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大学・研究所にある論文を検索できる 「ベネトクラクス耐性ヒト白血病由来HL60細胞におけるABCB1基質に対する交差耐性の誘導」の論文概要。リケラボ論文検索は、全国の大学リポジトリにある学位論文・教授論文を一括検索できる論文検索サービスです。

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ベネトクラクス耐性ヒト白血病由来HL60細胞におけるABCB1基質に対する交差耐性の誘導

中山, 優子 神戸大学

2022.03.25

概要

【背景・目的】
アポトーシス関連タンパク質である Bcl-2 ファミリー分子の発現は、種々の癌細胞において変動していることが報告されている。新規の経口 Bcl-2 選択的阻害剤であるベネトクラクスは、Bcl-2 に選択的に結合することにより、癌細胞のミトコンドリアからのシトクロムc放出およびカスパーゼカスケードを活性化し、アポトーシス活性を亢進させることで癌細胞の増殖を抑制すると考えられている。

ベネトクラクスは再発又は難治性の慢性リンパ性白血病や急性骨髄性白血病に対して、他の分子標的治療薬やモノクローナル抗体との併用で良好な治療成績を示しており、現在、多発性骨髄腫や慢性骨髄性白血病などに対して適応拡大に向けた臨床試験が進行中である。

一方、多剤耐性は癌化学療法において未だ重要な課題であり、殺細胞性抗癌薬だけでなく、分子標的薬に対しても耐性を獲得することが近年明らかにされている。ベネトクラクスに対する耐性獲得も臨床における課題とされており、その耐性獲得機構に関する研究は実施されているものの、ベネトクラクス耐性がベネトクラクス以外の抗癌薬の感受性にどのような影響を及ぼすかについては検討されていないのが現状である。

本研究では、ベネトクラクスに対する耐性獲得が交差耐性を誘導するか否かを解明するために、白血病細胞モデルとしてヒト急性前骨髄球性白血病細胞株 HL60 を選択し、ベネトクラクスを継続的に曝露させたベネトクラクス耐性 HL60/VEN 細胞を樹立した。さらに HL60/VEN 細胞における各種抗癌薬に対する感受性並びに分子生物学的変化を HL60 細胞と比較検討した。

【方 法】
HL60 細胞をベネトクラクス 1 µM で約 3 か月間曝露することにより、ベネトクラクス耐性 HL60/VEN 細胞を樹立した。抗癌薬感受性試験には、ベネトクラクスおよび殺細胞性抗癌薬(ビンブラスチン、ビンクリスチン、パクリタキセル、SN-38、ドキソルビシン、エトポシド、5-FU、シスプラチン、カルボプラチン、ミトキサントロン)を使用し、被験薬物を 72 時間曝露後、WST-1 法で生細胞数を測定し、得られたデータから 50%増殖阻害濃度(IC50)値を算出した。また、細胞増殖活性の指標である DNA 合成能力へのベネトクラクスの影響は、BrdU 取り込み法により評価した。アポトーシス活性は、 HL60 および HL60/VEN をベネトクラクスで処置し、 FITC-Annexin V/Propidium iodide (PI)を用いたフローサイトメトリーによりアポトーシスの初期段階である細胞膜構造の変化を解析することで評価した。また、アポトーシスの最終段階に相当する DNA 断片化は、アガロースゲル電気泳動法により評価した。さらに、アポトーシス関連因子(アポトーシス抑制遺伝子:BCL2、BCL2L1、BCL2L12、BCL2A1、 MCL1、アポトーシス促進遺伝子:BAK1、BAX)のmRNA 発現は、SYBR® green を用いたリアルタイム RT-PCR 法により定量した。

多剤耐性に関連する因子として、ABCB1、ABCG2、ABCC1 及び ABCC2 の mRNA 発現を SYBR® green を用いたリアルタイム RT-PCR 法により定量した。また、ベネトクラクス感受性への ABCB1 の影響を評価するために、ABCB1 阻害剤であるシクロスポリンA 共存下でのベネトクラクス感受性ならびにABCB1 過剰発現細胞におけるベネトクラクス感受性を WST-1 法で測定した。

【結果・考察】
臨床で到達可能な血漿中ベネトクラクス濃度に相当する 1 µM で HL60 細胞を約 3 か月曝露することにより、HL60/VEN 細胞を新規に樹立した。HL60 及び HL60/VEN 細胞におけるベネトクラクスの IC50 値は、それぞれ 2.31 µM および 6.26 µM であり、HL60/VEN 細胞はベネトクラクスに対して約 3 倍の耐性を示した。また、HL60 細胞の BrdU の取り込みは、ベネトクラクス処置濃度が 0.625 µM まで維持されていたものの、 HL60/VEN 細胞では処置濃度が 2.5 µM まで維持されており、DNA 合成能力の観点からも、HL60/VEN 細胞はベネトクラクスに耐性を示すことが明らかとなった。

次に、両細胞のアポトーシス活性について検討した結果、ベネトクラクス処置による HL60/VEN 細胞の DNA 断片化は、HL60 細胞の場合と比較して、より高濃度側にシフトしていることが確認された。また、FITC-Annexin V/PI 染色による初期および後期アポトーシスの発現割合は、両細胞においてベネトクラクス濃度依存的に増加したものの、HL60/VEN 細胞におけるアポトーシスの発現割合は HL60 細胞と比較して有意に低値であった。これらの結果は、HL60/VEN 細胞におけるアポトーシス活性が低下していることを示しており、この変動が HL60/VEN 細胞のベネトクラクス耐性機構に一部寄与していることが示唆された。そこで、Bcl-2 ファミリーの mRNA 発現について検討した結果、BCL2 mRNA の発現は HL60/VEN 細胞において有意に低下したが、 BCL2A1 と MCL1 の mRNA 発現には有意な増加を認めた。これらの結果は、細胞種は異なるものの既報の結果を支持するものであり、HL60/VEN 細胞は Bcl-2 ファミリーの発現変動に関して、ベネトクラクス耐性に関する典型的な特性も有していることが明らかとなった。

そこで、HL60/VEN 細胞の各種抗癌薬に対する感受性について検討した。HL60/VEN 細胞は検討した殺細胞性抗癌薬に対して多様な感受性を示した。特にABCB1 基質の抗 癌薬に対する感受性が HL60 細胞の場合と比較して低下し、HL60/VEN 細胞は特定の抗 癌薬に対して交差耐性を示すことが明らかとなった。そのため、抗癌薬耐性への関与 が示唆されている代表的な ABC トランスポーターの mRNA 発現を HL60 と HL60/VEN 細胞を用いて比較した結果、ABCB1 の発現量は HL60/VEN 細胞において有意に増大し た。また、HL60/VEN 細胞において ABCG2 mRNA 発現量は HL60 と比較して増大傾向 を示し、ABCC1 及び ABCC2 の mRNA 発現量は有意に低下した。これらの結果は、 ABCB1 の高発現が HL60/VEN 細胞が示す交差耐性に関与していることを示唆している。しかしながら、HL60/VEN 細胞のベネトクラクス感受性は代表的な ABCB1 阻害剤であ るシクロスポリン A の共存により回復しなかった。また、ABCB1 の発現量が増大して いることが明らかにされているパクリタキセル耐性細胞株(HeLa/TXL)を用いてベネ トクラクス感受性を評価したところ、その親株細胞(HeLa)の感受性と同等であった。従って、HL60/VEN 細胞は、ABCB1 の高発現に起因する交差耐性を示すものの、 ABCB1 がベネトクラクスに対する耐性には寄与しないことが示唆された。

【結 論】
本研究で新たに樹立したベネトクラクス耐性 HL60/VEN 細胞は、ABCB1 基質である各種抗癌薬に対して交差耐性を示した。これは、HL60/VEN 細胞における ABCB1 の高発現に起因することが示唆された。また、ベネトクラクスに対する耐性はABCB1 の影響は受けず、Bcl-2 ファミリーの発現変動やアポトーシス活性の低下に起因すると考えられた。

従って、ベネトクラクスを使用した癌化学療法において、ベネトクラクス投与によるABCB1 誘導が、交差耐性あるいは薬物間相互作用を惹起する可能性が示唆され、これらのモニタリングが癌化学療法施行中に必要と考えられる。

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