Neural basis of predictive coding in area MT/MST of marmoset monkeys
概要
[課程-2]
審査の結果の要旨
氏名 橋本 昂之
本研究は、視覚的運動の認識に重要な大脳皮質の領野 MT/MST 野の運動情報処理機構
を解明するために、霊長類マーモセットの生体脳において広域・2 光子カルシウムイメー
ジングを行い、MT/MST 野の神経細胞の視覚応答を解析したものであり、下記の結果を得
ている。
1. 動物に一方向に動くドットモーション刺激を長時間(20 秒間)提示し、刺激提示中およ
び刺激後の細胞応答を調べた結果、MT/MST 野に 3 種類の神経活動を見出した。視覚
刺激を提示している間、1) MT 野の大部分の細胞と MST の一部の細胞は視覚刺激に同
調した活動を示す(モーション活動)のに対し、2) 多くの MST 野の細胞は徐々に上昇
する活動パターンを示し、刺激停止後も活動が持続する傾向があった(ランプアップ活
動)。さらに、3)MST 野の細胞は、視覚刺激が止まった直後に一過性の活動を示すこと
がわかった(刺激後応答)。これらの 3 種類の活動は、予測符号化仮説における感覚情
報、予測、予測誤差のそれぞれに対応しているのではないかと仮説を立てた。このこ
とを確かめるために、予測符号化を用いたニューラルネットワークである PredNet を
用いたシミュレーションを行った。車載カメラで撮影した動画を用いてトレーニング
した PredNet に、マーモセットに提示した刺激と同じドットモーション刺激を入力す
ると、PredNet のユニットがモーション活動、ランプアップ活動、刺激後応答と類似
した活動を示すことがわかった。このことから、MST 野で観察された 3 種類の神経細
胞と予測符号化の関係性が示唆された。
2. 一方向に動くドットモーション刺激を長時間観察すると、刺激が止まった直後に静止
画が刺激と逆方向に動いているように知覚される(運動残効)。MST 野の神経細胞が示
す刺激後応答の方向選択性を調べたところ、運動残効と同じ逆向きの動きをコードし
ていることがわかった。さらに、運動残効は刺激時間と比例して大きくなる刺激時間
依存性を示すことが知られているが、MST 野の神経細胞の刺激後応答も同様の刺激時
間依存性を示した。このことから、MST 野の刺激後応答と運動残効の関係性が示唆さ
れた。
以上、本論文はマーモセット MT/MST 野の視覚応答解析を通して MST 野に予測符号化
の神経基盤の存在を明らかにし、同時に運動残効のメカニズムに関する示唆を得た。本研
究は霊長類の大脳皮質における視覚的運動情報処理機構の解明に重要な貢献をなすと考え
られる。
よって本論文は博士( 医 学 )の学位請求論文として合格と認められる。