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書き出し

マルチリージョンシークエンスを用いた腫瘍内不均一性と腫瘍進化の過程の解析

槇島, 健一 筑波大学 DOI:10.15068/0002008045

2023.09.04

概要





大 学

博士(医学)学位論文

マルチリージョンシークエンスを用いた
腫瘍内不均一性と腫瘍進化の過程の解析

2022

筑波大学大学院博士課程人間総合科学研究科

槇島

健一
1

原典論文の再利用(Re-use)について

本論文の作成において、
Cancer Science 誌に掲載された
Intratumor heterogeneity of lymphoma identified by multiregion
sequencing of autopsy samples.
Kenichi Makishima, Yasuhito Suehara, Yoshiaki Abe, Keiichiro
Hattori, Manabu Kusakabe, Ryota Matsuoka, Shigeru Chiba,
Makiko Sakata-Yanagimoto.

Cancer science. 113(1):362-364, 2022. doi: 10.1111/cas.15178.
の内容を Wiley 社の利用規則に従って再利用した。

2

目次
第 1 章 序文 p5 - p11
第 2 章 多領域サンプルからの次世代シークエンスを用いた悪性リン
パ腫の腫瘍内不均一性の解析 p12 - p42
2.1 背景 p12 - p14
2.2 本研究の目的 p14
2.3 材料と方法 p14 – p21
2.3.1 臨床経過
2.2.2 臨床検体
2.2.3 DNA 抽出
2.3.4 全エクソンシークエンス
2.3.5 高深度ターゲットアンプリコンシークエンス
2.3.6 腫瘍内不均一性の進化系統樹の作成
2.3.7 計算資源
2.3.8 統計学的解析
2.4 結果 p22 – p25
2.4.1 病理学的再評価
2.4.2 全エクソンシークエンスデータからの腫瘍毎の SNV の同定
3

2.4.3. 高深度ターゲットアンプリコンシークエンスからの SNV の確認
2.4.4 全エクソンシークエンスからの腫瘍毎の SCNA の同定
2.4.5 LICHeE を用いた腫瘍内進化の同定
2.5 考察 p25 – p34

第 3 章 結語 p35
第 4 章 要約図 p36
第 5 章 謝辞 p37
第 6 章 図表 p38 – p63
第 7 章 引用文献 p64 – p73

4

第 1 章 序文
腫瘍内不均一性は、一人の患者内の腫瘍においても異なる遺伝子変異を持っ
た複数の集団が存在することを指し、腫瘍進化により複数のクローンが出現す
ることによると認識されている。そもそも腫瘍進化の概念は 1976 年に Nowell
によって提唱された 1。その中では、起源となるがん細胞があり、そこに体細胞
変異が段階的に発生していき、サブクローンを形成していくという、進化系統
樹モデルが示されている。これはダーウィンの自然選択説とも同じと考えられ
ており、がんのクローン構造は単細胞生物の無性生殖に類似していると考えら
れた。この進化モデルは Branching evolution という枝分かれ進化の形をとる
(Figure 1B)。その枝分かれの中で、環境要因による選択圧が働き、有利な集団
が生存し、さらにそこから枝分かれしていくというものであった。また腫瘍内
不均一性の報告としては、1978 年に Fidler によるものが挙げられる 2。マウス
を用いた実験が、原発腫瘍を細分化し、いくつかの集団に分け、それをマウス
に注入し転移巣の形成の差を比較している。そこから、転移巣で認められる細
胞は、腫瘍原発巣に認められる一部の細胞であることが示しされており、腫瘍
内の細胞の不均一性が述べられている。
がんの主要な進化モデルは 4 つ示されている (Figure 1)3。1 つ目は直線的進
化、2 つ目は枝分かれ進化による腫瘍内不均一性の形成、3 つ目は中立進化によ
5

る腫瘍内不均一性の形成、4 つ目は断続的進化である。直線的進化は連続的な腫
瘍の進化であり、1 つのクローンに段階的にドライバー遺伝子の変異が加わって
いく事で、腫瘍全体のクローンが均質な集団へと更新されていく 3。このモデル
はドライバー遺伝子の変化のみを追っていくような従来の腫瘍の発がん過程の
イメージに近い 4。枝分かれ進化による腫瘍内不均一性は、先程述べたダーウィ
ンの進化論モデルと同様であり、異なったクローンにそれぞれドライバー変異
を有するサブクローンが同時に出現するものである。
この複数のサブクローンはお互いが排他的ではなく同時に生存し、それぞれ
がさらに独立した進化を遂げていく。またその過程で環境要因からの選択圧に
よりクローンの選択も行われる。中立進化による腫内不均一性は、確率論的に
生存に対して大きな影響を与えない中立な変異が偶然発生し、中立変異を持つ
サブクローンが複数同時に出現するモデルである。このモデルでは、腫瘍細胞
として確立するまでの段階では選択圧による淘汰を繰り返しており、腫瘍確立
後に現れる付加的な変化として意義付けられる。断続的進化は腫瘍の発生後に
何かしらのドライバー遺伝子の変異が出現する事で、そのサブクローンのみが
爆発的に拡大し、腫瘍の大部分を占めるというものである。一塩基レベルでの
点変異よりも、染色体構造異常やコピー数異常などの変化は、複数遺伝子に影
響を与える事があり、その場合連続的な進化ではなく、断続的な進化を示す場
6

合がある。これらのモデルは、排他的でなく、実際の腫瘍は複数のモデルを組
み合わさっていると考えられている 3。
また腫瘍内多様性の分類として、空間的多様性と時間的多様性に分けること
ができる。それぞれ、同一時点での一つの空間内での腫瘍の多様性の広がりと、
経時的な変化でどのように多様性が変動するかを指す 5。
近年、次世代シークエンス技術は発達している。2003 年に終了したヒトゲノ
ム計画ではサンガーシークエンサーを用い解析が行われ、13 年の歳月と 30 億
ドルの費用が必要であった 6。それに対して、2005 年に次世代シークエンサー
が登場して以降、塩基配列の低コスト化が進み、ヒト 1 人の解析に千ドルにま
で達しようとしている。これはムーアの法則を超える速度であり、次世代シー
クエンスを用いたゲノム解析を容易にした 7。
次世代シークエンスを用いた腫瘍内不均一性の解析の先駆けは 2012 年の腎
細胞癌での報告である 8。腎細胞癌の同一患者内で原発巣および転移巣から複数
のサンプルでマルチサンプリングを行い、腫瘍内不均一性の解析が行われてい
る。一人の患者から 12 サンプルを採取し解析し、全部で 128 の遺伝子に変異を
同定したが、すべてのサンプルで共通しているのはわずか 40 遺伝子であった。
59 遺伝子はサンプル間で部分的に共有しているのみであり、29 遺伝子はサンプ
ル毎に独立して保有している変異であった。SETD2、PTEN、KDM5C といっ
7

たがん抑制遺伝子変異が一個人内でサンプル毎に異なっており、幹となる共通
の遺伝子変異と、そこから各サンプルにドライバー遺伝子変異が異なるサブク
ローンに分岐していく、枝分かれ進化となっていることが示されている。また
一つの大腸癌サンプルから多領域シークエンスを行った報告では、APC、KRAS
などの幹となるドライバー変異は共通で存在するものの、他の様々な変異を持
ったサブクローンが一つの腫瘍サンプル内の領域毎に同時に存在する中立進化
が起きている事が示されている 9。他にも肺癌、膵臓癌、悪性黒色腫など、様々
な固形がんでも同様の解析が行われている 10, 11,12。
各がん腫によってどのような進化系統樹が示されるかは代表的なものがあり、
腎細胞癌、神経芽腫、前立腺癌、卵巣癌などは枝分かれ進化の要素が多く、肺
癌、悪性黒色腫、肝癌などでは中立進化の要素多いとされる 13。
成熟リンパ系腫瘍における腫瘍内多様性の報告は濾胞性リンパ腫 (follicular
lymphoma; FL)、多発性骨髄腫 (multiple myeloma: MM)で報告されている。
FL は低悪性度の B 細胞リンパ腫である。FL の特徴的ゲノム異常は t(14;18)に
より生じる免疫グロブリン重鎖遺伝子と抗 apoptosis 遺伝子である BCL2 との
遺伝子融合である。t(14;18)は FL 患者の半数以上で認められており 14,15、BCL2
蛋白の異常高発現により正常なアポトーシスから免れるメモリーB 細胞が出現
し全身を循環する。その過程で遺伝子変異が蓄積することで FL を発症すると考
8

えられている 16。FL の腫瘍内多様性の報告として節性病変と、骨髄浸潤病変を
比較した報告がある。節性病変、骨髄浸潤病変ともに CREBBP や KMT2D と
いったエピジェネティクス関連遺伝子の変異を共有するものの、そこからそれ
ぞれで異なるドライバー変異を有する枝分かれ型の進化を遂げており、環境に
応じたサブクローンが拡大することが分かった 17。多発性骨髄腫は腫瘍化した
形質細胞由来の造血器腫瘍である。多くは、骨髄内に病変を認めるものの、骨
髄外に形質細胞の腫瘤を形成することもある。IgH 再構成とそれに伴う CCND1
や MAF の異所性高発現がゲノム異常として特徴的である 18。意義不明のモノク
ローナル性ガンマグロブリン血症 (monoclonal gammopathy of undetermined
significance; MGUS)は MM の前がん病態であり、年 1%程度の頻度で MM へ
と進展する 19。この一連の病態においては MGUS から MM への進展では直線
進化を示し、MM へ進展した後は枝分かれ型の進化を起こし、サブクローンに
分かれていく 20,21。このように固形癌のみならず、成熟リンパ系腫瘍において
も、腫瘍の進化パターンは多様であることが予測される。
腫瘍内不均一性を理解する意義は、腫瘍内不均一性と治療抵抗性の関連があ
ると考えられており、がん治療に欠かせない事にある。サブクローンの中に認
められる変異は選択圧が加わらない段階では腫瘍の生存に中立的であっても、
がん治療においては、その中の一つが治療抵抗性となる変異を有している可能
9

性が考えられる。例えば乳癌患者における腫瘍および血漿 cell-free DNA を用い
た、経時的な腫瘍内不均一性を解析した報告では、再発のタイミング毎に腫瘍
のクローンに変化が認められ、分子標的薬を使用中に拡大した腫瘍からは、治
療抵抗性の遺伝子変異を保有するサブクローンの出現が認められた 22。このよ
うな治療抵抗性の変異は初発時には認められず、再発時に認められることが多
い 23。しかしながら、そのような変異はすでに初発時から認めているとの報告
もあり 24、治療抵抗性変異が腫瘍発生時点ですでに存在するか、中立進化で腫
瘍発生後しばらくしてから獲得するかは様々であると考えられる。
血液腫瘍においては治療抵抗性以外にも特徴的な点がある。先程も挙げた FL
では治療過程で遺伝子変異が蓄積することで、びまん性大細胞型 B 細胞リンパ
腫などへ形質転換を起こす 25。FL は緩徐に進行し、腫瘍量が増えるまでは経過
観察を行い、初回治療には反応性を示すことが多い疾患であるが、その中の 20%
程度では早期に治療抵抗性を獲得し、予後不良な経過をたどる事が報告されて
いる 26。形質転換と予後不良であった濾胞性リンパ腫の経時的な腫瘍内不均一
性を比較した報告では 27、形質転換時の腫瘍のクローンは初回診断時には認め
られないサブクローンであった。一方で治療抵抗性となった FL のクローンでは、
初回診断時にすでに認められているクローンが同様に認められており、形質転
換とは異なっている。この治療抵抗性クローンは中立進化から発生していると
10

推測されている。同じ疾患の増悪であっても、腫瘍内多様性の現れ方は異なる
と言える。近年では造血器腫瘍においても様々な分子標的薬が開発されている
が 28、正しいタイミングで再生検を行うかを判断しなければ効果的な治療は行
えない。それぞれの病態で起きている腫瘍内多様性を理解することは、その腫
瘍の克服に欠かせない要素であると言える。
上記で述べたように、固形がんおよび一部の悪性リンパ腫での、次世代シー
クエンスを用いた腫瘍内不均一性の解析は行われているものの、様々なサブタ
イプが存在する悪性リンパ腫 29 においては、その解明は十分であるとは言えな
い。腫瘍内不均一性の解析のハードルとして、一人の患者の多領域からサンプ
ルを採取する必要があり、必ずしもその機会は多くはない。今回、私はアグレ
ッシブリンパ腫の一つである、節外性 NK/T 細胞リンパ腫、鼻型 (Extranodal
NK/T cell lymphoma, nasal type; ENKTL)の多領域からのサンプル採取が実施
できたため、それらの検体を用いて、腫瘍内不均一性の解析を行った。
研究で扱った検体は、筑波大学附属病院の倫理審査委員会で承認された「造
血器腫瘍及び固形腫瘍におけるゲノム及びエピゲノム異常の網羅的解析
(H24-75)」にもとづいて、書面にて同意を得て研究に使用した。
上記研究につき、章立てを行い説明する。

11

2. 多領域サンプルからの次世代シークエンスを用い
た悪性リンパ腫の腫瘍内不均一性の解析

2.1 背景
悪性リンパ腫はリンパ節を中心とした二次性リンパ組織やその他の臓器に節
外性病変として発生する疾患である。そもそもリンパ組織はリンパ節、脾臓お
よびリンパ管や輸入動静脈からなるネットワークが全身に構築されている。成
熟したリンパ球は末梢血中を循環しているが、リンパ組織へホーミングされ、
特異的抗原と反応しなかったナイーブリンパ球は再度末梢血に移動し全身を循
環する 30。悪性リンパ腫が発生すると、その細胞は正常リンパ球による循環シ
ステムと同様に、動静脈循環、リンパ管循環を利用し全身を巡っていると考え
られており、画像診断などで病変が検出されなくても、全身治療が必要となる
16。

序文にて記載したように、近年の次世代シークエンス技術に伴い、腫瘍内多
様性についての解析が進み、ダーウィンの自然淘汰理論に基づく枝分かれのク
ローン進化や中立進化が起きていることが示されており、特に固形がんにおけ
る原発巣と転移巣で採取された生検試料では多様なクローンが観察されており、

12

各病巣や臓器に特異的な選択圧が、腫瘍内の不均一性の背景にあると考えられ
ている 8, 9, 10。
一方で、悪性リンパ腫の腫瘍内多様性の報告としては、インドレントリンパ
腫である FL における報告を認めるが 17、他の悪性リンパ腫での報告はなく、多
様な病態を示すリンパ腫全体としては明らかとされていない。その原因として、
多くの悪性リンパ腫治療は抗がん剤治療が標準的である事から、診断目的にの
み検体採取がされ、多領域からの採取が行われないことが挙げられる。
今回我々は ENKTL の患者よりマルチサンプリングを行い腫瘍内多様性の解析
を行った。ENKTL は非ホジキンリンパ腫の一つであり、腫瘍の起源の細胞は
NK 細胞または細胞傷害性 T 細胞であり、その発症には Epstein-Barr virus
(EBV)の関与が認められる 31。日本、東南アジア、中南米に比較的多いとされる
疾患である。病変の出現位置は多彩であるが、節外性病変を形成する事が多く、
鼻腔内に腫瘤形成する例も多いが必ずしも鼻腔内病変である必要性はない。病
理学的には腫瘍組織は広範な壊死を伴うことが多く、びまん性の腫瘍増殖像や、
血管中心性の病変を特徴とし、多彩な病変を呈する 32。ENKTL のゲノム異常の
解析では DDX3X の機能喪失変異が 105 例中 21 例で認められている 33。RNA
ヘリカーゼとして働くとされているが、詳細な機能解析は今後の研究が待たら
れる状態である。他にも STAT3、STAT5B、JAK3 などの JAK/STAT シグナル
13

伝達経路関連遺伝子 34, 35、
TP53、FOXO3 などのがん抑制遺伝子 33, 36、KMT2D、

ASXL3 などのエピジェネティクス関連遺伝子 37 でも変異が報告され、CDKN2A、
CDKN2B などの細胞周期関連遺伝子でもメチル化の報告がある 38。予後因子と
しては DDX3X と TP53 の変異で予後が層別化されることが知られており、ど
ちらかの遺伝子に変異があると、予後不良となる 33。
ENKTL においては上記のようなゲノム異常が知られているが、腫瘍内不均一
性の報告はない。そこで、ENKTL の時間的、空間的多様性を明らかにするため
に、本研究を行った。

2.2 本研究の目的
今回我々は、ENKTL 患者について、多領域および複数のタイミングで得られ
た多数検体での遺伝子変異を解析することで、ENKTL の腫瘍内不均一性を明ら
かにすることを目的として研究を行った。

2.3 材料と方法
2.3.1 臨床経過
患者は初回診断時 48 歳の男性であった。2006 年に頸部リンパ節腫脹、肺門リ
ンパ節腫脹、脾臓内の腫瘤を認めた。頸部リンパ節生検で ENKTL の診断とな
14

り、抗がん剤加療で寛解に至った。2007 年に鼻腔内腫瘤が出現し生検検体から
ENKTL の再発であり、放射線治療および抗がん剤治療が行われ、寛解に至った。
寛解を維持していたものの、2019 年に多発肺病変が認められた。診断には至っ
たものの、治療導入前に多臓器不全をきたし死亡し、剖検が行われた (Figure 2)。

2.3.2 臨床検体
2006 年の初発時および、2007 年の再発時の検体としてホルマリン固定パラ
フィン包埋 (formalin-fixed paraffin-embedded; FFPE)サンプル (tumor 2006、
tumor2007)を使用した。
2019 年時の剖検検体として、
左肺より 3 検体 (left lung
1、left lung 2、left lung 3)、右肺より 3 検体 (right lung 1、right lung 2、right
lung 3)、頸部リンパ節より 2 検体 (lymph node 1、lymph node 2)、脾臓より 1
検体 (spleen)、腎臓より 1 検体 (kidney)を採取し使用した (Figure 2)。正常コ
ントロールサンプルとして 2006 年時に採取した口腔粘膜検体を使用した。病理
学的な評価として、本学附属病院で使用された病理標本を使用した。
これらのサンプルより Figure 3 に示す手順で解析を行った。

2.3.3 DNA 抽出

15

剖検から直接採取された検体は QIAamp DNA ミニキット (Qiagen)を、
FFPE サンプルからは Generead DNA FFPE 組織キット (Qiagen)を用いてゲ
ノム DNA を抽出した。いずれも QIAGEN プロトコールに従い操作した。DNA
濃度は Qubit fluorometric (Thermo Fisher Scientific)を用いて測定した。
FFPE サンプルおよび口腔粘膜検体から採取したゲノム DNA は少量であっ
たため、REPLI-g Mini Kit (Qiagen)を用い、QIAGEN プロトコールに従って
全ゲノム増幅を行った。

2.3.4 全エクソンシークエンス
抽出したゲノム DNA から全エクソンシークエンスを実施した。ライブラリの
作成には Sure Select XT キット (Agilent Technologies)を使用した。ライブラ
リのキャプチャーベイトには SureSelect Human All Exon v7 (Agilent
Technologies)を使用した。作成したライブラリは Hiseq X システム (Illumina)
の 150_bp ペアエンドプロトコールを用いて解析した。シークエンサーから出
力されたデータは Genomon2.6.3 パイプライン
(https://genomon.readthedocs.io/ja/latest/)を用いて、リファレンス配列へのマ
ッピング、重複配列の除去、クオリティの確認、一塩基置換(single nucleptide
variant; SNV)の検出を行った。ゲノムのリファレンス配列には hg19 を使用し
16

た。出力された変異候補から Fisher 試験で p 値が 0.01 以下、変異リードが 5
本以上、変異アリル頻度 (Variant Allele Frequency; VAF)が 0.07 以上、かつ
対照正常サンプルでの VAF が 0.07 未満であるものを選択した 39。また出力さ
れた変異は Annovar によるアノテーションが行われており、選択された変異の
うち、synonymous な変異、1000Genomus Project (East Asian population,
October 2014 release データを使用)で認められた変異は除外した。残った変異
候補から、Integrative Genomic Viewer (IGV)40 を用いて目視による変異の確認
を行った。
ゲノムのコピーナンバー解析には Copywrite R と GISTIC2.0 を使用した。
Copywrite R はシークエンスデータからオフターゲットデータを用いてセグメ
ント化された領域での対数カバレッジ比を計算する事で、シークエンスデータ
から DNA のコピーナンバーを計算する 41。GISTIC2.0 で Copywrite R から得
られたコピーナンバーデータを元に体細胞コピーナンバー変化(somatic
copy-number alterarions: SCNA)を検出した。GISTIC2.0 における増幅、欠失
のしきい値である log 比はデフォルト設定である±0.1 を使用した 42。

2.3.5 高深度ターゲットアンプリコンシークエンス

17

ターゲットアンプリコンシークエンスはポリメラーゼ連鎖反応 (Polymerase
Chain Reaction; PCR)により増幅した塩基配列を次世代シークエンサーで解析
する手法である。全ゲノム、全エクソンシークエンスと比較して、解析範囲が
制限されるため、高深度のシークエンスを実行する事が可能である。上記 2.2.4
で検出された変異を高深度のシークエンスで確認するために施行した。
今回は吉田らが用いた解析手法を参考とした 43。全体の解析フローを Figure 4
に示す。目標配列を PCR で増幅したのち、T4 ligation で PCR アンプリコンを
結合する。結合した PCR アンプリコンを超音波破砕し(Figure 4. B)、そこから
ライブラリを作成することで、アンプリコンの両端から目標変異までの距離を
多様にすることで、目標塩基周囲の配列も安定して解析することができる。 ...

この論文で使われている画像

参考文献

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