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大学・研究所にある論文を検索できる 「大腸鋸歯状腺腫の内視鏡及び網羅的遺伝子発現解析による検討」の論文概要。リケラボ論文検索は、全国の大学リポジトリにある学位論文・教授論文を一括検索できる論文検索サービスです。

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大腸鋸歯状腺腫の内視鏡及び網羅的遺伝子発現解析による検討

大木, 大輔 東京大学 DOI:10.15083/0002002377

2021.10.13

概要

大腸鋸歯状腺腫(SSA/P: Sessile serrated adenoma/polyp)は近年の内視鏡技術の進歩に伴い存在が認識されるようになって来た病変であり、そのprevalenceや内視鏡的な検出率から、分子生物学的な背景に至るまで不明な点が多い。今回大腸鋸歯状腺腫の内視鏡検出率に関する検討及び内視鏡生検検体を用いた網羅的遺伝子発現解析による分子生物学的な検討を行った。

 内視鏡検出率に関する検討では大腸内視鏡の優れたQuality indicator(QI)として知られるadenoma detection rate(ADR)とSSA/P detection rate(SSADR)に相関関係があるか検討するとともに、SSA/Pdetectionに関する予測因子を併せて評価した。ADRとはadenomaを1個以上指摘した大腸内視鏡検査数を全大腸内視鏡検査数で除した比率でpost-colonoscopy colorectal cancer(PCCRC)や大腸癌死との相関が知られている。本検討は単施設後方視的解析であり、東京大学医学部附属病院で2014年1月~12月の1年間に消化器内科医にスクリーニング・サーベイランス目的で施行された全大腸内視鏡検査を全件、電子カルテを用いて集積・検討した。上記期間に施行された大腸内視鏡検査3691件、消化器内科医35人が解析対象となった。全検査中に低異型度管状腺腫、高異型度管状腺腫、癌を1個でも認めた症例の割合はそれぞれ26.5%(978例)、2.2%(84例)、2.2%(81例)であり、ADRは29.5%であった。同様に全検査中にSSA/P、SSA/P with cytological dysplasiaを1個でも認めた症例の割合はそれぞれ1.8%(66例)、0.1%(2例)であり、SSADRは1.8%であった。続いてadenoma detection及びSSA/P detectionに関係する因子を評価した。adenoma detectionに関連する因子では、平均引き抜き時間8分以上はadenoma detectionと有意に正の相関(adjusted OR: 1.77, 95%CI: 1.28-2.46; P < 0.001)しており、一方女性患者(adjusted OR: 0.61, 95%CI: 0.54-0.70; P < 0.001)と不十分な前処置(adjusted OR: 0.32, 95%CI: 0.19-0.52; P < 0.001)はadenoma detectionと有意に負の相関を呈しており既報と矛盾しない結果であった。SSA/P detectionに関連する因子では患者ベースのadenoma detectionが唯一有意な相関を示し(adjusted OR: 2.53, 95%CI: 1.53-4.20; P < 0.001)、ADRとSSADRが相関することを示唆していた。また術者毎にADRとSSADRの値を算出し散布図を作成したところ、術者の検査数に重みを置いた相関係数は0.606(P < 0.001)であり相関が認められた。内視鏡検出率に関する検討の結果ADRとSSADRが相関することが示唆された。欧米諸国からはADRとSSADRが相関するという既報は認められるものの、アジア圏からはADRとSSADRの関係に関しては十分な評価はされておらず、本検討はその観点から意義が大きい。

 分子生物学的検討では、新鮮凍結された内視鏡生検検体を用いてSSA/Pの網羅的遺伝子発現解析を行い、SSA/Pの特異的遺伝子発現パターンを同定した。遺伝子発現プロファイルの結果をもとに、クラスター解析、パスウェイ解析、Gene Set Enrichment(GSEA)解析などバイオインフォマティックな手法で解析を行い、SSA/Pの発生のメカニズムに迫った。またSSAPにおいて特異的に発現を呈する分子マーカー候補について免疫組織化学染色による評価を行い、新規マーカー遺伝子候補の検索を行った。

 遺伝子発現解析の結果、腫瘍で上昇している遺伝子群はANXA10、TM4SM4、VSIG1、SULT1C2、CDH3、KLK7、TFF2、REG4、SERPINB5、KLK11、MUC5AC、TFF1、MUC17、CTSE、CLDN1、S100Pなど既報でも上昇を認めたものを多く認め、微小生検検体から抽出された高精度の全RNAに対して正確な発現解析データが得られたことを確認した上でバイオインフォマティック解析を施行した。

 GSEA解析の結果ではadenomaとその周囲正常粘膜において発現差を認めた遺伝子セット(Enrichment score -0.846, p value < 0.00001)とマイクロサテライト不安定性癌で上昇している遺伝子セットもEnrichment scoreが高かった(Enrichment score-0.826, pvalue < 0.00001)。そこでSSA/P、adenoma、マイクロサテライト不安定性大腸癌の3つの腫瘍の間に双方向Cross-referenceのGSEA解析を行った結果、SSA/Pはマイクロサテライト不安定性大腸癌との相関が得られるものの、大腸腺腫はマイクロサテライト不安定性大腸癌との相関が得られず、SSA/Pはadenomaと異なりマイクロサテライト不安定性大腸癌と有意に相関している可能性が示された。

 また近年、国際的コンソーシアムによる大規模共同研究により大腸癌を分子サブタイプにより分類することが試みられている。このConsensus Molecular Subtypes(CMS)分類では約4000例の遺伝子解析データをサブタイピングし、そのデータを更にネットワーク解析で類似性の高い4つのクラスターに分類している。今回得られたマイクロアレイの遺伝子発現プロファイルを用いてCMS分類を施行した。CMS callerというバイオインフォマティック解析ツールを用いて解析した結果90%(9/10)で、SSA/PはBRAF変異が多くマイクロサテライト不安定性が認められるサブタイプであるCMS1に分類されるというものであった。

 得られた遺伝子発現プロファイルを用いてSSA/Pにおいて特異的に発現を呈する分子マーカーの同定を行うため、FFPE検体を用いて免疫組織化学染色による評価を行った。特異的分子マーカーの候補として最終的に、SSA/Pでは特異的発現を呈するがadenomaで特異的発現を呈さないGJB4、ALDOBを選択し、また胃の分化マーカーとして知られSSA/Pでも既報にあるMUC5ACも併せて評価した。既報ではSSA/Pは、その構成細胞がMUC5ACとMUC2共に陽性である胃腸混合型形質を示す中間型上皮細胞からなることが報告される。免疫組織化学染色の結果GJB4はSSA/P、HP、adenoma全てにおいて、腫瘍部と正常部共に表層粘膜上皮の細胞膜及び細胞質がびまん性に染色され、染色効果の強弱が認められずスコアリング困難であった。またALDOBはSSA/Pでは100%(40/40)、HPでは95%(19/20)、adenomaでは95%(19/20)が核・細胞膜・細胞質がいずれも染色されないという結果であった。両者ともSSA/Pの特異的マーカーとしての有用性が期待されたが、結果的にSSA/Pの診断への有用性が確認できなかった。MUC5ACはSSA/Pでは77.5%(31/40)で染色され、HPでは30%(6/20)が染色され、adenomaでは染色されず、SSA/P>HP>adenomaの順に染色される割合が高く、既報と同様の傾向が示されることが確認された。

 本検討では臨床面ではアジアの人口で初めてSSADRとADRの相関について確認した。また本邦において初めて微小生検検体から抽出された高精度の全RNAに対してmRNAマイクロアレイによるSSA/Pの網羅的遺伝子発現解析を施行し、正確な発現解析データが得られた。そしてSSA/Pがマイクロサテライト不安定性大腸癌の遺伝子発現プロファイルに強い相関を持つことを、網羅的遺伝子発現解析を用いたバイオインフォマティック解析を通して示した初めての検討であり意義が大きい。今後更なる症例集積と研究が望まれる。

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