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大学・研究所にある論文を検索できる 「Action selection in the escape behavior of crickets [an abstract of entire text]」の論文概要。リケラボ論文検索は、全国の大学リポジトリにある学位論文・教授論文を一括検索できる論文検索サービスです。

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Action selection in the escape behavior of crickets [an abstract of entire text]

佐藤, 和 北海道大学

2021.03.25

概要

捕食者の接近のような生命を脅かす状況では、動物は捕食者の接近を示す刺激を検出し、捕食者から逃れるための逃避行動を行う。逃避行動は動物の生存を左右する生得的行動として、脊椎・無脊椎動物を含む多様な動物で普遍的に備わっている。また、動物は複数の異なる逃避行動を持つことが多い。最も典型的な行動は素早く刺激源から遠ざかる移動行動だが、あえて捕食者に気付かれないように動かない場合もある。このように逃避行動を状況に応じて適切に選択することは、逃避を成功するために有効である。しかし、各逃避行動がもたらす利益や捕食者の接近を示す刺激特性と行動選択の関係については不明な点が多い。そこで本研究では、動物がどのように異なる逃避行動を選択するか、さらにその行動選択に関与する神経機構を明らかにすることを目的とし、フタホシコオロギ(Gryllus bimaculatus)を用いて行動実験及び電気生理学実験を行った。コオロギは腹部末端に尾葉という機械感覚器官を持ち、捕食者の動きによって生じる気流を検出し、これに対し逃避行動としてrunningまたはjumpingを示す。コオロギの気流感覚系については既に多くの神経行動学的知見が蓄積されており、気流刺激情報の処理から行動選択に至るシステムに迫るために有用な実験材料である。

 第一章では、runningとjumpingの二種の逃避行動がそれぞれどのような行動的利点を持つかを検証した。コオロギのrunningはどの方向から与えられた気流刺激に対しても正確に反対側に逃避するよう移動方向を制御できる運動であり、一方でjumpingはバッタのそれのように前方にのみ高速で移動する運動であると思われる。したがって、runningには「常に刺激の反対側へ逃げられる」という利点が,jumpingには「より速く遠くへ逃げられる」という利点があると予想された。そこで、高速度カメラでそれぞれの行動を計測し、移動速度や移動方向などの運動パラメータを定量的に解析・比較した。その結果、jumpingではrunningよりも速く長距離を移動できるうえ、runningと同様に正確に移動方向を制御できることがわかった。そこで、runningの別の行動学的利点として,常にいずれかの肢が接地しているため、続けて捕食者に攻撃されたときでも柔軟に対応できる利点があると予想した。短い間隔で二回の気流刺激を連続して与えたところ、一度目の刺激に対してjumpingした場合よりもrunningした場合の方が、行動中に与えられた二度目の刺激に対して高頻度で応答することができた。したがって、runningはjumpingに比べて「行動の柔軟性」という行動的利点をもつことが示唆された。

 第二章では、runningとjumpingがどのような刺激特性に基づいて選択されるかを調べた。他の動物では逃避行動の選択が危機刺激の「速度」に基づくことが示唆されているが、その他の刺激特性が行動選択に及ぼす影響は不明である。そこで、コオロギに「角度」、「流速」、「持続時間」の異なる気流刺激を与え、行動選択の割合や反応時の運動パラメータへの影響を調べた。逃避行動の選択は気流刺激の「流速」だけでなく「持続時間」に伴って変化し、刺激の流速が高いほど、持続時間が長いほどjumpingが選ばれやすかった。また、runningでは反応時の移動速度や距離が刺激パラメータに伴って変化したのに対し、jumpingでは変化しなかったことから、runningがどのような刺激かに基づいて運動を変えられる行動である一方、jumpingはより定型的な行動であることがわかった。

 第三章では、第二章で明らかにした、気流刺激に応じて逃避行動を選択し、運動を制御するための神経機構に着目した。コオロギでは、気流刺激の強度や角度の情報は最終腹部神経節内で抽出され、そこから巨大介在ニューロン(GIs)によって脳や胸部神経節に運ばれる。これらの高次神経中枢で行動選択や運動制御に影響する気流刺激の情報処理が行われていると考えられるが、脳や胸部神経節がどのような役割を持つかは不明である。そこで、腹側縦連合神経束を異なる位置で切断して脳や胸部神経節への上行性信号(感覚情報入力)や脳からの下行性信号(運動司令出力)を遮断し、逃避行動における各高次中枢の機能を調べた。まず、左右の縦連合を脳-胸部神経節間で切断すると逃避行動が消失したため、気流逃避行動を行うには脳と胸部の神経連絡が必須であることが分かった。次に、第4-最終腹部神経節間または脳-胸部神経節間で縦連合を片側だけ切断した。前者では脳・胸部神経節共に片側の上行性信号が失われ,後者では胸部神経節脳へは両側性の上行性信号が維持されているが、脳に対しては上行性信号と胸部への下行性信号がそれぞれ片側遮断されている。その結果、胸部神経節への両側性の上行性信号入力があれば下行性信号が片側だけでもrunningすることができたが、jumpingには脳への両側性の上行性信号入力が必要であった。また、移動方向や移動速度,距離の制御には脳からの下行性信号が必要であった。さらに、runningとjumpingに先行して脳から送られる下行性信号を細胞外記録によって調べたところ、jumpingの際にはrunningより行動開始直前に急激な下行性信号の活動増加が生じることが確認された。これらの結果から、脳で決定された選択結果に基づいて異なる運動司令が胸部神経節に送られていると考えられる。

 本学位論文では、コオロギの二種の逃避行動についてその特徴を明らかにした上で、これらの逃避戦略が脳内で複数の気流刺激パラメータの感覚情報処理を経て選択されることを示した。危機刺激は捕食者がどのように接近するかを示す手掛かりであり、刺激の様々な情報に基づいて行動を選択したり運動内容を変化させたりすることは、逃避の成功に重要であると考えられる。本研究を足がかりとして、さらに危機刺激を受けたときの状況による逃避行動選択の違いや逃避行動を決定する脳内神経回路を調査することによって、動物が適切な行動を選択する神経メカニズムの全容を解明することが期待できる。

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