前 3D 手術バーチャルシミュレーションによる切除予測を行うとともに、予測される切除体積を評価した。また、術後の CT から軟部組織再建の皮弁体積およびそれぞれの脂肪・筋肉の経時的体積変化を検証した。
【方法】
2011 年から 2019 年の間に当院で眼球摘出を含む前中頭蓋底切除を受けた 24 人の頭頸部癌患者対して、術前に行われた 3D 手術シミュレーションで推定された欠損体積と術後の CT 画像から計算された実際の皮弁の体積を後方視的に比較検証した。
3D 手術バーチャルシミュレーションは術前の患者CT データよりパソコン上で再現し、頭蓋骨の切除ラインを決めている。実際の手術においては、バーチャルシミュレーションで得られた切除ラインをナビゲーションシステムで参考にしながら、上顎骨、硬口蓋、鼻中隔、前中頭蓋底を含む一塊切除を施行した。手術翌日には脳出血確認を目的とした、また術後 6 か月後、12 か月後には再発等のフォローを目的とした CT が施行された。
推定される欠損の体積と術後の有利皮弁の体積を比較検討するために、術前 3D シミュレーションのデータから、PLUTO を用いて後方視的に体積測定を行った。また、移植された再建皮弁の体積は、術後 CT 画像をもとに Vincent を用いて測定した。
術前 3D シミュレーションにより推定された切除体積と、手術直後の実際の移植皮弁体積を比較した。また、術直後と手術後 6 か月、12 か月後においては皮弁総体積のみならず皮弁の脂肪組織、筋組織それぞれを算出し、減少率を算出した。脂肪組織と筋組織は CT 画像の HU 値を用いて識別した。(Fig1)
【結果】
手術を受けた 24 人のうち、1 年以内に再発した 3 例および CT 評価が欠落している 8 例を除外した。平均年齢 65 歳、男女比は 10:3 であった。cT-Stage は cT4 が 10 例、 cT4b が 3 例であり、3 例が皮膚合併切除を要した。欠損部は全例、遊離腹直筋皮弁にて再建した。術後合併症を 6 例で認めたが、保存的に改善を得た。
皮膚合併切除を要さなかった 10 人の患者において、手術シミュレーションで推定された欠損体積(平均 227mL:154mL-315mL)は、実際の皮弁体積(平均 251mL:170mL- 323mL)よりも 10%小さい結果であった。皮膚合併切除を要した 3 例では、手術シミュレーションで推定された欠損体積(平均 237mL:221mL-266mL)は、実際の皮弁体積(平均 436mL:418mL-466mL)よりも 40%小さい結果であった。(Fig2)
また実際の皮弁体積は、術後 1 日目で平均 294mL(170mL-466mL)、6 ヶ月で平均194mL(92mL-279mL)、12 ヶ月で平均 207mL(98mL-361mL)と変化し、6 ヶ月で 34%、12 ヶ月で 29%減少した。9 人は術後放射線療法をうけていたが、術後放射線療法と皮弁体積に相関はみられなかった(p>0.05)。手術後 1 日から 12 ヶ月の間に、遊離皮弁内の脂肪、筋肉組織の体積はそれぞれ 9%、58%減少した。(Fig3)
【考察】
確実な一塊切除および術後の機能温存の観点から、難しいとされる頭頸部癌拡大切除および再建は、術前 3D シミュレーションにより安全かつ正確に施行できた。また、術前のバーチャルでの手術シミュレーションにより得られたデータから、手術での欠損体積を推定することにより、安全かつ効果的な遊離組織移植術が期待できる。
本研究においては、推定される欠損体積と実際の遊離再建皮弁体積の比較では、約 10%の乖離を認めた。これは手術中に腫瘍の浸潤範囲を確認しながら切除ラインを修正することがあり、それが影響すると考えられた。皮膚合併切除例ではさらに 40%の乖離がみられた。欠損皮膚の充填のみならず、鼻翼や胸部などの審美的修正がより必要になるため、より大きな皮弁が必要となり、さらなる乖離が出たと考えられた。
術後の皮弁の経時的経過は 1 年で約 30%の減少を認めたが、これは既知の報告と同等であった。脂肪組織は増減がみられたが、筋組織は全例縮小を認めた。これらは移植後の脱化や萎縮によるもので避けられないものと考えられた。過去の報告からも皮弁の吸収は考慮せねばならないが、筋組織と脂肪組織の比率を考慮し皮弁を形成する必要があると考えられた。
【結論】
3D 手術シミュレーションは、手術での正確な切除を可能とするのみならず、手術での組織の欠損を事前に推定することが可能であった。術前に再建に必要な体積を推定することにより、過剰な組織の採取を防ぐことができ、術後の機能面、審美面の改善を期待できる。