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大学・研究所にある論文を検索できる 「腹腔鏡下肝切除のための力センサーを備えた新しいデバイス -グリップ力と組織学的損傷の調査-」の論文概要。リケラボ論文検索は、全国の大学リポジトリにある学位論文・教授論文を一括検索できる論文検索サービスです。

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書き出し

腹腔鏡下肝切除のための力センサーを備えた新しいデバイス -グリップ力と組織学的損傷の調査-

奥田, 洋一 筑波大学

2022.06.09

概要

[背 景]
1990年に胆石症に対する腹腔鏡下胆嚢摘出術が初めて実施されて以後,超音波凝固切開装置やシーリングデバイス,バイポーラなどのエネルギーデバイス,自動吻合機など鏡視下手術から生じるニーズにより発達したデバイスにより,また社会の低侵襲手術への期待にも背中を押され,瞬く間に消化器の各領域へ広がっていった。しかしながら,腹腔鏡手術が急速に普及している一方で,腹腔鏡手術による医療事故の報告が相次ぎその安全性については世間の大きな注目を集めている。術中に実際に臓器を触れる触覚は外科医にとって重要な感覚である。しかし,内視鏡手術の発展に伴い術者へと伝わる情報は内視鏡から得られる視覚情報が主となり,触覚情報は鉗子を通して伝わる僅かな情報のみとなっている。触覚の欠如に関してはロボット手術においても問題点として挙げられており,コンソールで操作しているときに感触として分かるのは,硬い骨などに当たったり,鉗子やカメラが体内もしくは体外で干渉したり物に衝突したりして動かなくなる感覚のみであり,柔らかい臓器であれば,簡単に損傷してしまうリスクがある。筑波大学消化器外科では2015年より腹腔鏡下肝切除を導入し,それに伴い腹腔鏡下肝切除のためのナビゲーションシステムの開発を行ってきた。その中で我々は,実際の臨床の現場で使用可能な高度なセンシング機能を持つ手術鉗子と把持力をリアルタイムで測定するシステムを着想した。腹腔鏡下肝切除術においては肝臓の牽引,圧排を用手的に行うことは出来ないため,把持力や牽引する際の組織との摩擦力などの触覚情報を術者へ提示することの出来る多軸力センサー付き把持鉗子の開発が内視鏡手術やロボット手術の支援に繋がると考えた。

[目 的]
肝臓が組織の変形に伴う損傷を受けやすいという問題を解決するために,我々は三軸力センサーを用いて内視鏡手術用鉗子の把持力をコンピュータで測定する技術を応用した。力覚センサー付き鉗子からなる装置は,国立大学法人筑波大学,株式会社 LEXI,国立大学法人東京大学との共同研究により開発を行った。本研究では,①力覚センサー付き鉗子を用いて腹腔鏡下肝切除中に術者の使用する鉗子が肝臓へ及ぼす把持力をリアルタイムに計測した。さらに,②段階的に異なる力で肝臓を鉗子で把持し,把持力と肝臓の損傷との関係を検討した。以上の結果より術中の鉗子の様々な動きを分析し,各手術中に発生した力のレベルを定量化することができる。それによって,どのようなシチュエーションでどのような力がどのように発生しているか測定することで,手術スキルを客観的に評価し,さらには腹腔鏡下肝切除術で警告値として使用できる把持力を決定することを目的とした。

[対象と方法]
研究対象者:
本研究における鉗子による肝臓の手術手技は,実臨床において 1000 件を超える腹腔鏡手術を行った経験豊富な外科医(n=1)により行われた。

対象動物:
LWD(ランドレース,ダイヨークシャ,デュロック)の3か月令の幼若雌豚(体重約 40kg)2頭であった(2頭より各々3 検体採取したため n=6)。

使用器具:
腹腔鏡手術及び鉗子による組織に加わる圧の測定のシステムは,把持鉗子(Karl Storz, KK33322CC),鉗子の先端に取り付けられた微小電気機械システム(MEMS)三軸力センサー,鉗子のハンドルに取り付けられたブリッジおよびアンプ回路基板,マイクロコンピューターユニット(MCU )アナログ-デジタル変換(ADC)およびシリアル通信が可能なボード,および USB ケーブルで MCU ボードに接続されたラップトップ PCで構成されている。MEMS センサーチップには 3 対の両持ち梁が形成されており,両持ち梁の上面にピエゾ抵抗層を形成したもので圧力を,側面に形成したものでせん断力を計測する。ピエゾ抵抗は梁表面の歪みに応じて抵抗値を変化させる。両持ち梁型センサーチップの検出原理は,対称な側面にピエゾ抵抗層が形成された 2 本の梁の抵抗値変化をブリッジ回路により計測し、電圧変化へと換算する手法を採用している。MEMS センサーの測定範囲,力分解能,および感度は,垂直力に対して 5 N,17 mN および 0.45 V / N,せん断力に対してそれぞれ±1.5 N,10 mN および 0.84 V / N であった。3 軸力はラップトップ PC のディスプレイにグラフとして表示され,外科医にリアルタイムのフィードバックを提供する。

実験方法:
i) 腹腔鏡下肝切除術時の把持力
鉗子の把持力の測定は,対象者がブタの腹腔鏡下肝切除術を行っている間に行った。まず,電気メスを用いて肝臓の左側中央部に目的の腫瘍のマーキングを行った。次に,対象者は左手にセンサー付き鉗子を持ち,通常の手順で部分的な肝切除術を行った。実験中,鉗子の使用中に発生する把持力をリアルタイムで測定した。この実験では,内視鏡技術認定医の資格を持ち豊富な手術経験のある対象者(n=1)による把持力を測定することで手術中に発生した力のレベルを定量化し,手術スキルを客観的に推定することが目的であった。

ii) 鉗子圧迫による肝組織損傷の評価
はじめの実験では使用しなかった肝臓の組織を用いて,把持力と肝臓の損傷の程度を評価する実験を行った(n=6)。把持力は 0.5N から 2.5N まで 0.5N 刻みの 5 段階で調べ,各力について 10 秒間組織を把持し 30 分後に組織を摘出した。この実験では,鉗子圧迫による肝組織損傷の評価での把持力の設定値を決定することが目的であった。
病理学的な損傷の評価は把持した肝臓組織の全層に存在する全小葉のうち,出血や小葉構造の破壊が認められた小葉の割合で行った。

[結 果]
i) 腹腔鏡下肝切除術時の把持力
術者は,手術手技中に 1.75 N の平均把持力で肝臓の組織を把持していた。最大把持力は 3.38N であった。エネルギーデバイスやクリップなどの手術器具を右手で使用する際に,センサー付き鉗子を持っている左手の把持力のうち,垂直方向のZ の上昇に加えて水平方向のY の変化も認められた.

ii) 鉗子圧迫による肝組織損傷の評価
鉗子で肝臓組織を把持した結果,肉眼的にはいずれの把持力で把持した部位にも把持痕が認められた。把持痕は把持力が増加するにつれより鮮明となった。組織学的には 1.0N の把持力から出血と小葉の構造的破壊が観察された。また,測定したいずれの把持力でも小葉間結合組織の破壊は観察されず,小葉内に損傷がとどまるものであった。肝組織損傷は,鉗子の把持力に比例していた。把持力と組織損傷との関係の分析からは正の相関が認められた(R = 0.8662)。

[考 察]
今回の研究で,腹腔鏡手術時の鉗子先端の把持力をリアルタイムで測定するシステムを開発した。従来研究に見られる課題として挙げられた,腹腔内へのポートとなるトロカールの内径よりもセンサーを実装した先端把持部が大きいことに関しては,1.5mm 角の MEMS センサーチップをシリコンゴムに埋め込むことで,圧力とせん断力を計測可能な小型・薄型の 3 軸力センサーを実現し,センサーの土台となる PCB 基板は長さ 14mm,幅 7mm,厚さ 0.72mm で設計することでセンサーを鉗子の先端把持部に実装してもトロカールを問題無く通過できるサイズとした。今回の研究で得られた 1.75N という平均把持力は,全く触覚のないロボット鉗子を使用した場合の値と Multi-Modal HFS 使用を使用した場合の値の間に位置していた。この結果は,腹腔鏡手術中の鉗子による把持には触覚のフィードバックがあるもののヒトの触覚や触覚フィードバックシステムほどの鋭敏なものではないということを示唆している。また,術中に右手でエネルギーデバイスやクリップを操作する際に左手の把持鉗子の把持力が増加する傾向が認められた。これは手術器具使用時に切離や剥離を行う箇所へ左手の把持鉗子を用い適切な緊張をかけ切離や剥離を行い易くする必要が生じてくるため術野の展開以上に力が加わること,右手の動作に注意が向いた際に,臓器を把持している左手の把持鉗子の把持力が無意識に増加したことなどが考えられる。内視鏡手術中の鉗子の把持力の実験で経験豊富な術者である対象者の平均把持力は 1.75N であったこと,今回の把持力と組織学的損傷の関係の実験で 2.0N より強い把持力で把持した場合,組織損傷が実質内部にまで及ぶことより,腹腔鏡下肝切除術で警告値として使用できる把持力の候補として 2.0N という値があがる。しかし,今回の実験は,あくまでも正常な肝組織を基準としたものであり肝硬変性肝組織での検討が必要であること,また実際に各把持力で把持した肝臓の組織が時間経過とともにどのような経過を辿るかにによっても許容できる把持力は異なってくるため,適切な警告値を設定するには今後のさらなる検討が必要であると思われる。また,この新しいデバイスは Da Vinci system のようなロボット手術において欠落している力触覚を触覚フィードバックとして提供することができ,力触覚を得られないロボット手術おける安全性を高めることができると考える。

[結 論]
腹腔鏡下肝切除術では鉗子による肝組織障害が起こっており,今回開発した圧力センサーを備えた腹腔鏡鉗子で構成される新しいデバイスは,腹腔鏡下肝切除における肝臓組織の損傷の予防に役立つ可能性があると考える。

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