心臓リモデリングにおける心筋細胞由来VEGFAの役割

概要

［課程－２］
審査の結果の要旨
氏名 佐藤 達之
VEGF-A は、心臓病の病態において重要な役割を果たしていると考えられている。しか
し、個々の細胞から分泌される VEGF-A の役割は不明である。本研究は、その詳細を明ら
かにすることを目的として行われた。野生型マウス、2 つの遺伝子改変マウス、そして心
臓病の病態モデルを用いた解析を行い、下記の結果を得ている。
1.

野生型マウスから、心臓内の各種細胞分画を単離してその VEGF-A 発現を比較した。
その結果、心筋細胞だけでなく、炎症細胞や血管内皮細胞、線維芽細胞なども VEGFA を発現することを明らかにした。

2.

心筋細胞の産生する VEGF-A の役割を明らかにすべく、心筋細胞特異的 VEGF-A 欠損
マウスを作成した。このマウスでは、特に負荷がかかっていない健常な状態であれ
ば、心機能は保持されていた。心筋細胞が分泌する VEGF-A は、心機能の維持には不
要であることが示された。

3.

心臓に負荷がかかった状態での VEGF-A の役割を検証するために、上記心筋細胞特異
的 VEGF-A 欠損マウスに対して、手術で心臓に圧負荷をかけた。すると、心筋細胞特
異的 VEGF-A 欠損マウスの心機能はコントロールマウスと同等か、寧ろやや良い傾向
を認めた。また、圧負荷後の心肥大の程度も軽度だった。これらの実験から、圧負荷
がかかった心臓において、心筋細胞由来の VEGF-A は、少なくとも心機能の維持に働
いていることはなく、寧ろ増悪させる方向に働いている可能性が示された。

4.

心筋細胞由来の VEGF-A には心保護作用がなかったことから、
非心筋細胞由来の VEGFA に心保護効果があるのだという仮説を立て、続いてマクロファージ由来の VEGF-A
の役割を検証した。マクロファージ特異的 VEGF-A 欠損マウスに圧負荷をかけると、
コントロールマウスに比べて心機能が低下した。これにより、圧負荷後の心機能低下を
防いでいるのは、マクロファージ由来の VEGF-A であると考えられた。

以上、本論文はマウス心臓において、心筋細胞及びマクロファージが産生する VEGF-A の
役割をそれぞれ明らかにした。本研究はこれまで十分に理解されていなかった、心臓にお
ける VEGF-A の機能の解明に、重要な貢献を成すと考えられる。
よって本論文は博士（ 医学 ）の学位請求論文として合格と認められる。