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大学・研究所にある論文を検索できる 「The effect of prolyl hydroxylase (PHD) inhibitor on kidney and cardiovascular complications in a chronic kidney disease rat model」の論文概要。リケラボ論文検索は、全国の大学リポジトリにある学位論文・教授論文を一括検索できる論文検索サービスです。

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The effect of prolyl hydroxylase (PHD) inhibitor on kidney and cardiovascular complications in a chronic kidney disease rat model

内田, 梨沙 東京大学 DOI:10.15083/0002004282

2022.06.22

概要

慢性腎臓病(chronic kidney disease: CKD)患者の多くは心血管疾患(cardiovascular disease: CVD)を認め、死因の一位となっている。心臓と腎臓は関連が強く、一方の臓器障害が他方の臓器に影響を及ぼすことから”cardiorenal syndrome”という概念が広まった。またCKD患者においては、心肥大は予後を悪化させることが知られており、腎臓と心臓の連関のメカニズムを解明することは喫緊の課題である。

CKDでの腎障害は、ある一定以上障害されると原疾患にかかわらず不可逆的に進行すると考えられており、腎臓での低酸素、特に尿細管間質領域の低酸素は、CKD進展における「finalcommon pathway」である。低酸素に対する防御機構として、低酸素誘導因子(hypoxia inducible factor:HIF)が同定されている。HIFは1α、2α、3αと、1βのヘテロ2量体であるが、HIFαは低酸素誘導性であり、通常酸素条件下ではプロリン水酸化酵素(prolyl hydroxylase domain(PHD)-containing enzyme)によるプロリン残基の水酸化を受け、ユビキチンリガーゼ複合体を構成するvon Hippel Lindau蛋白と結合し、プロテアソーム分解を受ける。一方、低酸素条件下ではPHDの活性は低下し、分解されなかったHIFαはErythropoietin(EPO)含めた100種類以上の標的遺伝子の転写を促進する。HIFの中でもHIF2がEPO産生に関与して造血を亢進させ、PHDの阻害によりHIFが活性化することが報告されている。以上の発見を受けて、PHD阻害薬は腎性貧血の治療薬として臨床試験が進められており、現在phaseⅢである。腎性貧血以外にも急性臓器障害、例えば腎臓の虚血再灌流障害、心筋梗塞、脳卒中における障害軽減効果も報告されている。CKDモデルにおいて腎保護効果を示す報告はあるものの、CKDモデルでの心臓への影響に関しては未だに報告がない。

そこで、本研究では5/6腎臓摘出術モデルを用いて、PHD阻害薬が腎臓及び心血管合併症に与える影響を検討した。雄性8週齢のSDラットを(1)sham手術群(n=9)、(2)5/6腎臓摘出術(Remnant kidney: RK)+vehicle餌群(n=18)、(3)5/6腎臓摘出術+Enarodustat(PHD阻害薬)混餌群(n=14)の3群に分け、CKD及び心不全促進目的で飲料水にNO合成阻害薬であるL-NNAを投与した。5/6腎臓摘出術は、左腎動脈の上および下1/3の結紮術を行い、その1週間後に右腎摘出する方法で行ったが、初回手術の1週間前よりEnarodustat混餌投与を開始した。血圧測定、採血、尿採取を術前2週前、術後2、4、6週に行い、術後6週で心臓超音波検査を施行後に腎臓と心臓の採材を行った。

以下に結果を記す。まずEnarodustatによりHIF1αが活性化していることをHIF1αの免疫組織染色で確認した。Enarodustat混餌群では術後6週でヘマトクリット値が有意に上昇していたこともHIFによるEPO活性化を示唆していた。Enarodustat混餌群ではvehicle群と比較して、体重や心重量/体重比は変わりなく、収縮期血圧、血清BUN/Cre値、尿蛋白量の有意な低下は認めなかった。

またCKDやCVDを進展させる因子として、炎症やマクロファージ浸潤、酸化ストレス、アポトーシスが知られており、腎臓と心臓における各因子の影響を検討した。まずは腎臓での結果を記す。腎間質の線維化はシリウスレッド染色においてEnarodustat混餌群で有意に低下しており、線維化に関わる遺伝子を定量PCR法で確認したところ、collagen3, fibronectin, transforming growth factor-βの発現は有意に低下していた。次にPHD阻害薬のマクロファージ浸潤に対する影響を調べた。免疫組織学的検出によりCD68(pan macrophage marker)およびCD206(M2marker)陽性マクロファージについて評価を行ったところ、CD68およびCD206陽性マクロファージ数はEnarodustat混餌群で有意に低下し、腎におけるtumor necrosis factorα, interleukin-6, interleukin-1beta, C-Cmotifchemokineligand 2などの炎症性サイトカインの遺伝子発現は有意に低下したが、arginase-1の発現には影響を与えなかった。アポトーシスに関しては、TUNEL染色で評価したところTUNEL陽性細胞数はEnarodustat混餌群で有意に低下し、腎におけるBaxの遺伝子発現及びBax/Bcl2ratioもEnarodustat混餌群で有意に低下していた。次に酸化ストレスの評価を行った。Nitrotyrosineの免疫組織染色では、尿細管におけるNitrotyrosine蓄積面積はEnarodustat混餌群で有意に低下していた。CKDでは糸球体および傍尿細管毛細血管で内皮細胞の脱落が認められることから、JG12免疫組織染色を用いて血管内皮細胞の評価を行ったところ、RK+vehicle群ではsham群と比較して糸球体の血管数は有意に低下し、Enarodustat投与によって回復した。一方で、vascular endothelial growth factor(VEGF)の遺伝子発現はEnarodustatにより差を認めなかった。以上より、Enarodustat投与によって腎臓の線維化は著明に改善し、マクロファージ浸潤、アポトーシス、酸化ストレスにおいても有意な改善効果を示し、血管密度も保持したが、腎機能や蛋白尿の有意な改善は認めなかった。

次に心臓の結果を記す。心臓超音波検査ではRK群で心室中隔厚および左室後壁厚は有意に増加し、左室肥大を認めたが、Enarodustat投与によりともに著明に低下した。一方で、拡張障害や収縮障害はRK群においても認めなかった。心肥大の評価のため、wheatgerm agglutinin(WGA)の蛍光免疫染色を施行し、心筋細胞の面積も評価したが、Enarodustat投与により心筋細胞は縮小していた。心肥大のマーカーとしてβ-myosin heavychain(β-MHC)とα-MHCのmRNA発現を評価したところ、β-MHC/α-MHCmRNA比はEnarodustat混餌群で有意に低下した。次に、心臓においても腎臓同様の線維化、マクロファージ浸潤、アポトーシスの評価を行い、いずれもEnarodustat投与により改善効果を認めたものの、腎臓と比較すると程度が小さかった。また、JG12染色における内皮血管数、VEGFやAngiopoietin2などの血管新生に関連するmRNA発現はEnarodustat混餌群で有意に上昇しており、血管新生促進による血管密度の保持が示唆された。また、HIF-1はperoxisome proliferator-activated receptor gamma coactivator -1(PGC-1)低下によってミトコンドリア生合成を抑制させるという報告があるため、電子顕微鏡画像を用いてミトコンドリアの形態評価を行った。定量評価は困難ではあったが、ミトコンドリアのクリステ構造の途絶がEnarodustat投与により改善傾向であった。その他にミトコンドリアの異常構造はRK群で認めなかった。次に、ミトコンドリアの生合成の指標であるPGC-1αやミトコンドリアダイナミクスに関連する遺伝子の発現を評価したところ、Enarodustat混餌群でmitofusin1のmRNA発現は有意に上昇していたが、dynamin-relatedprotein1、mitofusin2、opticatrophy1には影響を与えなかった。PGC1αも上昇していたが、更なる研究が望まれる。酸化ストレスの評価として、心臓におけるNitrotyrosine染色、NADPHoxidase2(Nox2)やNox4によるmRNA発現を確認したが、Enarodustat投与は影響を与えなかった。

以上より、本研究の結果をまとめると、本モデルではEnarodustat投与により心肥大の改善、心臓の線維化の改善を認めた。心臓における血管密度の保持も認め、心肥大改善に寄与したと考えられた。腎臓に関しては、尿細管間質の線維化・マクロファージ浸潤・アポトーシス・酸化ストレスにおいて改善を認めたものの、エンドポイントである腎機能や蛋白尿は有意には改善しなかった。Enarodustat群で収縮期血圧は低下傾向であったが、統計学的有意差はなかった。

心肥大の程度は先行文献と比べると軽度ではあったが、心臓でのPHD2ノックアウト動物あるいはPHD阻害薬を用いた研究はこれまで大動脈縮窄術や冠動脈結紮術モデルを用いたものしかなく、CKDモデルでの心臓への影響を評価し、Enarodustatによる種々の改善効果を確認できた点では意義があると思われる。

本研究の限界として術後6週の時点しか評価していない点が挙げられる。心肥大は、初期は代償的な肥大反応を示し、その後、非代償期に入るので、どの時点を観察するかによって結果は異なると予想される。いくつかの限界はあるものの、PHD阻害薬によるHIFの活性化はCKDでの心血管合併症に保護効果を認めることが示唆された。

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