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大学・研究所にある論文を検索できる 「リモートセンシングによる海面養殖施設マッピング手法の開発と適用」の論文概要。リケラボ論文検索は、全国の大学リポジトリにある学位論文・教授論文を一括検索できる論文検索サービスです。

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リモートセンシングによる海面養殖施設マッピング手法の開発と適用

村田 裕樹 東北大学

2020.09.25

概要

沿岸域ではコンテナ船・貨物船による海上物流拠点や,工場・発電所・漁港等が立地しており,現代の人間社会にとって必要不可欠な場が形成されている。一方で沿岸域には藻場・干潟・塩性湿地・マングローブ林・サンゴ礁などの自然環境が形成されており,人類にとって重要な生態系サービスを提供している。しかし,これまでの埋立てや伐採等によって直接的に,また人間活動に由来する水質汚染等によって間接的に自然環境の悪化・減少が進んできた。そのため,世界が取組むべき環境課題となっている。

 世界では人口増加が急速に進んでおり,これに対応するための食料供給源として水産物,特に養殖による生産に期待が寄せられている。しかし,海面養殖は自然環境を直接的もしくは間接的に減少・消失させてきたことが知られている。そのため,沿岸域の人間活動と自然環境の両方を適切に管理することが国内外で求められている。世界では国連教育科学文化機関(UNESCO)の政府間海洋学委員会(IOC)が海洋空間計画(Marine Spatial Planning: MSP)を提案している。日本では2018年に策定された第3期海洋基本計画において沿岸域の総合的管理や海洋状況把握(Maritime Domain Awareness: MDA)に取組むことが示されている。さらに近年,日本では洋上風力発電などの再生可能エネルギーによる新たな海域利用も進められており,開発と環境保全の調和が不可欠となっている。これを実現するためには,科学的知見に基づいて人間活動と自然環境に関する情報を収集し,さまざまな立場・観点からの総合的な議論が必要である。

リモートセンシングで取得したデータから沿岸域の自然環境と海面養殖施設の情報を把握できることが先行研究から明らかになっている。しかし,海面養殖施設の台数や空間情報を効率よく抽出するための手法に関する研究例は国内外であまりない。日本では,各地域の漁業協同組合(漁協)が海面養殖施設の台数や空間配置などを自主的に管理しているが,これらの情報は公表する義務がなく,そのため必ずしも実際の海面利用状況を把握する必要はなかった。ところが,2018年に「漁業法等の一部を改正する等の法律」が第197回国会に提出・可決され12月14日に公布,2年以内に施行される予定となり,今後漁業権者は漁場を適切・有効に活用する責務を課されるとともに,漁場活用に関する情報の報告を義務づけられることとなった。このような情報を現地調査で把握することは現実的でなく,海面養殖施設を効率良く把握できる方法の開発が望まれていた。

 こうした背景から,本研究ではリモートセンシングによる科学的なアプローチから海面養殖施設の地図を作成(マッピング)するための効率的な手法を開発することを第1の目的とした。また,手法の開発に加え,実際に手法を適用することでその有効性を示すことを第2の目的とした。各章の内容は以下のとおりである。

 第1章では,本論文の背景として,沿岸域管理の必要性,海面養殖の重要性,リモートセンシングによる沿岸域管理の可能性について整理した。あわせて,2011年3月11日東日本大震災により壊滅的な被害を受けた三陸沿岸の海面養殖の復旧状況について,公表資料を整理した。

 第2章では,高分解能光学衛星画像を用いた海面養殖施設の自動抽出手法を開発した。調査場所は三陸沿岸・岩手県山田湾の湾奥部とし,筏式養殖施設と延縄式養殖施設を対象とした。2019年4月8日観測の人工衛星GeoEye-1のマルチスペクトルバンド画像(空間解像度2m)とパンクロマチックバンド画像(空間解像度0.5m),およびこれらから合成したパンシャープン画像(空間解像度0.5m)を用いて,海面養殖施設の自動抽出に最適なバンド画像について調べた。また,画像中の海面と海面養殖施設を区別するための閾値の設定方法についても調べた。この結果,マルチスペクトルバンドBand4(近赤外バンド)画像を使用することで,筏式養殖施設を台数ベース99.7%,面積ベース92.5~99.8%の精度で抽出できることを明らかにした(図1)。設定する閾値の値によって抽出面積が変化するため,適切な閾値を調べた結果,海面養殖施設周辺の海面の最大値を閾値として設定することが有効であることを示した。一方,延縄式養殖施設の自動抽出精度は低かったため,目視判読によるマッピングが有効であった。

 第3章では,合成開口レーダによる海面養殖施設検出および種類判別手法を開発した。調査海域は宮城県松島湾とし,カキ養殖に用いられる筏式,延縄式,木架式の3種類の養殖施設を対象とした。2014年8月6日観測の航空機搭載型合成開口レーダPi-SAR-L2の全偏波観測データ(空間解像度1.76m×3.2m)を用いて海面養殖施設の検出および種類判別手法を開発した。HHとHV単偏波観測画像からは海面養殖施設を検出することが可能であった。特にHV単偏波観測画像を用いることで海面と海面養殖施設を明瞭に区別して検出することが可能であった。しかし,HHとHV単偏波観測画像から海面養殖施設の種類を判別することは困難であった。次に,全偏波観測データを2回反射,体積散乱,表面散乱の3成分に分解した結果,木架式養殖施設と延縄式養殖施設では2回反射の散乱寄与パーセント値が重複しないことから,これらを判別できることが分かった。なお,延縄式養殖施設と筏式養殖施設は3成分分解の結果からは判別することができなかったものの,その大きさが異なることから目視による判別が可能であった(図2)。

 第4章では,第2章と第3章で開発した手法の有効性・汎用性を検証するため,人工衛星の種類,観測時期,調査場所が異なるデータを用いて解析を行った。はじめに岩手県山田湾を調査場所として,2009年11月23日の人工衛星GeoEye-1画像,2016年4月12日の人工衛星WorldView-2画像,2019年4月8日GeoEye-1画像から筏式養殖施設を自動抽出,延縄式養殖施設を目視判読により解析した(図3)。次に,2015年4月30日の人工衛星Pleiades-1A画像を用いて広田湾の筏式養殖施設を自動抽出した。また,広田湾において2015年9月3日,2016年10月13日,2017年8月31日,2018年8月30日の人工衛星ALOS-2に搭載された合成開口レーダPALSAR-2の全偏波観測データ(空間解像度6m)を用いて海面養殖施設の検出と種類判別の可能性について調べた。これら解析結果から,第2章において開発した手法は,手法開発に使用した人工衛星GeoEye-1以外の高分解能光学衛星画像にも適用できることを示した。山田湾の筏式養殖施設はいずれも面積ベース98.4%以上の精度で自動抽出されたことから,汎用性のある手法であることが確認された。台数ベースでは,2009年11月23日時点で2,631台,2016年4月12日時点で825台,2019年4月8日時点で797台の筏式養殖施設が自動抽出された。このことから,東日本大震災前後で海面養殖施設の台数と空間配置が大きく変化したことも明らかとなった(図3)。一方,広田湾の筏式養殖施設(図4)は平均面積49.5m2で自動抽出され,実際の面積40m2よりも大きく抽出された。この理由としては,係留されていた漁船が抽出結果に含まれていたことや,養殖筏の距離が近い2台の筏が1台の筏として抽出されていたことが考えられる。また,エアロゾルの分子散乱の影響を受けることで空間範囲が大きくなる隣接効果も理由として考えられる。

 ALOS-2PALSAR-2の全偏波観測データでは,海面養殖施設が設置されている区画を検出できることが分かった(図5)。第3章では,空間分解能1.76m×3.2mの航空機搭載型合成開口レーダPi-SAR-L2を用いたことで1台毎に海面養殖施設を検出することが可能であったが,PALSAR-2では区画の検出となった。そのため,今回の調査場所である広田湾のように,同じ種類の海面養殖施設がまとまって設置されている場合には,海面養殖施設の設置されている区画から種類判別が可能であることが分かった。

 以上のように,高分解能光学衛星による海面養殖施設の自動抽出と合成開口レーダによる海面養殖施設の検出・種類判別の手法について検討し,その有効性を確認した。これらの手法を適用することで,これまでは各地域の漁協が自主的に管理してきた海面養殖施設の台数・空間配置を効率的に把握できることを示した。今後,海面養殖施設のマッピングを行い,各地域の漁協に情報を提供することができれば,沿岸域の適切な管理につながるものと考えられる。

 東日本大震災からの海面養殖施設の復旧に関して,復旧という言葉が元通りの状態に戻すという原形復旧の意味であるならば,岩手県山田湾の海面養殖施設は復旧していなかった。一方で,自治体や省庁等による公表資料では海面養殖施設の復旧率はすでに100%とされている。つまり,海面養殖施設は震災後に設定した目標の台数を達成したという意味で復旧完了とされている。このことは原形復旧が困難であることを示唆しており,現時点では今後新たに海面養殖施設が震災復旧の一環として再設置される見込みはないということである。一方で,震災前後で山田湾の海面養殖施設の台数や空間配置が大きく変化したのは過密養殖を解消しようという漁業者の取組みによるものであることが報告されている。このように,山田湾では東日本大震災を契機として原形復旧ではなく,漁業者が中心となって新たな漁業の実現による復興を目指してきたものと言える。

 リモートセンシングでは科学的知見に基づいて客観的にデータを収集できる。得られたデータは1枚の地図にして示すことで,わかりやすい形で政策決定者や利害関係者間で共有することができ,利害調整や漁業者間の紛争解決にとって有効である。また,自然環境に関する情報等と組み合わせることで海を持続的に利用していくための海洋空間計画(MSP)を策定することにもつながる。このように,今回開発した海面養殖施設マッピング手法は漁業だけに限らず,広い分野で利用されることが期待できるものである。

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