特定健診における「標準的な質問票」から見える上小圏域の特徴

概要

Shinshu Journal of Public Health Vol. 18 No. 1, August 2023

　　　特定健診における「標準的な質問票」から見える上小圏域の特徴
01-1
山岸昌平、赤塩真奈美（長野県上田保健福祉事務所）
キーワード：特定健診、標準的な質問票、健康課題

要旨：レセプト情報・特定健診等情報データベース（NDB）を利用し、特定健診における標準的な質
問票への回答状況について集計・分析を行った。県内 10 圏域の比較により、上小圏域における男女
共通の強みは、間食・甘い飲料を摂取する者、生活習慣の改善意欲がない者が少ないことであり、課
題は 20 歳時から 10kg 以上の体重増加者が多いことであることが示された。体重増加の背景を明らか
にするとともに、肥満対策や食育の推進をより一層充実していくことが求められている。

A．目的

題」と解釈した。

　医療保険者は効果的かつ効率的な保健事業の

C．結果

実施を推進するために、健康・医療情報の分析

　上小圏域における集計結果を表１に、圏域間

に取り組んでいる。例えば、レセプトデータや

の比較結果を表 2 に示す（下線は男女共通の強

健診データは地域の現状を数量的に示すことが

み・課題を示す）。男性の強みは、間食・甘い飲

できるという点で有用なものであり、生活習慣

料を摂取する者、生活習慣の改善意欲がない者、

病等に関する地域の特徴を見出すことができる。

保健指導の利用を希望しない者が少ないことで

一方、効果的・効率的な保健事業を実施するた

ある。一方、20 歳時から 10kg 以上体重が増加し

めには、生活習慣病の発症・増悪に影響を与え

ている者が多いことが課題である。女性につい

ている背景要因を特定し、保健指導やポピュレ

ては、歩行速度が遅い者、間食・甘い飲料を摂

ーションアプローチの実践に活用することが求

取する者、生活習慣の改善意欲がない者、運動

められている。そこで、本報告では、特定健診

習慣のない者、飲酒量が 1 合 / 日以上の者が少

における「標準的な質問票」の分析を行うことで、

ないという強みがある一方、喫煙習慣がある者、

生活習慣の状況や改善意欲といった背景要因に

10kg 以上の体重増加者が多いことが課題である。

関する上小圏域の強みと課題の抽出を行った。

D．考察

B．方法

　上小圏域においては、20 歳時からの大幅な体

　レセプト情報・特定健診等情報データベース

重増加が男女共通の課題である。国保データベー

（NDB）の第 7 回オープンデータ（平成 31 年度

ス（KDB）で確認しても、10kg 以上の体重増加

特定健診情報）を利用し、県内 10 圏域における

者の割合は県平均が 31.7% であるのに対し、上

標準的な質問票への回答状況の把握・分析を行

田市で 33.9％、東御市で 33.6％、長和町で 40.1％、

った。服薬状況・既往歴を除く 15 の質問項目の

青木村で 32.2％と、管内 4 市町村全てで、県平均

回答について、健康状態に与える影響が最も大

を上回る数値となっている（令和 3 年度、男女

きいと考えられる選択肢を項目ごとにひとつ選

合計）。10kg 以上の体重増加は、メタボリックシ

定し、その選択肢を選択した回答者の割合を算

ンドロームや様々な生活習慣病の発症と関連 1, 2）

出した。また、15 項目全てにおいて数値が低い

しており、対策が急がれる。

ほど良い状態を示すよう調整を行った。集計さ

　岩手県民を対象とした大規模な調査では、20

れた数値を男女別・圏域別に昇順に並べ、上位

歳時からの 10kg 以上の体重増加は、朝食の欠食、

2 圏域（1 位、2 位）に該当した項目を「強み」、

9 時間以上の睡眠、過去の喫煙歴と正の関連を示

下位 2 圏域（9 位、10 位）に該当した項目を「課

し、1 時間 / 日以上の歩行と負の関連を示すこと

22

信州公衆衛生雑誌 Vol. 18 No. 1, August 2023

信州公衆衛生雑誌（抄録）投稿テンプレート

Shinshu Journal of Public Health Vol. 18 No. 1, August 2023

信州公衆衛生雑誌（抄録）投稿テンプレート

9 時間以上の睡眠、過去の喫煙歴と正の関連を示

2) 溝下万里恵, 赤松利恵, 山本久美子, 他：メタ

9 時間以上の睡眠、過去の喫煙歴と正の関連を示
1）
し、
1 時間/日以上の歩行と負の関連を示すことが
が報告されている
。また、10kg 以上増加者の
1)
し、
1
時間/日以上の歩行と負の関連を示すことが
。また、10kg
以上増加者の 20
報告されている
20
歳時の体重は、10
㎏未満増加者と比べて有意

2) ボリックシンドロームと生活習慣および体重
溝下万里恵,
赤松利恵,. 山本久美子,
他：メタ
重変化の関連の検討
栄養学雑誌 70（3）
：
ボリックシンドロームと生活習慣および体重
変化の関連の検討.
栄養学雑誌 70(3)：165-172.
165-172. 2012.

１）
3）
歳時の体重は、10
㎏未満増加者と比べて有意に
上の増加が確認されやすい
ことが指摘されて
、20 歳時に「やせ」の者に
10kg 以
低いこと

に関する一考察
. 岐阜市立女子短期大学研究
3)2012.
中島順一,
藤田智子：20
歳時からの体重変化

3) ことが指摘されて
10kg 以
低いこと１）、20 歳時に「やせ」の者に
おり、これらの報告は乳幼児期から思春期にお
上の増加が確認されやすい

3) に関する一考察.
中島順一,
藤田智子：20
歳時からの体重変化
紀要 55：63-66.
2006.
岐阜市立女子短期大学研究
4）
仲森隆子
, 小栗きくみ
, 世古口茂幸 , 他：20
に関する一考察.
岐阜市立女子短期大学研究
紀要
55：63-66.
2006.

１）
。また、10kg
以上増加者の
報告されている
歳時の体重は、10
㎏未満増加者と比べて有意に
に低いこと
、201)歳時に「やせ」の者に
10kg 以20

変化の関連の検討.
栄養学雑誌
70(3)：165-172.
2012.
中島順一 , 藤田智子：20
歳時からの体重変化
3）

3) ことが指摘されて
ける食育の重要性を示唆するものである
。
上の増加が確認されやすい
おり、
これらの報告は乳幼児期から思春期におけ
4）

　市町村においては、国保被保険者ひとりひと
4)。
おり、これらの報告は乳幼児期から思春期におけ
る食育の重要性を示唆するものである

歳時の体重を維持する重要性
. 日本未病シス
55：63-66.
2006.
4)紀要
仲森隆子,
小栗きくみ,
世古口茂幸,
他：20
テム学会雑誌
13（2）：344-346.
2007.
4) 歳時の体重を維持する重要性.
仲森隆子,
小栗きくみ,
世古口茂幸,
他：20
日本未病シス

4)。
りの健診データや受療状況、標準的な質問票へ
る食育の重要性を示唆するものである
市町村においては、国保被保険者ひとりひとり
の回答結果を閲覧することができるため、体重
市町村においては、国保被保険者ひとりひとり

歳時の体重を維持する重要性.
日本未病シス
テム学会雑誌 13(2)：344-346. 2007.
テム学会雑誌 13(2)：344-346. 2007.

の健診データや受療状況、標準的な質問票への回

増加と関連する要因を数量的に算出することが
の健診データや受療状況、標準的な質問票への回
答結果を閲覧することができるため、
体重増加と
可能である。様々な視点から、大幅な体重増加
答結果を閲覧することができるため、体重増加と

表 1. 上小圏域の集計結果（男女別）
表 1. 上小圏域の集計結果（男女別）
男 性 女 性
集計対象
男
性 女
性
（％）
（％）
集計対象
（％）
喫煙習慣あり
33.3 （％）
8.5
喫煙習慣あり
33.3
8.5
20 歳から体重 10kg 以上増加
46.3
26.7
20
歳から体重
10kg
以上増加
46.3
26.7
運動習慣なし
74.3
75.4

関連する要因を数量的に算出することが可能で

につながる背景を明らかにすることが重要であ
関連する要因を数量的に算出することが可能で
ある。様々な視点から、大幅な体重増加につなが
り、それと並行して肥満対策や食育の推進をよ
ある。様々な視点から、大幅な体重増加につなが
る背景を明らかにすることが重要であり、
それと
り一層充実していくことが求められている。
る背景を明らかにすることが重要であり、それと
並行して肥満対策や食育の推進をより一層充実
E．まとめ
並行して肥満対策や食育の推進をより一層充実
していくことが求められている。
　上小圏域においては、20 歳時からの 10kg 以上
していくことが求められている。
E．まとめ
の体重増加が男女に共通した課題である。今後、
E．まとめ
上小圏域においては、20 歳時からの 10kg 以上
体重増加の背景を明らかにし、実効性のある対
上小圏域においては、20 歳時からの 10kg 以上
の体重増加が男女に共通した課題である。今後、
策を実施していくことが必要である。
の体重増加が男女に共通した課題である。今後、
体重増加の背景を明らかにし、
実効性のある対策
F．利益相反 
体重増加の背景を明らかにし、実効性のある対策
を実施していくことが必要である。
　利益相反なし。

運動習慣なし
1 時間/日の身体活動なし
1歩行速度遅い
時間/日の身体活動なし
歩行速度遅い
咀嚼に問題あり
咀嚼に問題あり
食べる速度が速い

を実施していくことが必要である。
G．文献
F.
利益相反
F. 利益相反なし。
利益相反
1）
Takebe N, Tanno K, Ohmomo H, et al. ：
利益相反なし。
Weight Gain After 2 0 Years of Age is
G．文献

食べる速度が速い
週 3 回以上就寝前夕食摂取
週 3 回以上就寝前夕食摂取
間食・甘い飲料摂取あり
間食・甘い飲料摂取あり
週 3 回以上朝食欠食
週 3 回以上朝食欠食
毎日飲酒
毎日飲酒
飲酒 1 合/日以上
飲酒 1 合/日以上
睡眠とれていない
睡眠とれていない
生活習慣改善意欲なし
生活習慣改善意欲なし
保健指導利用希望なし
保健指導利用希望なし

G．文献
Associated
with Unfavorable
Lifestyle
and：
1)
Takebe
N, Tanno
K, Ohmomo
H, et al.
1) Takebe
N,Prevalence
Tanno K, Ohmomo H,
et al. ：
Increased
Weight
Gain After of20Metabolic
Years Disorders.
of Age is
Diabetes,Gain
metabolic
andofobesity
Weight
Aftersyndrome
20 Years
Age :is
Associated with Unfavorable Lifestyle and
targets and with
therapy14：2065–2075.
2021. and
Associated
Unfavorable Lifestyle
Increased Prevalence of Metabolic Disorders.
Increased
溝下万里恵
, 赤松利恵of
, 山本久美子
, 他：メ
2）
Prevalence
Metabolic Disorders.
Diabetes, metabolic syndrome and obesity :
タボリックシンドロームと生活習慣および体
Diabetes,
metabolic syndrome and obesity :
targets and therapy14：2065–2075. 2021.
targets and therapy14：2065–2075. 2021.

表 2. 圏域間比較による上小圏域の特徴
表 2. 圏域間比較による上小圏域の特徴
順位
順位
解釈
解釈
男性
男性
女性
女性

1
1

2
3
2
3
強み
強み
身体活動
改善意欲 身体活動
歩行速度
間食
改善意欲
保健指導 歩行速度
間食
保健指導 飲酒量
飲酒量
歩行速度
歩行速度 運動習慣
睡眠
間食
運動習慣
飲酒量
間食
睡眠
改善意欲 飲酒量
改善意欲

4
4

5
5

咀嚼
咀嚼

ー
ー

身体活動
身体活動
保健指導
保健指導

ー
ー

23

6
6

7
7

8
8

74.3
60.3
60.3
49.5

75.4
53.9
53.9
52.5

37.1
33.7
33.7
66.2
66.2
16.8
16.8
38.7
38.7
58.9
58.9
32.7
32.7
26.8
26.8
62.2
62.2

27.6
18.0
18.0
84.7
84.7
9.3
9.3
12.2
12.2
24.0
24.0
34.1
34.1
19.7
19.7
59.8
59.8

49.5
17.8
17.8
37.1

9
9

52.5
14.1
14.1
27.6

10
10
課題
課題

ー
ー
喫煙
食事速度
朝食欠食 喫煙
運動習慣 食事速度 体重増加
ー
朝食欠食
睡眠 体重増加
毎日飲酒 運動習慣
ー
毎日飲酒 眠前夕食 睡眠
眠前夕食
咀嚼
食事速度
喫煙
咀嚼
ー
ー
眠前夕食 食事速度
喫煙
体重増加
眠前夕食 朝食欠食
ー
ー
毎日飲酒 朝食欠食
体重増加
毎日飲酒
信州公衆衛生雑誌 Vol. 18 No. ...