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大学・研究所にある論文を検索できる 「グリオブラストーマ治療創薬を目指したヒトAlkB homolog 5酵素活性阻害化合物探索とその阻害作用の解析」の論文概要。リケラボ論文検索は、全国の大学リポジトリにある学位論文・教授論文を一括検索できる論文検索サービスです。

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グリオブラストーマ治療創薬を目指したヒトAlkB homolog 5酵素活性阻害化合物探索とその阻害作用の解析

高橋, 光 大阪大学

2022.09.22

概要

厚生労働省から令和3年に報告された本邦における死因第1位は,悪性新生物(全死亡者に占める割合は26.5%)である。がん治療薬開発の意義は非常に高いと言える。本研究室では,前立腺がん,膵がんや小細胞性肺がんで高発現し,予後不良性が正相関する,Prostate cancer antigen-1(PCA-1)遺伝子を同定した。PCA-1はホモロジー解析の結果,大腸菌蛋白質Alpha-ketoglutarate-dependent dioxygenase B(AlkB)と同様なドメイン構造を持ち,現在ヒトでは9種の分子からなるAlkB homolog(ALKBH)ファミリーの形成が確認された。

ALKBHファミリーは,2-oxoglutaricacid(2OG)を基質とし,二価鉄を補欠分子族として含む酵素群である。同じファミリーに属するALKBH5,Fat mass and obesity-associated protein(FTO)は,N6-methyladenosine(m6A)の脱メチル化酵素である。核酸への後天的修飾の中でもm6AのRNA修飾は最も一般的であり,エピトランスクリプティックな転写調節に重要な役割を果たしていると考えられている。そして,がん治療の新たな標的として注目されている。FTOに対する低分子阻害剤には,Meclofenamic acid誘導体MA2とその類縁体がある。これらは他の酵素との選択性情報を含めた報告がなされており,MA2等を用いたFTOの細胞増殖抑制作用や患者腫瘍組織移植モデルでの抗がん作用に関する研究報告が蓄積している状況にある。一方,ALKBH5に対する既知の阻害化合物は数件が報告されているが,それらの報告には選択性に関する情報はなく,それらの化合物の細胞増殖抑制作用が必ずしもALKBH5活性阻害のみに基づくと明確ではないのが現状である。

以上を鑑みて,私はALKBH5の創薬シードとしての価値,また,基礎研究における一助となりうる選択的な阻害活性を示す化合物を得るため,多様な構造を有する化合物ライブラリからのハイスループットスクリーニング(HTS)により見出すことを目指した。始めに,本学LiSCライブラリより化合物選抜の実施を想定し,Alpha Screen試薬と抗m6A抗体を用いたHTS評価系を構築した。本学LiSCライブラリに収載されている13万余りの化合物から,企業ライブラリ,Enamine社Pharmacological Diversity Set,J-Publicライブラリの約8.7万化合物の評価を行った。その結果,企業ライブラリよりALKBH5新規阻害剤6化合物,Enamine社ライブラリより,ALKBH5新規阻害剤Ena15とEna21を同定した。Ena15とEna21のLiSCライブラリからの構造類縁体検索を実施した結果,Ena21のみ構造類縁体20化合物を見出し,Ena21類縁体#3においてALKBH5酵素阻害活性を確認した(Table1)。

ELISA法によるALKBH5阻害活性値を100μM2OG存在下で行った結果,Enamine社の市販化合物であるEna15とEna21のIC50値は,順に18.3±1.8μM,15.7±1.0μMであった。次に同じファミリーで同じm6A脱メチル化酵素であるFTOへの阻害評価を行った。その結果,Ena15とEna21は80μMまで有意な阻害活性値を示さず,Ena15はFTOの脱メチル化活性を有意に増加させた。

ALKBH5の酵素反応の基質である2OGとの阻害様式について,Michalis-Menten式に基づく評価を行った。Graph Pad Prism softwareの各阻害様式のCurvefit modelで適合度を確認した結果,Ena15は不拮抗型阻害の適合度が最も高く,相関係数R2=0.9658,αKi=47.8±5.5μMであった。一方,Ena21は拮抗型阻害の適合度が最も高く,相関係数R2=0.9623,Ki=11.0±1.7μMであった。

Auto Dock Vinaを用いたALKBH5の結晶情報(PDBID:4NRO)に基づくドッキングモデル構築を行った(Fig.1)。Ena15とEna21のALKBH5との最安定な結合自由エネルギーは共に-7.3kcal/molであった。一方,各化合物とALKBH5との予測された相互作用を示す位置は,この酵素の阻害様式から想定される2OG触媒部位の相互作用の結果と祖語は見られなかった。

Glioblastoma Multiforme(GBM)由来4細胞のKNS81,LN229,U251MG,U87MGに対し,Ena15,Ena21共に濃度依存的な細胞増殖抑制活性を示した。各化合物のIC50値は,KNS81,LN229,U251MG,U87MGの順に,Ena15が34±4μM,32±6μM,79±21μM,63±5μM,Ena21が54±1μM,40±1μM,47±2μM,37±4μMであった。ALKBH5ノックダウンにより細胞増殖抑制を示し,細胞周期のG0/G1期の割合を増加させた。同様にEna15,Ena21化合物添加により,GBM由来細胞株はG0/G1期の割合を増加させた。ALKBH5ノックダウンと同様,酵素活性阻害でも細胞周期に影響することを示した。

阻害様式や想定される結合部位で異なる作用を示すEna15,Ena21の2化合物は,FTOへの作用では,Ena15は活性増強,Ena21は有意な阻害を示さなかった。一方,ALKBH5では共に阻害作用を示しており,細胞増殖抑制の影響を受ける遺伝子は,ALKBH5によるm6A脱メチル化反応に基づく発現制御の対象,つまりRNA基質の候補となると考えた。m6A脱メチル化阻害感受性を測るため,GBM由来4細胞株に加えて,GBM以外の6組織由来,19細胞株に各化合物による細胞増殖抑制活性を評価した。その結果,各化合物共にGBM由来4細胞株と同様,濃度依存的な細胞増殖抑制活性を示した。the Cancer Cell Line Encyclopedia(CCLE)の細胞株の各遺伝子発現量を基に,統計的手法として一般化線形モデル(GLM)で化合物の作用機序に関連する表現型やRNA基質候補となりうる遺伝子の探索を行った。

各遺伝子のGenesymbolとEnsembl Gene Accession IDの情報を用いて,Ensemblデータベースで収載遺伝子を確認した結果,CCLERNAseqデータ収載のヒト遺伝子は18524件であった。この発現量データを用いてGLMにより各化合物の細胞増殖抑制活性の予測値を算出し,実測値との相関性を確認した。Ena15,Ena21の細胞増殖抑制活性を評価し,CCLERNAseqデータ収載の細胞株に含まれたのは,5組織由来17細胞株(GBM由来LN229,KNS81,U87MG,U251MG,腎がん由来Caki-1,Caki-2,ACHN,大腸がん由来HCT116,HT29,SW620,卵巣がん由来A2780,CaOV3,RMG-1,膵臓がん由来Aspc1,KP-2,Panc-1,PK-1)であった。KNIME Analytics PlatformのH2O Generalized Linear Modelを用い,発現量(RPKM)とz-scoreを遺伝子発現量とした2つの予測モデル構築を行い,ALKBH5のRNA基質候補遺伝子の選抜を行った。その結果,発現量(RPKM)でモデル構築をした場合の化合物による細胞増殖抑制活性の予測値と実測値との相関性を示す相関係数R2は0.765,z-scoreで同様にモデル構築をした場合の相関係数R2は0.858となり,5組織由来17細胞株の発現遺伝子情報から,それぞれ高い予測精度の細胞増殖抑制活性モデルが構築できた。各GLMで係数が正の遺伝子は,各化合物の細胞増殖抑制活性が高い場合に発現量が高い正相関を示すため,化合物感受性遺伝子と想定され,各化合物の細胞増殖抑制機序との関連性が想定される。発現量(RPKM)でモデル構築をした場合の感受性遺伝子は,係数の大きい順にPPP1R2P3,MAP3K15,ATF1,TFB2M,LDHBであった。一方,z-scoreでモデル構築をした場合の感受性遺伝子と想定されたのは,係数の大きい順にCDKN1C,TFB2M,LDHB,PPP1R2P3,ZNF124であった。mRNAのm6A修飾部位の有無をエピトランスクリプトームシーケンスデータベースRMBasev2.0(https://rna.sysu.edu.cn/rmbase/)で調査した。PPP1R2P3,MAP3K15では非翻訳領域と翻訳領域でm6Aの修飾情報はなくALKBH5の基質の可能性はなかったが,それ以外の遺伝子ではm6Aの修飾情報を得た。各モデルで正相関した遺伝子のオントロジーをAmiGo2オントロジーデータベース(http://amigo.geneontology.org/amigo)で調査した。その結果,Ena15とEna21の感受性遺伝子のオントロジーは,細胞増殖,転写,アポトーシス,腫瘍との関連性を示した。これらの遺伝子にALKBH5の未知のRNA基質が含まれるか否かは,トランスクリプトーム解析による検証が必要ではあるが,化合物感受性遺伝子のオントロジーは,少なくとも5組織由来の細胞株に共通して関連すると想定された。

以上,私はALKBH5の創薬シードとしての価値,また,基礎研究における一助となりうる選択的な阻害活性を示す化合物を得るため,本学LiSCライブラリからHTSによりALKBH5選択的阻害活性を有する複数の化合物を選抜した。これらの化合物のうち,Ena15とEna21は市販化合物として購入可能であり,細胞周期のG0/G1期の割合を増加させて細胞増殖抑制を示す,ALKBH5ノックダウンと同様の表現型を示した。Ena15とEna21はALKBH5の創薬シードとしての価値に加え,広くALKBH5の研究に活用されることで,生物学的機能の更なる解明に役立つことを期待する。

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