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大学・研究所にある論文を検索できる 「高感度エピトランスクリプトーム解析法を活用したAlkB homolog 4 の機能解析」の論文概要。リケラボ論文検索は、全国の大学リポジトリにある学位論文・教授論文を一括検索できる論文検索サービスです。

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高感度エピトランスクリプトーム解析法を活用したAlkB homolog 4 の機能解析

小垣, 考弘 大阪大学

2021.03.24

概要

【背景・目的】
当研究室では、がんの新規治療標的分子を探索する目的で、前立腺がん術後病理組織を用いたディファレンシャル・ディスプレイ解析により非がん部に対しがん部で高発現する遺伝子AlkB homolog 3(ALKBH3)を見出した。ALKBH3は大腸菌のDNA/RNA脱メチル化タンパク質AlkBと2-oxoglutarate and Fe(II)-dependent oxygenase domainにおいて高い相同性を有し、DNA/RNAの1-methyladenosine(m1A)、3-methylcytidine(m3C)とN6-methyladenosine(m6A)のメチル基を酸化的脱メチル化する。ALKBH3は前立腺がんで高発現する遺伝子として見出されたが、さらなる検討の結果、前立腺がん以外のがん種においても重要な働きを有することが示されつつある。その一つの機能として、本研究において非小細胞肺がんにおけるALKBH3の発現抑制は、p53の発現に応じて細胞周期停止あるいはアポトーシスを誘導することを明らかにした。現在までにヒトでは9種類のAlkB homolog(ALKBH)ファミリー分子の存在が確認され、種々のがん種においてALKBHファミリー分子の高発現が確認されている。近年、RNAの後天的修飾による遺伝子発現制御はエピトランスクリプトミクスと呼ばれ、生理的およびがんを始めとした様々な疾患との関連が示唆されている。ヒトにおいて68種類の修飾ヌクレオシドが確認されているが、そのうち修飾酵素・脱修飾酵素が解明されている修飾ヌクレオシドは半数以下の32種類にとどまっている。エピトランスクリプトミクスにおいて、ALKBHファミリー分子はその中心的研究対象となっているが、基質が今だ未解明な分子もある。そこで本研究では、ALKBHファミリー分子の新しい基質の探索を目指し、RNA修飾体の定量的測定系の構築とその修飾制御による新規エピトランスクリプトミクス機構の解明を目的とした。

【方法・結果・考察】
1.ALKBHファミリー分子の新しい基質を探索するため、多種の修飾ヌクレオシドを解析することが可能な測定方法の確立を行った。修飾ヌクレオシドを検出する方法としては抗修飾ヌクレオシド抗体を用いたdot blot法とhighperformance liquid chromatography to a triple quadrupole mass spectrometer(HPLC-MS/MS)による方法がある。抗体を用いた検出は感度が高い一方で、抗体の特異性を担保することが難しく、1つの抗体では1種類の修飾ヌクレオシドしか検出できないため網羅的な解析には適していない。一方で、HPLC-MS/MSによる方法は、HPLCにて化合物を分離でき、MS/MSにおいても化合物の判別が可能なため網羅的な解析を得意とする。今回、ALKBHの新しい基質を探索するという観点からHPLC-MS/MSを用いた方法を選択した。はじめに、標準品が入手できた46種類のヌクレオシドを用いて分離・検出可能な条件を検討した。そして移動相A(5 mM-CH3COONH4 in H2O)と移動相B(5 mMCH3COONH4 in MeOH)を用い、1%移動相Bで測定開始、6分間かけて移動相Bを32%に変更し、0.5分間かけて32%から99%に変更を行うHPLCのグラジエント条件を作成した。次に、生体において微量な修飾ヌクレオシドが基質である可能性もあるため、 高感度なヌクレオシドの測定条件について検討した。従来、修飾ヌクレオシドの検出ではElectrospray ionization(ESI)が用いられてきたが、本研究ではWaters社によって新たに開発されたUniSprayに着目し、それぞれを用いた場合の修飾ヌクレオシドの検出感度を比較した。その結果、UniSprayを用いることで従来のESIより検出感度の向上が認められ、ヌクレオシドの検出限界と定量下限の向上に成功した。各種条件を最適化することにより15分間で5種類の異性体を含む46種類のヌクレオシドを10 fgから定量可能な測定方法を確立した。

2.未だRNAに対する酵素活性発現の報告が無いALKBH2、ALKBH4、ALKBH6とALKBH7について基質を探索するため、それらのリコンビナントタンパク質と8種類のがん細胞株由来のrRNAとmRNA、200 nucleotides以下のsmall RNA分画(tRNAが8割以上含まれる)を37℃で2時間 in vitroで加温した後に、変化が認められる修飾ヌクレオシドがあるか構築したHPLC-MS/MSを用いて測定した。その結果、ALKBH4がsmall RNA中の5-methoxycarbonylmethyluridine (mcm5U) と(R)- 5-methoxycarbonylhydroxymethyluridine (mchm5U)を基質とすることが示唆された。細胞内でもALKBH4がsmall RNA中のmcm5Uと(R)-mchm5Uを基質とするか発現抑制・誘導実験により検討した。細胞株におけるALKBH4発現誘導はsmall RNA中のmcm5Uと(R)-mchm5Uの修飾減少、ALKBH4発現抑制はmcm5Uの増加と(R)-mchm5Uの減少を引き起こした。細胞株においてもALKBH4がsmall RNA中のmcm5Uと(R)-mchm5Uを基質としうることが示された。

3.ALKBH4がsmall RNA中のmcm5Uと(R)-mchm5Uを基質とすることが認められたため、ALKBH4の機能解析に取り組んだ。
mcm5Uと(R)-mchm5UはtRNAの揺らぎ位置のuridineの修飾として報告されている。tRNAの揺らぎ位置のuridineの修飾はコドンとの結合に影響を与えることでタンパク質の翻訳効率や忠実性を制御する。そこで、リコンビナントALKBH4タンパク質を反応させたsmall RNAを用いてルシフェラーゼ遺伝子の翻訳系によりin vitroタンパク質翻訳効率解析を行った。その結果、ALKBH4と反応させたsmall RNAはルシフェラーゼ遺伝子の翻訳効率を上昇させた。一方、酵母においてtRNAの揺らぎ位置のuridineの修飾欠損が翻訳の忠実性に影響を与え小胞体ストレス応答を引き起こすと報告されている。そこでALKBH4と小胞体ストレス応答の関連について検討を加えた。HEK293細胞とA549細胞いずれの細胞においてもALKBH4の発現抑制により、小胞体ストレス応答関連遺伝子のCCAAT-enhancer-binding proteinhomologous protein (CHOP)とbinding immunoglobulin protein (BIP)の発現が亢進した。一方で、ALKBH4発現誘導細胞ではCHOPとBIPの発現変動が認められなかったことより、ALKBH4は翻訳過程で生じる不良タンパク質の発生を抑制することが示唆された。

4. Gene Expression Profiling Interactive Analysisを用いてがんにおけるALKBH4の発現解析を行った結果、非小細胞肺がんの非がん部と比較してがん部においてALKBH4の高発現が認められた。さらに、非小細胞肺がん臨床検体を用いたreal-time PCR解析により、ALKBH4は非がん部と比較してがん部において高発現しており、ステージの進行とともに発現が上昇していることを明らかとした。さらに、非小細胞肺がん臨床検体の免疫組織化学染色を行いALKBH4高発現群と低発現群のカプランマイヤー生存曲線解析から、ALKBH4高発現群において無再発生存率と全生存率の有意な低下が認められた。これらの結果から、ALKBH4が非小細胞肺がんにおいてがんがん促進的な機能を有することが示唆された。さらに、非小細胞肺がん臨床検体のALKBH4の発現と小胞体ストレス応答遺伝子CHOPとBIPの発現には正の相関性が示されたことから、生体内でALKBH4がタンパク質合成を制御することが示唆された。

【結論】
本研究では46種類の修飾ヌクレオシドを同時かつ高感度に測定可能なHPLC-MS/MSの測定方法の開発に成功し、ALKBH4がsmall RNA中のmcm5Uと(R)-mchm5Uを基質とすることを明らかにした。ALKBH4によるsmall RNAの修飾制御はタンパク質翻訳効率を上昇させ、細胞株におけるALKBH4の発現抑制は小胞体ストレス応答遺伝子CHOPとBIPの発現亢進を引き起こすことから、ALKBH4は翻訳過程で生じる不良タンパク質の発生を抑制する生理的機能を有することが示唆された。さらに、ALKBH4は非小細胞肺がん臨床検体においてステージの進行と伴に高発現し、高発現患者群は予後不良性であることから、ALKBH4は非小細胞肺がんにおいてがん促進的な働きをすることが示唆された。本研究結果はALKBH4による新規エピトランスクリプトミクス機構を示すものであり、がんにおけるRNAの後天的修飾による遺伝子発現制御機構において重要な知見を提供した。今後、ALKBH4によるRNA修飾を介したがん悪性化メカニズムがさらに解明され、エピトランスクリプトミクスを標的とした今までにない抗腫瘍メカニズムを有する新薬創成に繋がることを期待する。