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大学・研究所にある論文を検索できる 「The roles of adipose-tissue and malignant ascites in the development of peritoneal metastasis and the progression of ovarian cancer」の論文概要。リケラボ論文検索は、全国の大学リポジトリにある学位論文・教授論文を一括検索できる論文検索サービスです。

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The roles of adipose-tissue and malignant ascites in the development of peritoneal metastasis and the progression of ovarian cancer

伊吉, 祥平 名古屋大学

2023.02.20

概要

【緒言】
卵巣癌細胞は、蓄積した腹水を介して直接播種し、腹腔内臓器や腹膜に転移巣を形成することが知られている。この腹膜播種の過程において、卵巣癌細胞は大網や腸間膜をはじめとする腹腔内脂肪組織に選択性を示し、転移先において原発巣を超える速度で増殖する。多数の転移巣を伴う腹腔内播種が生じると、初回腫瘍減量手術の際に腫瘍を完全切除することが困難となる。その結果、早期再発を来す可能性が上昇し予後も悪化する。この腹膜播種に対する有効な治療法は現在も確立されているとはいえず、その分子生理機構の解明と制御が、卵巣癌の予後向上を目指す上で最も重要な課題の一つとなっている。本研究では、卵巣癌の腹膜播種の克服と制御に向けた知見を得るため、細胞生物学的手法によるアプローチ、臨床研究的手法によるアプローチ、及びオミックスに基づいた手法によるアプローチという 3 つの戦略を採用した。これらの研究から得られた結果を統合することにより、卵巣癌腹膜播種の克服に向けた知見を得ることを目指した。

【対象及び方法】
論文 1 では、手術検体から得られた脂肪細胞を天井培養し、その培地に卵巣癌患者由来腹水を添加することで、悪性腹水が脂肪細胞へ与える影響について評価した。また脂肪細胞モデルとして、マウス線維芽細胞(3T3-L1 細胞)に分化誘導を行って作成した脂肪細胞様細胞を用いて、卵巣癌細胞との共培養や悪性腹水の添加が脂肪細胞に与える影響についても検討した。得られた脱分化脂肪細胞が卵巣癌細胞に与える影響に関しても、in vitro 及び in vivo のアッセイ系を用いて評価を行った。
論文 2 では、肥満が腹膜特異的無再発生存期間に及ぼす影響について、多施設の大規模コホートデータを用いて解析した。悪性卵巣腫瘍患者 4,730 人のうち、手術進行期 IIB から IIIC 期の上皮性卵巣癌と診断され、初回手術で腫瘍の完全切除が達成された 280 例を対象として、診断時の BMI が腹腔内再発に与える影響について検討を行った。
論文 3 では、腹膜播種を高頻度で伴う組織型である高異型度漿液性癌(High-grade Serous Carcinoma: HGSC)の症例 91 例から得られた腹水を用いて、網羅性や再現性、定量性を向上させたプロテオミクス手法であるデータ非依存的取得法(Data- Independent Acquisition: DIA)によって測定及び解析を行った。得られたタンパク質の定量マトリクスからクラスタリング解析を行った後、各クラスターの分子プロファイリングについて検討した。また、成分毎の尤度ベースブースティングに基づく加重回帰手法を用いて予後と相関する因子の探索を行い、その予後マーカーとしての評価も行った。

【結果及び考察】
論文 1 では、卵巣癌患者由来悪性腹水の添加により、脂肪細胞から大網脂肪細胞由来線維芽細胞(Omental Adipocyte-Derived Fibroblast: O-ADF)への脱分化が促進されることが明らかとなった。また 3T3-L1 細胞由来の脂肪細胞モデルを用いた検討でも、卵巣癌細胞株との共培養や悪性腹水の添加により脱分化が促進されることを確認した。フローサイトメトリーによる細胞表面マーカーの検討から、得られた O-ADF が間葉系幹細胞と筋線維芽細胞の特徴を併せ持つ細胞であることを確認した。またリコンビナントタンパク質とその阻害剤を用いた検討から、脱分化過程を引き起こすシグナルの一つとして、Wnt/β-catenin 経路の関与が示唆された。O-ADF と共培養することで、卵巣癌細胞の増殖能や遊走能が亢進することも確認された。
論文 2 では、組み入れ基準を満たした 280 症例を、低 BMI 群(n = 42)、正常 BMI 群 (n = 201)、及び高 BMI 群(n = 37)に分けて解析を行った。 腹膜特異的無再発生存期間と全生存期間は、BMI 正常群よりも高 BMI 群の方が有意に短かった(それぞれ p = 0.028 と 0.018)。また、これら 2 つのグループ間で再発部位の分布に有意差は確認されなかった。多変量解析の結果から、病期分類 pT3 及び腹水細胞診陽性という項目に加えて、肥満が独立した予後因子として同定された。
論文 3 では、HGSC 症例の腹水から、異なる分子プロファイルを持つ 3 つのクラスターを同定した。各クラスターが予後に与える影響を検討したところ、全生存期間、無再発生存期間ともに統計的に有意な差は確認できなかったが、各クラスター間で内因性のプロテアーゼ活性に有意な差があることが確認された。また、予後因子の探索から、凝固経路活性化の抑制が予後良好因子となることも示唆された。
論文 1 及び 2 の結果から、卵巣癌腹膜転移における脂肪組織の重要性と、脂肪組織に富んだ転移巣において腫瘍活性が亢進するメカニズムの一端が明らかとなった。脂肪細胞の脱分化過程は、既存の卵巣癌治療における化学療法のターゲットとはされていないことから、その阻害が新たな治療法開発へと繋がる可能性があると考えられた。また論文 3 からは、HGSC 症例の悪性腹水が固有の分子プロファイルを有する 3 つのクラスターに分けられることや、腹水中でタンパク分解反応が亢進していることが示唆された。これらの結果から、腹水中での生理活性タンパク質の分解や生成が、そこに浮遊する卵巣癌細胞や転移先で播種層を形成している卵巣癌細胞の癌微小環境構築に寄与している可能性が示唆された。論文 1 からも腹水中における Wnt3A の濃度が予後と相関し、これが脱分化を促している可能性が示唆されており、原発巣を離れた卵巣癌細胞が浮遊する場という従来から提唱されてきた役割に加え、生理活性物質を溶かし込み、反応場を提供する溶媒としての腹水の役割が新たに明らかとなった。

【結語】
本研究の結果から、卵巣癌進展における腹腔内環境の重要性が改めて示唆された。卵巣癌を克服するためには、腫瘍細胞だけに注目するのではなく、腹腔内環境全体を治療対象として捉える必要があると考えられた。