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Axonal regeneration and functional recovery driven by endogenous Nogo receptor antagonist LOTUS in a rat model of unilateral pyramidotomy

上野 龍 横浜市立大学

2020.03.25

概要

1. 序論
神経軸索の切断(axotomy)は周囲の細胞に synaptic stripping,wallerian degeneration, glial scar formation 等,様々な反応を引き起こす.幼若な哺乳類の中枢神経系 (Central nervous system; CNS)では活発な神経細胞の産生や,神経回路の形成がなされている一方で,成体哺乳類の中枢神経の軸索は損傷後にほとんど再生されない.中枢神経系由来の髄鞘断片は神経突起の伸長を強力に阻害することがわかっており,特に Nogo を中心とする神経軸索伸長阻害因子(Axonal growth inhibitors: AGIs)とその受容体である Nogo 受容体-1(NgR1) は, 神経ネットワークの再建に重要な役割を担っている(Schwab, 2010) . AGIs/NgR1 シグナル抑制による効果は報告はされているものの,限定的であった.近年,本学で新たに NgR1 の内因性 antagonist として同定された Crtac1B/ Lateral olfactory truct usher substance(LOTUS)は,in vitro 研究で Nogo−A を始めとした NgR1 リガンド全てに拮抗し,NgR1 を介した神経軸索伸長阻害シグナルの抑制による効果を示すことが認められた (Kurihara et al., 2014; Sato et al., 2011).また,本研究に先立ち,LOTUS 過剰発現マウスモデルの一過性脳虚血部分梗塞モデル (Takase et al. 2017), 脊髄損傷モデル (Hirokawa et al., 2017; Ito et al., 2018)において,LOTUS 過剰発現により,神経回路再構成,運動機能回復が促された.一方で,LOTUS により再構成された神経回路が生理的に機能的であり,運動機能改善に寄与するかどうかは不明であった.加えて,使用された損傷モデルは複数の脳の構造,回路に影響するため,詳細な検討が困難であり,電気生理学的評価や機能評価をより詳細に行うためにはマウスモデルよりもラットが適していると考えられた.そこで我々は中枢神経損傷後において,LOTUS が神経回路再構成に促す効果をより詳細に解析するため,神経細胞特異的に LOTUS 過剰発現をする遺伝子改変動物(LOTUS− Tg ラット)を作成し,片側の錐体路を選択的に切断することができる片側錐体路切断モデル(Pyx)を用いて,野生型(WT)ラットを比較対象として解析を行うこととした.
まず,LOTUS の神経損傷後の発現変動を時空間的に解析し, 行動学的評価と併せて,錐体路切断後の運動性神経回路における代償性変化の組織学的評価を行い,LOTUS の神経ネットワーク再構成に関する生体反応に関して考察を行った. 更に,組織学的に再構成された神経回路が電気生理学的に機能的なのかどうかを脳表刺激による電気生理学的評価を行うことで確認した.これらの結果から, LOTUS の in vivo における中枢神経障害後の神経ネットワーク再構成促進効果について検討するとともに, LOTUS を用いた治療法開発の可能性の展望ついて考察を行った.

2. 実験材料と方法
1) 遺伝子改変動物と動物モデル:
LOTUS を neuron (軸索終末) 特異的に過剰発現させるべく, synapsin-1 promoter 領域の下流に LOTUS 配列を組みこんだ cDNA をデザインし, マイクロインジェクション法を用いて Wistar バックグラウンドの LOTUS 過剰発現ラット (LOTUS overexpressing transgenic rat; LOTUS-Tg) を作製した (UNITECH Co., Ltd., Kashiwa, Japan).12-13 週齢 (体重 396-460g) の雄性野生型 (WT)ラット (n=61) と LOTUS-Tg ラット (n=60)を対象とし, それぞれに対して以下の 5 群の実験をおこなった.
片側錐体路切断モデルは,吸入麻酔下に仰臥位で頚部皮膚を正中切開した後,顕微鏡下に後頭骨を露出させ,左側延髄錐体の直上に小開頭をした後,くも膜を切開し,左側錐体の膨隆を直視下に切断した.最終的に,死亡,組織学的規定により除外個体が発生したため,動物の実数は以下となった.

Pyx: WT; n=38 (n=34), LOTUS-Tg; n=38 (n=34)
偽手術 (Sham) : WT; n=4, LOTUS-Tg; n=5
非手術 (Ctl) : WT; n=19 (n=17), LOTUS-Tg; n=17

2) 実験系: 前述の動物を, 評価系毎に以下の実験系に割り付けた.
実験 a: LOTUS の時間的空間的発現変動評価(WT-Ctl; n=3, WT-Pyx; n=9, LOTUS-Tg-Ctl; n=3, LOTUS-Tg-Pyx; n=9)
Western Blot 法を用いたタンパク発現の評価系で,LOTUS の発現を神経損傷後の時間的空間的 (時間; 損傷前/損傷1週/損傷4週/損傷8週, 空間; 中脳/頚髄) に追跡評価した.

実験 b : 行動解析 評 価 (WT-sham; n=4, WT-Pyx; n=9, LOTUS-Tg-Pyx; n=5; LOTUS-Tg-Pyx; n=9)
LOTUS の過剰発現が中枢神経損傷後の運動機能改善に寄与するかどうか,行動解析評価を用いて検討を行った.前肢の機能に関しては cylinder test を用いて,左右の非対称性を,後肢の機能については ledged tapered beam walking test を用いて,後肢の脱落数をカウントし,経時変化を観察評価した.

実験 c-1:逆行性トレーサー(FG)を用いた組織学的評価 (WT-Ctl; n=6, WT-Pyx; n=6, LOTUS-Tg-Ctl; n=6; LOTUS-Tg-Pyx; n=6)
片側錐体路切断後,機能改善に寄与しているのが障害側の脳なのか,非障害側の脳なのかを調べるために,逆行性トレーサー(Fluoro Gold; FG)を C5 および C6 のレベルで頸髄の麻痺側(右側)に注入し,その1週間後(Pyx 後 4 週)に灌流固定と脳脱を行った.FG により逆行性にラベルされた neuron を,赤核,皮質レベルでそれぞれカウントし,片側錐体路損傷後の代償性回路と LOTUS 過剰発現の関連について,またその起源について評価,検討をおこなった.

実験 c-2:順行性トレーサー(BDA)を用いた組織学的評価 (WT-Ctl; n=5, WT-Pyx; n=7, LOTUS-Tg-Ctl; n=5; LOTUS-Tg-Pyx; n=7)
前述の実験:c−1逆行性トレーサ(FG)を用いた実験の結果を踏まえ,非障害側(右側)の sensorimotor cortex に順行性軸索トレーサー (biotinylated-dextran amine; BDA) を注入し, その 2 週後(Pyx 後 8 週)に灌流固定と脳脱を行った.非障害側皮質脊髄路 (cortico-spinal tract; CST) から,障害側の赤核,頚髄灰白質への sprouting axon(交叉性の発芽軸索)を定量し,錐体路切断後における健側運動性回路から同側患側への代償性 sprouting と,LOTUS 過剰発現の関連について評価を行った.

実 験 d: 電気生 理 学的評 価 WT-Ctl; n=3, WT-Pyx; n=3, LOTUS-Tg-Ctl; n=3; LOTUS-Tg-Pyx; n=3)
片側錐体路切断により,組織学的に認められた代償性運動性回路が,実際に電気生理学的にも機能的なものなのかどう かを, 皮質 内微小 刺激法( intracortical microstimulation; ICMS ) を用いて検証した. 具体的には, 非障害側( 右側) の sensorimotor cortex の刺激により,同側(障害側)前肢の反応が認められるかどうかを,皮質刺激に対して前肢が反応を示した点の総数と,刺激側前肢が反応した点の総数比を ipsilateral response rate として,Pyx 前,Pyx12 週後に WT と LOTUS-Tg の 2 郡間で比較し,LOTUS 過剰発現との関連について評価を行った.

3. 結果
1) LOTUS の発現変動
実験 a では,片側錐体路切断前後(損傷前/損傷1週/損傷 4 週/損傷 8 週)に PBS 灌流を行い,ラットの脳と頸髄を一塊として取り出し,中脳,頚髄(C4-C6)をそれぞれサンプリングして western blot を行った.LOTUS の発現は,赤核レベルでは両群に損傷後の差は認められなかった一方で,頚髄レベルでは LOTUS-Tg 群において有意な発現の亢進を認めた.

2) 片側錐体路切断における,運動機能に対する LOTUS 過剰発現の影響
片側錐体路損傷後の運動機能解析では,WT 群と比較し,LOTUS-Tg 群において,Pyx 3 週間目以降で障害側前後肢の機能の有意な改善が認められた(p<0.05, p<0.05).

3) 健側回路から患側への代償性回路形成
Pyx は片側錐体路を選択的に切断するため,FG を用いた逆行性標識では,FG 注入反対側の赤核の標識細胞数に Pyx 前後で変化は認められなかった.一方で,FG 注入同側の赤核において,LOTUS-Tg(LOTUS-Tg-Pyx)で有意に標識細胞数の増加を認めた(p=0.037).皮質では, FG 注入反対側で,Pyx 後に両群とも有意に標識細胞数の減少を認め(p<0.0001),FG 注入同側皮質においては,赤核と同様に LOTUS-Tg(LOTUS-Tg-Pyx)で有意に標識細胞数の増加を認めた(p<0.0001).BDA を用いた健側運動性回路の順行性標識では,患側の脊髄後索から患側灰白質への cross-sprouting fiber が LOTUS-Tg(LOTUS-Tg-Pyx)群において有意に増加していた(p=0.0009).一方で,赤核レベルにおける cross-sprouting fiber 数は,両群とも Pyx 後に有意に増加していたが(p=0.043)両群間に差は見られなかった(p=0.98).

4) 代償性回路形成と電気生理学的機能
Pyx 前では WT,LOTUS-Tg 群の両群の ipsilateral response rate に差は見られなかった. Pyx 12 週後では,両群とも Pyx の影響で障害前の control と比較し,有意に ipsilateral response rate の上昇が認められ(p<0.0001),さらに WT 群,LOTUS-Tg 群で比較すると, LOTUS-Tg 群で有意に ipsilateral response rate が高かった(p=0.022).

4. 考察
Pyx 後,LOTUS-Tg 群において運動機能の有意な改善を認めた.頚髄レベルにおいて,LOTUS-Tg群で LOTUS の発現が有意に高かったが,赤核レベルにおいては WT 群と差が認められなかった.各種トレーサーを用いた神経回路の検討では,LOTUS の過剰発現を認めた脊髄レベルで sprouting-fiber の増加が認められた.一方で,赤核レベルにおいては,損傷後の自然回復を担うと考えられる sprouting-fiber の増加を認めたが,両群に差は見られなかった.電気生理学的な検証では,Pyx 後LOTUS-Tg 群において有意に同側前肢の反応の増加を認めた.以上より,LOTUS の過剰発現により,非障害側の脳皮質から同側投射による神経ネットワークの再構成が促され,それが機能回復に有意に寄与することが示唆された.LOTUS は幹細胞移植などと比較し,内在性物質であり安全性に優れていると考えられ,今後神経損傷後の神経再生療法の候補としての可能性を持つと考えられる.

参考文献

Hirokawa, T., Zou, Y., Kurihara, Y., Jiang, Z., Sakakibara, Y., Ito, H., . . . Takei, K. (2017). Regulation of axonal regeneration by the level of function of the endogenous Nogo receptor antagonist LOTUS. Sci Rep, 7(1), 12119. doi:10.1038/s41598-017-12449-6

Ito, S., Nagoshi, N., Tsuji, O., Shibata, S., Shinozaki, M., Kawabata, S., . . . Okano, H. (2018). LOTUS Inhibits Neuronal Apoptosis and Promotes Tract Regeneration in Contusive Spinal Cord Injury Model Mice. eNeuro, 5(5). doi:10.1523/ENEURO.0303-18.2018

Kurihara, Y., Iketani, M., Ito, H., Nishiyama, K., Sakakibara, Y., Goshima, Y., & Takei, K. (2014). LOTUS suppresses axon growth inhibition by blocking interaction between Nogo receptor-1 and all four types of its ligand. Mol Cell Neurosci, 61, 211-218. doi:10.1016/j.mcn.2014.07.001

Sato, Y., Iketani, M., Kurihara, Y., Yamaguchi, M., Yamashita, N., Nakamura, F., . . . Takei, K. (2011). Cartilage acidic protein-1B (LOTUS), an endogenous Nogo receptor antagonist for axon tract formation. Science, 333(6043), 769-773. doi:10.1126/science.1204144

Schwab, M. E. (2010). Functions of Nogo proteins and their receptors in the nervous system. Nature Reviews Neuroscience, 11(12), 799-811. doi:10.1038/nrn2936

Takase, H., Kurihara, Y., Yokoyama, T. A., Kawahara, N., & Takei, K. (2017). LOTUS overexpression accelerates neuronal plasticity after focal brain ischemia in mice. PLoS One, 12(9), e0184258. doi:10.1371/journal.pone.0184258

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